シーツ
脹ら脛
短編 シーツ
朝、出勤まで時間がない。かすむ視界の向こう側、ベットのシーツを寝具から外す。もう何か月も洗っていなかったためか、シーツを外されて真っ裸になった寝具たちは、日々の私の疲れを吸い取って、若干黄色いしみがついてしまっている。
洗濯機を回す。洗剤を多めに入れてしまうのはきっと、さっき見た黄色いしみのせいだろう。多めの柔軟剤は、洗面台全体を嘘臭いにおいに変えてしまう。
体が重い。冷凍のパンをレンジで解凍している間、壁で体を支えてないと立っていられないような気がする。チーンと電子レンジが音を立てても、ため息を大きくつかないと、体を動かすことができなかった。また業務のことを思い出すと、このまま体を動かさずに今日という日を終わらせたい気持ちになってしまう。
天気予報は確認しない。真っ赤な太陽マークを見ると、むず痒い感覚が体の底から湧き上がってくるのが気持ち悪いからだ。ただ、窓から差し込む強い日差しが、真っ赤な太陽マークの代わりに私の気持ちを擽る。そのかゆみをむしり取りたくて、私はぼりぼりと頬を痛めつける。爪の間に挟まる自分の血液を眺めて、またため息が漏れる。
シーツを干す。ピンと伸ばしたシーツを金色の日光が強く照らす。この調子ではすぐに乾いてしまうだろう。そう思って、ベランダから部屋に戻る。時計はすでに九時を指している。服を着替えて、私は重いドアを肩で開けた。
この工場は、暗い。遠い天井に着いている巨大な電球が、たまにバチバチと音を立てながら点滅する。
ここで働くと、まるで牢獄に閉じ込められているような感覚になる。外の世界から遮断され、閉じ込められているような感覚。
休憩時間は短い。油で汚れたこの思いつなぎで外に出ようとは思えない。たいてい、コンビニであらかじめ買っておいたおにぎりを二つ食べたら、また午後の業務が始まってしまう。
今の天気はどうなっているだろうか。そんなこと思っても、ここからでは外の世界のことは何もわからない。晴れでも、雨でも、たとえ雪が降っていても、ここでは何一つの変化も感じられない。むず痒い。そう思って頬を掻いてみるが、この分厚い手袋をつけていては頬に傷をつけることだってできない。
工場を出ると、あたりはもう真っ暗だ。気のせいか、ほんのり雨の匂いが残っているような気がする。と言っても、この視界では地面が濡れているのかどうかの判断は難しい。
家のドアを開ける。重いバックを下ろしたら、ベランダに向かう。
シーツを握る。じっとりと濡れている。
真っ裸のベットに体を預ける。くるんとうつ伏せになると、黄色いしみが目に入る。シーツがないと肌触りがまるで違う。それでも、これで明日もまた頑張れる。そう思って、私は風呂も入らずにそのまま目を閉じた。
シーツ 脹ら脛 @Fukku3361
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます