【#2】通りすがりの酔っ払いです
無事にキマイラを撃退した俺。だが、問題はもう一つあった。
「ここ、どこだ〜?」
さっそく迷子になっていた。
なにせ相当ヤケ酒が入っていたから、ダンジョンをどうやって歩いてきたのかもハッキリしなかった。あはは、どーしよー……。
そんな笑うしかない状況の中──。
「や、やめてください!!」
(ん……?)
ダンジョンの奥から少女の声が響いてきた。
それが聞こえてきた方を見てみると、数人の男に取り囲まれた
「あ、あたし、そんな事してないよ……!!」
(え……? ウソだろ!?)
そこにいた少女の姿に、俺は我が目を疑った。
キラキラと輝く銀髪ミドルショートに、そこへ生えた可愛らしい二つの猫耳。
少し子供っぽく見えるくらいの童顔に、明るい性格を思わせる青い瞳。着ている服は白と黒のコントラストが美しいメイド服だった。
そんな美少女オーラ溢れる彼女の姿に俺はかなり見覚えがあった。もしかして……。
(まさか……本物の"ティーシャ"!? こんなことある!?)
ティーシャ・クラリオン。
彼女は大人気ダンジョン配信者(Dチューバー)で、『メイド服の魔法使い』として有名な
そんな彼女のチャンネル登録者は500万人を超えており、かく言う俺もリスナーの一人である。配信はいつも欠かさずチェックしている。
推しのティーシャが生で見れるなんて感動!! ……って、言ってる場合じゃなさそうだ。
「そんな顔しても無駄なんだよぉ!!」
ティーシャを取り囲んでる連中の、リーダーの男がガラ悪そうに叫ぶ。
「俺らはタレコミで知ってんだぜぇ〜〜? テメェが”洗脳魔法で視聴者を集めてる”ってコトをよぉ!? じゃなきゃ、たった活動一年でここまで伸びるワケねぇ!!」
「!!」
ティーシャは心外とばかりにすぐに否定する。
「だから、そんな魔法なんて使えないって──!」
「うるせぇ!! この亜人風情がっ!! どーせそのデケェ胸も魔法で作ったニセモンだろうが!! ヒヒヒ、触って確かめてやる!!」
ゲスな笑みを浮かべ、手をニギニギさせる男。
それに対し、血の気が引いた顔のティーシャ。彼女は男達に完全包囲されていて逃げ場はない。
そんな光景を前に、俺は──。
「ティーシャに近づくなぁ〜〜〜〜!!」
酒焼けた声で叫んだ。
「「「!?」」」
一斉にこっちを見てくる男達。リーダーの男はお楽しみを邪魔されたように、たちまち怒りの表情へと変わる。
「ハァ!? 誰だよ、テメェは!?」
「わ、わたしは……」
俺はちょっと迷ってから、酒の勢いに任せるように叫んだ。
「”通りすがりの酔っ払い”だぁ~~~~っ!! とにかく"ティーシャから離れろ"っつってんの!! この変態野郎共がぁ〜〜っ!!」」
「な、なんだぁ!? この女ぁ!?」
それからリーダーの男は俺に向かって対抗するように叫び返した。
「おい、お前らぁ!! その女ぁ、捕まえとけ!!」
「「「「「おう!!」」」」」
こっちに走ってくる男の手下達。もう戦いは避けられない。だったら──。
「んっ! んっ!」
俺は余っていたビール缶を一気に飲み干した。不思議と全身に力がみなぎる。これも例のスキル【酔剣】が発動しているおかげか。
「おらぁ!!」「女ごときが勝てると思ってんのか!?」
まとめてかかってくる手下の男達。人数の利を生かして掴んでこようとする。しかし──。
「ん〜、甘い甘い♪」
「「「!?」」」
俺はユラリと舞うような動きで攻撃をかわした。そして、すかさず畳み掛けるっ!!
「ハイ!! ハイ!! ハ〜イ!!」
「ぐっ!?」「うげっ!?」「あぐぁ!?」
バタンと一斉に倒れていく手下達。完全に一人になったリーダーの男が、歯を食いしばりながらこっちに突っ込んでくる。
「ふざけんなよぉ〜!! こんなんでビビってちゃ迷惑系なんてできねぇんだよぉ〜〜!!」
ナイフを持って突進してくる男。あんなのに刺されたら、ケガじゃ済まないだろう。
ティーシャに迷惑かけるだけじゃ飽き足らず……こんなクズには!!
「ふりゃぁっ!!」
「がぁ!?」
最大限の怒りを込めた飛び蹴りを食らわせた!! 男の頭にクリーンヒット!!
「い、いてぇよぉ……」
男は仰向けに倒れて鼻血を流している。
まさか信じられないといった表情の男。そんな奴に、俺はひりついた笑みで聞く。
「さて、まだやる?」
「ひ、ひぃ!? すいませんでしたぁ〜〜!?」
一目散に逃げていく男達。こうなったらもう二度とティーシャには近づかないだろう。
「ありがとうございますっ!! 」
「わっ!?」
背後から抱きつかれる俺。振り返ると、そこにいたのは──ティーシャだ!?
やばっ……めっちゃいい匂いするんですけど!? あぁ、このまま死んでもいい……!!
「あぁ、ごめんなさい! 嬉しくてつい……」
顔を赤くして離れるティーシャ。……きっと今の俺はそれ以上に真っ赤だろう。
それからティーシャは恥ずかしさをごまかすように話を振ってきた。
「あの人達ね、”亜人反対派”の迷惑系配信者みたいで変な言いがかりをつけてきてすっっごく困ってたんです!! 追い払うために魔法を使ったら、また何か言われそうだったし……。ねぇ、あなた! 良かったら名前聞いてもいいですか?」
「え、えっ!? わ、わたしは──」
考えてなかった。そうだ、さっきステータスに表示されてたのは……。
「わたしは
ファンと分かって安心したのか、ティーシャはくだけた口調で言ってくる。
「!! あ、あたしのファン!? まさかこんな美人なファンがいるなんて……。アヤカちゃん、ぜひなにかお礼させて!!」
「い、いえいえ!? そんな!?」
こ、これ以上は流石に遠慮しておこう。気を遣わせるのも悪いし。
「とにかくティーシャさんがご無事でよかったです!! ──では、わたしはこれで!!」
そうやってその場を離れようとしたその時。
「あれぇ……?」
ふらっと足を踏み外す俺。そこへすかさずティーシャが肩を支えに来た。
「あのー!? なんかフラフラですけどぉ〜!?」
「い、いやぁ、ちょっと飲み過ぎた的な~? 大丈夫、一人で帰れるから……」
「そんな!? 流石に放っておけないよ!?」
心配そうに俺を追いかけて来るティーシャ。やがて、彼女は何か決めたように頷いた。
「とりあえず転移魔法でウチまで運ぶね! ──【ワープ・リフト】!」
その後、俺達の身体が光に包まれていき、転移が始まった!?
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