【#3】バズってるが!?

「ん……?」


 チュンチュンと小鳥の鳴き声と共に、俺は白いベッドの上で目を覚ました。爽やかな朝の日差しが窓から照りつける。


 どうやらどこかのマンションの一室らしい。それもかなり高級感あふれる部屋で、なんだか慣れない女子の匂いが──。


「おはよう、アヤカちゃん♡」


「わぁ!?」


 隣にいたパジャマ姿のティーシャに囁かれた!! やべぇ、幸せ過ぎて死ぬかと思った!?


「あ、あの!? ティーシャさん!? どうしてここに!?」


「フフ♡ ”ティーシャ”でいいよ♪」


 それからティーシャはクスクスと笑い、俺のためにこれまでの経緯を説明してくれた。


「アヤカちゃん、ここへ転移してからすぐに寝ちゃったんだよ。だいぶお酒が入っていたみたいだったから」


「そ、そっか……」


 確かに昨日はめちゃくちゃ飲んでたからなぁ……お恥ずかしい。


「ごめんなさい、わたしのせいで迷惑かけちゃったみたいで……」


「いえいえ〜♪ それよりも、ちょっと大変だよ!! これ見て!」


「ん?」


 なぜか嬉しそうにスマホを見せてくるティーシャ。そこに映っていたのは──。


『ふりゃ〜〜〜〜!!』


 あれ!? "俺"だ!? 


 画面内で飛び蹴りする赤髪の女。まぎれもなく、女体化した俺の姿がそこにあった。


「いや〜、どうもアヤカちゃんの活躍がダンジョン内のライブカメラに映ってたらしくて。そのおかげで今日のトレンドはアヤカさんの話題で一色だよ~~!!」


「えぇ〜〜〜〜!?」


 そのままスマホを借りて、ネットを確認してみると。


【D-LINE(ダンジョン特化型SNS)内の反応】


 今日のトピック→謎の”酒クズ女サムライ”、ティーシャのピンチを救う!!


”たまにはいいニュースもあるもんだね。最近迷惑系も過激になってたからな”


”つーか、この人数に一人で立ち回るって強すぎじゃね!? つーか、胸デカすぎじゃね!?”


”酒クズちゃん可愛いよ”


「さ、”酒クズ女サムライ”……? ひどいアダ名ぁ……」


「アハハ、こういうのってキャッチーな呼び方が定着しちゃうからね~……」


 ガックリと落ち込む俺を、やんわりフォローするティーシャ。それからティーシャは目をキラキラさせながら言ってくる。


「でも、昨夜のアヤカちゃん、すっっごくカッコよかったよ!! まるで白馬の王子様みたいでした!!」


「またまたぁ~? 大げさだよ~?」


 でも、悪い気はしなかった。なにせあのティーシャに褒められるなんて、”最高”としか言いようがない!! 


 そんないい気分に浸っていた俺へ、ティーシャが不意打ち気味にこんな事を聞いてきた。


「ところで、アヤカちゃん。普段のお仕事は何をしているの?」


「あぅ!?」


 うぐぐぐぐ!! 辛い質問来た!!


 普段なら適当にごまかすタイプの質問。……だが、ティーシャには正直に打ち明けることにした。


 好きなライバーの前でウソはつきたくなかった。ここでウソをつけば、俺は俺を許せなくなる!!

 

「まぁ、正直言っちゃうと、わたしは”ニート”──いや、今は家すら追い出されたから”ホームレス”ですね〜……」


「えぇぇええええええええ!? 冗談だよね!?」


「いや、マジです……」


「そ、そんな……!?」


 あぜんとした顔のティーシャ。その後、彼女は切り替えるように深呼吸してから言った。


「まぁ、正直に申しますと”ニート”──いや、現在は家すら追い出されたので”ホームレス”という事になりますか……」


「えぇぇええええええええ!? ウソでしょ~!?」


「いや、マジです……」


 あぜんとした顔のティーシャ。


 だが、それから彼女は気を取り直したように微笑んだ。


「でも! それならちょうど良かったかも!! アヤカちゃん、あたしに一つ提案があります!!」


「? なんでしょう?」


「アヤカちゃん、ダンジョン配信者デビューしてみない?」


「……はい!?」


 ダンジョン配信者デビュー!? 俺が!?


「な、なにを言ってるんですか!? わたしなんか、とてもじゃないけど向いてませんよ!? むしろ人前で喋るなんてまったくで……」


「大丈夫!!」


 ティーシャは俺の肩に手を置いて、キラキラした目で見つめてきた。


「きっとアヤカちゃんには配信者としての"才能"があるから!! あたしの勘がそう告げてるの!! それに──これを見て!!」


「ん……?」


 ティーシャが見せてきたのは、D-LINEに書かれたコメントリスト。どうやらティーシャがブックマークしたものらしい。


”うおぉおおおお!! 酒クズちゃん、またどっか出てきてくれーー!! 気になりすぎる!!”

"もうすっかりファンになりました!!"

"酒クズちゃん、一緒に酒飲みたいよーー!!"

"もし!! もし酒クズちゃんがダンジョン配信者になるようなことがあれば……迷わず推すね!!"


「ほら、アヤカちゃん。今、あなたを求めてる人がこんなにいるんだよ?」


「……!!」


 た、確かにその通りかもしれない。


(ダンジョン配信者……できるんだろうか? 今までずっとニートだった俺に?)


 もちろん未だに自信はないし、人前で目立つようなのも当然苦手だ。

 

 でも、ティーシャの言う通り、女になった俺を──”天霧アヤカ”を求めている人がたくさんいるのも事実だった。正直言って、ここまで求められているのは人生で初めてだった。


 ……気が付くと、俺は勢いで返事していた。


「そ、それじゃ、やってみましょうかねー?」


 あぁ、言っちゃった!! 言っちゃったぞ……!?


 それを待っていましたとばかりに、ティーシャは猫耳を立てて聞いてくる。


「!! ホント!?」


「え、えぇ!! 女に二言にごんはありません!! ティーシャの言う”才能”を信じてみようと思います!!」


「やったーーーー!!」


 ティーシャは嬉しそうにバンザイして、ワクワクしたような表情で言う。


「それじゃ、さっそくデビュー配信しよっか!! 一刻も早くみんなに報告しておかないとね!!」


「え!? あ、はい!?」


 流石はティーシャ!? 恐ろしい行動力の速さだ……!!

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