4-5話【『金』『玉』と馬鹿二人】



 それが例えゲロであってもうんこであってもどれだけ至近距離でそれを嗅いだとしても、人間の嗅覚というものは二分で麻痺するのだという話を昔聞いた事があるが、実際に案内されて室内に入った際には強い木の香りがした自然豊かなこの部屋も、二分もすればただの茶色い部屋に成り下がってしまう訳で。嗅覚を持つ動物の中でも屈指のクソザコさを誇る人間ヒトカスさんなのだから、独特な甘ったるい香りをしている金髪を抱き締めながら寝た所で朝起きる頃にはどうでも良くなってしまうのも無理は無い。

 ………いや、むしろ煩わしいまである。何せ橘光という女は基礎体温が高く、さして寒い日という訳でも無い時期に湯たんぽみたいな女を抱いて寝れば三十分もする頃には暑さで布団を蹴り飛ばしたくなるのも仕方が無い。一人で寝ている時は悪い寝相が僕と一緒に寝ている時だけ良くなる事に少しだけ胸が暖かくなったのが唯一の救いだと思ったものの、しかし寝出すと共に石のように微動だにしなくなる光に抱き着かれれば救いはすぐに罰に変わる。

 そんな寝苦しい夜をを通り過ぎ、朝目が覚めた僕が毎朝の日課である寝起きのラムネなでなでを終え、顔を洗おうと水場を探してふらふらしている時の事。

 同じように洗面所的な水場を探してうろついていたルカ=ポルカは、僕を見るなり挨拶より先に「……はっ」と嘲るように鼻で笑った。かと思えば対人ゲームで勝ち確煽りをする器の小さいプレイヤーのようなキモい目付きになり、

「昨日はお楽しみだったねえ」

 そんなどっかの宿屋の店主みたいな台詞を言い放った。それを見て一瞬「うっし、るか」とか思った僕ではあったものの、しかし直後にポルカが戦闘可能な法度ルール持ちである事を思い出して拳を収めた。

 そうでなくとも、

「……んへへぇ」

 ………そうで無くとも、今の僕は左腕に橘光とかいう金髪女を装備している。僕より身長が高い癖に何故か腰を曲げてまで抱っこちゃん人形よろしく腕にしがみつくこの馬鹿女は、別に意外でも何でも無く結構がっしりと抱き着いて歩く事すら邪魔してくる。今の僕がポルカにタイマンを挑んだ所で、手枷足枷ならぬ光枷が邪魔になってまともな勝負にならないだろうし、何より昨日お楽しみだった事は揺るがぬ事実なので、僕は小さく「……うるせ」と悪態を付くだけに留めてこの場をやり過ごす事にした。

 けれどポルカは僕の意図を察したのかどうなのか「凄かったよねえ」と話を戻し始めた。

「壁越しに聞こえてくる声が更に壁に反射してさあ。最初の方こそドキドキしちゃったんだけど途中から普通に胸焼けしちゃってえ、ぼく耳に指突っ込んで寝てたもんねえ」

「………うるせえ」

「逆だよ逆う、それぼくの台詞だよお。二人のお楽しみの方がよっぽどうるさかったよお? 防音処理されてるカラオケボックスですら隣の部屋の音楽とか聞こえてくるのにさあ、ただの木造建築のお家でお猿みたいにハメ狂ってたらダダ漏れも良い所なんだからねえ」

「んへへ。ウチむっちゃお漏らししてもたぐらいやからな。ぶっちゃけマジで死ぬかと思たんは内緒や、あん時ゃ背筋冷えたで」

「そのままマジで死ねば良いのにねえクソがよお」

 呆れ果てた声色のままどんどん口が悪くなっていくポルカの言葉に、僕は少しだけ身を竦める。何でそんなに機嫌悪いんだと僕が口を開き掛けた瞬間、ポルカは口元に手を当てて「ふわ………ぁく」と大きな欠伸をした。その仕草だけで何でポルカがこんなに不機嫌なのかを理解した僕は、何も言えずに黙り込んでしまった。

 ………………だって、まあ………実際、うん。その、……なんだ? 実際ちょっと調子に乗った自覚はあるし、僕に強く言い返すような権利は無いのだが。とはいえ光の喘ぎ声があんなにデカいとは思いもしなかった。

 けれど、よくよく考えてみれば嬌声が大きくなるのも仕方が無い事なのかもしれない。もしも逆の立場だったのなら、きっと僕だって好き好き言いながら悦んでいただろうから。少し歪ではあるものの、自分の想いが明確な形になったのであれば、僕はもっと堂々と微笑んであげるべきなのだろう。

「いやマジ死んでもええなあって思ったよ。こんまま死ねたらごっつ幸せやのになあって思いながらおしっこ漏らしてたわ。けどこんまま死んだらおしっこ所か首吊り自殺みたいにうんこも漏らすやろから、それは嫌やなあって思て今も生きとるし明日も生きる橘光ですどうぞよろしゅう」

 前言撤回したい。忘れていた。橘光という女は一度調子付くとそのまま調子に乗り続けるタイプの馬鹿女だった。

 臆面も無く下らない与太を言い出す光を「もう離れろ」と言いながら引き離すと、光は「んへへ。こいつ照れとる」だなんて言いながらへろへろと離れていく。照れてねえよ。ウゼえなこいつって思っただけだ。お前みたいに思った事を口にしてやろうか。

「…………タクトくんとするのそんなに良かったのお? ………ぼくも生前は色んな人といっぱいシたけどさあ、そんなに良かった事一度も無かったよお? ………まあぼくの場合は作業感が強かったっていうのもあったんだけどさあ」

 眠たげな目元を擦りながら訝しむポルカに光は即座に「凄いで」と答えを返す。

「タクトのちんちんが凄かったんかは良う分からんけどさ、ありゃ凄いで。ヤリチンヤリマンの気持ちがちっとぐらいは分かったわ。まあカンジダやの梅毒やのエイズやのって蔓延させる気は無いからタクト以外とはヤる気にならんし、よしんばヤッてもマグロやろけどさ。せやけどウチが擦って欲しいとこえっらい的確にぐりぐりされると打ち上がったエビみたいになってまうんもしゃーないこっちゃろ」

 まさしくオタク。駄目なタイプのオタク。気付けば周囲から疎まれるタイプの、聞かれてもいない事をダラダラと勝手に喋り出す嫌われがちなオタク。本人は話したくて仕方が無いんだろうけど、生憎こっちはそんな話題どうでも良くて仕方が無い。話の内容以前に、そもそも話をするお前という存在に興味が無いというに。

 ポルカの問い掛けに若干食い気味で答えていた辺り、今のポルカのような事を聞いて欲しくて仕方が無かったのだろう。今か今かと待ち侘びて、ようやくそれっぽい話題が来たから何処ぞの宇宙海賊のように「この瞬間を待っていたんだーッ!」とでも言わんばかりに食らい付いた訳だ。


 と、そこでふと僕は思った。


「……そういや光さ、その……ヤッた時なんだが、痛がるような素振り無かったし初めてじゃ無かったんだな。こっち来てからヤッたのか? それとも処女捨てた状態でルーナティアに呼び出されたのか?」

「んえ? いや生前も生後も死後だって誰ともヤッとらんよ。ウチしっかり初めてやったで? 未通女みつうじょと書いておぼこと読むたぐいの女やよ」

 それまでしていたしたり顔をぽけっとした表情にした光がそう言うと、横からポルカが「おやあ? おやおやあ? タクトくんって女の子の過去話聞きたがるタイプなんだあ」とか言いながらにへにへと笑い出す。何でか分からないけれどクソ程イラッとした僕は「へえ〜? ふう〜ん? ほお〜?」とか言い続けるポルカを全力で無視しつつ、光の言葉に「……ふむ」とか頷いた。

 ────と、見せ掛けて。ポルカの顔に手を伸ばした僕がその頬を全力で抓り上げると、ポルカは「へぎゃあっ!」と情けない悲鳴を上げて喚き始めた。

ひらひらひらいよおっ! ほっへれちゃうっ! うぉくの自慢ひまんのほっへっこひひゃうっ!」

「別に疑ってる訳でも無いし処女厨って訳でも無いんだけどさ、あの時の光の……その、なんだ。ヨガりよう? っていうのか? そういうの見てる限りじゃヤりまくりで性感帯育ちまくってるみたいな印象受けたからさ」

「ヤいまふいやあいよっ! うぉくのほっへヤいまふいやあいよおっ! ふぅぅぅぁぁぁああああひあああああいっ!」

「んな事無いでよ。ウチちんちん挿れるんしっかり初めてやったで? 膜が無いんは良う走くり回っとるからやろ。足使って走り回るアスリートとかにゃあその時に引っ張られて膜破れる人もおるねんで? …………イキ狂ったんはマジで惚れ相手だったからやろ、ウチタクト以外じゃあんなにあへあへせんよ」

「お、おう。そうか、そうだな。そういうもんだな。好きな人。うん、好きな人…………………うっす、アザっす」

ひゅきやないよおっ! うぉくほんあおひゅきやないよおっ!」

「何で運動部のノリやねん。タクトにゃ似合わんで」

「感覚的には運動部っつーより現場仕事の兄ちゃんのノリだったんだがな。土方とか足場とかのさ」

「どっちゃにしろ似合わんな、タクトにプリン髪は似合わんよ。タクトはヒョロこいから、勘違いした動画投稿者みたいなド紫とか真っ青に染めるんが似合うんちゃうか」

「お前それ本当に似合ってると思ってるか? 「こいつ奇抜な髪色した俺カッコいいとか思ってそ~」みたいな意味で似合ってるとかじゃねーだろうな。お前の言い方悪意と敵意しか感じられなかったんだが」

「そういうタクトも大概やで。んな嫌ならh◯deちゃんみたいな赤ピンクでもええで。こデカいグラサン着けてカウボーイハット被っときやね。あれバチクソかっちょええから」

「それもう僕の顔殆ど見えてねえし、僕ギター弾けない」


「んんんむゔゔゔぅぅぅぁぁぁああああああああああああ───────ッ!」


 話している裏で頬を抓り続ける僕の手をぺしぺしと叩いていたポルカだったが、遂に臨界点に達したのかもったりとした可愛い声色で雄叫びを上げながら僕の手を振り解いた。真っ赤になったポルカの左頬はどことなく腫れているように見え、その目元にはうっすらと涙が滲んでいた。

 しかし僕の心はミリも痛まない。だって人を呪わば穴二つ、しくじった時用に自分の入る墓穴も掘っておかねばならないのだ。どこかのペンギンの人が操るグラサンゆかりんだって言っていたろう? 「煽っていいのは煽られる覚悟があるやつだけだ」ってな。んドゥ〜バ。ガタンゴトン(自己紹介)。

「むぅぅぅぅぅううううううううううううっ!」

 抓り上げられて腫れた頬を更にぷくっと膨らませたポルカが唸りながら僕の胸に突進してくる。そのまま胸元にぽこすこと駄々っ子パンチを繰り出───、

「うっ、うっ、ポルカっ、結構っ、うすっ、痛いっすっ」

 あざとい仕草の割にはかなり力が入った駄々っ子パンチがどぅむどぅむと低い音を鳴らしながら僕の脇腹辺りを殴り始めると、横で見ていた光が「新米の小結みたいやな。うす、ちゃんこお代わり欲しいっす、みたいな」だなんて意味不明な感想を漏らす。

「ぼくの方が痛かったんだぞ馬鹿あああっ! ぼくのほっぺチャームポイントなのにいいいいっ! タクトくんにほっぺレ◯プされたああああっ!」

「ほっぺレ◯プて。リョナ絵に良くある脳姦みたいなもんか? それとも歯磨きフ◯ラけ?」

「りょっ、リョナ絵にっ、うすっ、必要なのはっ、血しっ血飛沫じゃないっ、うっすっ、ひょうっ、表情っ、大事っすっ」

「ぼくのほっぺぷくぷくにしといてよく言うううううううっ! 何が表情だよおこの馬鹿あああああっ!」

「正論過ぎるわ。言い逃れ出来んな」

 僕の胸元に顔をうずめながら繰り返す駄々っ子パンチは、ポルカ自身の感情の昂りに連動しているのか少しずつ速度と威力を増しドドスコドドスコという音へと変わっていく。しかし元々が非力なポルカだからか、ピアノの連弾が如く増していく速度の割に威力の増加は微々たるもの。

 ………でもそのぐらいが調度良いのだ。ゲーセンに置いてある太鼓◯達人は高難度曲ほど力が入ってしまうものだが、余り強く叩くと筐体の反応が悪くなり自分を含む全ユーザが困る事になってしまうんだ。

 どうでも良いけど何で回転寿司チェーンのデンモクってどこもあんなに反応が悪いんだろうか。やたら安いラーメンや蕎麦目当てのジジイが力任せにドドスコドドスコって連打するからだろうか。店側もメンテナンス費用をケチって放置してる場合が多いし、もし押し過ぎて液晶を割ってしまったとしても液晶が歪むぐらいまで押し込んで反応しないデンモクに非があると僕は思うんだ。だってもう一皿食べたいドン。レーンを回るカッピカピのエンガワなんて食べたくないドン。本社が手抜きメンテしてるのが悪いんじゃないカッ?

「───────ふわっ!?」

 下らなさ過ぎる与太話を考えている内に、気付けば残像を残すまでに加速していたポルカの駄々っ子パンチの隙間をすり抜け、僕はポルカの脇の下に左腕を滑り込ませる。

 そのまま腰の辺りに手を回してぐいっと抱き寄せると、完全に肉薄して上手く駄々っ子パンチが出来なくなったポルカが慌てた様子で僕を見上げた。

「悪かった悪かった。少し痛くし過ぎたかもしれない。もう許してくれ」

 腰に回した左手。それとは反対の右手をポルカの頬に触れさせ、親指を使って赤く腫れた頬を優しく撫でると、涙目になったポルカはラムネがそうする時のように僕の手へと頬を擦り付け始める。

「……………むううう」

 唸り出したポルカが再び僕の胸元に顔を埋めると、僕は思わずヒヤッとする。………しかしもう駄々っ子パンチが飛んでくる事も無ければ十センチの爆弾が僕のボディーにち込まれるような事も無く、不満を残しながらも落ち着きを取り戻したポルカに僕は鼻から安堵の息を吐き出した。

 そんな僕とポルカを横から見ていた光が「はえー」と馬鹿丸出しな溜息を漏らした。。

「凄いわー。女一人べろべろにイかせた次の日の朝っぱらから別の女抱き締めとるわー。もしかせんでもウチ大概な奴に惚れてもたんかな。こらピーピー鳴るヤカンに合わせていとうか◯こさんが歌い出すのも近いかもしれんな」

「………今年の流行語大賞は『タクト死ね』に決まりだねえ。放送中止で掲示板はお祭り騒ぎだあ」

「Haha Nice boatやで」

「いやどういう事だよ。あれ相当狙わないとまず見れねえ特殊エンドだぞ、二度目の人生初見プレイだっつーのにわざわざ哀しみの向こうなんか行かねえよ」

「よよよお……散々ぼくの事好きって言ってくれたのに子供が出来たら「堕ろせよ」って言うんだあ」

「どうでもええけどどっちが世界でどっちが言葉やる? ウチどっちゃでもええよ」

法度ルールありきではあるけどお、一対一でぼくが法度ルール適応させたら絶対負けない自信あるからねえ。ぼくが言葉役が適任だと思うなあ」

「戦闘力たったの五が言いよるやん。カッスやな」

「ぼくのワールド荒らしたらマイク音割れするぐらい泣き叫んでやるからねえ。口から放った戦闘力五十三万のデスビームに鼓膜破られて「イヤホン壊れた、何も聞こえん」って言いながら狼狽うろたえると良いよお」

「したらL◯afリスペクトして延々と惨殺しまくったるわ。どっかの何たら.exeの狐っ子みたいに頭のど真ん中に風穴開けたるけえ覚悟しとき」

「どうでも良いんだけどぼくLe◯f大好きなんだよねえ、グロくも感じないし怖くも無くてさあ。あの甲高い爆音が無ければ凄い神秘的な動画に想えるんだあ。凄い気に入って朝起きる時のアラームにしてたんだけどお、お母さんに「娘があたおかOPGG.Plz R.I.P.」って言われてさあ。あの爆音がアラームに調度良いなって思ってたんだけどお……」

「Lea◯は海外制作やしな。『検索してはいけないシリーズ』のサイコ動画系にもようさんあるけど、向こうの連中は取り敢えず爆音鳴らしてジャンプスケアびっくり演出しときゃええって思っとる低能が多いからな。想像力が足りないよってやつや、SCP-JPシリーズ見てヤポンスキーの和製ホラーを学んだ方がええと思うでよ」

「ええ〜? ぼく日本のSCPシリーズ好きじゃないんだけどなあ。………何だっけえ、和製ホラーだっけえ? あれ一個一個が長いんだよねえ、核心に辿り着く前に眠くなっちゃうよお。三行でよろしくねえ」

「おっしゃ戦争や。日本ヤーパンが誇るねっちょり納豆ホラーの何たるかをお前の両耳に納豆のタレ流し込みながら教えたる。十円高い大根おろしタレ流し込んだるけえ精々美味しくなるんやで」

「ええ〜? ぼく納豆無理い〜。納豆というかオクラとかめかぶとかのヌルヌル系は全部無理い〜。その中でも挽き割り納豆は臭いも強いから更に無理い〜。だから必然的にぬるぬるで臭い精液も無理い〜」

「でもタクトに言われたら何だかんだ言いつつ飲むやろ。んで涙目で上目遣いしながら甘ったれるんやろ。飲んだよ褒めて〜言うて甘えるんやろ」

「絶対そうだと思うなあ〜。タクトくんに言われたら何か断る気にならないんだよねえ〜。仕方無いなあ、言いなりになってあげるかあって思っちゃうんだあ。だからタクトくんのはぼくしっかり飲んであげるから安心してねえ」

「誰だってそうする、ウチだってそうする。ンーマイ! テーレッテレー! アホか美味い訳あらすけえ精液なんざクソ不味いっちゅーんじゃボケ、愛が無けりゃ飲めんわ」

「そう考えると風俗嬢のお姉さんと駅前のたちんぼ学生とか凄いよねえ、ちょっとリスペクト出来るなあ」

「…………………………………」

 ………駄目だ、付いて行けなさ過ぎる。噛み合ってるようで噛み合ってないこの感じは、言うなれば修学旅行とかで女子グループの買い物に一人同行しちゃった時の感覚が近いだろうか。話題が二転三転してるのに何故か滞りなく進行していく感覚は某弾幕ゲーの原作会話に近しいものを感じる。

 というよりは、むしろ女子トークという感じの方が適当だろうか。集まって話すのでは無く、三人か四人ぐらいでイ◯ンモール的なジ◯スコ的なショッピングモールに集まってウィンドウショッピングをしている際の女子がこんな感じだったと思う。あれを見て騒ぎこれを見て騒ぎ、何処で何食べるかを議論していたはずが最近買った服の話を始めたり、かと思えば服の話から下着の話へと変わり彼氏がどうのこうのと二転三転。その癖本人たちにとっては会話は全て噛み合っているつもりなのだから、下手に優男を気取って「荷物持ち要るでしょ」だなんてワンチャン狙いに行こうものなら、相槌を忘れた瞬間「ねえ聞いてる?」と避難の嵐が飛び交うのだ。

 その点、男は馬鹿で良い。目的の店へとへと一直線に進み、買い終わったら「帰ってモ◯ハンしようぜ、素材集め手伝ってくれ」とか言い出し最早ショッピングモールには見向きもしなくなる。Amaz◯n辺りで適当にポチっておいて最初から家に集まって遊んどけば良いじゃんと言いたくなるようなそれは、数多の女性から「男は脳味噌ち◯こに付いてるから」だなんて言われるぐらいには短絡的で。

 お互い、付いていけないものなのである。性別の壁というものは決して小さくは無いのだから、お互いに理解出来ず納得出来ず、いがみ合って当然なのである。男女の壁は「どれだけ理解し合えるか」では無く「どれだけ譲歩し合えるか」なのだ。

 だからこそ男の様々な事柄に文句を言いたがる女性が多いのだろう。生来の個性が強いとか余程厳格な教育という名の調教しつけを受けた者でもない限り、何だかんだと言いつつ男性は馬鹿だから「まあいっか」で色々な事を流しやすい。本質的にオスという生物は狩りをして、子を孕ませて、それで終わりなのだからそれも当然だ。

 対して女性は物事を流す事が苦手な傾向にある。実際メスという生物は次代に遺伝子を繋ぐのが生物的な役割。子を育てる上で最も重要なのは外敵の存在なのだから、一度でも「あの場所は危険だ」と認識したら相当な期間はそこに近付かない。

 噛み合わなくて当然。理解出来なくて当然。そもそも歯車の形が違うのだから、上手く回らなくて当然なのだ。大事なのはそれをしっかりと理解する事であり、その結果どれだけお互いに譲歩し合えるかが最も肝要なのだろう。


「でもやっぱウチちくきゅうの強引さ好きやねん。力こそパワーみたいな感じあるやん。ちくわときゅうりでブッピガァンみたいなノリむっちゃ好き」

「ああ〜それすっごい分かるう。あの頭空っぽでぶち込みました感良いよねえ。何かIQ低いんだけどそれが逆に親しみやすいっていうかさあ」

「それに対して油揚あぶらげにチーズ挟んだん何やあれ。正式名称も良う分からんし、薄っぺたーい油揚あぶらげに切れ込み入れんのどんだけ面倒い思てんねん。ナメとんのかお前、ミスって指切ったらウチキレるわ」

「ええ〜? ぼくあれ好きだよお? まあ作るのはしち面倒臭いけどさあ、工場で作られた量産品を買っちゃえばその辺は楽だからさあ。油揚あぶらあげとチーズとでカロリーが凄いのは流石に許せないけどねえ」

「そもそもウチはチーズ好きやないねん」

「そういう全てを破綻させるそもそも論やめようよお」

「あの酸味と臭みがどうやっても無理やねん。正式名称マジで分からんし、どっかのソーセージマルメターノみたいにアブラーゲニチーズハサンダーノって呼んだるでお前。…………何や嫌に語呂ええけどポップからハミ出そうな文字数やな」

「全然関係無いんだけどさあ、「てじな◯にゃ♪」のノリで「あぶりゃーげ♪」って言う販促文句を思い付いたんだけどどうかなあ。結構自信あるんだけどさあ、玉藻さんとかにやらせたらすっごい様になるんじゃないかなあ」

「てってれてってれてってってって〜♪」

「違うよヒカルう、ぼくは「もぐ◯〜にゃ」とは言ってないよお。「あぶりゃーげ♪」だよお」

「採用。昔のビールのポスターみたいに意味も無くマイクロビキニ着せて売り出そうや。んで期間内に購入した客ん中から抽選で一名様に撮影後脱いだマイクロビキニをそのままプレゼント! とか言うてさ。したらバカ売れ間違い無しや。フゥ〜ッ! ウチ自分の商才が恐ろしいでよ」

「現実的に考えたらさあ、撮影段階で脱いだ後の下着をそのまま放置してたら抽選に当たった人の所に届く頃にはカビ生えてると思うよお? どれだけ推しの人が着てたって言っても緑色のもけもけが生えたパンツじゃしこしこ出来なくなあい? 場合によっては黒いもけもけの可能性もあるしい、幾ら何でもアコギ過ぎる気がするなあ」

「言うてもアイドルの握手券よりはナンボもマシやろ。大量に買いたがるキモデブなら油揚あぶらげのカロリーなんざ気にせえへんし、クソガリナードなら贅肉付けれる。使い道もなんも無い大量の同名CD不法投棄されるような商売がまかり通るのがあの国やで。そも路地裏で学生が小遣い稼ぎで下着脱いで売っとるようなんが世界に誇る平和の国の実情なんやから、油揚あぶらげにマイクロビキニ挟んでも余裕で許されるでよ。多分消化出来んくて腸閉塞んなるやろけどな」

「ああ〜それちょっとぼくに効くう〜。腸閉塞じゃなくて握手券の話題が結構ぼくに効くう。ぼくの意見でやった訳じゃないんだけどお、同業者の意向的にそれすっごいぼくに効くう。耳が痛あい」

「ごっつ今更やけどぶっ刺した直後のちくきゅうテーブルに置いてさ、その横にオ◯ホにバイブぶっ刺したん置いて並べたら現代アートとして金取れたりせえへんかな。個展開こうや個展」

「一応聞くけどその作品なんてタイトルにするのお?」

「『人類』とかどうや。ウホウホ言うとった北京原人から進化した自称知的生命体が現代でやっとる事これかあって思わせる秀逸な作品や。フゥ〜ッ! ウチ自分のセンスが恐ろしいでよ、誰からも理解されへん類いの孤高の芸術家でも目指したろかな」

「ちくきゅうの原案者に呪われそうだねえ、喧嘩売りまくってる感凄いやあ」

「下手やなあ、下手やでポルカくん。作品を見るのが下手。その作品は良う見ると二重構造式の無意味に複雑なオナホ使つことるし、バイブも『秒間何万回転!』みたいな触れ込みのやつなんやで?」

「いや『なんやで?』って説明されてもビタイチ理解出来なかったからもう無理だと思うんだけどお、ワンチャン同調ぐらいは出来るかもしれないから聞いとくよお。それがどうしたのお?」

「現代技術を使って作っとるもんが他んオナホの倍近い値段の割にすぐ剥がれると評判の二重構造オナホに、人間には到底知覚出来ん振動数のバイブとかいう無駄の極地みたいな代物なんやで?」

「そしてそれのタイトルが『人類』な訳かあ」

「絶対売れるやろ。マジで個展開こうや。んでお前マイクロビキニ着て売り子やって、オフパコした時の動画もエロサイトに有料プランでぶん投げるんや。ゴムに歯で穴開けてアフピルも実は栄養剤。ボテ腹になった頃に妊婦系ハメ撮り動画撮って売り捌くんや。フゥ〜ッ! ウチ自分の才能が恐ろしいわ。おニューのAV会社建てて銭金ぜにきんガッポガッポやで」

「そのバイブ使って自分のおま◯こガッポガッポしてたらあ? もちろんちゃんと撮影してXV◯de◯sかS◯nkB◯nにでも投げてあげるから安心して良いよお。どっちも無料サイトだからリーズナブルだねえ」

「おっし戦争や。最近死人出て無かってんけど今回久々に死人出るで。死に役はもろちんお前や。死体の腹から子宮だけ抉り取って生オ◯ホに加工したるけえ咽び泣けや」

「二日もすれば腐るよお。冷蔵庫に入れておいても一回使ったら体温で腐り始めるよお。そのおま◯こ死んでるから濡れないしい、中も一切動かないからただ腐敗臭がするだけのオ◯ホになるよお。TE◯GAの方が絶対良いよお」

「使い終わった後洗うの忘れたオ◯ホみたいやな。何や最近コバエ多い────うわこれか臭っさ! みたいな」

 ………なあみんな、二人がした最初の話題が何だったか覚えてるか? Sch◯ol D◯ysの話題からちくきゅうの話題に飛んで子宮抉り取るとか言い出してるんだぜ? かと思えば賢者タイムに負けて洗わず放置したオナホの話だ。

 あれ、おかしいな。僕の知ってる女子トークと全然違うぞ。僕の知ってる女子はこんな内容のトークしないぞ。

 僕は一体ここで何をしてるんだ。



 水場を求めて迷子になり始めていた僕らが「もうあかん。ウチらは遭難するんや。村のど真ん中で遭難するんや。ダーウィン賞に届かない絶妙な馬鹿さ加減で歴史に名を刻むんや」だの「もう駄目だあお終いだあ、アダムとイブになるしかないよお。うええんタクトくうん、ぼくにも中出しして赤ちゃん沢山サッカーチームう」だのと意味不明な事を騒ぎ始めた頃、僕の肩にぽんと手を当てられる感覚があった。

 救いの手かと振り向けば、そこには相変わらず色素沈着でくすんだ乳首を隠しもしない襦袢一枚だけを羽織った玉藻さんが凛々しい目付きをしながら「おう小童。よう寝れたか」と僕に声を掛けて来た。

「昨晩あれだけお楽しみじゃったというに、何を朝っぱらからお代わりお騒ぎしとるんじゃ」

「───た、玉藻さん…………っ!」

 その姿はまさに救いの女神。中身が妖怪であっても関係無い。昨日は怪しく感じた玉藻さんの切れ長な目元が今はこんなにも頼もしく感じる。

 思わず抱き着いて泣き出そうとした僕は、しかし直前になって玉藻さんが身重の妊婦である事を思い出す。しかし傾けた体は止められず、光よりも遥かに垂れ気味な大きなその胸に向かって抱き着いてしまった。

「………何じゃ小童、盛りでも付いたか? 妾の乳でも飲みとうなったか?」

「あ──いゃ、ごめっ、あっちが───」

 その姿はまさに陰キャ。レジに商品を持って行ったきり完全に気を抜いていた陰キャが店員さんに「お箸は何膳要りますか?」と聞かれた時の陰キャそのもの。半ばパニック気味になった僕に、けれど玉藻さんはいきなり胸元に抱き着いて来た僕に対して怒るような事はせず「……ふむ」と唸りながら小首を傾げ、金色の耳を周囲に向けてピコピコと動かすだけで何もしない。

 しかし僕は気が気では無かった。冷静に考えればすぐに分かる話なのだが、子供は一人では作れない。この玉藻さんが本当に玉藻前であるとするなら相当プライドが高い女性であるはずで、その辺の獣人族に股を開くとは到底思えない。

 であれば玉藻さんの大きなお腹の中の子は一体誰の種で作られたのかという疑問が浮かぶのだが───、

「………んふ」

 妖艶に微笑みながら鼻を鳴らす玉藻さんに、僕は冷や汗が止まらなかった。その笑みは慈悲や情に溢れるようなものでは無く途轍とてつも無いまで程に悪い顔。

 ………何となく美人局つつもたせだと分かっていながらも結局ヤッちゃう馬鹿な男の気持ちが今なら少しだけ分かった気がした。絶対さっさと離れた方が良いと思っていながらも、けれど僕の手はふかふかの玉藻さんの両胸にあてがわれたまま磁石のようにくっ付いて離れないでいた。僕は決してチチスキーノ・ボインカミングでは無いつもりだったが、しかしいざふかふかの巨乳に触れてみればニチャっとした顔で鼻の下を伸ばしながら「良いんじゃない? うん、僕は否定しないよ。個人の自由だよね」とか言い出してしまいそうになる。

「おやおや……おいたがしたくなったか? 腹にやや子を抱えておる余所の女に、悪戯しとうなったかのか? ………んふふ。悪い子じゃの」

 白魚のような綺麗な指先で僕の顔を抱き寄せた玉藻さんは、吐息のような掠れた声で僕の耳元に囁き掛ける。

 そんな事は無いと言いたかった。わざとでは無いからすぐに謝って離れたかった。

 だけど体が動かない。玉藻さんの声が鼓膜を響かせ頭蓋の中を反射する度、僕の股間の先端にぎゅわぎゅわと血が集まるのが感じられる。

「……………おいた、するかや? 妾の狐火を使って、気持ちの良い火遊びでもするかや?」

 僕の頬を離れた玉藻さんの手がするりと僕のズボンと下着の裾を通り越し、僕の素肌に触れてくる。恐らく中指と薬指だが、動きは弱い。

 そこじゃないと言いたかった。そんなに焦らさないで欲しいと駄々を捏ねたかった。溢れ出た先走りをローションのように使って、乱雑に先端を扱いてイかせて欲しいと喚きたかった。

 けれど僕は呆然と口を半開きにしたまま小さく震える事しか出来ず、玉藻さんの両胸にあてがわれている僕の手も石化したかのように動かせない。

 …………おかしい。何かがおかしい。確かに玉藻さんは魅力的な女性だが、けれど僕はこの女性にこんなに惚れ込んではいないはずだ。見えているのに見えていない。前が。顔が。顔? これは何だ。顔だ。顔。玉藻さんの顔。

 何かがおかしい。何かがおかしい。けれど何がおかしいのか考えようとすると、頭がじりじりと痺れるような感じがして考えが纏まらなくなる。言い様の無い面倒臭さのような感覚に思考を邪魔され、痴漢でもされる学生のように小さく震える事しか出来なくなって泣き出したい衝動に駆られる。

「出したいか? 出したいのう。白くて気持ちの良いもの、いっぱい出したいのう。妾も出して欲しいぞ。妾の中に、妾のやや子に、白いのたんと浴びせてくりゃれ」

 耳元から離れた玉藻さんの顔が間近に迫り、艶やかなその唇が僕の口元に触れる。しかしそれはキスと言うには程遠く、玉藻さんの唇は僕の下唇だけに触れてちゅっちゅと優しく吸い付いて─────、

「そこまでにしておきなよお、女狐さあん」

「──────っ!?」

 風の音すら聞こえなくなっていた僕の耳に聞き慣れた声が入り込む。僕の体がビクンと痙攣し、玉藻さんの胸元に触れていた僕の手が動かせるようになった。……手だけでは無い、半開きだった口も動かせるようになり、そこに来て玉藻さんが僕に何を仕掛けようとしていたのかを理解した。


 これが魅了チャームか。


 なるほど。僕は今、この女性に取り殺されそうになっていた訳か。

 そんな兆候何も無かったのに、気が付く間も無く脳に入り込まれてしまっていた。エロ本やエロ絵にあるような『如何にも魅了チャーム掛けます』みたいな仕草は何一つ無かったが、それもそのはず。あれは漫画的演出、戦場で刀を振るう侍が面だの胴だの小手だのとわざわざ宣言しないように、獣にとって狩りは娯楽では無い。獲物を狙う際に足音を立てて近付く獣は居ないのだ。


 ………そう、この女性は今狩りを行おうとしていた。


 この女性にとって、僕のような人間ヒトは獲物の一匹でしか無いのだ。


 言い様の無い危機を感じた僕が即座にその場から飛び退けば、ポルカに呼び止められた玉藻さんは悪戯っぽく微笑み「おや」と言って口元に指先を持っていくと、何かに濡れてぬちぬちと糸を引くその指先を真っ赤な舌で舐め回す。その姿は先程感じた妖艶なものでは無く、誰がどう見ても悪女───傾国そのものだった。

「昨晩あれだけはしゃいでおったのだ。妾にも味見の一つぐらいはさせよ」

 不貞腐れたように言う玉藻さんが三日月のように口角を吊り上げると、僕を守るようにポルカが擦り寄ってくる。玉藻さんから直前にされたように僕の頬を挟んで寄せたポルカは、やはり直前にされたように僕の下唇をちゅっちゅと優しく吸い始める。

「お口直しだよお。これでもうばっちくないねえ」

「おやおや、酷い言われようじゃのう。誰もが求める妾の唇をばっちいなどとは。雄にも雌にもなれなんだ出来損ない風情が言うでくれるではないか」

「単為生殖出来る生き物がどれだけ生物的に優れてるか分かってない感じかなあ? 生物の本懐は繁殖なのにオスメス揃わないと繁殖出来ない君たちの方がぼく的には出来損ないに見えるんだけどさあ、生まれ変わったら貝になりたいって言うぐらいだしサクッと死んで雌雄同体ふたなりに生まれ変わってみたらあ?」

「んふふ、よう口の回る出来損ないじゃの。じゃが知識が足りておらんな。妾のような存在に雌雄の概念は希薄ぞ。雌が居れば種を注ぎ求められれば子を孕む。それが妾のようなあやしぞ」

「うわあ本当に雌雄同体なんだあ。気付いてるう? お股にごんぶとブーメラン刺さってるんだけどお、ぼくも雌雄同体だけど流石にそんなおっきなブーメラン挿入はいらないなあ。そんなガバマンじゃあタクトくん気持ち良くなれないんじゃなあい? そんなの土管とヤッてるようなもんじゃんねえ」

「………………んふふ」

「………………うふふ」

 火花が飛び散る音がする。大きなお腹を撫でる玉藻さんがただならぬ空気を発し始め、しかしどれほど肝が座っているればそうなるのかルカ=ポルカも一切譲らない。……いや譲らない所か自ら進んで煽り倒し、グイグイと力強く押し通ろうとしているまである。

 …………光と煽り合いをしている時もそうなのだが、どうしてポルカはこんなにも強気に攻められるのだろうか。意外と毒舌だし頭の回転も早い。玉藻さんもそうだしどこぞのサキュバス魔王さんもそうだが、この世界に居る女性は何でこうも侮れないのだろうか。


 ………と、そこでふと思い出す。気の抜けたヘラヘラとした笑顔やマニア好みする垂れ気味な爆乳に反し、人間の枠を容易に飛び越える最も侮れない女の事を。


 そうだ、光だ。


 僕が玉藻さんに魅了チャームを掛けられた際、僕の勝手なイメージではまず真っ先に光が割って入りそうな感じがしたのだが、意外な事に僕を助けたのはポルカだった。

 火花か或い紫電か何か。互いの目線をバチバチとぶつけ合うポルカと玉藻さんから目を離して光を見やると、光は腕を組みながら「んーむ」と何やら唸っており、かと思えば「……うん、せやな」と何かに同意して納得すると、玉藻さんに向かってぶっきらぼうな口調で「おうイヌ科、良う聞け」と呼び掛ける。


「お前今日から金玉な」


「「「は?」」」

 橘光という女が周囲の空気や雰囲気を一切読まないの民である事はだいぶ分かって来たつもりでいたが、まだまだ精進が足りないようだ。

 バチバチと鳴らしていた火花を止めて呆然とするポルカと玉藻さんから奇異の視線を向けられた光は「うん。やっぱ金玉が一番しっくり来るで」と満足げに頷く。そんな光にそれまで大人しくしていたラムネが「たまたま? ちんちんは?」と問い掛けると、光は間髪入れずに「飛んでった」と答える。

「おー……とんでったかー……ちんちんとんでった………おー………」

 何か思う所があるのだろうか。妙な執着を見せつつ唸るラムネをそっと抱き寄せた僕が「つまり、どういう事だってばよ」と疑問を口にすると、光は「こいつの名前や」と答えになっていない答えを返した。

「いやこいつ九尾の狐やろ? けど九尾の玉藻前ってあれこれ説があって結局意味不明やん。ウチが留置所入っとった時に読んだ『玉藻の草子』じゃ九尾やのうて二尾やった気いするし、中国ん妲己と同一視されとったり天竺で夫人やっとったり中国お代わりして后やっとったり、果ては水着姿でみこーんとか言うとるぐらいやん。そう考えるとこいつの素性ってマジで意味不明やんさ」

 文句ありげな声色でぶー垂れるようにそう言う光に、僕は「まあ……そうだな」と小さく同意する。

 実際、玉藻御前という存在は歴史の上にこそ確かに確立されているものの起源に関してはあやふやな記述が非常に多い。

 いわゆる神話、伝承の一つだから民草の間を渡り歩く内に大量の尾ひれの背びれの腹びれのが付くのはどうしようも無い。何なら現代ですらとなりのト◯ロと死神が同一視されるような都市伝説があるぐらいなのだから、その手の面白可笑しい独自解釈による脚色というものは人間ヒト人間ヒトである限り消せないものなのだろう。

 ………玉藻の前が様々な事柄と紐付けられる理由は恐らく九尾の狐であるという話が関係しているのではないかと僕は思う。

 九尾の狐の伝承、伝説は日本だけで無く中国、インド、朝鮮、ベトナム等の様々なアジア地域に広まっている。そしてその話はどれも共通して『九尾の狐が美女に化けて権力者を魅了する』というもの。

 手口の同じ犯罪が起きたら同一犯の可能性を疑うのと同じように、美女に化けて男を魅了するという同じやり口が共通しているのであれば、その都度その都度名前を変えた同一犯ではないかと疑われるのも当然の話。

 時には妲己を名乗り、時には妃華陽を名乗り、時には褒姒を名乗り、時には空を飛べるという設定があるはずなのに何故か船に乗って日本に渡り玉藻前を名乗っている存在が全て同一人物であるとされても、手口もやり口も同じなのだから仕方が無い事だろう。

「そんなやとどの名前で呼びゃあええんか分からんち◯ぽやん。せやからどれにも共通しとるあだ名をウチが一個付けたる買って思てん」

「……それが、金玉だと……?」

「うん。ぴったし的ぉ射とると思うねん。むっちゃ自信ある」

「……えーっと…………金玉、の……由来をさ、聞いても良いか? ちょっと僕には理解が出来なくて……」

「いやこいつ九尾の狐やろ? 白面金毛九尾の玉藻前。やから『金』毛九尾の『玉』藻前で金玉」

 ケロッとした何の気無い顔で「ドンピシャやん、的ぉ射抜きまくっとるやろ」と言ってのける光に、当の玉藻さんはおろか僕もポルカも言葉を失う。

 やがて自分がどれほどの侮辱を受けたのかを理解した玉藻さんが額に青筋を浮かべると、光は玉藻さん口を開くより早く吐き捨てるように「ウチぁ知っとるで」と口を開いた。

「九尾の狐が共通して女に化けたがるんは人間にんげんが『そういうもの』って思っとるからや。もし人間が『九尾の狐は羽根が生えてる』って思うようなったら、お前は徐々に羽根ぇ生えてくるねん」

 細めた目で玉藻さんを流し見ながら指をくるくると回す光は「お前らってそういうもん・・やからな」と続けていく。

「毎日アブラーゲニチーズハサンダーノ食いまくったら腹に肉付くし、毎日納豆ばっか食っとったら血液さらさらなんねん。それとおんなじ、お前らが食うとるんは人間にんげんの想像力やろ。悪い妖怪って思われたらガンガン悪さするようなるし、時代の流れで解釈が変わってきゃあそれに合わせて善に傾く事もある。お前の意思なんざ関係無く、気付かん内に勝手にそうなってまうねん。お前らってそういうもん・・やからな」

 くるくると回していた指先をぴたりと止めた光は、その指をゆっくりと玉藻さんの股間に向けていく。そして「腹ぁ括れよ?」と言いながらしたり顔で微笑んだ。

「あんまし図に乗るようなら、獣人の森にぁ金玉って呼ばれる女がるって言い回ったるで。半年もすればお前はお前が気付かん内に金玉ぶら下げるようなるし、玉だけある女やと違和感あるから帳尻合わせでち◯ぽも生えてくる。そんでお前自身らそれに違和感も持たん。持てん。持ちようが無いんよな」

「────────」

「一年経ちゃあ団三郎がスッパで逃げ出すデカ玉ぶら下げるようなるやろ。噂が噂を呼んで、歩くだけで金玉ずりずり引きずるようなデカ玉ふたなり女があん森には居るって言われるようなるんや」

「──────貴様」

「心配しいなや、ちゃんと「あいつ歩くだけで金玉擦ってびゅるびゅる射精しよるでーウチ見たもん」ってみんなに注釈したるけえ。マニア好みするようデカ玉の割に実は超粗チンって設定も付け加えたる。したら人気出るやろし、アジア圏だけやのうて世界中に金玉伝説が広まる。信仰得まくったら惑星サイズの金玉も夢や無いで」

「──────貴様……ッ!」

 嘲り笑う光の言葉に玉藻さんが牙を剥く。艶やかな唇から覗く鋭い犬歯がギリギリと軋む音が聞こえた。ポルカと言い合っていた時とは比にならない程の怒りに満ちた玉藻さんを見て、光は低い声色でゆっくりと先程と同じ言葉を繰り返した。

「腹ぁ括れよ? 例えウチがお前を殺せんとしても、そんでもウチはいつでもお前の尊厳殺せるねん。お前らは人間にんげんにゃあ勝てんよう出来とるって八俣大蛇やまたのおろち酒呑童子しゅてんどうじも命賭けて証明しとったやろがい。日本人萌え大国の手に掛かりゃあゼウスやオーディンにも実はスケベ親父やったって設定が付くし、キリストとブッダが下町のボロアパートで節約しながらブログ書いて暮らすねん。ち◯こ付いとってもそんななんやから、お前みたいま◯こ持っとるやつなんざ秒よ」

 そこまで言った光は鼻歌でも歌うようなノリで「それはそうとー」と言いながら僕に向き直ると、呆然としたままの僕の両脇にその手を通して抱き寄せる。

 背中と腰に手のひらをぺったりと当てながら抱き着いてきた光は、そのまま目を閉じ僕の下唇に小さくちゅっちゅと吸い付いてくる。

 やがて満足した光は少しだけ照れ臭そうに「んへへぇ」と微笑みながらも、しかし僕に抱き着いたままで離れようとはしない。大きな胸を支えるブラジャーの硬いカップの感触はあるのに、不思議とお腹が触れ合う感触が無い。大きい胸を持つ人と真正面から抱き合うとこんなにも不思議な感覚がするのだろうか。

「ばっちいの二匹にばっちい事されてもたからな。お口直しでウチをどーぞ」

 照れながら笑う光が、ゆっくりと目を閉じ僕に口付けをする。それは二人にされたものとは違う純然たるキス。唇の隙間を通り抜けてぬるりと入って来た光の舌がおずおずと機嫌でも伺うかのように、僕の舌先にちょんちょんと触れてくる。

 気が強いようで気の弱い女の子。豪気なようで内気な女の子。

 おちゃらけているようでいて、………こんなにも頼りになる女の子お前を、僕が突っねる訳が無いだろうに。

 怖がりながらも僕に触れたがる光に舌を絡めると、光は少しだけ驚いたように体を竦ませる。しかしすぐに僕の背に回している手にぎゅっと力を込めると、とろとろと溶けてしまいそうな程に柔らかい舌を絡めて来る。

「………は、っ………んむ、………んゅぁ。はぇ────あふ」

 もじもじと切なげに体をくねらせる光の後頭部に手を回して優しく撫でる。寝る子をあやす時のようにぽんぽんと優しく金髪を撫でると、光は安心し切ったように手指に込めていた力を抜く。

 ………付き合ってあげる事は出来ない。これ程までに愛を受けていながらも、僕は光の想いに応じてあげる事は出来ない。それはお互い承知の上。

 けれど光の想いに報いる事は出来る。世話になってばかりなのだ、命を救われる事さえあるのだ。このぐらいの恩返しはしてあげるべきでは無いだろうか。

「…………あぇ……んぁ……あぅ、んむ…………。へぁぁ………ひぁわへぇ………」

 唾液の絡み合う音を可能な限り鳴らさずに、僕は光の柔らかな舌に吸い付いた。



 ──────



「…………何でこんなピリピリしておるんじゃ?」

 怪訝そうな声色の村長は、ぶっとい小首を傾げてそう言った。その言葉にポルカと玉藻さんがしていた貧乏揺すりの速度が増すと、その揺れでテーブルの上に置いてあったコップがカタカタと揺れる。

 …………苛立ったり暇だったりというタイミングでついついしてしまう事が多いという貧乏揺すりだが、正直僕は貧乏揺すりをする人は好きでは無い。ついやってしまう気持ちは良く分かるが、それは一人の時にして貰いたい。第三者と居る時に貧乏揺すりをされればテーブルだけでは無く床からもこちらに揺れや振動が伝わって来て、こっちの気まで逸れてイライラしてしまうのだ。

「のう、何でそんな機嫌悪いんじゃお玉。何があ────」

「その名で呼ぶな呼ぶな噛み殺すぞッ!」

「びぃぁごめんなさいっ!」

 唐突にブチ切れる玉藻さんに村長が頭を抱えてしゃがみ込むと、大きな体を精一杯小さく縮めながら膝歩きでよちよちとこちらに向かって来る。………しかし何が起こったのかを全く知らない村長は、よりにもよって玉藻さんと等速で貧乏揺すりをするポルカに向かって進行していく。

「……のう、お主もご機げ────」

「チッ!」

「びっひぃごめんなさいっ!」

 舌先を吸って鳴らすガチの舌打ち。不機嫌を隠しもしないポルカのそれに情けない悲鳴を繰り返した村長は、見ているこっちが哀れに思えて来る程のヘタレ顔をしながら僕に救いの眼差しを向ける。二回声を掛けてキレられたからか、三度目の僕には目線こそ向けれど声を掛ける勇気は出なかったようだ。

「……………えーと」

 ちらちらと救いを求める目線に、しかしどう言ったものかと考えを巡らせる。間違っても「そこの人妻さんにちんちん撫で撫でされましてえ」とか言える勇気の無かった僕は「まあ、その」と少し言葉を濁らせる。

「………口喧嘩して、言い負けて……険悪になった所を光……こいつに漁夫の利されて────」

「「はぁぁぁぁぁ────────クソがよおッ」」

 村長に説明している途中、ポルカと玉藻さんが天井を仰ぎながらデカい溜息を吐く。吐き捨てた言葉さえ同じだった辺り思う所も同じなのだろう。

 でも玉藻さんの苛立ちは自業自得感がある。先にラッキースケベしてしまったのは僕かもしれないが、それを好機とおいたをしようとした所を咎められ、その後の口喧嘩すら論破されてしまったのだ。こ

 だがポルカまで苛立つとは思わなかった………いや、それはちょっとポルカに失礼か。好き好きとアピールしている相手が目の前で別の相手とベロチューしやがったら僕だって同じぐらいはイライラすると思うし、貧乏揺すりはしないけど「当て付けかお前」と吐き捨てるぐらいはするだろう。自分にもその可能性があるのであれば、誰かのそれを批難するような事は愚かな行為になってしまう。

「………………」

 苛立ちのような不思議な感覚の矛先を失った僕がちらりと目線を向けると、僕の視線に気が付いた橘光は「……ん?」と小首を傾げる。そして何かを悟ったように「……なるほどな、分かった」と呟く。

「ちゅーしたいんやな。ええよ。エロビデオみたいなんとちゃう静かなちゅーなんに、何故かいやにエロく見えるねちっこいちゅーしよ。ウチと一緒にナメクジの交尾みたいなねちっこいちゅーしよ」

 ふにゃっと表情を崩した光が蕩けるような甘ったるい声色をしながら僕ににじり寄って来る。周囲から聞こえてくる「ワッダヘルッ!」「ノッテンガムッ!」とかいう口汚い言葉に背筋がゾクッとした僕は光の顔面にアイアンクローをするようにしながら「ナメクジ食って寄生虫だらけになるのは御免だ」と言って押さえ付ける。

「──────うおっ!?」

 しかし光は僕の手をグイッと押し退け、まさしくナメクジのようにぬめぬめと接近して来る。その力の強さに腕を振るおうとしたものの、脳のリミッターと共に人並みも外れたその怪力に僕は腕は微動だにしなかった。

「ナメクジってちゃんと処理すりゃ食えるんよ。冷凍保存して、塩揉みしてクソほど洗って、加熱処理して、内臓取って、念の為もっかい加熱して天ぷらにでもすりゃ食えるんよ。どっかのホ◯サピが動画で食っとった。真似する勇気は出えへんかったけどな。ヤるなら自己責任、赤ちゃん作ったら認知ぐらはいしてちょーよ」

 夜間の猫のように瞳をまんまるに開いた光が大きな胸を僕に押し付ける。開かれた瞳を怪しく淫靡に細めながら、桃色の舌でその唇をぺろっと舐め回す。

 ………もしかしなくても、光と抱き合ったのは間違いだったのかもしれない。あの時の僕は光を傷付けてでも想いを拒否するべきだったのかもしれない。

 けれどそんな悲しい事、僕に出来る訳が無かった。臆病な僕に断れる訳が無かった。

 であればこれは報いなのだろう。断る事が出来なかった僕への報い。信じる者しか救わない器の小さな神様とやらが下した試練の一つ。


 ならば───


「………一回ヤッたぐらいで彼女面すんな馬鹿女」


 ───僕はその試練を乗り越えるッ!

 例えクソ野郎みたいな台詞を口にする事になったとしても、それでも僕はこの壁を乗り越えてみせるッ! 

 別にクソ野郎でも良いじゃないか。「好きな女性が居る」とか言っときながら別の女二人とハメ狂っていたのだ、どうせ既にクソ野郎だ。

 ならば何を恐れる事がある。童貞を捨てた僕に敵は居ない。

 怯えるな、竦むな、生まれ持ったちんちんの性能を活かせぬまま死ぬんじゃない。

 そんな訳で、う〜ま◯こま◯こ。今ま◯こを探して急いでいる僕は異世界に転生したごく一般的な自殺者。強いて違うところを挙げるとすれば、ちょっと押しに弱いとこかナー。名前は槍珍屑男やりちんくずお、どうぞよろしく。


「────良く言ったねえッ! 流石はぼくのタクトくんだあッ!」


「いや僕は僕のものだから。あと僕今日から槍珍屑男に改名するからよろしく。来週もまた観てくれよな」

「ほんまに屑男やん。あんだけしこたまヤッたんにごっつ酷い言い草やん。どっかの異種族の風俗アニメみたく二話で放送中止にしたるぞお前、一話以降もう二度としこしこたまたましたらんぞ」

「それはぼくがするよおっ! だからお前は要らないっ! ぼくがタクトくんにしこたましこしこたまたまするから何も心配要らないよおっ! それはそうと凄い噛みそうっ! でも言えたよ褒めてえタクトくうんっ!」

「タクト? 誰の事言ってますか? 僕ですか? いえ僕は槍珍屑男って言います。どうぞ皆さんよろチクニーでドライア◯メ」

「安心して良いんだよおタクトくうんっ! ぼくがタクトくんの乳首をコーヒー豆みたいになるまで可愛がってあげるからねえっ! お婆ちゃんの胸元にある切っていないたくわんみたいな垂れ乳その遥か向こうの新世界っ! まるでレーズンみたいなそれより黒く色素沈着するまでしこたまこりこりしてあげるから何も心配要らないよおっ!」

「砂糖の代わりに甘いキスしてミルクの代わりに精液ぶっ掛けってか? ほんまに言うとんかお前、そのノリで行ったらカフェモカ作るんにゃチョコ必要やぞ。スカトロは立派な特殊性癖やけえ早よカウンセリング行ってい」

「そもそもそんなに乳首責めされたら僕の乳首タイ米みたいに伸びちゃう。せめて老犬の乳首ぐらいに留めておいて。長乳首も嫌いじゃないけどやっぱりテンプレ乳首が実家のような安心感」

「言いよるではないか小童。妾の胸に何か思う所でもあるのか?」

「あっは〜クソ面倒臭えの混ざって来よった〜。お前ずっと黙っとったやんに今更来んなや」

「へへへっ、こいつは負けてられないぜ。よしラムネ、おいで。なでなでしたげる。ラムネのぽよぽよぱいぱいで世界取ろう。ニャンカスさんの可愛さ見せ付けてやろう」

「…………んぉ? なでるか? なでろ。げぼくさいきんあいがたりない。もっとなでろ」

「いや撫でるんはええけどタクト対抗しなんなや。金玉と張り合っても面倒い事にしかならんやろ転生……………いや何でウチがツッコミに回っとるねん、これタクトのポジションやん代われやツッコミ苦手やねん。ウチボケがええ」

「タクト? 誰ですそれ。僕の名前は槍珍屑男。どうぞ皆さん……………えーと、あー。どうぞ、どうぞ………あー」

「語呂ええ台詞浮かばんなら黙っとりゃあね。先にええ売り文句考えてから発言しいよ。考え無しかい」

「だって浮かぶ前に流れが来たんだから乗るしか無いだろこのビッグウェーブ」

「どうでも良いのじゃが、妾的には同じような挨拶を流用するのはどうかと思うのう。何か他に小洒落た挨拶は無いのか?」

「無いんだなそれが」

「どこの栃木のリーゼントやねんそれ。なっつ。あいつ今公務員なったって聞いてんけど摩訶摩訶まかまかほんまかって感じや」

「栃木なら妾の死た───毒石の破片があるぞ。今は殺生石と呼ばれとったはずじゃ」

「今死体って言うたやろお前」

「はいはあい。挨拶ならぼくに良い案があるよお。某巨大動画投稿サイトの投稿者みたいなフランクな感じにしたら良いと思うなあ。そうすれば同じような挨拶続きでも定着して人気になるんじゃないかなあ」


「はいやっほー。みんな観ておるかー? ばぁちゃるゆーち◯ーばぁ、タマモ・ノマエじゃよー」


「やめえやVの首領ドンに喧嘩売ったら殺されるでよ。名前んイントネーション完全にパクりやん、わざわざ中点入れんなや。スリープ解除してぶん殴りに来よってもウチ知らんで」

「いかんか? 気が付いたらびっぐになっておったのじゃろりおじさんよりは無難な気がしたんじゃがな」

「狐耳が共通してるしあっちパクったらアウトな気はするねえ、言い逃れ出来る未来は見えないなあ」

「ここはあれだな。僕がデケえ声でおはよおおおおおって叫んどけば良いんじゃないか? イヤホンやスピーカーのドライバぶち割ったついでに視聴者の鼓膜もぶち割ろう」

「どっちゃにしろアウトやねんタクトはパクりから離れろや。インスパイア的なのあってモチーフにするんはええけどしっかりオリジナリティ出してけや。完パクはアホの所業やぞ。自分考える頭ありませーん言うとるんと何も変わらんでよ」

「ならばあれじゃな、そこの猫を使おう。人類を滅ぼすのが目的の魔王の割に地震や台風の時に人類を心配した僕っ子悪魔でびるのようにするんじゃ。それならそこの猫が適任じゃろうし、似たようなこんせぷとという事で誤魔化せる。…………おお流石は妾、今日も冴え渡っとるな」

「申し訳無いがラムネは普段から殆ど喋らないから動画にならん。仮に動画にしてもラムネがふすふす言いながら寝てるだけだ。………………それはそれで需要ありそう。ラムネ可愛いもんなー。愛くるしくて仕方が無いなー。超可愛いなー愛おしくて仕方が無いなー」

「いいからはやくなでろ。ばかげぼくつかえないな。いっつもそうだな。おれがいないと、げぼくなんにもできないな。げぼくにごうがいってたぞ、そういうのぽんこつっていうんだぞ。わかったらはやくなでろばかげぼく」

「このブス猫シバきたくて仕方が無え」

「というかそもそもあの悪魔は駄目だよお。ぼくっ娘枠はぼくが居るもん。キャラ被りになっちゃうよお」

「被っとるねん。もう既にクソ程ぼくっ子被っとるねん。文字での表記変えればええとか思っとるなよカス。音にしたら全部ぼく僕ボクで頭おかしなるねん要らんわタコ」

「…………要らない、のか。………そうだよな。何の役にも立ってないやつなんて要らないよな」

「えっあっ、いやっちゃ────」

「ああー! タクトくんの目が濁ったあ! 結構ガチでドス黒く濁ったあ! ハイライト消すだけじゃこんなに黒く濁らないよお痛恨の一撃が入っちゃったあ! 某地下迷宮を魔女の旅団が探索するゲームだったらクリティカルゴアで脳天吹き飛ばされて即死してる感じだよお! …………あのゲームもっかいやりたいなあ。ぼくあれの鬱々とした世界観大好きだったんだよねえ、新作出ないかなあ」

「なんぞ知らんが気持ちの良い瞳になったな、妲己ちゃん名乗っておった時に殺しまくった連中も似たような目をしておったぞ。………うわあ懐かしいのう、あの頃に戻りたいのう」

「………………よくよく考えてみればそうだよな。ルーナティアに呼び出されてした事と言えばセックスとオ◯ニーとラムネの背中にしがみついてるだけだもんな。戦争も本格化しそうな雰囲気出して来てるし、良い加減僕みたいなやつは要らねえか。………ああ、また僕って言っちゃったな。ははは、聞き苦しいよな。もう黙る事にするよ」


「ちゃっ待────ちゃうっ! ちゃうよっ! タクト要るっ! 大事っ! タクト大事やからっ! ごめっごめんなっ! タクトが居らんとウチやる気出えへんからっ! ごめんなっ! もう一人称馬鹿にせえへんからっ! タクトごめんっ! 喋ってっ! ウチタクトの声大好きやねんから喋ってっ! いっぱい喋ってっ!」


「タクト? タクトって誰です? 僕の名前は槍珍屑男。どうぞよろティクビーでワナビーWannabeイェア」


「うっわこいつマジほんまか。クッソ腹立つわこいつガチでぶっ殺したいんやけどウチどうしたらええかな。こいつとズコバコしてたって思うとごっつ腹立つ。この矛先仕舞いたくないねんけどマジでこの屑男ぶっ殺してええか?」

「ボ◯カレーが茹だるのを待つ大塚◯夫さんみたいにじっと我慢の子になるしか無いんじゃないかなあ。その時はぼくが杉◯智和さんの役やるねえ」

「カプ◯ン繋がりでモ◯ハンとコラボするまでは良かったけど何故かグラサン着けたマッチョの相棒と水着デートする任務がある名作中の迷作じゃないか。超懐かしいな、友達居なかったからソロでノーキルノーデス達成するまでやり込んだけどザド◯ノフ見付けられなくてガチ切れした記憶あるわ。あーぃらーびゅーとーどーいてーこのおーもいー」

「届けウチのこの想いッ! ラブミーテンダーキィッスッ!」

「ぐべぇあッ!」

「ああーッ! タクトくうーんッ! グーは駄目だよグーはあッ! タクトくんはじめ◯一歩のゲームみたいに首ねじ曲がってたよおっ! TASさんみたいに的確にグーパン決めるのは駄目だよおっ!」

「タクトが屑男になるならウチは愛の化身になる。次似たような事したらかにみそぉっ! って叫びながら脳天カチ割ったるわ」

「愛の化身の愛が重過ぎる気がするのう。余り重過ぎると理解を拒み憎しみに変わって何もかも嘘になってしまうぞ?」

「タクトくんが目から血い出して動かないよおっ! 絶唱したメインヒロインみたいに目から血い出して動かないよおっ! ちょっと酷過ぎる気がするよおっ! 死んじゃ駄目えっ! あの青い防人は生きてたんだからタクトくんも生きてえっ!」

「大丈夫やろ、今どうせギャグ時空や。何もかも嘘やろ」

「死ぬかと思った。所がどっこいでも生きてる。フゥ〜ッ! これが主人公補正ってやつだなっ! 勘弁してくれ普通に痛いっ!」

「うわあギャグオチだあっ! 最低だあっ!」

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