3-5話【狼と犬の間】
普段なら嫌気が差してしまうような長く長いエレベーターの旅は、地下に向かって降下ていたカーゴがゴトンと大きく揺れるのに合わせて終わりを迎える。到着時に上から体にのし掛かるような重量に小さな気持ち悪さを感じたニェーレ・シュテルン・イェーガーだったが、しかし開いた扉から足を出し黒いパンプスで堅く不動の地面を踏んだ瞬間そんな気持ちの悪さはどこかへ吹き飛んで行った。
パンプスが床と当たるコツコツという音が金属製の廊下に響いて反響する………ニェーレはこの靴音がとても好きだった。ゆったりとした
やがて声紋認証と網膜認証の混在型ロックの前に辿り着いたニェーレはその画面の隣に両手を貼り付けたかと思うと「ふ──っんぬぐぐ……」と必死に体を伸ばし、爪先スレスレで床に立つ。何とかして網膜認証の範囲内に顔を合わせる事に成功した身長百センチの女は、少しだけ深呼吸してから声を発した。
「ニェーレ・シュテルン・イェーガーです。忘れ物がありましたので渡しに来ました。開けて下さい」
ニェーレはプライドが高い訳では無いが、その余りにも低い身長は自身にとって大きなコンプレックスの一つである。しかし宰相同然の立場である関係上、必死こいて爪先で立ちながらぷるぷる震えてるだなんて醜態を誰かの前に晒す訳にもいかず、間違っても壁に両手を押し付けて転ばないようにしている姿など見せる事なんて許されないニェーレは、一部の例外を除いて地下区画へは必ず一人でやって来ていた。
ゲートのロック解除に成功したニェーレは背伸びしていた体を元に戻し、ズレた衣服を整える。すると直後にゲートが開かれ、中からルーニャレット・ルーナロッカがその姿を現した。
「は、はい……はぁ……ど、ど、どうか……はぁ……しましたか………ふぅ」
しかしルーニャレットは息も絶え絶えと言って差し支えない程に呼吸が荒れており、足に至っては変に内股に曲がって震えている。壁に手をやり体を支えるその姿は、誰がどう見ても何か異変が起こったと察せるだろう。
「申し訳無いのですが書類の渡し忘れがありました。極めて重要かつ
けれどニェーレはルーニャレットの異変には何も触れなかった。乱れ切った呼吸のまま「わか、わ、分かりました……」と返事をするルーニャレットに茶封筒を渡したニェーレは、そこで少しだけ黙り込む。
「…………? ど、ど、どうかしましたか? ほ、ほ、ほ、他に、何か………?」
そんな様子のニェーレを訝しむように見るルーニャレットを、ニェーレは無表情のままでじっくりと見詰める。そんなニェーレの様子に反射的に左手を動かしたルーニャレットはその手で顔の半分を隠した。
それを見たニェーレが「………いえ。言おうか悩んだ事があっただけですよ」と訂正すれば、ルーニャレットは顔を隠したままで「な、な、な、何かありましたか?」と小首を傾げる。
「いえ。……………博士と上手く行ったようで何よりですと言いたかっただけですよ」
「は、は、は、博士と……? い、い、一体、何の……」
「博士に想いを伝えれたのでしょう? ちゃんと気持ち良くなれましたか?」
「………? …………………────────ッはァァぇぇぇエエッ!?」
何の事か分からなかったルーニャレットが数秒黙って考え込み、やがてボッフゥンと冗談みたいな音が出そうな程顔を真っ赤にしながら悲鳴を上げた。
「いいいいいいいいえいえいえいえそそそそそんそんな事はありませんッ! わわわわわわわたしはしょんねぁるぉりょるろれぉぽぽぽぽっぴぃぃぃぃぃいいいいッ!」
吃って、噛んで、訳分かんなくなっちゃって誤魔化した。そんなルーニャレットを見たニェーレは「ふむ」と鼻を鳴らして小首を傾げると「最近ぺ……陛下が耳に出したいと仰りましてね」といきなり意味不明な事を喋り出した。
「耳に出したい、耳穴で先端を扱きたいと仰られて、その時出されたものの違和感が今でも残っているんでしょうね。上手く聞こえませんでした」
「はっ──ぇ、はぇっ?」
サンスベロニア帝国の国王であり現総帥の理解に苦しむような特殊性癖を暴露をされたルーニャレットは、まさしく理解に苦しみ困惑する。しかしルーニャレットのその様子を無視したニェーレは、努めて穏やかに喋り続けた。
「これは余談ですが、嘘は良く無いものだと私は思います」
「────ぇ?」
「嘘は良くありません。嘘が嘘である内はまだ良いです、相手が嘘だと気付かない内はまだマシです。自分に嘘を
「………………」
「嘘を吐いても許されるのは、相手がこの後すぐに死んでしまうと分かっている時だけです。それなら嘘は永遠にバレず、それは幸せな嘘へと昇華しますからね」
「………………はい」
「そして私はこの後すぐ死ぬような事はありません。であれば私が生きている限り、私に対して信頼を積み重ねましょう。どんな小さな嘘であっても、それはまるでジェンガのように指先一つで総てを崩してしまうのです。崩れたジェンガを一から積み直すのは面倒臭いですよ」
「………そうですね、わたしもそう思います」
不思議な事に一切吃らなくなったルーニャレットは、無表情のままで穏やかな声を返す。その様子を見たニェーレは成長していく子供を見ている気分になった。
────事が落ち着いたら子供を産みたい。あの人の子供を産んでみたい。
それはきっととても辛く、とても大変で、とても幸せな未来が待っているはずだから。
無意識に下腹部に手を当てたニェーレは「さて」と仕切り直す。
「では耳の調子も戻ったようですので、改めて問い直しましょう」
「はい」
「何回イけました?」
「へぁぁぁぁぁああああっはぁぁぁああああおおおおおおさっきの質問と全然違ううううう─────ッ」
両手で顔を覆い隠したルーニャレットがその場にしゃがみ込むと可愛げのあるぷりゅっという泡混じりの音が鉄の壁に反射して響き渡る。その音を聞いたルーニャレットは「許してぇぇぇ──ッ!」と再び叫ぶが、ニェーレは不機嫌そうな声色で「許す訳がありません」と無情に言い放った。
「小娘如きが小賢しくも私に嘘を吐いたんですから、おこですよおこ。何でしたっけ、えっと………激おこ? ですよ、私は」
嘘である。本当は少しも怒ってなんていない。しかし慌てふためくルーニャレットを見ていると、胸の奥底から嗜虐心のようなものが湧いてきていじめたくなってしまっただけである。
膝を突いてしゃがんだルーニャレットの顔に、ニェーレは腰を少しだけ曲げながら自らの手を伸ばす。そしてその口元にさっきからずっとあったそれを指先で抓むと、ニェーレはそれを持ちながら親指と人差し指を擦り合わせる。すると抓まれたそれはくるくると素早く回転しながら振り回される。
「………そ、そ、それは………?」
涙目になったルーニャレットが両手の隙間から顔を覗かせくるくると素早く回転するそれを見ると、ニェーレは動かしていた指の動きをピタリと止める。
「お口の横に付いていましたよ。これ、博士の陰毛でしょう?」
「ハァァァ────────────────」
吐息のような悲鳴か、或いは悲鳴のような吐息か。
口角に引っ掛かっていた縮れ毛を見せ付けられたルーニャレットは、声にならない声を発して俯いた。
その姿を見たニェーレは背筋がゾクゾクするような何かを感じた。誰にとも無く少しだけなら良いでしょうという言い訳を思い浮かべたニェーレは、縮れ毛を挟んだままの指先をルーニャレットの唇に押し付ける。ルーニャレットが「んむゅっ!?」と呻きながら頭を上げれば、穏やかに微笑んだニェーレがその顔を見詰めていた。
「嘘を吐いた罰です。舐めなさい」
「……へぁ? ───ぁぉんむっ!?」
困惑するルーニャレットが口を開いた隙を見逃さず、ニェーレは唇を押し退けて口内に指をねじ込んだ。
「大事な人の体から落ちたものです。良く舐めて、味わって、───しっかり飲み込んで差し上げなさい」
「ぉんっ、むぁ……ぇぉ……ん……」
まるで奴隷のように、言われるままそれを舐め、味わい、そしてこくりと喉を鳴らして嚥下した。
そんなルーニャレットを見て「このぐらいにしてあげますか」と呟いたニェーレは、反対の手でルーニャレットの頭をぽひぽひと撫でながら子供を叱りつけるように「次に嘘を吐いたらこの程度じゃ済みませんよ」と言い放つ。
「今度嘘を吐いたら博士に出して貰ったもの、全部私が掻き出してしまいますからね。失禁しても脱糞しても、泡を吹いても中が綺麗になるまで指で引っ掻き回すのをやめませんよ」
「へぁぃ……ご、ご、ごめんなさい……」
「……で、何回イキました?」
「もう許してぇぇぇぇええええええ─────」
ニェーレ・シュテルン・イェーガーは普段ペルチェ・シェパードの慰みもの状態になってはいるが、
ペルチェを前にした時ですら頻繁にその片鱗を魅せるぐらいには嗜虐心が強いニェーレは、早い話が結構なサディストである。
穏やかに微笑みながら「ほら早く言いなさい。でないと今からお股ほじほじしちゃいますよ。私別に相手の性別なんか気にしません、生物に変わりは無いですし」と言われるルーニャレットは、ここに来てその事実に気が付いた。
「それでは、必ず博士に書類を読ませて下さい。少なくとも今日中には、必ず」
ひとしきりルーニャレットで楽しんだニェーレがいつもの調子でそう締め括ると、ルーニャレットはどこか濁ったようにも思える声色で「わ、わ、わ、わ、分かりました」と答えた。
「では」
最後の最後にも何かまた言われるのではと警戒したルーニャレットだったが、もう既に頭が真面目モードにでも切り替わっているのかニェーレは何も言わずにさっさと踵を返して廊下の向こうに行ってしまう。そんなニェーレに、ルーニャレットも同じく背を向ければシュィィムと音を鳴らしながらゲートが閉じていく。
「おう。……ふっ、………ふっ、なんかめちゃくちゃ騒いでたな……ふっふっ……何かっ、ふっ……あったのか? ふっ……ふっ」
研究室に戻って来たルーニャレットにアダン・グラッドが声を荒くして声を掛ける。アダンは自作の加熱式タバコを吸い、書類を見ながら、鼻をふんふん鳴らしつつ、片手で握ったダンベルを上下に動かしていた。
「え、え、え、えっと…………あー」
ただでさえ直前に散々弄り倒されたのだ。それについて話すべきかどうか悩み、タバコの害に付いて言っておくべきか悩み、珍しく真面目な顔して書類を見ている事を指摘すべきか悩み、そのダンベル凄い大きいですねと言おうとして悩み、さあどれにするかという辺りでルーニャレットの思考回路は処理落ちをし始めてしまった。
「えー、あー、そ、そ、その……」
視線をあちらこちらへと彷徨わせながら悩み
「た、た、た、タバコ……そ、その、体にわ、わ、わ、わ、悪いですよ」
取り敢えずお茶を濁す方面で言葉を紡いだ。そんなルーニャレットの唐突なお叱りに「あぁ?」と唸ったアダンだったが、ルーニャレットはメンチを切るようなそのアダンに、しかし怯えるような事は決して無かった。
アダンが口にする「あぁ?」が一般人にとっての「なんですか?」に相当する言葉である事を、ルーニャレットは既に知っていたからだ。口を開いて、疑問の声色で喉を鳴らした結果あ行が出てくるというだけの話で、こういった声色をしている時のアダンは一切怒っていない。
「ひゃ、ひゃ、百害あって一利無しって、い、い、い、い、言うから」
そんなルーニャレットの言葉を聞いたアダンは手に持っていた書類とダンベルをデスクの上に置いたかと思うと、これみよがしに自作の加熱式タバコを深く吸い込む。ジュゥゥゥという肉が焼ける時のような音が鳴り、やがて顎をしゃくるように上を見たアダンはリキッドから吸入した大量の水蒸気を空中に向けて吐き出した。
「百害あって一利無し。良い言葉じゃねえか」
「で、で、ですよね。だから───」
「何つったか、三つあったよな。ルーニャレット女史の居た生前の世界の通貨。………ドル、ユーロ、円だったか。広く認知されてる通貨はその三つだって若え頃に聞いたが、今回は適当に……じゃあ円で換算して喋ってやるよ」
「え?」
再び自作の電子タバコを口に咥えたアダン・グラッドは、しかし今度は浅めに吸い俯くようにしながら水蒸気を床に向けて吐き出した。
「良くある紙タバコで換算するならオレぁ二日で一箱ペース。円で換算すりゃあ一箱五百円前後だから、禁煙して浮くタバコ代は一日およそ二百前後、一年で七万そこら。汚れた肺はどうせ死んでも戻らねえし、臭いは年齢的に加齢臭と
自作の加熱式タバコを深く吸い込み、緩やかに吐き出したアダン・グラッドはそれを白衣の胸ポケットに放り込んで立ち上がる。
そのままルーニャレットの元へと近づいて、ぽんと鳴らして頭に手を乗せワシワシと撫でて始めた。
「タバコの百害如きでくたばる程ヤワな鍛え方ぁして無えんでな。お前がシワシワのババアになるまで、百害だろうが千害だろうが全部オレが引き受けっから、お前は安心して一利を掴んで笑ってろ」
ぐりぐりと頭を撫でながら微笑むアダンは、しかし決して乱暴に撫でている訳では無く。むしろその大きな手や乱暴な言葉遣いに似つかわしくない、極めて優しい手付きだった。その優しさに甘え埋もれるようにルーニャレットが体を預けると、アダンは「それに何より」と言葉を繋ぐ。
「ルーニャレット女史ぁマジもんの臭いフェチだからな。オレのち◯この臭い嗅ぐだけでイッてたぐれえだから、オレがヤニ止めたらお前イケなくなるかもしれねえぞ?」
そんな下品な指摘に言葉を失ったルーニャレットは、しかし黙って照れているだけなのは何だか癪だったので必死にぽこすことアダンの腹を叩く。
そこそこ力を入れたつもりではあったが、しかしアダンは「ダハハハハ! 効かないねえ! マッチョだから!」と豪快に笑ってされるがままだった。
ステロイド剤に頼らず地道な鍛錬だけでシックスパックを通り越してエイトパックまで割れた腹筋は伊達では無く、ルーニャレットの駄々っ子パンチでは何のダメージにも成り得なかったようだ。
………そう、サンスベロニア帝国のイカレ博士として名を馳せているアダン・グラッドは、性格や性癖的にも大概だが、何より
手っ取り早く筋肉を付けるだけならヘビートレーニングを続ければ誰でも出来るが、アダンは決してその手のヘビーでハードなトレーニングは行わなかった。軽めの筋トレを毎日少しだけコツコツと行い続けて遅筋を整えると、それを維持しながら超ハードな鍛錬を一日数秒だけ行って速筋を鍛える。
そんな鍛錬を何十年と続けてきたアダンに何でそういうやり方をしているのかと問えば、
「筋トレし過ぎるとインポになるって医学的根拠出てるだろうが。オレはオ◯ニー超好きだから、テストステロンに殺される気なんざ無え」
真顔でそんなような事を言ってのけるのだから、サンスベロニア帝国きっての変人というレッテルを貼られるのも当然の事なのかもしれない。
しかし結果や成果が殆ど見えないような鍛錬を、それでも腐らずに何十年も続けるのは並大抵の者には到底出来ない。多くの者が飽きたり挫けたりとどこかで諦めてしまうものだが、そういう意味で言えばアダン・グラッドという男はサンスベロニア帝国きっての努力家とも言えるのかもしれない。
「……さて」
呟いたアダンがルーニャレットの頭をぺほぺほ叩くと、体を寄せていたルーニャレットはそこから離れ、ニェーレから受け取っていた茶封筒を差し出す。
「あ、あ、あの、ニェーレさんから………ぜ、ぜ、絶対に目を通させろって」
「それは後で読む。内容は想像付くがそれでもちゃんと後で読むから、心配せずに机の上に放っぽっとけ」
手首をひらひらと振って話を流そうとするアダンにルーニャレットは頷き掛けたが、いや、と思い留まる。かかあ
「だ、だ、だめです、今、い、いま、今読んでください。す、す、凄い大事って言ってたから、忘れたらは、は、博士が怒られちゃいます。わたし博士が怒、怒られてるのは見たくありません」
吃りながらも、いつに無く真面目な顔でそう言ったルーニャレットを見たアダンは、そんなルーニャレットに心を打たれたのか考える素振りすら見せず言われるままに茶封筒を指で抓み、
「知らんわそんなもんほら寄越せぽーい」
手首にスナップを効かせてそれを放り投げた。横回転しながら宙を舞う茶封筒に「あぇぁっ!?」と驚いたルーニャレットは、見事な放物線を描いてデスクの中央に着地するそれを見てアダンの器用さに少しだけ感嘆した。
しかしそれもほんの一瞬の事。驚いた顔をしていたルーニャレットはすぐに唇を尖らせる、
「……は、博士。さ、さ、さっき「今度はお尻の穴でする」っていうお話し、し、しましたよね」
唐突に場違いな事を口にしたルーニャレットにアダンが「あぁ?」と声を上げるが、当然怒りなんてどこにもありはしない。
「あーそういや言ったな。言った。一度マジなア◯ルセックスしてみてえと思ったまま気付けば三十年は過ぎちまったからな。やれるときにやっとかねえと、次やる前にオレがポックリおっ
「し、書類読まなかったら一生してあげません。あ、あ、あと、く、口でするのも、もうしてあげません。さ、さっきそれで少しだけ恥をかきましたから」
「何ぃッ!? お前オレが一番好きなのフ◯ラだぞッ!?」
目を見開いて渋くダンディな顔を驚きに歪めたアダンは、しかしすぐにルーニャレットの思っていた反応とは異なる「ダハハ!」という大きな笑い声を上げた。
「そうは言いつつルーニャレット女史は布団の上じゃあオレの言う事全部聞いてくれるいい女だからな。何だかんだ言いながら最終的には何でもかんでもさせてくれんの分かってんだぜ?」
「そ、そ、そ、そうかもしれません───」
素直に同意を示すルーニャレットにアダンが巻舌で「そうだろぉ?」と豪快な微笑みを作るが、直後にルーニャレットが発した言葉によってその微笑みは消し飛んだ。
「け、けど、も、もし読まずにお尻の穴を触ったら、に、に、ニェーレさんに言い付けます」
「────────」
真顔になったアダンが微動だにしなくなるが、ルーニャレットはそれでもやめない。
「ど、ど、ど、どんな風に触ったとか、ど、どんな事を言ってたとか、口でし、しないって言ったのに無理矢理押し込まれたとか、そ、そういうの全部ルーニャレットさんに言い付けます」
「────去勢されちゃう」
無表情のまま、蚊の鳴くような小さな声を掠れさせながらそう呟いたアダンにルーニャレットが「え?」と聞き返せば、御歳六十七歳の渋くてダンディなイケオジ、男アダン・グラッドは、イタズラがバレて誕生日プレゼントを取り消しにされた少年のそれと全く同じ今にも泣き出しそうな表情をしながら怯え始めた。
「そんな事チクられたらちんちんたまたまお空の彼方に飛んでっちゃうッ! お
過去に一つ二つの悶着があったのだろうか。冷や汗をダラダラとかきながら頭を抱えて叫び始めたアダン・グラッド六十七歳は、しかし唐突に濁った瞳で力無く微笑み始めたかと思うと「やめてよして触らないでち◯こ取れちゃうー」と歌い出し、と思えば頭を左右にぶんぶんと振り回す。男アダン・グラッドは遠心力に負けた唇を揺らしながら「ぇべべべべべ」と馬鹿みたいな奇声を発し、遂に壊れてしまった。
そんな六十七歳になった成人男性が壊れる様子を見てしまったルーニャレットは割と本気で申し訳無い事をした気になり反射的に謝ってしまいそうになったが、寸での所でぐっと堪えて「い、い、嫌ですよね? そんなの嫌ですよね?」と問い詰めていく。
「な、なら、なら、ちゃんと書類に目を通してください。い、い、い、い、いいですか」
右手で股間を、左手で尻を隠しながらぐすぐすと泣きべそをかくアダン・グラッド成人済みは鼻を
それを見たルーニャレットはアダンの白衣の襟元を両手でギュッと掴んで引き寄せると、白髪混じりのボサボサ髪に手を乗せ「や、約束ですよ」と優しく撫で付けた。ちくちくごわごわとしたその手触りは、女性に良くある髪質とは大きく異なり嫌がるかのように跳ね回って逃げていく。アダンの頭を撫でる事はそう多くないが、この嫌がるように逃げる髪がルーニャレットにとってはとても愛おしく感じられて好きだった。
ルーニャレットに撫でられる事でようやく落ち着きを取り戻したアダンは、しかし「ふん」と鼻を鳴らすと嫌がり逃げるように頭を振って離れていく。
「何でこのオレが何度も何度もお前に頭を下げなきゃならねぇんだ」
不満げな顔と声をしながら離れていくアダンが、ルーニャレットにとってはとても愛おしく感じられて好きだった。
───そうか、なるほど。
ぷいとそっぽを向いて電子タバコを吸い始めるイケオジの背中を見ながら、ルーニャレットは納得した。
───愛し合える人が居るのは素晴らしい事だけど、愛を確かめ合える事も、それに負けず幸せな事なんだ。
背中を向けながら加熱式タバコを天井に向けて吐き出す背中に、ルーニャレットは何も言わず自らの顔を押し付けた。顔の左半分をこしこしと押し付けると、しかしアダンは何も言わず高齢男性特有のすえた匂いと機械油の香りをさせるだけだった。
「とりあえず書類は後だ後。後回しだ」
電子タバコを吸い終えたアダンがそう言うと、それまで聖母のように穏やかな微笑みをしていたルーニャレットが不機嫌そうに眉間を寄せ「………博士?」と咎めるようにその名を呼ぶ。
「読ぉむ読む読むマジでちゃんと読むから。宿題やれってせっつくオカンかお
煩わしそうにそう言うアダンに「で、で、でしたら」と返すルーニャレット。そんなルーニャレットを納得させるかのように「ちゃんと後回しする理由があんだよ。急用あんだよ」と言うと、白衣の内側に手を入れる。
筋骨隆々な体に羽織ったゆったりとした白衣。機械仕事を行うものは本来その手の衣服を身に纏っていると機械に巻き込まれてそのまま体の一部を持って行かれる事例が多いのだが、アダン・グラッドは「バッケェロィ研究者だぞオレは。研究者ったら丈長の白衣だろうが」とそれを聞き入れず、直後目の前で回転する魔導機にわざと白衣の袖を巻き込ませた。ギューンと一定の音階を保っていたその機械は白衣の裾が巻き込まれるとギュゥゥゥゥンと唸るような低い音に変わっていき、目にも止まらない速度で白い袖が吸い込まれ横で見ていたルーニャレットは反射的に彼の名前を叫んだ。
しかしアダンの腕が持って行かれるような事は無く、高トルクで回転する魔導機の動きに一切体を揺らす事無くビリビリと服だけが裂けていく。やがて布を巻きながらそれまでと同じような一定の音階を保ちながら回転し始めた魔導機を見やったアダンは、
「アイムァームキムキマッチョメーン」
白衣だけで無く中に来ていたシャツの裾も持って行かれたのか、縦半分で半裸になりながらドヤ顔をしているだけだった。それを見て言葉を失ったルーニャレットは、丸見えになったアダンの茶色い乳首を無意識でつんと突き、それに合わせて御歳六十七歳のイケオジが「ぉんっ」と頬を染めて喘いだのだがこれはまたいつかどこかで話すとしよう。
「来客が居んだよ。呼んでもいねえ来客が勝手に入って来やがってな」
そんなゆったりとした白衣に隠れされていたデザートイーグルサイズのハンドに収まらないハンドガンを取り出したアダン・グラッドが、重過ぎて常人ではかなり苦労するスライドを軽々と引くと、それはガチャリという金属音を鳴らしながら弾丸を薬室に送り込んだ。
「家に押し入って全員殺しておきながら死体転がったまま飯食うようなイカれた野郎が居やがってな。
そう言いながらルーニャレットの足元………ルーニャレットの影に向かって銃を向け引き金を引く。ガコォンッという獣の雄叫びのような野太い銃声が響き、まるで火を吹くかのようにマズルを光らせ飛び出した弾頭がその影に向かって飛翔していくが、それが影に当たるほんの寸前「わぁっほぅっ!?」という間の抜けた悲鳴が研究室に木霊する。
「Ohhh...
聞いてもいない事を早口でペラペラ喋り出す嫌われるタイプのダルいオタクより遥かに早口でまくし立てるそれは、真っ白なスーツ着た勇者だった。不満げな文句を口にしながらも口角を吊り上げてにこにこと笑う白スーツの男は、やはりダルい系のメリケン人のような大仰な身振り手振りをしながらハイテンションで喋り続ける。
「この国には尖った博士が居ると聞いたから会いに来ただけだというのにいざ来てみたら尖った弾頭ぶち込まれそうになるとは思いも寄らなかったよ! それに勝手に入ったというのも僕は別に悪くないんだよ? 以前に正規のやり方でここまで来ようとしたら登録されておりませんと言われ続けて酷い目にあったんだ、やり方が間違っているのかと色々試したがどれも成功せず最終的にはカメラの前で
笑ったり悲しんだり、手を上げたり下げたりと口を挟む隙が見当たらない程の早口で喋り続ける白スーツの男を、アダン・グラッドは睨み付けたまま何も言わない。好きに喋って良いと分かったのか、白スーツの男は嬉しそうに口角を釣り上げながらまだまだ喋り続ける。
「いやなにしかしだ僕は別に何か悪さをしに来た訳じゃあ無いんだこれは本当マジの話さ! ここに来るまでに邪魔臭い死に掛けの神々の一柱をブチ殺しはしたがここでも更に殺しを行うつもりは無いんだ本当さ! 僕はこの世界にある魔導機と呼ばれている機械のその中枢を担う魔力導炉とやらが見てみたいだけなんだよ外観とか構造とか仕組みとか可能であれば内部機構に関しても見せて欲しくて仕方が無かっただけなのさ! だからわざわざモグラをリスペクトしたと思しきこんな地下くんだりまでやって来たんだせめて外観だけでも見ない限りはそう簡単には帰るつもりは無いからね! ああでも心配しないで良いんだ安心してくれ僕はジャパニーズ・アニメにたまにある触れただけで精密機械をぶっ壊すような特殊能力や
にこにこと笑いながら妙にデカい声で喋り続けた白スーツの男は「向こうかい? 向こうにあるのかい?」と研究室の奥を見やりながら疑問を口にする。その真意は分からないが今すぐにでも駆け出さんとうずうずしている様子を見る限り、少なくとも研究室の最奥にある魔力導炉に強い興味を示しているのは事実のようだ。
そんな白スーツの男に困惑したルーニャレットが不安げにアダンを見やれば、アダンは神妙な顔をしながら口を開く。
「─────ティンと来たァッ!」
白スーツの男を人差し指で指し示し、膝を少し曲げ、後ろに背中を倒すように見せ掛けながらも器用に立ったままのアダン・グラッドは、分かる人ならすぐに分かるだろうジ◯ジ◯立ちをしながら大きく叫んだ。
「─────テメエ見てたらティンと来たァッ! オレのおティンティンにティンと来たァッッ!」
「「は?」」
ルーニャレットだけでなく、白スーツの男までもが無表情になり呆気に取られる。しかしアダンはそんな二人には目もくれずウキウキと小躍りしながら「ハァーメモメモぉーこういうの
やがて書き終わったのか鉛筆をメモ帳の金具に挟み込んだアダンは「うーしもう良いや」と言いながら、未だ呆然としている白スーツの男に向き直る。
「お前もう良いよ。もう用済み、帰って構わんつか帰れ要らねえ」
「………………」
「お前がどうやってここまで来たかは聞くまでもなく分かってんだ。何らかの力でニェーレの影に入り込んで、その影がルーニャレット女史の影と繋がった事でここに入り込めた訳だろ? だが影に入り込んだ能力に関しては興味無え、そういう能力にはオレそそられねーからさ。だがインスピレーションくれた礼だ、お偉いさんには黙っててやっからさっさと消えろオレはこの後予定が出来た」
一方的に長々と喋り続ける白スーツの男に対して、同じように一方的に喋り出したアダンはそこまで言うと興味を無くしたのか加熱式タバコを取り出し吸い始めた。顎をしゃくるようにして上に煙を吐き出したアダンを見て、それまで黙っていた白スーツ男が我に帰ったように口を開く。
「………おーいおいおいおい冗談よしてくれ何だい何だい急だ急だよ意味不明だ。ここまで来るエレベータのカーゴ内で僕がどれだけ退屈な思いをしたと思っているんだい遅漏でも一度はイケるぐらいの時間だったんだよ? 三擦り半の早漏なら数十回はテクノブレイク出来るぐらいの長い時間を自慰の一つもしないままでじっと我慢の子だったというのにここに来て理由も語らず帰れは
不満げな顔と声とで言い返す白スーツの男が目線を向けると、ルーニャレットは反射的に下を向きながら左手で顔の半分を隠した。その姿を見た白スーツの男は「んん?」と呻き「ふむ」と鼻を鳴らし、唐突にその姿を消した。
「恥ずかしがるなよ
瞬間移動でもするかのようにパッとその眼前に立ち、顎先を掴み持ち上げる。それを見たアダンが急に慌てたように「おめ馬鹿ッ──」と声を荒らげるが、白スーツの男の動きは止まらない。そして顔の半分を隠すルーニャレットの手をぐいっと押し退けると───、
「───見ないでェッ!───」
───喉が掻き切れんばかりの金切り声で、ルーニャレットが世界に向けて
───────
ルーニャレット・ルーナロッカはサンスベロニア帝国の生まれでは無く、この世界とは別の世界からやって来た異世界人である。だからこそニェーレ・シュテルン・イェーガーから信頼を置かれており、だからこそサンスベロニア帝国でイカれ博士との歳の差恋愛に溺れる事が出来ている。
しかしルーニャレット・ルーナロッカは勇者では無い。
ルーニャレットは本来、ルーナティアに呼び出された愚者だった。
「
やたら露出の多いラバー生地の服を着た女性からそう言われたルーニャレットは、当初自らの名前ととルーナティア国とが少しだけ似ている事に小さな運命を抱いたが、しかしルーニャレットはルーナティア国にどうしたって馴染めなかった。
誰かから嫌がらせを受けたとか、苦手な性格の人が居るとかそういう話では無い。愚者は『しくじって死んだ者』であり、それ故にみんな心根がとても優しく、口こそ悪いが献身的で親切だった。
だからこそルーニャレット・ルーナロッカは馴染めなかった。どんな些細な事であっても、ルーニャレットは自分に関わって欲しくなかった。
プライドが高い訳では無い。何でも自分でやりたがる自己顕示欲の強いナルシストでも無いルーニャレットは、ただ自分を見られるのが嫌だった。
生前のルーニャレットに転機が訪れたのは、年齢が二桁になるかという程小さく
まだ吃音症を患っていない幼いルーニャレットは、ある日の放課後、当時好きだった担任の先生に勇気を出して告白し、その先生から困ったような顔と共に一応の了承を貰う事が出来たが、その了承はとある条件付きの交際了承だった。
「今の私と今の君がお付き合いをする事は出来ない。だけど君がガールを越えて、いつか立派なレディになったらもう一度私の所へ来て欲しい。それまで私は一人で待っていると約束する。そうしたら、手を繋いでお付き合いしよう」
担任の先生はそう言ってルーニャレットに小指を差し出した。その担任は親日思考が強く、最近の日本では廃れ始めてきている古い風習であっても知っていた。そしてそれを受け持ちのクラスの生徒たちに良く話していたから、ルーニャレットは自身に向けて差し出された小指に自らの小指を絡めて約束する事が出来た。
その日の帰り道の事だった。親がわざわざ買った輸入品の赤いランドセルを背負ったルーニャレットが道路の左端を歩いていると、背後からバイクが接近してくる音が聞こえた。大きなエンジン音を鳴り響かせながら近付いてくるバイクの音を聞き、路肩に寄ろうしたルーニャレットが右を向くように後ろを見ると、バイクは既にルーニャレットの目の前まで迫っていた。
「───────」
呻く事すら出来なかった。余りにも突然過ぎる不幸に、背負った赤いランドセルをバイクのフロントで突き飛ばされたルーニャレットは何が起きたかすら理解出来ぬまま撥ね飛ばされていった。
しかし不幸中の幸いなのか………時速百キロに達する程の速度でバイクに激突されたにも関わらず、ルーニャレットの胴体はほとんど無傷で済んだ。これが他の部位であったなら最悪
しかしその赤いランドセルは、ルーニャレットの人生を取り返しの付かない程まで滅茶苦茶にした。
右横を向いたような状態で背中から突き飛ばされたルーニャレットはそのまま顔面から道路に激突。コンクリートで舗装された硬いそれに、勢いが乗ったルーニャレットは、まるでおろし金で
小学生は日々の授業で様々な道具を使うものだが、それは得てしてやたらと
だからこそランドセルというものは非常に大きく、色々な物が詰め込めるようになっている。そしてそれを背負っても負担が大きくならないよう、ベルトはかなり頑丈に出来ている。
だからこそ、時速百三十キロ近い速度で背後から突き飛ばされたルーニャレットは
これが田舎の砂利道であればまだ無事で済んだかもしれないが、人が歩きやすいようにと車が走りやすいようにと塗り固められたコンクリートの黒い道すらルーニャレットには逆風となってしまった。
誰かがしてくれた、誰かの為にと思いの詰まった全ての配慮が向かい風となってしまったルーニャレットは、結果として顔の左半分の肉を殆ど失った。
皮膚は当然ながら、頬は筋肉すら削り落とされ口を閉じていても奥歯が見えるような状態になってしまったが、最も悲惨だったのはその左目だった。
眼球こそ無事で済んだが瞼をコンクリートに擦り取られ、ルーニャレットは二度と左目を閉じる事が出来なくなってしまったのだ。
医師は人工皮膚や移植手術を提案したが、別段裕福でも無いルーニャレットの家はその治療費を払う事が出来ず、またルーニャレットが住んでいた州では高額医療費に関する保険も適応出来なかった。かといって引っ越しを考えるにもやはり金が足を引く。
ルーニャレットの両親は全てを諦める他に無かった。
それからのルーニャレットの人生は悲惨だった。
実は都市伝説的な切ない裏設定があり一部から熱狂的に信奉されるだなんて知りもしない子供たちは、ルーニャレットを『ジェフ・ザ・キラー』と呼んで虐め尽くした。やがて学校に行かなくなったルーニャレットは、しかしちょっとした用事で外に出る度に後ろ指を指されてしまう程に蔑まされた。
包帯をしていようが関係無い。顔を包帯で
そのまま無気力に毎日を寝て過ごしていたルーニャレットは、十八歳の誕生日を迎えた時に思い出す。
────立派なレディになったらもう一度私の所へ来て欲しい。
行ける訳が無かった。
文字通り、どの面下げて行けるというのか。
その日の夕方、ルーニャレットはとある男の死を耳にした。知らない名前の人。自力で歩く事すら出来ない程に酩酊した状態にも関わらず、フルフェイスのヘルメットの中でイヤホンを着けて音楽を聴きながらバイクを運転していた人らしく、人身事故を起こすと同時ヘルメット越しに頭を強打し頚椎を損傷。意識不明の植物状態となっていた男性が脳の出血がどうたらで心停止したと聞いたが、ルーニャレットには今更どうでも良かった。
「……………まだ間に合うよね。先生は今三十歳か四十歳ぐらいだから、今から死んで明日生まれ変われば─────まだ間に合うよね」
自宅の台所にある黒いゴミ袋を一枚手に取ったルーニャレットは、それを持ってのんびりと自室に向かう。あの日背負っていた赤いランドセルに入ったままの縄跳びを天井から吊るしたルーニャレットは、背の低い子供用の椅子に乗り、ゴミ袋を被って縄跳びを巻き、そのまま椅子の上から飛び降りた。
窒息は出来なかった。落下時の衝撃からなる頚椎損傷によって即死したルーニャレットは、皮肉にも自らを人生のどん底に落とし込んだ男と同じように首を折った事が原因で死んでしまった。
そんなルーニャレット・ルーナロッカという女がルーナティア国から夜逃げでもするように飛び出しサンスベロニア帝国に住み着いてしばらくした頃、ルーニャレットはニェーレ・シュテルン・イェーガーから一つの役割を貰った。
それは城の地下にある研究室で寝泊まりする変人への書類の受け渡し役だった。
異世界の言語は当然読めないルーニャレットだったが、事実上小学校を卒業した時点でルーニャレットはまともに勉強する事が出来なくなったのだから、生前住んでいた母国語ですら読む事は出来ても書くとなると筆が止まる。であれば当然頭が良い訳も無く、そんな役立たずも良い所なルーニャレットはただの受け渡し役としての仕事ぐらいしか与えられる事は無かった。
「あ、あ、あ、あ、あの、しょ、しょ、書類………に、ニェーレさんから、です」
あの日以来心因性の吃音症を患ったルーニャレットが茶封筒を渡すと、アダン・グラッドは「おう」と言いつつその茶封筒を受け取りもせず機械弄りに没頭する。どれだけ声を掛けても反応が変わる事は無く、仕方が無いのでルーニャレットは一声掛けたら返事を待たず、茶封筒をデスクの真ん中に置くようにしていた。
その後エレベーターで地上に戻ってもやる事が無いルーニャレットは、時計の針が夕方を過ぎるまで適当な椅子に座ってアダンの背中を眺めて過ごしていた。
…………いや、厳密にはアダンの背中など眺めていないのかもしれない。ルーニャレットはアダン・グラッドなんて人物には興味が無く、他の物を眺めていても大した動きが無く面白くないから消去法でアダンを眺めていただけだったのかもしれない。
ルーニャレット・ルーナロッカにとっての二度目の転機。それは何て事も無いただの会話の末に起こった。
真っ白な白衣を機械油で汚しながら何かを組み立てるアダン・グラッドに、ルーニャレットは珍しく言葉を投げ掛けた。
「は、は、博士………ね、ネジ、ひ、ひだ、左隅の、ネジ………」
直前まで使用していた手回し式のシンプルなドライバーを工具箱に仕舞い込んでいたアダンは、その言葉に「あぁ?」と呻く。ビクリとルーニャレットが体を竦ませるのを流し見ながら言われた部分を見やれば、そこには小さな穴がぽっかりと開いていた。本来であれば平ネジの頭が見えていなければならない部分。ネジを締め忘れれていたアダンが「おぉマジか」と呟くと、工具箱に手を入れ仕舞ったばかりのドライバーとネジを取り出しそれを締めていく。
「お前に言われなくてもいずれどこかで気付いてただろうが、早く気付けるのが一番だ。悪いな、ありがとよ」
淡白な声色でそう言いながら振り返るアダンに、ルーニャレットは咄嗟に顔を隠す。その様子を不審に思ったアダンが「あぁ?」と呻きながらツカツカと歩み寄り、無遠慮にその顎先を掴んで手を退けると、
「───見ないでェッ!───」
ルーニャレットが世界に向けて叫んだ瞬間、その背後に
「な───ぬぉ……ぐっ!?」
四本の腕を持った
それはルーニャレット・ルーナロッカの
それはルーニャレットを見ようという意思のある全ての動きに対して適応され、どんな距離であったとしても
理論上はいつでも適応可能な
「見ないで───見ないでぇっ、見ないで見ないでやだやだ見ないで見ないで見ないでよォ───ッ!」
発作を起こし狂乱しながら叫ぶルーニャレットの声の裏で、研究室に設置してあった様々な物が破壊されひしゃげて吹き飛んでいく音が聞こえる。ルーニャレットが蹴飛ばしているとは到底思えない程大きなその音を聞いたアダンは、自身に見えないながらもルーニャレットの背後に立つ
───研究室の防衛はオレが居ればどうにかなると思ってたんだがな。
悠長にもそんなような事を思うアダンは、無事で済んだら自動人形か何かを数体作って研究室に配置させようと決めていた。
「やだぁっ! やだよぉやだやだもうやだ見ないで見ないで何で見るの見ないで見ないで見ないでェェェッ!」
ガコンボコンドカンと派手な効果音を響かせながら叫ぶルーニャレットだったが、何かガラス製の物が割れるようなガチャンという音にそろそろマズいと思い至ったアダンは、見ないでと泣き叫び続けるルーニャレットに向け、遂に大きな声で叫んだ。
「────オレを見ろぉぉぉぉおおおおおッ!」
「────っ」
その声にルーニャレットがハッとなり、自身の足元で這いつくばるような状態になりながら叫ぶアダンに目をやった。
「見ろッ! オレを見ろッ! 見てるかッ!? オレには見えねえけどお前ぇオレの事ちゃんと見えてるかッ!?」
「……………………ぇ……………?」
「見えてんなら分かるだろうがッ! 今のオレぁデコ地面に擦り付けて土下座してるようなもんじゃねぇかッ! 大して仲良く無え奴のデリケートなコンプレックス土足でズカズカ踏み入って悪かったって、今オレぁ土下座してんじゃねぇかッ! これ以上オレがお前ぇに詫びれる事なんざ無えッ! オレが悪かったからもう許せッ!」
ルーニャレットの
そして、
「───ぅぇぇええええええん。見ないでよおおおお。見られなくないのにいいいいいいい。見たもおおおおおおおんぅええええええ───」
軽くなった頭を上げたアダンが
「ばかにしたあああああああ。おろかものって言われたああああああ。なりたくてなったわけじゃないのにいいいいいい。わたしなんにもわるくないのにいいいいいい。わああああああああああ──────」
それまでとは異なり決して叫ぶような真似はせず、ただ静かに胸の内を吐露しながら泣いている一人の女の子。
そんな姿を
「………むんっ!」
ギュッと強く両目を閉じ、両膝を交互にゴツゴツ鳴らしながら少しずつ前に進んで行く。ゾンビやキョンシーのように両手を前に突き出し、ふらふらと揺らしながら膝歩きで進んだアダンは、やがて泣きじゃくる女の子の元へと辿り着く。
その指先が女の子の肩周りに触れると、しかし女の子が恐怖と困惑に震えるよりも先にアダンは「見えて無えからっ!」と大きく叫んだ。
「今オレ目え閉じてっからっ! 何も見えて無えからっ! お前嘘かもって思って怖えかもしんねえけど、オレ前見えてなくてお前より怖えからっ! オレの方がよっぽどビビってっからっ!」
「────────」
アダン・グラッドは馬鹿だった。研究室に篭り切りで他人との関わりが殆ど無いような男が、泣き出す女の子にオシャレで気の利いた言葉が掛けられるような道理なわてある訳が無かったのだ。
ゴツゴツと低く響く音を鳴らしながら膝歩きでよちよちと近付いたアダンは、それがどういう体勢をしているのか確認するようにルーニャレットの体をぺほぺほと叩きながら近付くと、その体を優しく抱き締めた。
「っ」
優しくしようと思って優しくした訳では無い。どのぐらいの力加減が適切なのか分からなかったから羽根で包むようなイメージで抱き寄せておいただけだった。最低値で進めておけば大丈夫だろうという頭の悪い考え故の行動だったが、
「────うわああああああああああああんっ!」
何十年ぶりに人の優しさを目の当たりにしたルーニャレットが一際強く泣き出し始め、アダンはぎゅっと目を閉じたままで百面相のように表情を変えて慌て始めた。
「悪かった悪かったオレが悪かったゴメンなゴメン済まんかったって。けどお前も
「じらないよおおおおおおおおっ! がっでにででぎだんだもおおおおおおんっ! るーにゃわるぐないもおおおおおおおおんっ! わあああああああああああああああっ!」
「あーあーあー! 分かった分かった悪くない悪くないオレが全部悪いんだなうんうん認める認めるもうマジで認めっからこれ以上言わねえからっ! ───あじゃあこうしようオレこの後ドリル作っからさっ、お前ちょっと作るの手伝えっ、なっ! んでオレがはしゃいでドリル試して研究室ブッ壊した事にすっか! そうだなそれが良いお前もドリルの回転音聞けば気分安らぐだろうからなっ! ドリルは良いぞおっ? 時々勘違いしてるバカが居やがるがトルク数上げりゃ良いってもんじゃ無くてな───」
「るーにゃぎがいのおどぎらいいいいいいいいっ! どりるなんでゔるざいのやだああああああっ!」
「───あぁっ!? んっだお前ドリル馬鹿にする─────」
「わあああああああアアアアアアッ! おごっだあああああアアアアアアッ!」
「あごめ───くゥゥ………ッ! キョァァァァチョッギプルルルィィィイイイイイッ!」
馬鹿で、不器用で、他人と関わるのが得意では無い。それがアダン・グラッドというサンスベロニア人だった。
その日を境に、ルーニャレットはアダンに良く話し掛けるようになった。何を作っているのかを聞き、どこに行くのか問い掛ければ、その後必ず「い、い、い、一緒に、い行っていいですか……?」と続けるようになり始めた。そしてサンスベロニア城内で一定期間毎に行われる射撃訓練に同行した日から、ルーニャレットはアダン・グラッドという男に強い興味を持ち始めた。
それと同時に、アダンもルーニャレット・ルーナロッカという異世界人を気に入るようになった。
アダン・グラッドは変人ではあるが、決して偏屈者では無い。アダンが周りに対して淡白な反応を示すのは、周りがアダンに興味を持っていない事が分かっているからだ。
ドリルに喜び、デザートイーグルのような大きな銃を好み、
「あいつオレの事嫌ってっから、オレもあいつの事嫌い」
そんな子供のような価値観を捨てる事が出来ずにいるだけなのだ。
アダンが愛想良くないのは、周りがアダンに愛想良くしてこないから。
アダンが淡白な反応をするのは、周りがアダンに淡白であるから。
アダンは子供の心を忘れていない。だからこそ子供のような敏感さで他人の深層心理を察知する。
だからこそルーニャレットがアダンを意識するのと同時、まるで鏡のように、自らの事を意識してくる者の事を、アダンは気になり始めたという訳である。
ただの興味は、いつしか恋に。
小さな恋は、気付けば愛に。
鏡の前に立てば姿が映る。
ルーニャレットの左目がアダンを見詰めたその瞬間、二人が結ばれるのは決まり切っていたのかもしれない。
閉じなくなった左目で鏡を見詰めれば、鏡の向こうの誰かも、その左目を見詰め続けるはずだから。
───────
「───ッぐ………これはッ、ホッホォ手厳しいじゃあないかッ」
まるで土下座でもするかのように床に這いつくばった白スーツの男が面白そうにそう笑うと、とろりと溶けるようにその体を崩れていく。真っ白な液体のように床に垂れ落ちたそれはすぐに黒くくすんで濁っていき、やがて影のようになる。
「───────」
その影が泣き叫ぶルーニャレットから離れ再び白を取り戻して形を作るが、しかし現れた白スーツの男は直前のそれと同じように土下座でもしているかのような姿だった。
「……っぐ、面倒臭くて嫌気が差してしまいそうだ……ッ!」
ルーニャレットの
世界に
「何で──何で見るの──見ないでって言ってるのに───気持ち悪いって言うならなんでみんなわたしを見るのおおおお───ッ!」
腕以外を一切動かさないまま
「─────ぉぐっ」
アッパーのような角度から腹部を殴打したにも関わらず、白スーツの男はルーニャレットに顔が向かないよう不自然な体勢で吹き飛んでいった。研究室の機材や道具を巻き込んでガシャァンッと大きな破砕音が鳴り響くと、それを聞いたアダンは口を吸うように大きく「チッ」と舌打ちをした。
………以前のような土下座プレイと洒落込む訳にはいかない。ルーニャレットが
さっきは敵意を見せていなかったが、ルーニャレットが敵意を剥き出しにしてしまった以上白スーツの男がやり返そうとルーニャレットを攻撃しないとは限らない。その時アダンは、自身が白スーツの男より素早く動けるとは思えなかった。
「────
ならばまずは白スーツを消す事から始める必要がある。大きな声で花の名前を叫んだアダンの声に感情を何も感じさせない氷のような「イエス、マスター」という冷たい声が返事をする。
「……っく、それは不味いね極めて不味い……ッ!」
地面に這う白スーツの男が悔しげに呻くが、しかし逃げるような素振りは見せない。
「
今の状況ではアダンに白スーツの男を殺す事は出来ないが、かと言ってルーニャレットにその手を血で染めて欲しくも無い。
女の子にどうこう、というような気の利いた理由からでは無い。フェミニストでも何でもないアダン・グラッドにそんな器用な気配りなんて出来やしない。
───ドヤりながら言っちまったからなあ。
百害だろうが千害だろうが全部オレが引き受ける。
一利を掴んで笑ってろ。
そう言ったからには笑わせてえ。
大きく開かせ笑わせてえ。
「「イエス、マスター」」
主の名を受け都合三機の
その音を聞いた白スーツの男は、ようやく焦りを見せて「それは無理だね手厳しいッ!」と叫ぶと、直前にしたのと同じように床に溶け出し出入り口に向かって猛進して行く。
「また来るよぉ博士殿ォっ! こんなんじゃ終わらせないこんなんじゃ納得出来ないッ! Hahahaha アディオスアミーゴォスッ!」
白いスーツの左腕が勢い良く盛り上がり、圧力に耐え切れなくなったスーツがビリビリと音を鳴らして裂けていく。
太く大きな焦げ茶色の体毛を生やした大きな前腕を力任せに振るった
すると研究室の外に設置してあった四基のオートタレットが砲身を回転させ、一秒後に爆音を鳴らしながら金属弾を発射する。
「──────ッく────クソが────ァッ!」
白いスーツの背中を無数の赤い点で彩った黒い獣は軽口を叩く余裕が無くなったのか、それまでしていたようなものとは全く異なる低く唸るような声を出しながら逃げて行った。
「三階研究室に侵入者あり。三階研究室に侵入者あり。全階層のスタッフは警報が止まるまで区画移動を禁じます。繰り返す。三階研究室に侵入者あり───」
すると大きなブザー音が鳴り響き、各区画に設置された大型スピーカーから耳が割れそうな程に大きな音で女性の声が響き渡る。
発作を起こしてどれだけ酷いパニックになっていたとしても、ここまで派手なアナウンスが爆音で流れば理性の欠片ぐらいは取り戻す。力無く膝から崩れ落ちたルーニャレットは、しかし以前のように泣き喚くような事はせず、ぼろぼろと涙を流しながらも「ふっ───ふっ───ふっ───」と歯を食い縛って苦しさを我慢した。
「……………くっそ……あぁ全く………………」
地面に手を付き大きくよろけながら駆け寄ったアダンが、ルーニャレットの背中を強く抱き締める。
力加減はもう知ってる。遠慮せずともこいつは簡単には壊れない。
こいつは精密過ぎる機械とは違う。
多少乱暴に扱っても壊れはしない。
「は、はか、はかせ………わ、わたし……ごっ、ごめっ、ごめ──」
ぐっと上着の裾を握りながら必死になって謝るルーニャレットに、アダンは何でも無いような声色をしながら「良い。謝るな、お前は謝るな」とその言葉を遮った。
「お前は何も悪い
「………ふ……っぐ………んぐ……っ」
ぎゅっと口を引き結んだルーニャレットが嗚咽を必死に堪える。隙あらば謝ってしまう、隙あらば自分を悪にして場を収めたがるその癖を、アダンはずっと治そうとしてくれていた。
その想いに報いる為に、ルーニャレットは嗚咽を噛んで必死に耐える。
「…………強くなったよなあ、お前」
その頭をアダンが撫でる。妙な所で恥ずかしがり屋なアダンは恐らく死ぬまで口にしないだろうが、まるで縋り付くかのようにしっとりと指の間を滑っていくルーニャレットのその髪が、最近のアダンにとってはドリルよりもお気に入りなものになっていた。
───────
太陽が沈み始め、広い空が濃いオレンジ色に染まるその夕暮れ時を、古い羊飼いは『狼と犬の間』と呼ぶ。
空がオレンジ色になるその時間は、人間にとっては最も遠目が効かなくなる時間帯。
だからこそ沈んていく太陽を背中に歩いて来る獣は、遠目には逆光で黒く何なのかが分からない。数歩進めば触れられる程の距離まで来ないと、それが何なのかは分からない。
羊を守る牧羊犬か、羊を食う狼なのかは、近くに来るまで分からない。
しかし近くに来てからではもう遅い。それが狼だったのならば、羊飼いはそのまま食い殺されて死んでいく。
「───…………
数え切れない程の銃弾を受け、穴だらけになった深紅のスーツを着た男が悔しげに吐き捨てる。
地下に入ろうとした時には橙色の空だったが、気付けば太陽は完全に沈み切り空には青黒い闇が広がっている。チラチラと星が瞬く夜空を睨み付けながら、
狼と犬の間は過ぎ去った。
瞬間的には弱いものの、それでも人間は夜の闇に目を慣れさせる事が出来る。宵闇に目が慣れた人間は、野生動物程ではないがそれなりに夜目が効くようになっている。
もう牧羊犬だとは思われない。
「…………───
黒みが強い焦げ茶色の毛を生やした腕を壁に当て憎々しげに吐き捨てると、視界の隅に酒瓶を片手に持った誰かが映る。それに向かい目にも留まらぬ速さで駆け出したジェヴォーダンは、黒みが強い焦げ茶の毛に包まれた前脚を軽く振るった。
「────えけぁ」
ぱきょっと音を鳴らした男の頭は、齧り跡の付いたパンのように不自然に抉れた頭をぐらりと揺らすと、そのまま顔から地面に倒れ動かなくなった。
その背中を足で踏み付け、酒瓶を持っていた手を持ち上げればコキュッと軽い音がした後ブチブチと肉が裂ける音が鳴る。
「─────────」
その腕に噛み付いたジェヴォーダンは、しかしどれだけ食べても腹が満たされる感覚がしなかった。
食べ足りない。満たされない。物足りない。もっと欲しい。
──────それは
「…………………………ミートパイが食べたいなあ。団子のように丸々太ったやたら気が強くて豪快な夫人の作るミートパイが食べたい……ただデブなだけなのに自分の事を巨乳だと思って譲らない腹も性根も図太い夫人のミートパイが食べたい………」
胸の奥の更に奥。その奥底にある魂が熱く燃えるような感覚がするが、それは決して辛く苦しいものではない。
「──────へえ……なるほど。これが噂に名高い
むしろ心が安らぐような、ようやく理由を見付けたかのような安心感を覚える。
これが自分の生きる理由。
これが自分の深層心理。
これの為に殺して来た。
「───
世界に向けて宣言したジェヴォーダンが殺した男の肉を喰らえば、一噛みする度にじゅわりと滲み出した血と脂肪が舌の奥に染み込んでいくような感覚がある。飲み込んだ血が、溶かした脂肪が、噛み千切った筋繊維が、胃液の中で溶けて転がり混ざり合う。それはゆっくりと胃の内壁に吸い込まれていき、血液に溶けて全身を流れて心臓を動かす糧となる。
その一連の動きが、意識すら出来ない現象が、胸の奥の更に奥の、魂の奥底で感じ取る事が出来る。
────これでまだまだ生きていられる。
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