8章

8-1話【冷たい雪と、熱いプレッシャーキス】



 少女に罪は無い。


 その少女は自分の為の事しか考えず、自分の為にのみ生きている。他者を助く事も、他者を蹴落とす事も、全ては自分の為を思った行動。


 しかし少女に罪は無い。


 この世界は余りにも苛烈で凄惨を極める。命は羽根よりも軽く吹き飛び、人の心は容易く踏みにじられ、それを見た人は口を揃えて「こういうのが面白い」と嗤う。この世界では誰かの不幸なんて、誰かにとっての娯楽の一つでしかないのだから嗤われるのも当然の話なのかもしれない。

 だけもそんな酷い世界において、少女は生きる事に必死になのだ。一瞬でも気を抜けば壊れてしまいそうな重圧の中で、それでも少女はもう二度と壊れたくないと必死に生きているのだ。


 少女に罪は無い。


 では誰に罪があるのか。誰が罪を償うべき悪なのか。

 そんなものは誰にも分からない。分かった気になるだけで誰も正解まるは貰えない。

「────────────」

 いつ壊れてもおかしくないのに、このままで居ればいつ狂ってしまってもおかしくないのに、それでも少女は気を張り続けた。周りはとうに諦めたというのに、少女は自分の為に諦める事を諦めないで居続ける。

「……………ジズ、ごはんたべよ。おなかへった」

 何せ初めての恋を実らせる為に少女は必死なのだ。

 自分が居なくなれば少年は本当に壊れてしまうだろうから、

 少年が本当に壊れてしまえば、自分も一緒に壊れてしまうだろうから、

「…………そうねェ。…………今日のサンドイッチは改心の出来だってパルが小躍りしながら言ってたわよォ? アイツのサンドイッチやたら美味えから結構楽しみよねェ」

「…………またますたーど? またからいやつ?」

「んふふ……大丈夫よォ。味だの風味だのは残しつつ辛味は限界まで減らしたっつってたからさァ、多分良い感じに美味しくなってるわァ」

「そうなの? ほんとに? ほんとにおいしい?」

「アタシもまだ食って無ェから分かんないけどォ………まァ不味くは無いはずよォ? トトがお肉探してェ、トリカがそれ綺麗に捌いてェ………んふふ。パルヴェルトがサンドイッチ好きっつーのは慣れたけどォ、ヒカルが料理得意だなんて意外よねェ。どう考えても料理ド下手糞べたくそなイメージあンのにねェ」


 少女に罪は無い。


 ならば何故、罪の無い少女がこんなにも苦しまなければならないのか。


 少女に罪は無い。


 ならば何故、罪の無い少女がまるで償うかのような日々を過ごさねばならないのか。


 それは少女が願ったから。

 悪魔の少女は居なくなった少年に願ったから。


 想いよ届け、


 愛よ届けと、


 そう願ってしまったから。

 少女が苦しむのは仕方の無い事である。


 ──────



 何か例を挙げるのであれば、例えば他社からの派遣社員が良い例だろうか。

 自社で働き自社に貢献してはいるものの、実際の所、心は他所の企業にあり賃金も当然ながら他所の企業を経由して受け取っている。それが何割かは分からないが、自社で勤めれば十割全てを給与として貰えるにも関わらず、その社員は何割かで甘んじている。

 しかし自社からすれば何だって良いのである。自社に貢献し、自社に利益を生み出してくれるのであれば、その社員が「実は内心甘んじて無い、超不満だらけ」であっても構いやしないのである。派遣社員の振りを装い自社の情報を抜き出し他所へと流すぐらいならまだ遥かにマシな部類で、その派遣社員と仲良くなった自社のスタッフを次から次へと引き抜くような『タブー禁忌』さえ犯さなければどうだって良く、何だって構わないのである。

 そういう観点で見てみれば、サンスベロニア帝国は派遣社員に恵まれなかったように見える。大量の魔力と引き換えに人材派遣会社異世界から雇ったその社員は、あるものは勝手に彷徨うろつき無許可で国境を超えた先で殺戮を犯したと思えば三秒足らずで頭を踏み潰されて死に、あるものは帝国内のありとあらゆる「パパ」や「お兄ちゃん」たちに性病をバラ撒きながら国お抱えの軍医を死に至らしめた末に復讐されて死に、あるものは帝国内でひたすら少年と富裕層を狩り尽くし、あるものは「うおっ……単発ガチャ回したらニャル様出た……やばSNSで自慢しよ、雑魚豚共の羨む声で飯が美味え」と喜んだのも束の間、トレーナーのバッジ数でも足りていなかったのか何一つ言う事を聞かずに勝手に歩き回った結果身内に殺されて消滅してしまった。それでもルーナティア他企業愚者派遣社員を一人潰してくれたからまだ良いと考えるべきなのかもしれないが、その邪神を獲った勇者は爪弾きにされた愚者と勇者に加えて魔法生物までもを連れ回し、ひたすらサンスベロニア帝国に襲撃を繰り返しているのだから、帝国の総帥であるペルチェ・シェパードは当然ながら獣の狙いである魔力導炉の管理人アダン・グラッドも「白髪が増える、クソが」と襲撃の度に二人して眉間をシワシワにしてしまっていた。

 ここまで来ると勝手にイキって勝手に単独行動して勝手に殺された鎧武者がどれだけ良い子ちゃんだったのか思い知らされる。何だかんだゴミの部類ではあったが、しかしそれでも良い歳こいて常に般若面を被るあの厨二野郎は、結局サンスベロニア帝国に直接的な損害は出していない。一回のセリフがやたらと長いどこかのハイテンションなエンターテイナーのように「だって魔力導炉見てみたいもんっ!」というクソみたいな理由だけで帝国へ襲撃を繰り返す事も無ければ、社員の無断引き抜きが如く月に吼えるものを死の世界に引き抜いてしまうような事も無かったのだから、あのイキり鎧武者はマシな部類だった。

 では、と盤面の向きを変えてみる。現状のサンスベロニア帝国は「うちの人ったらもうカスも良い所よ」と口を開けば愚痴か不満か文句しか無い更年期障害に苦しむ中年女性の如く「それに比べてお宅はは良いわよねえ」と隣の芝をひたすら羨む嫉妬症のような状態だが、では逆にルーナティア国の目線で見ればどうなのかと考えてみる。

 いわゆる『いつものメンツ』が、ソシャゲのガチャで言う所の最高レアリティである事は間違い無いだろう。加えるなら「愚者 最強 リセマラおすすめ」と頭の悪過ぎる小学生でも検索しないようなワードから、しかし検索前の時点でサジェストに出て来てしまうとにかく良い事しか書こうとしない攻略サイトに必ず名を連ねる優秀揃いばかりである。実際に使っているプレイヤーからすれば「強いには強いけど脳死で使える訳じゃねーぞ」と、その攻略サイトが他の攻略サイトの記事をほぼ書き写している未プレイエアプ攻略では無いかと心底から疑ってしまうようなものだが、それでも『いつものメンツ』は数多のプレイヤーに「まあ強いのは事実、それは揺るがない」と真顔で腕組みさせられる事だろう。

 ではそれ以外はどうなのかと問われれば、まあ酷い有様としか言えないだろう。ジェヴォーダンの獣のような、それこそいつぞやの魔法少女のように『第三勢力』と化し始めているものこそ今は居ないが、それでも場合によってはサンスベロニア帝国よりも酷い惨状と言ってしまえるかもしれない。

 死者はただ一人である。産まれる事の出来ぬ命を連れたフェル・ヤンが、ニャルラトホテプに遊ばれパイとヘイを連れて死んだぐらいである。

 問題は他だ。

 ルーニャレット・ルーナロッカはサンスベロニア帝国に寝返り、加藤梅雨も帝国の奴隷の更に奴隷、首様に至っては呼び出されて数秒でルーナティア国の領内にいきなり神社を創り出し「ここわしのお家な、この線越えたら罰金百億万円。ローンは不可、ニコニコ現ナマ中出し一括じゃ」だなんて宣い、ルーナティアの言う事なんて何一つとして聞きやしない。

 そう考えると百鬼童子もものきどうじは愉快なおホモ達候補と共にサンスベロニア帝国に日々ご迷惑をお掛けしているのでまあ良いかと思えるが、冷静になって考えてみればルーナティア国の命令でも何でも無い無断行動である事に変わりは無く、「この方が便利だと思って」とか言いながら好き勝手に部署のレイアウトを変えたがるゴミ野郎の方がまだ事後報告してくれる分マシなのかもしれない。

 そんな中でも唯一の希望的存在であり、上手くすれば周りを導くトレイルになり得た森山拓人タクトだったが、あろう事かそのタクトを呼び出したルーナティア国の女王であり魔王であるチェルシー・チェシャー御自らが彼を殺してしまった。

 そしてタクトを生かす為、ごはんさえ与えていれば比較的こちらの言う事を聞いてくれる従順かつ愛くるしいラムネ・ザ・スプーキーキャットまで彼を追って夏の扉を開いてしまう。志半ばで倒れた愚か者に、愚かしくもいつしか恋心を抱いていた悪魔の少女であるジズベット・フラムベル・クランベリーは、ラムネによって生きる為に必要無い要素の一つである『記憶』を殆ど破壊され幼児退行してしまったタクトの介護をする為に付きっきりとなり、周りを穏やかにするタクトの雰囲気に惹かれていた「ソシャゲのガチャで言うなら揺るぎ無き最高レアリティ」である『いつものメンツ』の全員が、ラムネ同様寄る辺を失い意気消沈してしまったのだから、もう目も当てられない。

「………………久々に妾が出向いてみれば何じゃこの有様は。どうせこれ内輪揉めじゃろう? こ奴らまぁだ戦争せんのか、早う無様に殺し合え、全く」

 故に、子を産み終えて膨らんだ腹が戻った玉藻御前が金色の尻尾を揺らしながら呆れ果ててしまうのも、無理も無いといった所だろう。

「ああー!? 玉姉さんだあ! わあい久し振りい!」

 修繕が間に合わず壁が抜けたままの大広間、腰に手を当てて溜息を漏らす玉藻御前。そこへうきうきとした軽快な足取りでとてとて駆け寄るルカ=ポルカに「おおふたなり、久しいのう。元気しとったか」と玉藻御前が切れ長の目元を綻ばせる。揺れ動く尻尾の動きが僅かながら激しくなった辺り、ポルカだけで無く玉藻御前も再会を喜んでいるのが窺える。

 産気付いてた時期とは違って薄い襦袢一枚では無くしっかりとした和服に見を包んだ玉藻御前の、しかし妙に緩く開かれているその豊かな胸元にポルカがぽふっと顔を埋めると、玉藻御前は「言うまでもなさそうじゃの、元気しとったようで何よりぞ」とポルカの頭を優しく撫でた。

「赤ちゃん産まれたのお? こっち来てて良いのお? 何しに来たのお? トトには会ったあ?」

 白魚の如く滑らかで綺麗な指先で髪をほぐされるポルカがそう問い掛けると「一気に聞き過ぎじゃ。盛った童貞でも無し、そうがっつくな」とそれを諌めるが、けれど口調や言葉の割に柔和に微笑んだ目元は変わらない辺り、玉藻御前もポルカと会えた事を喜んでいるのだろう。

 頭を撫でていたその指先がポルカの目元へと下がり、やがてポルカがチャームポイントを自負するふにふにとした頬へとあてがわれる。そのもちもちとしていて妙に癖になる感触の頬をぷにぷにと揉んでは伸ばしてまた揉んで、を繰り返していると「じゃあ赤ちゃんから聞きたいなあ」とご機嫌そうなポルカはそう問い直した。

 それを聞いて玉藻御前が「くふふ」と鈴玉が転がる音のような儚げな笑みを浮かべる。

「双子じゃったよ」

「双子おっ!? わあ良いなあっ! 姉妹っ? 兄妹っ? それとも兄弟………って『きょうだい』ダブるの面倒いなあ、ニホン語の何処が洗練された言語なんだか分かんなくなっちゃうよお」

「姉妹じゃよ。……いやに腹が膨れよるからもしやとは思っておったがな、産んでみればつるんぷりっとほぼ同時に産まれてきおってのう。産まれたてのやや共は可愛くも何とも無い化物のようなつらをしておったわ」

「つるんぷりって………何か嫌な表現だなあ。しかも化物とか言わないでよお」

「殻から出て二秒の小鳥を思い出したわ、妖怪よりよほど妖怪みたいじゃったの」

 薄紅の塗られた艶やかな唇を淫靡に歪めてくつくつと笑う玉藻御前に「いやまあそうだけどお」とポルカが不満げな顔をする。豊かな玉藻御前の両胸を使い自分で自分の頬をぱふぱふと挟むポルカが「赤ちゃん放置してこっち来てて良いのお?」と至極当然な二つ目の疑問を投げ掛ける。

「警備と称した日向ぼっこ、或いは警邏と称した散歩をする間抜けなトトに任せておるから問題無い。あれの手に負えぬ事があったとて、あの村には他に経産婦もれば産婆だって居る」

「おっぱいはあ?」

 無許可でぱふぱふを楽しんでいたポルカが、その両胸をぼゆぼゆと動かすのを止めてもにもにと揉み始める。

 それに玉藻御前は「もう忘れたか?」と少しだけ諌める口調になった。

「乳は既に冷凍保存しておる。湯煎で溶かして人肌に温めれば、乳の出んおのこでも授乳ごっこが出来ようて」

「いやだから言い回しい。授乳ごっことか凄いキモい言い回しするの凄いキモいからやめてよお」

 不貞腐れ始めたポルカがぼゆぼゆと自身の顔を胸で挟み直す。それに「二度も言うな」と玉藻御前がツッコミを入れれば、ポルカはすぐに「二度も言わせるぐらいの事言ったんでしょお?」と不満を隠さず「……でえ?」とそのまま眉を顰める。

「何しに来たのさあ。まさかタクトくん目当てえ? だとしたら最高のタイミングになるなあ」

 含んだ言い回しで相手の問いを誘うポルカだったが、玉藻御前は「妾が出向いたのに特に理由なんぞ無い」と誘いには乗らずはっきりと言ってのけた。

「臨月入ればろくに出歩かせて貰えん。かと言って産めば産んだで疲れ切っておるでの、出歩くような気にならん」

 やれやれと鼻を鳴らしながら肩を竦める玉藻御前にポルカが「あー」と口を開いて納得した。

「一段落したし落ち着いたから来たってだけかあ。言いたい事は分かる気がするなあ、何となく少し遠くまでふらふらあっと出歩きたい時ってあるからねえ」

「うむ」

「トトには会ったあ?」

 最後の質問に玉藻御前が「まだじゃ」と首を振り「どこに居るか知っとるか?」と聞けば、それにポルカは「多分狩りにでも出向いてると思うよお」とすぐに答える。

「狩りか……狩りなんぞ久しくしておらんな。出張る前であれば妾が随伴してやっても良かったが…………まあ何でも良いか」

 気の抜けた声色で再びふんと鼻を鳴らした玉藻御前は「して」と流していた核心に迫った。

「最高のたいみんぐとやらは何ぞや」

「っ」

 目元を細めて真面目な顔になった玉藻御前の問いにポルカは反射的体を強張らせて息を呑む。自身の胸に顔を挟んだままでそんな事をされれば玉藻御前で無くとも何かが起きたのは察せるというもので、「ふん……」と玉藻御前が鼻を鳴らして「小童の身に何ぞあったか」と不穏な気配を読み取った。

「………ん」

 唇を噛んで悔しげに唸るポルカ。それだけで、少年の身に───命に関わる某かが起きた事を玉藻御前は理解したが、しかし恐らく死んではいないだろうと玉藻御前は踏んでいた。

 ………何らかの手段を用いて死神のお誘いを断った人間は、人の世においては仙人と呼ばれるようになる。実力で跳ね除けたか、或いは薬剤を使用したか、それとも逃げ続ける事に成功したかは各々それぞれ様々だが、一度でも死神からのお誘いを断った人間は以降幾度と無く死神によって襲撃を受ける事になる。当然ながらそれに負ければ死の世界とやらに連れて行かれる事になるので、今世に生きる仙人は度重なる死神の実力行使を全て拒否しているという事になるのだ。

 そしてそれは狐も同じ。偶然人を食い殺して穢れに触れ力を付けたのか、それともやはり偶然死を逃れたのか。どういう理屈か本来死ぬべきタイミングで死ねなかった狐は妖狐として勝手に力を付け始め、千年毎に一本ずつ尻尾が増えていくのだという。

「………生きてはいそうじゃの」

 ゆらゆらと揺れる金色の尻尾は都合九本存在している。仮に妖狐の通例に則るとすれば玉藻御前は鳥羽上皇とランデブーを過ごした時点で既に最低でも九千年は生きている事になり、鳥羽上皇はとんでもないババアを相手にしっぽりと誑かされたという事になってしまい、それこそ『しくじって死んだもの』として愚者になりかねない。

「……分かるう?」

「分からいでか。そんな露骨な反応をされては妾で無くとも察するわ間抜け」

 そんな事は当然無いのだが、亀の甲より年の功。江戸時代より遥か遠い昔から生きている玉藻御前は、明確に人間を相手取る存在である事も相まってかヒトという生物の感情の機微に極めて敏感である。眉一つ動かさずとも瞳孔の動きや呼吸の乱れ方だけで大体の感情は読み取り、一分も話せばその間に行われた目線や指の動き、声の抑揚の変わり方で相手がどういう感情を抱いているか完全に掴み取る事が出来る。

 だからこその傾国。権力者がどういう言葉を好みどういう仕草を愛らしいとするかをすぐに読み取り、権力者ごとその国を傾けて愉しむのが傾国である。

「──────おん?」

 どう言うべきか、どう伝えるべきか、そもそも伝えて良いのか考えあぐねていたポルカの言葉を待つ玉藻御前の耳に懐かしい声が聞こえてくる。ツンと立った金色の耳をぴこっと動かし、頭を動かさず耳と目線だけそちらに向ければ、

「おお金玉やんけ。おひさー、元気しとうや未来のチャンピオン」

「チッ」

 不快極まりない略し方をしたあだ名で呼ばれ、玉藻御前は─────白面『金』毛九尾の『玉』藻の前は反射的に舌を吸って苛立ちを漏らしてしまった。

 第三者が現れたにも関わらず向き直りもせず「やほおヒカルう」とぱふぱふ状態を維持するポルカに気を遣った玉藻御前が、目線だけでも橘光たちばなひかるを見る事が出来るように体の向きを変えた。そんな小さな心優しさに沈み掛けていた心が温かくなったポルカが口元だけで微笑みながら、しかし妙に気に入ったのか豊かな胸をもにもにと揉む事はやめなかった。

 そんなポルカを余所に「おい」と不機嫌な声色で玉藻御前が呼び掛ければ、橘光は「お?」と何一つ気に留めていないかのように眉を上げた。

「まだその名で呼ぶか駄肉。良い加減丸焼きにしてくれるぞ」

「何かリョナ画像でそんなのあった気がするなあ、ヒロインがこんがり焼かれてお皿に乗ってるみたいなさあ。カニバルう………じゃあ無いかあ、玉姉さんは人間じゃないから健全なお食事だねえ。ヒカルのおっぱい脂身多過ぎて絶対胃もたれしそうだけどお」

「無駄にデカい乳なんぞ既に二つ持っておる、四つ目なんぞ要らん。切り落として豚の餌にでもせよ」

「金玉は肉の脂身は棄てる派け? ウチ勿体無いっちゅうて食べたなる派。金玉もしっかりウチのパイオツ食い切りや、お残ししたらぶち転がすで」

「そんな事言ってヒカルこの間お肉食べた時に目え死んでたじゃあん。ぼくが切り分けて退けた脂身「ウチはエビの尻尾食べる派やねん」とか言いながら全部食べてさあ、凄いレ◯プ目しながら口の端からよだれ垂らしてグロッキーだったじゃあん」

「あの時はほんまに「あーウチもうあかんな」って察したわ、多分もうウチトントロとか食えん。っちゅか多分豚が無理、ドリルち◯ぽじゃイケん体になってもた。あれ結構ヒョロいしな」

「ヒカル胃袋老人じゃあん……。………ならアレはあ? おサシミはあ? ヒカルってニホンの人でしょお? サーモンとかどうなのお?」

「脂っこい。死ぬ。葬式はコフィンダンス形式で頼むわ」

「死ぬの早いなあ。……いやまあぼくも生前回転するおスシ屋さんのサーモン無理だったけどねえ。お店が良くなかったのか知らないけどさあ、どう考えても天然とは思えない脂の垂れ方してるんだよねえ。味は好きなんだけどお」

「さーもんはあれじゃろう? 生鮭の事じゃろう? 妾は鮭はかなり好きだぞ、甘味が強いのが良いな。塩鮭は要らん、余計な雑味で食材本来の味を潰すな」

「ウチもう魚はブリ以外無理やし一生ブリブリ言うとるわ」

「その言い方は悪意あるなあ」

「脂の乗った生魚が無理なのは妾にも分かるが……それでも赤身は食えるじゃろう」

「生臭い。死ぬ。コフィンダンスに合わせる曲はD◯ D◯ M◯USEのswe◯t gr◯vityで頼むわ、ウチあれソウルミュージックやねん」

「ヒカル死に過ぎじゃなあい? おショーユ付けようよお、ニホンで育ってたんだからおショーユはその辺で売ってるでしょお?」

「デデマのくだり流すなや拾えこんカス、ソウルミュージック言うたやろが」

「海の外では醤油は手に入らんのか? 妲己ちゃん名乗っておった頃に似たようなものを見聞きした記憶があるが………あれはヂァンか。まあ似たようなものじゃろう」

「いや結構違うと思うよお? おサシミにトウバンジャン豆板醤は合わないと思お……うん、だけどお。………あれおかしいなあ、何か意外と合いそうだなあとか思っちゃったぼくが居るよお。おサシミって凄いんだなあ。でも流石にサーモンには合いそうにないよねえ、そうだと信じたいなあ。サーモンにトウバンジャン合ったらぼくもう何も信じられなくなっちゃうよお」

「全然関係無いんけど何やアレやわ、漁師のおいちゃんが「自分の子には絶対サーモン食わせない」とか言うとった話思い出したわ」

 肩に担いだ長ドスを両手で持った光がそんな事を言うと、それを聞いたポルカが「何それえ」と問えば、光は「又聞きやねんけどな?」と注釈を入れてから喋り出す。

「人の味の好みっちゅんはガキの頃何食うたかによって決まるんけどな? 何や漁師のおいちゃんが言うには、サーモンは人の味覚にぶっ刺さり過ぎとるから、ガキの頃に一度でもサーモン食うたら舌に焼き付いてサーモンが一位になってまうらしいねん」

 光がそんなような事を語ると、ポルカと玉藻御前は二人して「「へえ〜」」と馬鹿みたいな感想を口にした。そして玉藻御前は世界の真理にでも気が付いたかのようにハッとなり、光へと向き直る。

「違うじゃろう、今その話どうでも良いじゃろう」

 珍しくボケに乗り続ける事を止めた玉藻御前の言葉に光が「はん?」と首を曲げた。

 するとポルカも「あー……」と呻き、玉藻御前を上目遣いで見てから光に目線を送る。

「まあ………ヒカルも居るから、うん」

 やがてポルカは意を決したように口を開き、事の顛末を語り始めた。



 今のルーナティアに何が起こったのか。タクトの身に何が起こったのか。「だから最高のタイミングって話なんだよねえ」と語り終えたポルカに、それを聞いた玉藻御前は「間抜けと言ったら褒め言葉になりかねん程に間抜けじゃな」と、最早呆れを通り越して真顔になってしまっていた。

 玉藻御前が「はぁぁ」と大きな溜息を吐く。

「魚水未相逢といった所か。あの小娘も高々八百九百生きた如きで全てを知った気になりおって。そんな体たらくだから人心に呑まれるというに、全く間抜けも良い所じゃ」

 人の心は魚と水の関係性であると、玉藻御前はそう言った。人が起こす須らくは、他の人との心の調和が無ければ何一つとして成立しない、それはまるで水質や phペーハーの合わない水槽にいきなり放り込まれた魚のようであると玉藻御前は語る。

「月蝕暗長空って感じい?」

 玉藻御前の語り口に合わせたポルカが問い掛ける。今の状況は月蝕の始まった空のように少しずつ暗くなり、時間的にはまだ日中であるにも関わらず、不吉な昼天の暗夜が広まり始めている状態なのかと彼女は問う。

「今のウチらは、さながら見録隔前湲って所やな」

 そんなポルカに答えたのは橘光だった。

 谷を隔てた向こう側に求めている何かがあるが、しかし前湲は深く険しく手が届かない。もう少し手を伸ばせば届くかもしれないと気が早れば、そのまま足を滑らせ奈落の底へ。垂直に落下し、谷底の川に全身を打ち向け悶絶する程度で済めばまだ命は助かるやもしれないが、荒く険しい谷の壁に幾度も体を引き裂かれ、そのまま木に引っ掛かりでもすれば誰にも助けられる事無く鳥の餌になるだろうと、橘光はそう言った。

「………ほう? お主らよう付いてこれたのう」

 自身が何の気無く発した言い回しに淀む事無く付いて来た二人の女に玉藻御前は感嘆を隠せなかった。

 玉藻御前の胸元に擦り寄ったままのポルカの頭を「よう返せたの、褒めてやろう。ほれよしよし、良い子じゃ」と優しく撫でれば、まるで『取ってこい』を褒められた犬のように嬉しそうな顔をしながら「えへへえ」と笑い、

「実は昔引いたおみくじに書いてあった事の丸パクリなんだあ、あれ大吉だったんだよお」

「奇遇やな、ウチも」

「矢張り褒めぬ。離れよふたなり」

 盛大なネタばらしをする二人に呆れた玉藻御前が、ポルカの頭をペヒっと軽く叩いた。「あいて……ええーでも覚えてたんだから十分凄いじゃあん、もっとふかふかおっぱいでぱふぱふしながら褒めてよお」と拗ねるポルカに、光も「せやで。我ながらようこんなん精緻化リハーサル出来たもんやでよ、ウチも褒めやね」と不満げに眉間を寄せる。

 そんな二人を叱ろうとした玉藻御前が薄紅の塗られた艶やかな唇を開けば、


「だからこその鶏逐鳳同飛、高林整羽義でしょ」


 人心に弄ばれ、愛すべき女を乱雑に弄んだ末に殺された淫魔サキュバスの王が玉藻御前の言葉を遮った。

 ルーナティアに呼び出された愚者たちの中でも主力級の存在をまとめ、またルーナティア国の中でも指折りの実力者であったジズベット・フラムベル・クランベリーの心を射止めたその少年が心を壊してしまったというその事実、今の我々が艱難辛苦にあるのは受け止めなければならない。

 その上でどう動けば良いかと問われれば答えは一つであると魔王チェルシーはそう言った。

 鶏が鳳凰を追い掛けて大空に舞うように、位の高い存在を頼り成果を得る。そしてやがて高い林の枝に止まって羽を整えるように、我々は力のあるものとの関わりの中で確かな幸を見付けるべきだと魔王は言う。

 低めのヒールをコツコツと鳴らし「因みに私ぼんじりバードがそんな高く飛べるとは思ってないわ」だなんて台無しな事を言いながら歩く魔王チェルシーに、橘光が「お前もおみくじ勢か?」と問い掛ける。するとチェルシーは満面の笑みになり、

「当然よ。こんな小難しい言い回し他に無いわ」

「だから貴様は間抜けだというのじゃ」

「あらそんな酷い事言って良いのかしら、今の私は鶏よ? コケコッコを剣でぶっ叩いて虐めた緑の耳長がどんな目に遭うか、貴女ご存じ?」

「大量の鶏さんに集団リンチされてガメオベラだねえ。エリアチェンジはまだ分かるけど家の中に逃げても追い掛けて来るのには流石に戦慄したなあ」

 どこか懐かしそうな声色で喋りながら玉藻御前の豊かな胸を揉み続けるポルカに「いやふたなりは分かるけど何でサキュのオバンがウチらの世界の伝説知っとん」と冷静過ぎるツッコミを入れるが、当然ながらチェルシーは何も答えない。

 そんな様子の魔王チェルシーに玉藻御前が「……む? いや待て」と疑問を口にした。

「権力者はお主じゃろう小娘。何故なにゆえお主が鶏ぞ」

 玉藻御前のその言葉に「あれえ? 確かにい」とポルカがハッとなるが、もはや無意識なのか玉藻御前の豊かな両胸で自分の頬を揉み挟む動きは全く止まらない。因みにさっきからかなり頻繁にぺひぺひと玉藻に頭を叩かれているが、当然ながらポルカは完全に無視してふくよかな胸を楽しんでいる。

 そんな姿にツッコミを入れる人物は、しかしここには居なかった。本来であればツッコミに回る側のタクトは今は心を破壊されて「病気療養」を体裁に自室で軟禁状態であり、パルヴェルト・バーヴァンシーは台所に立つ以外はここ最近ずっと『いつもの中庭』で一人ぼうっとしている。『いつものメンツ』の中では今も流されず比較的常識キャラを気取っている身長三メートルで四本指な非常識メイドのトリカトリ・アラムも、ルーナティア城内での総合統括を任されている銀陽ぎんようの補佐として普請周りで国内を駆け回っていて。

「私が鶏な理由は一つよ。だって今の私は彼を救い出せるド派手な翼を持ってないもの」

 言いながら魔王チェルシーは光に向き直る。


「そこのデカ乳、貴女に任務があるわ」


 それは魔王からの勅命。

 表に出さぬだけで同じぐらいタクトの事を案じていながら、しかしどうにもジズに遠慮して前に出られない内気ないじめられっ子に対しての勅命。それを受けて、橘光は「ふん」と鼻を鳴らすが苛立ったような表情では無かった。

 数百年前の状態で『造り直された』魔王チェルシーの言葉に、光は担いだままの長ドスを降ろし、鯉口の辺りを指で抓むようにしながら「任せえ、受けたるよ」と気軽は安請け合いにも聞こえる言い方でそれを受ける。

 手首と指先を器用に使いながら長ドスをくるくると回す光だったが、光が鯉口をしっかりと持っているので鞘が抜けて飛んでいくような事は当然無い。

「あら、随分と気安く受けるのね。まだ任務の内容なんて何一つ口にしてないのに」

 魔王チェルシーの疑問に「ハッ」と口を開けて嘲笑う。

 任務の内容なんざ聞くまでも無く分かる。荒事を伴う任務、それもトリカトリ・アラムやパルヴェルト・パーヴァンシーでは手に余る。一日二日で終わらず、しかも荒事を含むだろう案件。

「わざわざウチんとこまで出向いたっちゅー事ぁ、ウチにしか出来んような内容なんじゃろが」

 まずトトは出られない。あの獣人族の小柄な女の娘は自由気ままな立ち居振る舞いをしているが、その実トト族の村長むらおさの一人娘であり獣人の村からルーナティア国へと招かれた親善大使でもある。あの娘はルーナティアと獣人たちとの間における、生きた同盟証書のようなもの。

 獣人故、橘光に負けないぐらいの機動力があり獣ならでは野生の勘すら持ち合わせているが、それでも命が関わるのであればトトを出すのは余りにもリスキー。この時点でお使い任務では無いと分かる。

 それと同時にトリカトリ・アラムも出られない。お使い任務であれば最も気安く使われるルーナティアのクソデカメイドだが、彼女は親しくないものとの荒事が発生するとかなりの速度で理性を失い攻撃性の塊になる。仮にトリカトリを出すとすれば荒事のリスクが無いお使い任務か、或いは荒事に際しても狂戦士と化したトリカトリを止められる誰かとの同伴になるだろう。

 よってこの任務はほぼ荒事、もしくは極めて荒事の可能性が高い案件であると分かる。この時点でルカ=ポルカの名が上がる事は無くなった。

 かといってパルヴェルトも出せない。彼は法度ルールを適応した百パーセント中の百パーセントを出し切った橘光を更に法度ルールでコピーする事で、事実上橘光とほぼ変わらないスペックになる事が出来る。まだルーナティア国に来て長くなかった頃は技術面でどうしても負けが多くなっていたが、恐らく彼はタクトに負けず劣らず、この世界に来て最も成長した愚者の一人である。少し周りに良い所を見せたがるきらいはあるが単独任務となればそれも無いだろう。

 しかし彼は出せない。

 パルヴェルト・パーヴァンシーは法度ルールありきの実力者であるが、法度ルールというものは何らかの理由で意識が途絶えると強制的に解除されてしまう。戦闘中の想定外による気絶や主観的な意識の明滅は当然ながら、仮眠一つ挟んだだけでも彼はいつも通りの彼に戻ってしまうのだ。

 残る実力者は二人。ジズと光。

 だがジズは出せない。彼女は今、ラムネによって生きる対価として記憶の殆どを破壊されたタクトの側から離れたがらない。幼児退行してしまった彼の介護は誰にだって出来るだろうが、ジズはそれを頑なに譲ろうとしない。

 かつてのタクトがジズを心の拠り所にしていたように、ジズもいつしかタクトを心の拠り所にしている。自分の身を守る為、自分の心を守る為、彼女は如何なる理由であってもタクトの側を離れず、タクトを守り続けるだろう。

「良く分かってるわね。そう、動けるのはデカ乳しか居ないわ。もし貴女が受けないというのなら私は彼の事を諦めるつもりだったし、であれば事実上貴女に「受けない」なんて選択肢は無いわね」

 チェルシー・チェシャーが少し申し訳無さそうな顔をしながらそう言う。……それは以前にも見た事がある表情───愚者として呼び出された数秒後に、魔王チェルシーがしていたものと全く同じ表情だった。

 故に魔王は「でも良いの?」と腕を組みながら問い掛ける。

「任務中は当然、タクトくんの側を離れる事になるけど。………貴女、余り表に出さないだけで、ジズと同じぐらい彼の事好きなんでしょ?」

 チェルシーの疑問に光がフンと鼻を鳴らす。


「どうせここにおってもタクトのデカチン思い出しながらクリイキしまくるしか無いしな。最近オ◯ニーし過ぎてトリカに怒られてん、日に何度もシーツ濡らし過ぎですっちゅーて………いや知らんがな潮吹きなんざ自分自身で制御出来るかいなアホがっちゅーてキレ返したら頭どつかれたわ」

 

「最悪だよおヒカルう。真面目な雰囲気だと思ったらすうぐこれなんだからあ」

「まあ貴女声デカいものね。様子見で貴女の声聞くと大体クソデカい声でイキ狂ってるから最近聞かなくなったわ」

「魔王さんは魔王さんで最低だよお。そんなイヤホンの音量に気付かず音楽流しちゃった時みたいなノリでぼくたちがお豆磨いてるの覗かないでよお」

「その点貴女は安心して聞けるわ。トラ=ポルタは可愛い声でしっとり喘ぐものね、童貞ウケしそうなキュートな声よ。今度私と遊ばない? 可愛がりたくなって来たわ」

「うわあん玉姉さあん! ぼくの代わりにこの魔王ぶん殴ってえ! ぼくの代わりに肩パンして真っ黒な痣作ってえ!」

「肩ぱんのぱんはぱんちのぱんじゃよな? よし魔王、妾がぱんちしてくれる。元妲己ちゃんぱんちじゃ、喜んで受けい」

「掛かって来なさい。私は物理カウンター持ちよ、フレーム単位で合わせてあげるわ」

「いやお前ら言うとらんと『トラポルタが可愛い声でしっとり喘ぐ』とかいうパワーワードにツッコめや。想像すら出来ひんわ何やそれ」



 ───────



 橘光は階段を降りるのが苦手である。

 大き過ぎる胸を持っている故、階段を降りる時に踏み違えて「ヌワァーッ!」と転がり落ちないよう下を見ていても、しかし見えるものは自分の胸の谷間ぐらいなのだ。それが何年も続くのだから、遂には下では無く左右を見るだけで下がどうなるっているかを大体把握出来るようになったが、それでも普通に足元を見る事が出来ないという事は光にとって殆ど壁にしかならない。タクトに近付く際にわざと転んだ振りをして抱き着き匂いを嗅いだり、というように上手く使える事もあるが、基本的にはただの壁である。

 橘光は走るのが苦手である。

 硬いカップに包まれたブラジャーによって下方向への動きこそ抑制されているが、その大き過ぎる胸は少しでも走ると左右に大きく振れて非常に走り難い。

 橘光は走らない。どんなに急いでいる状態であっても『走る』という行為は意識しない。

 橘光は急いでいる時、地面を強く蹴って前方に飛ぶようにして移動する。左右に振られ難くなる代わりに上方向にかなり胸が持ち上がるものの、それでもクーパー靭帯が傷付き完全な垂れ乳になってしまう事を考えればこれが及第点といった所だろう。

 デメリット……になるのかどうかは人それぞれだが、大きく足を開いたストライド走法さながらな走り方をする事から、橘光は男性経験が無いにも関わらず既に処女膜が破れてしまっていた。大きく足を開き、股関節が広く可動する事から膣内が引っ張られてしまうその現象は女性陸上選手にとってはかなりポピュラーな事なのだそうだが、橘光は「結局初めてはタクトにあげれたし、高々膜如きどうでも良かね」と何一つ気にしていなかった。

 膜があろうと無かろうと初恋の相手と事に及ぶ事が出来たのだから、それ以上に何かを求める程橘光という女は業突張ごうつくばりでは無い。両想いにこそなれなかったが、周りに気を遣ったのか本当に自信があるからなのか、ジズは光がタクト彼氏と行為に及ぶ事を容認してくれている。

 であればもう何も要らない。……だいぶ意地悪な性交にぼろぼろと泣かされてしまい、脱糞にこそ至らなかったが布団はとんでもない惨状にしてしまった。余りにも愛が深過ぎたからか触れられただけで痙攣し、いざ行為に至れば死ぬ死ぬ叫んでしまうような有様だったものの、しかしそれでもタクトが幸せそうに自分の中で気持ち良くなれてくれていたのであれば、光はもう何も求めない。

 タクトが幸せであるのなら、光は自分がどんな目に遭っても幸せで居られるから。

「─────おうっ!? あぶねっ!」

 雪の積もった山林を猛スピードで飛びながら・・・・・進む光が、革製のジャケットに木の枝を引っ掛け少しだけよろめく。けれどそれは本当に少しで、六十パーセントを意識して脳のリミッターを外した光の力で引っ掛けられた枝はすぐにへし折れる。

「………んっし」

 僅かに速度を緩め、枝の破片やら雪の欠片やらといった残滓を軽く払った光が再び雪上を蹴り飛ぶように進んでいく。

 ………普段の光であればこんなミスはしない。他人から見れば異次元級の速さで駆け抜けているように見える光だが、光からしてみれば「普通に動いているだけ」なのだから、チーターが自分の速度で乗り物酔いを起こさない事と理屈的には同じである。

 しかし今の光は普段とは装いが異なる。普段履いている靴にロープで縛り付けるタイプの金属製かんじき・・・・を履いた光は、足回りに普段より何倍も気を遣っている分、前方に対しての注意が幾らか散漫化してしまっていた。

 何せかんじきなんて生まれてこの方履いた事が無い光なのだ、確かに足が雪に沈んでしまう事は無かったものの、少しでも気を抜くと爪先の部分で雪を引っ掛けて掘り起こしてしまう。

 常人であれば爪先部分に乗った雪の重さにつんのめってしまうだろうが、今の光の筋力であればその程度何の重荷にもならない。しかしだからこそ、今の光はその雪を持ち上げる際に、靴とかんじきを繋いでいるロープが千切れてしまわないよう細心の注意を払う必要があった。

 トリカトリ直属の部下であり、またトリカトリと最も親しいメイドであるラワトリーからこのかんじきを受け取った当初は「鎖にしてや、チェーン。あるやろ」と文句を言った光だったが、ラワトリーは「鎖にすると重量が倍近く増えますよ。本末転倒です」と金髪ツインテールを揺らしながら困ったように笑った。その時は不承不承ながら納得したものの、実際積雪の大地を駆け抜けてみれば考えの甘さを思い知らされる。

 何しろこのかんじきは金属製。本来であればかんじきは木製かプラ製でなければならないが、光の筋力では樫の木であっても爪楊枝のように簡単にへし折ってしまうので金属製にするしか無かったのだ。

 芯の無い中空パイプでこそあるものの、中空という事はそれだけ折れ曲がり易い。鍛え抜かれたボディビルダー級の人間ですら理論上三十パーセントまでしか扱えない筋力を倍の六十パーセントまで跳ね上げている状態なのだから、ほんの少しでも注意が逸れて倒木でも踏もうものならすぐにひしゃげてしまうだろう。

「…………んへへ」

 けれど光はそれを楽しんでいた。

 まるで海の上を走っているような感覚がして心が踊る。何処かの格闘家のように足を回す速度を緩めた所で「流石に沈むな……ッ!」とはならないものの、足を下げる際の角度を間違えればそのまま雪を貫き体全体がガクンと沈んでしまうし、雪を蹴る際の角度を間違えれば掘り上げた雪の重さにロープがミシミシと擦れて軋む音がしてくる。

 しかしそれらに気を配り上手に走れた時の爽快感は他の何でも味わい難い。白波だらけで真っ白になった海の上を自分一人だけで独走しているかのような気分は、他の何にも例えられないだろう。

「………おっ?」

 山林地帯を抜けた光の視界が一瞬白く曇ったようになり、やがてピントを合わせた瞳孔が収縮すれば、眼前に大きな滑り台のような下り坂が現れる。

 そこまで急では無いものの、それでもこのままの速度で駆け抜けるには勝手が悪いぐらいの角度である事は明白だった。

「───────わっひょぉぉぉおおおいッ!」

 だったが、当然光は速度を一切緩めない。それまで鳴らしていたザッシュザッシュという音をシュォォォッという硬質な何かが擦れるような音へと変えながら一気にそれを滑っていく光は、

「………おわっ!? ─────あびょふっ」

 しっかり足元を注視していたのに何故か全く見えなかった雪の膨らみにかんじきを引っ掛け、光は顔面から真っ白な雪に激突する。条件反射的に膝を曲げた事で何とか靴とかんじきを繋ぐロープは守ったものの、代わりにかなりの速度で純白の煌めきに顔面を叩き付ける羽目になってしまった。

「………………ゲロ痛え」

 顔面に押し付けられた雪の冷たさに顔を起こせば、鼻の辺りからジンジンと響くような不思議な感覚がしてくる。それはすぐに熱を持ち、心臓の動きに合わせてズキンズキンと露骨に痛み出す。

「しかもド冷てえ。バチクソさぶいし、陥没ビーチクおっ勃ちそう」

 鼻血が出た気がする。裏起毛の革手袋を外し、人差し指と親指で自身の鼻を抓んで穴を塞いだ光は、そのまま鼻から空気を弾き飛ばすような感覚で「───プンッ」と面白い音を鳴らしながら交互に指を外す。すると左の穴から少しだけ赤黒い血が飛び、純白の雪に紅色の染みを作った。

「………………………」

 それをぼんやりと眺めながら革手袋を着け直し、革手袋越しに指で抓むようにして鼻を吹いた光は「………埋めとこ」と血痕を雪で隠し、再び革手袋越しに鼻をぐしぐしと擦って拭く。

 ………今光が着ている革製のジャケットやズボン、手袋は全てラワトリーからの借り物なのだが、何一つ気にせず鼻血で汚していく。借りる際に「私にはもう使う機会なんて無いでしょうから、好きに使って頂いて良いですよ」と良い笑顔で言われていなかったとしても、橘光は気にせず汚していただろう。

 何せラワトリーは洗濯Laundryメイドなのだ。重い洗濯かごを持って何度も往復し、幾度と無く両腕を上げて毎日洗濯物を干さなければならない激務の代わり、その日の洗い物を干し終えたら何しても許されるラワトリーは、余った時間を他の部署の手伝いに回す働きものだった。

「血って染み付くと落ち難いんけど………あいつならイケるやろ。洗濯メイドさんやし。クリーニング屋さんみたいなもんや」

 そんな事を呟きながら体を起こす光。実際には全然違うのだが、光からしてみればどうだって構わない。自分が深く関わる分野でも無いような事に気を遣ってやる程、橘光は心の暇人では無かった。

「…………ん」

 雪に押し付けられて冷えた顔面が、通常よりも遥かに早く熱を持ってくる。冷えた水で顔を洗った時なんて比にならない程のそれは、恐らく体が体温を上げようと蓄えたカロリーを消費して必死になっている証拠だろう。

 …………夏場にアイスを食べた時なんかは良い例だが、夏の日に炎天下で「暑いから」とアイスを食べても冷えるのは食べている途中だけ。食べる量にもよって変わるが、アイスバーを食べた後の体なんかはすぐに「冷えたぞ! 急いで暖めなきゃ!」と平熱に戻そうとしてしまう。

 哺乳類というものは体温が変化した際、体力を消費し急いで平熱に戻そうとする。熱いお茶が周囲の空気と平均を取る為に冷めていく熱力学が如く、哺乳類の体も、体温が下がった場合懸命にその体温を元に戻そうとするのだ。

 当然ながら逆も然り。風呂に入って体が芯まで温まった場合、体は平熱に戻す為に心拍数を上げて呼吸の頻度を増やして口から放熱させる等といった様々な手段で平熱を保とうとする。

 しかし人間は愚鈍で間抜けな生物。体温調節を行う際、どこかのゲーム開発運営のパッチノートのように「少しやり過ぎてしまったようです」といった事態が起こる事がある。平熱を保とうと温度調整を行う体は、しかし「遊ぶと世界中の暴言を覚えられる」と名高いゲームのように、周囲の環境を何も考慮せずとにかく平熱に戻そうと一気に体温を変えたがるのだ。

 風呂上がりの湯冷めはそれが理由だというのが通説である。同じく逆も然りで、アイスを食べて冷たくなった体が熱を持つ事で「アイス食うと逆に体温が上がって暑くなる」といった事態に成り得るのだ。そうなった場合、当然体は熱を持った体を冷やそうと再び体力を消費する。

 体は、それを何度も繰り返してでも、平熱に戻そうとしてしまう。

「もうそろ着くんけど………急がなマズいなぁ。………滑るしか無いか」

 人間の体はそんな頻繁な温度調整や体力消費に耐えられる程強く出来ていない。ただでさえ極寒の雪山で深部体温の低下に怯えなければならない身なのだから、そこに馬鹿みたいな温度調整の繰り返しでカロリーまで消費されては生き残る事は極めて難しい。

「うっし」

 ラワトリーからの借り物である革製のジャケットを羽織り直し、肩周りの服の張りを整える。

 そのまま光は、先程よりは幾らか慎重に滑り台のような斜面をかんじきで滑り始めた。先の失敗である程度感覚は掴んだ光だったが、念には念を入れて少しだけ深めに膝を曲げ、仮にズッコケてもさっきよりは地味にコケる事が出来るようにした。

「…………………」

 そのまま慎重に速度を上げていく。

 人の通らない雪原は何もかもが白いせいで、特に太陽を背中に背負った状態での下り坂は傾斜の有無が極めて分かり難い。どこにどれだけの凹凸おうとつがあるのかは、それが自分の影に飲まれた際の影の形でようやく認識出来るようになる。

 しかしそれでは遅いのだ。滑っている途中で「影に入った時の形を見て足首を上げる」なんて事はTASぐらいしか出来ないと光は思っている。

 故に光は、かんじきの角度と傾斜の角度が一致しないように足首を反らす感覚で雪を滑っていく。どこかのブロガーがしていた「スノボ初心者」の記事では、最終的に横向きにしたスノーボードの上で後ろ手に腕を組みながらずるずると雪を滑っていった。

「……よっ」

 それの応用で、光は少しずつ慎重に滑っていく。

 サーファーのように横向きにした体。右足を下に配置し、左足で雪を蹴って速度を上げ、急加速し過ぎたと思えば左足のかんじきで雪を擦って減速、少しずつ速度と感覚を調和させながら加速していく。

「おっほ、何これ楽しっ」

 数秒前まで眉目秀麗、クール系俳優のような凛々しい表情をしていた光は、気付けばタクトと騒いでいる時と全く同じ天真爛漫な笑顔になる。

「よっ、ほぉうっ! ………んははっ!」

 調子に乗ってジャンプなんかしてみれば、何だか久々に笑ったような気がするなあと少しだけ物思いに耽ってしまった。

「………スノボやったらミラ・ミラ流してテンションぶち上げるんけど──────生憎ウチは夢を叶える金色の旅人、叶えるべき夢は見てられん」

 しかしスノーボードよろしくかんじきだけで雪の坂を滑り降りる光はすぐに頭を切り替える。今そんな事を考えていては再びズッコケてしまうだろう。

 今考えるべきは、

「To easy! 楽勝やでぇッ!」

 どこかの音速のハリネズミのゴール台詞みたいな事を叫びながらこの瞬間をどう楽しむかだった。




 それから少し経った頃、やがて光は真っ白な純白の世界にぽつねんと建つ大きなお城のような建物の前に立っていた。西洋製の古城のように見えるそれはルーナティア城と比べればかなり小さく、投資家が税金対策で買う別荘のような印象を受ける。

「お待ちしておりました。ルーナティアよりお越しの、タチバナ・ヒカル様ですね」

 そこの大きな門の前。人一人通れる程度に開かれた格子状の鉄門の前に立つ羊角ようかくのメイドが冷淡な声色でそう問い掛けた。

「十二回や」

 そのメイドに橘光は真顔で答える。羊角のメイドが白くふわふわとした癖っ毛を揺らしながら「は?」と聞き直せば、橘光は一切の感情が消えた真顔をしながら、

「十二回。ウチが乳首という名のコンティニューボタンを押した回数は十二回や。ウチが陥没なんはボタン押し過ぎて埋まったからや」

「………何のお話でしょうか」

「ウチにソニ◯クごっこは向いとらんって話、素直にパクったスノボでクロ◯アごっこしとった方が二回被弾で死なんしえがったわ。もう顔面平手突っ張られてもなんも感じん、画面酔いせんかっただけまだマシか」

 青いハリネズミのような速度で雪山かんじき滑り降りRTAに挑戦していた橘光は、結局あの後累計十二回、降り積もった雪の結晶と濃厚なキスをした。チュッと音を鳴らしなが小鳥が嘴のグルーミングをし合うようなキスをバードキスと呼ぶなら、唇を押し付け合うキスはプレッシャーキスと呼ばれる。

 それはさておき、横転の回数が十回に達した時点で既に呻く事すら止めた光は、余りにも感情が消し飛んでしまったからか十一回目の横転で靴とかんじきを繋ぐロープを守り切れず、結局ぶっ千切ってしまった。

 もう一切の痛みを感じなくなった光は無駄に冷えた顔面に釣られて冷やされた脳で色々と考え、仕方無くその場で革製のズボンを脱いだ。そしてその下に着ていた結構お気に入りのデニムジーンズの右足の裾をビリビリと引き裂き、ねじりながらロープ状にしてかんじきと靴を自力で繋ぎ直した。

 しかしそれは応急処置。幾らねじってロープのようにしてあるとはいえ、ロープ状というだけであってロープでも何でも無いそれはそれまでのような強度を誇ってはくれない。十二回目の横転でデニムロープをぶっ千切った光は、感情の消し飛んだ眉目秀麗な凛々しい顔で「クソゲボが」とドスの効き過ぎた悪態を吐きながら再び革製のズボンを脱ぎ、デニムジーンズに残された左足の裾を切り裂きロープ状にねじってかんじきを修繕した。

 その瞬間の橘光はただひたすらにシュールであった。極寒の雪山で、鼻水では無く鼻血を垂らしたホットパンツの女が、尻の肉を惜しげも無くハミ出しながら、過去にはロープが通っていたかんじきの穴を睨み「穴が狭い……処女のキツキツま◯こかお前は」だなんて事をぶつくさ言っているのだから、その姿はシュールと言う他に何も無いだろう。

「おしりさむい」

 ずびっと鼻を啜った光が呟く。その言葉に羊角のメイドがふわふわの髪を揺らして口を開こうとすれば、光は間髪入れずに「かおいたい」とその動きを遮る。

 そして、

「つかれた」

 心からの本音。一切の嘘が無い本心からの言葉を呟き、羊角のメイドの横を素通りしながらずんずんと格子状の門を通り抜けていく。

「……………………」

 その後ろ姿を見て何かを察した羊角のメイドは「………向かって右手側にある扉の先が応接間です。まずはそちらに」とその背中に投げ掛ける。


「タクトだいすき。ウチまだがんばれる」


 返事になっていない返事をしながら進行方向を変えていく。

 元よりタクトの為で無ければこんな雪山くんだりまで来る気は無かったが、それでも彼が前みたいに笑ってくれるのであれば、今とは違う少し疲れたような愛らしい笑顔を向けてくれるのであれば、橘光は白いシャツとホットパンツの上に革製の上着を羽織った「新手の死にたがりか?」と思えるような姿での雪中行軍だってこなしてみせる。

「…………………戻ったらジズより先にウチがエッチしたろ。そんぐらいのご褒美はあってもええやろ」

 彼との行為は中々大変だが、あの一夜でどれだけオキシトシンが分泌されたのか光は彼と求め合う事が最上の歓びと言って差し支えない程に癖になっている。

「むしろそんぐらいのご褒美が無きゃやっとれんわ」

 木製の扉の、木製の丸ノブをガチャリと回して言われた応接間に入った光は、自分の想いが日に日に増している事を自覚し始めていた。

「………………………」

 暖炉の焚かれた石造りの部屋に入った光が、自身の唇にそっと指を当てる。唇から感じられるその指先は、革手袋のせいでとてもごわごわしていて不快だった。当然、その指先は唇の柔らかさも温度も何も感じられない。

「…………………ちゅーしたいなあ」

 都合十二回繰り返した雪とのプレッシャーキス。舌こそ絡ませないものの、それでも濃厚な部類に入るその口付けには「自分の愛を伝えたい」「相手の愛情を確かめたい」といった心理がこもっているのだという。


 であればこの雪中行軍、橘光の唇から撤退の文字が飛び出る事は有り得ない。


 だって好きだから。

 愛しているから。

 確かめずとも分かるから。

 彼の為なら死ねるから。


 十二回の横転によってぐしょぐしょに濡れた革製の上着とズボンを脱ぎ去った橘光が、ぱちぱちと小気味良い音を鳴らしながら燃える暖炉の前にしゃがんで手をかざす。

 最初は何も感じない。熱に煽られた空気の動きだけしか感じられない。

 けれどそれはすぐに温度を持ち始め、やがて光は自分の体温が高まっていくのを感じる。

「………負けてられん」

 その熱に光は力強く笑った。


 火だの炎だのと調子に乗んな三下が。


 自分の方がよっぽど熱く燃えとるわ。


 恋の熱量をナメるな。


 疲れに伴いハイテンションになり始めてきた光がそんなような事を思い始めれば、やがて応接間に入って来た羊角のメイドが暖炉の前でしゃがむ橘光の背中を視界に入れ、いつに無く自信に満ち溢れ、火よりも熱く燃え盛る光を見据えた。


 そして、


「上着の下半袖シャツにホットパンツで単身雪山登りとか………貴女は新手の死にたがりですか?」


 尻の肉を惜しげも無くハミ出させる光の背中に、羊角のメイドは当たり前過ぎる感想を漏らしてしまった。

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