3-4話【サンスベロニアの変人代表】



 サンスベロニア帝国は機械技術によって大きく発展した国ではあるが、そのおよそ七割程度は一般市民には触れる事が出来ない部分で稼働、使用されている。

 帝国全体をぐるっと円を囲うように建設された大きな城壁、それを超えた時点で視界に入る大きな城の背後には帝国軍の練兵場と兵舎が広がる。

 その地下にサンスベロニア帝国の機械技術が広がっている事を、一般市民はおろか軍部の人間すら殆どが知らない。

 地下一階は養殖場。人工太陽光と使用した農産物の養殖施設が広がり、温室では地下水を汲み上げた天然水を使用して年中無休め農産物の生育が行われている。

 そこから更に地下に行くと、今度は大量のベルトコンベアやインサータが並ぶ量産区が存在する。銅が産出されない世界故に電気制御では無いが、魔力によって駆動をコントロールされた大量の機械が戦闘用重機に使用される弾薬や重機本体を、電気制御に劣らない効率性で組み立てている。

 それらは量産区の中でも更に階層が分けられたコンベアによって組み立てと量産が行われており、例えば重量の軽い銃弾や小型部品等は天井近くに吊るすようにして配置されたコンベアを流れ、銃本体等は中層、大型重機といった重い物は床に配置されたコンベアを流れていく。これは地下区域故、簡単には建設地を増設出来ないながらも効率良く量産を行えるようにという省スペース性の賜物だとされているが、実際は天井付近を流れるコンベアのエラー等に対して作業員が即座に向かえないといったデメリットも孕んでいる。


 そしてそれより更に下の地下三階に、魔力導炉と特殊開発区画が存在する。

 そこはいわばサンスベロニア帝国の心臓であり、人の魔力を魔力導炉に送り込み、その中で出力の制御と魔力の質を変換してから帝国各地の機械へと送り込まれる。

 この区画が何らかの理由により機能不全を起こせば、魔力由来の機械に全てを頼っているサンスベロニア帝国及びその市民はまともな生活が営めなくなるのだが、それだけで済めばまだ良い方で、魔力導炉が停止した時点で地下区画に酸素を送り込む為の換気扇が回らなくなってしまい、中に居る作業員の過半数が酸欠で死にかねない。

 ……これは過去の事例だが、現国王であり総帥であるペルチェ・シェパードがまだ王位を相続するより前、一度だけ地下二階の量産区にて小規模な破壊工作サボタージュが行われた。ルーナティア国は関与を強く否定していたが、そのサボタージュにより魔力導炉が緊急停止、五分しか保たない予備の魔力を使用したエマージェンシータイムがスタートしてしまった。


 地下一階の養殖場、地下二階の量産区、そして地下三階の魔力導炉。そこで勤務していた七百人余りの従業員の内、およそ五百人程が窒息死するサンスベロニアの歴史に残る大事故である。


 事故が起こった次の日。酸素を必要としない機械人形を用いて稼動を再開した魔力導炉により、ようやく地下内部へ入れるようになったその現場は凄惨を極める有様だった。別に血飛沫が舞い散っている訳ではない。内臓が飛び出している死体なんてただの一つも存在しない。にも関わらず、遺体回収員の中には心的外傷後ストレス障害PTSDを発症する者さえ居た。

 取り残された作業員は、皆一様に机の引き出しやロッカー、トイレの貯水タンクの中に顔を突っ込んむようにして死んでいた。仰向けや横向きで死んでいる者はあまり居らず、脱出出来なかった者達の過半数は何かしらの空間に顔を突っ込んで死んでいた。


 そこに酸素があるから、顔を突っ込んで少しでも長く息をしていたい。


 例え僅かながらであったとしても、そこには空気が、酸素が存在している。普段は余り開けられていない場所や通気性の悪い場所に、人の呼気によって二酸化炭素濃度が高まっていない新鮮な空気があるから、取り残された人達はすべからくそれを求めて頭を突っ込み、そこで力を使い果たして絶命したのである。

 元々警備は厳重であったが、何しろこの世界には法度ルールという概念が存在する上、幽霊の類いすらもが実在する。それらを扱えばただの『厳重な警備』では大した苦も無く突破出来てしまうのである。

 その後強化され直した警備は過剰とも言えるレベルにまで至った。区画内のありとあらゆる通路には声紋認証制のロックが掛けられるようになり、通常利用時は当然ながらどれ程までに急いでいたとしても逐一声紋認証を行わなければいけない「不便」と言えるぐらい厳重化された。

 ロックされたゲートは実弾を内包した四基のオートタレットセントリーガンが囲んでおり、声紋認証で二回エラーを起こした時点で警報が鳴り響き、それらのタレットが目標をミンチにする仕組みになっている。また扉の周囲に設置された監視カメラに人物が映った後、扉が正常に解錠されずに扉の向こうに人物が移動すると、同じように警報が鳴ってタレットが唸り声を上げる。

 そしてそれはサンスベロニア帝国の国王であり現総帥のペルチェ・シェパードであっても何ら変わりなく行われ、ある意味では独裁国家であるサンスベロニア帝国の中でも最も平等な場所だと言える。

 だがペルチェ・シェパードはそこに入る事を強く嫌悪しており、特殊開発区への物理司令を行う場合は全て側近のニェーレ・シュテルン・イェーガーに行わせていた。

 地下に空間を作り上げるという事は一見すると省スペースであり効率的な建築手段にも思えるが、実際は地盤沈下や地震による崩落の危険を常に孕んでいるリスクの多い行いである。それを避ける為、サンスベロニア帝国の地下施設は通常よりも遥かに深く掘られており、かなり長いエレベーターの旅を経験する事になるのだが、ペルチェ・シェパードはそれを嫌がった訳ではなく単純に誤動作やエラーによって自身が警備タレットに射殺される事を恐れていただけだった。

 逆にニェーレ・シュテルン・イェーガーはタレット自体には何一つとして恐怖心が湧かず、長く長いエレベーターによる変化の無い上下移動が嫌いだった。エレベーターが動き出すと共に始まる長い昇降の時間は兎にも角にも暇であり、もし地上階から最下層までの間で別の利用者がエレベーターのボタンを押さなかったとしたら、少なくとも一回は確実に絶頂出来るような自慰が行えてしまう程に長い待ち時間がある。実際、女性作業員の中には小型のアダルトグッズを用いてエレベーター内で自慰をする者も居るし、自慰に留まらず男女で行為に及ぶ者さえ居た。

 それ所かエレベーター内で男女の人数差が生まれた場合、複数の男性が女性を強姦するような事例すら過去には何件かあった。当然ながらエレベーターの中には四隅に監視カメラが設置されているが、監視カメラからの映像をチェックする監視員がその狂乱を楽しんで通報を行わないという有様なのだから、最早人の欲望というものは人の手に負えないのかもしれない。

 しかしペルチェ・シェパードが王位を継承し、それに伴ってニェーレ・シュテルン・イェーガーが帝国の実権を握るようになってからは即座にその手の事件は無くなった。ニェーレが何かした訳では無く、単にニェーレが監視カメラから流れる映像をチェックする監視員を全て女性スタッフで統一するようになったからである。強姦に限らず、和姦であっても自慰であっても、女性という生き物は他者の性行為に関しては強い嫌悪感を示し頑として受け入れようとしない傾向が強い。ニェーレはそれを利用しただけの事だった。

 別の部署への異動或いはそもそも解雇となった男性作業員による強い反発も生まれたが、ニェーレはそれには一切耳を貸さず『作業施設内部での性病の蔓延及び罹患に対する人道的かつ極めて良識的な政策である』として全ての反発者を黙らせた。

 ………独裁国家である関係上、政策という言葉を出されてしまえば黙る他に無い。その言葉に異を唱えてしまえば、それは即ち国王の意向に対して背き叛意を示すのと同義。国家反逆罪で養殖場の餌箱に入れられたくなければ、うんと頷く他に無いのである。


「ではルーニャレットさん、これを博士にお願い致します」

 ニェーレが今後の案件や開発に関わる書類が封入された茶封筒をルーニャレットに差し出すと、ルーニャレットは左手で顔を隠しながら「は、は、は、はい」と吃りながら返事をし、それを受け取り小脇に挟む。

「………本来なら私が行くべきなんですけど、ルーニャレットさんには毎度お世話掛けます」

 申し訳無さそうに目を伏せながらニェーレが言うと、ルーニャレットは「いっいいいっいっいえ」と強くそれを否定する。

「あの人が誰か生物を気に入る事は滅多にありませんから……そうですね。無責任な言い方をするのであれば、博士に気に入られてしまったルーニャレットさん自身を恨んで下さい」

「だ、だ、だ大丈夫です。ほ、ほ、本当に気にしてませんから」

 ルーニャレットがそう言うと、ニェーレはどこか心配そうな声色で「そうなら良いのですが」と返したが、即座に頭を切り替えたのか「それでは私は戻ります」ときびすを返した。

 その時だった。ルーニャレットと向き合っていたニェーレが後ろに向き直ろうと腰を捻った瞬間、ブリュリュという泡混じりな不快音がニェーレから聞こえた。その音に思わずルーニャレットは「え?」と小さく呻いたが、直後ニェーレが口を吸うようにして「チッ」と舌打ちした事でルーニャレットは触れてはいけない事だったのかと気が付き、息を呑んで怯えてしまった。

「…………違いますよ、別に漏らした訳ではありません。………まあある意味では漏れてるんですけれども、ルーニャレットさんが思うような「お漏らし」ではありませんよ」

 不機嫌そうな声色でニェーレがそう弁解するが、ルーニャレットは少しだけ後退りしながら無言で何も言わない。それを見たニェーレは自身のスカートの中に手を入れ、何やら中をまさぐり始める。

 やがてニェーレがスカートから手を出すと、その指先には半透明に濁った液体がべっとりと付着していた。

「ここに来る前、ペルチェ様……陛下にいっぱいして貰ったのです。いつもより長めにお出しになられていたのですが、腰を捻った事でその時のが溢れ出ただけですよ」

 小柄なニェーレがその小さな口を薄く開いて指先のそれを舐め取りながらそう言うが、ルーニャレットにしてみればどっちにしろ漏らしている事に変わりは無く、その手の事柄に対して経験も無いのであれば「は、はあ」と呻くぐらいしか言える事は無かった。

 そんな様子を見たニェーレは、ルーニャレットに向き直り「博士とはそういう事はなさって無いのですか?」と問い掛ける。その際にも小さく水音が鳴る。自身の思考回路とは全く別枠で勝手に鳴るそれにニェーレは強く苛立ったが、ルーニャレットが怯える事を避け、今回は一切表に出さなかった。

「そういう事……。────そっそそそそういう事っ!?」

 唐突な質問に慌てふためいたルーニャレットは、先程とは違ってニェーレの眉間の皺や、再び股間から液体を拭っている事には意識が向かず「いいいいいいいえ! 滅相も無い!」とパニック気味に否定した。

「ああああの人はそういう事は私にしてこなくてっ、でっでっでもわたしそういうの無くても良いからっ」

 飴玉を舐めるように口の中で白濁液を転がしたニェーレは「そうですか」と淡白に返し、こくりと小さな喉を鳴らしてそれを飲み込む。

「愛し合える人が居るのは素晴らしい事ですが、愛を確かめ合える事も、それに負けず幸せな事ですよ」

「は、はあ」

「機会があれば博士となさってみても宜しいかと。ルーニャレットさんはあれにはかなり気に入られてますからね、少し語るだけで望み通りになると思いますよ」

 もはや垂れ出る事を厭わなくなったニェーレは、細い太腿ふとももから半透明の液体を垂らしながら背を向けエレベーターへと入っていく。

「それでは。書類、宜しくお願い致しますね」

 ニェーレがポチポチと操作盤のボタンを押すと、数秒後に扉が閉まり動作音が聞こえる。その動作音は上へと向かって遠ざかっていき、やがてそこにはルーニャレット一人が取り残された。

「……………」

 小脇に挟んでいた茶封筒を手に取り直し、しばし見詰める。きっと中には重要な書類が入っているのだろうが、異世界人であるルーニャレットにはその字が読めず、また読めたとしても元々ただの一般人であるルーニャレットにはその内容など露程も理解出来ないだろう。

 だからこそ信頼されているのだ。言語が分からないという事は、ある意味では最高のセキュリティになり得るから。

 現在でこそ識字率はかなり高い水準まで上がってしまっているが、市民の過半数が文字を読めなかった時代は重要書類であっても机の上に放り出したままという事も少なくなかった。こっそり盗み見た所で読めないのだから関係が無いという話である。


 サンスベロニア帝国の内部には他国の内通者が沢山居る。それはサンスベロニア帝国に限った話では無く、ルーナティア国や他の国でも変わらない。どこの国にも間諜スパイというものは必ず潜んでおり、ある程度の地位や権力を持った立場で情報を盗み横に流しているのがこの世の常である。

 しかし誰がスパイなのかと疑い出したらキリが無い。独裁国家で首相級の位置に立つ者は常に暗殺の可能性に怯えなくてはならず、そこに情報の漏洩まで防止するとなれば、まさしくスターリンや毛沢東のように疑心暗鬼になり、関わる全てを虐殺するまで納得出来なくなってしまう。

 だからこそルーニャレットのような異世界人という存在は非常に重宝する。特定の国家にしがらみを持たず、現地語に対する識字能力も持っていない異世界からの来訪者は、特に重要書類の受け渡しにはもってこいの存在である。


 だからこそ、信頼されている。

 だからこそ、その信頼は重い。


 ルーニャレット・ルーナロッカにとって、サンスベロニア帝国なんぞには何一つとして思い入れなんて無い。だからこの書類をルーナティア国に売る事にも何一つとして躊躇いが無い。

 それはサンスベロニア帝国側にも同じような事が言える。サンスベロニア帝国からしてみても、ルーニャレット・ルーナロッカという女に何の思い入れも無い訳であり、裏切りに対する粛清にも一切の躊躇いが無い。元よりサンスベロニア帝国には居なかった存在、異世界の来訪者なのだから居なくなった所でどうという事は無い。ミンチにされて豚の餌に紛れ込もうが、手足をもがれて居住区で共用の肉便器にされようが特段思う所は無いのである。

 異世界人が来た事で様々な利益を得られるのは事実であり、その利益によって国家が更に発展する事も事実。しかしそれは棚から牡丹ぼた餅、基本値が百パーセントの状態から異世界人の来訪により百二十パーセントまで上昇したとして、その時点でのそれは決して居なくてはならない存在という訳では無く、居なくなった所で百パーセントに戻るだけ。マイナスには成り得ないのだ。

 ルーニャレット・ルーナロッカはそれを理解しているからこそ重要書類の横流しなどしようとはせず、またルーニャレットがそれを理解しているという事を理解しているからこそニェーレは彼女に多くを任せているのだろう。

「………ふう」

 左手で顔を隠したルーニャレットの溜息が上下左右、白色の金属で固められた廊下に響く。もはや何の音もしなくなったエレベーターから離れたルーニャレットが歩く度、金属製の床にその靴音がコツコツと響いて反響する。

 本当はリノリウムのような一定以上の軟性を持った床にした方が足裏に良く、金属やコンクリート張りの床は人が頻繁に歩く場所には全く向かない。歩く際の衝撃を全く吸収しない硬い床は、一歩進む度に靴底を伝って衝撃が全部足底そくていに伝わってしまい、足裏の筋肉やの骨周りに良くないのだ。

 しかしアダン博士は敢えて金属製の硬い床にしている。どれだけ言っても「研究所っつったら金属製の殺風景な部屋だろうが! 真っ白な壁や通路が目に眩しいぐらいが丁度良いんだよ!」と言って何も聞かないのだから、頻繁にここを通るルーニャレットはわざわざスポーツ用の衝撃緩和インソールを購入するハメになった。

「………ルーニャレット・ルーナロッカです。開けてください」

 左手で隠した顔から目線だけ出して声紋認証ロックのカメラに顔を向けて喋ると、ガラスの向こうにあるカメラがズィィィムと動く動作音がする。

 やがて声紋と網膜の両方のロックが解除され、端からみれば壁にしか見えない両開きの扉が軽い機械音を鳴らしながら開いていく。


「オッホォォオオオやっぱドリルさいっこぉぉぉおおおおっ!」


 その瞬間、渋い声色をした男の甲高い声が扉から漏れ出し長い廊下に響き渡った。それに合わせて機械が回転する大きな音がルーニャレットの耳をつんざくように通っていく。

 左手で隠していた顔を晒しながらその声の主に向かってルーニャレットが歩いていくと、声の主は「おおルーニャレット女史じゃねーか見ろこれほら見ろ!」と渋い顔と声に似合わず子供のようにはしゃぎ出す。

「二重螺旋式ドリルだよ見ろこれ作んの超大変だったんだけどようやく出来たんだよクゥゥゥゥ堪んねえっ!」

 言われて目を向けた先には一切の感情が存在しない顔をした女性が一人。ゴテゴテとした金属製の装備を身に纏ったその女性の右腕に、どう考えても大き過ぎるドリルが装着されていた。そのドリルは良く見ると通常の物とは異なり、二本の線のような切れ込みが入っていて、それらは派手な機械音を鳴らしながら互いに交差するように回転していた。

「あ、あ、あ、あの、アダン博士…………あの、あ、あ、書類………に、ニェーレさんからです」

 左手で少しだけ顔を隠したルーニャレットが敢えて何もコメントせず渋い顔の男性に茶封筒を差し出せば、それを見たアダン・グラッドは「あぁ?」と呻きながらそれを抓み、


「要らんわこんなもん」


「えっ」


 手首にスナップを効かせながら、まるでフリスビーのように机に向かって放り投げた。机の上には既に何枚かの書類が置かれており、投げられた茶封筒はそれらに擦れて減速していき机の中央辺りで停止した。

「どうせ掛かった経費がどうたらとか次の納期がどうたらとかだろうが。んなもんオレの知ったこっちゃねえ」

「い、い、い、良いんですか?」

 ルーニャレットがそう問うと、アダン・グラッドは羽織っていた白衣の胸元から自作のリキッド加熱式タバコを取り出し、それを口に咥えて深く吸い込む。まるで肉でも焼ける時のようなジュゥゥという蒸気の発生する音を鳴らした機械から口を離したアダン・グラッドは、斜め上を見上げるようにして口から白い煙を吐き出す。

 ニコチンは含有しているがタールの入っていないリキッドタイプのその加熱式タバコは紙巻き煙草の度数に合わせるなら十九程度だと言っていたが、煙草に対しては何も知識を持っていないルーニャレットには何の話なのか全く分からなかった。

「良いかルーニャレット女史。この帝国の魔導機の稼働は全てオレが居なくてもどうにでもなるように出来てる。オレがそうしたんだ。この世界の、この国は。オレが居なくなったとして何も変わらず回り続ける。そういう風にオレが望み、そういう風にオレが組んだんだ」

 先程までの子供のような声色とは打って変わって低く渋い声色でそう語るアダン・グラッドは、胸元のポケットに引っ掛けていた眼鏡を着けながら加熱式タバコを吸う。

「オレがすべき事は魔力導炉への魔力供給のあれやこれやぐらいだが、ぶっちゃけそれすら別にオレじゃ無くてもどうにかなる。それでもオレがここに居るのはその給料で得た金を使って作りたいもん作る為で、それが軍事転用出来る有用性の高いもんだと分かればボーナスが出る。そんでそのボーナスを派手に溶かして資材を仕入れ、オレはまたここで機械弄りを再開する。ルーニャレット女史があの小娘から受け取った書類は、その流れを書面に記しただけのもんだ」

「そ、そ、そ、そうなんですか?」

 ルーニャレットが問い掛ければ、アダンは堂々とした声色で迷い無く「そうだ」と返すが、直後に蚊の鳴くような声で「多分」と呟いた。

「お互いの金が絡んでる事だからな、書面に残しておかねえと後々揉めた時に面倒臭え事になんだよ。………中見てみろ、文字が読めねえルーニャレット女史でもデケえ判が捺してあんのが分かる」

 言われたルーニャレットが机の上にある茶封筒を開けば、中に入っている書類は余白だらけであり、少ない文章の間にやたらと改行が置かれて枠埋めされているような印象を受ける。そしてその最後に、流暢な筆記体で短く何かが書かれており、その上に大きな赤い判子が捺されていた。

「何かの注文とかそういうんだったら判は捺されねえ。その注文書に対する発注依頼了承書をオレが作って、オレがオレの判子を捺してお前に渡す。そしたらその紙っぺらみてえな感じの、同意書に対する同意書みてえなんがまた届く」

 ニコチンの摂取が終わったのか自作の電子タバコを胸ポケットに放り込んだアダンは「それはその辺うっちゃらかしとけ」と言いながら、着ていた白衣の襟を持ち上げるようにして肩を直す。

 そして無精髭が残る渋い顔を子供のように煌めかせながら「それよりドリルだよドリル! 見ろよ超カッケェっ!」とルーニャレットの肩を乱雑に抱き寄せると、凍ったような無表情のまま微動だにしない女性の方へとルーニャレットを連れていっま。

「……………………ぁ」

 その時香った紫煙の匂いの中に紛れる男性特有の香りが、ルーニャレットの鼻から脳へと突き抜けていく。

 今までもこんなような事は数多あった。場合によってはセクハラだとされてしまうスキンシップのようなアダンの動作は過去に何度も経験した事だが、今回は何故か妙に意識してしまう。理由など直前にニェーレが言っていた事以外に何も無かった。

 氷のような無表情の女性がドリルの付いた腕を上げれば、先端の二重螺旋ドリルとやらがギュィィイインと派手な機械音を鳴らして交差するように回転する。円錐形のドリルに二本の切れ込みが入ったように見えるそれは、回転に合わせて円錐の先端にまるで吸い込まれるような回転の仕方をしていた。

「きょっほぉぉぉおおおおカッケェェェエエエこれだけでおっ勃つううううっ!」

 両手でガッツポーズでもするかのような姿勢で膝を付いたアダン博士は、初めて自衛隊のパレードを見に来た新米ミリオタのようなはしゃぎようで、それはマグロの競りに鉢合った外国人観光客のような迷惑行為にも似ていた。

 だが見境無く騒ぎ立てて漁師の仕事を妨害する外国人観光客とは違って、見ているとこっちまで楽しくなってくる不思議な無邪気さがそこにはあった。

 それは子供心。いわゆる童心を、アダン・グラッドという男は忘れていないからだろう。外国人観光客のそれは好奇心故のものだが、アダン・グラッドのそれは純粋な童心故のもの。齢六十後半ながらもドリル兵器に対する浪漫を忘れない、それがアダン・グラッド博士である。

 サンスベロニア帝国では火薬を使用した銃火器の量産に成功しており、ある程度の権力、立場の者は自衛の為にとハンドガンの所持と使用訓練が義務化されているのだが、アダン・グラッドも当然そういった理由からハンドガンを携帯している。

 それらのハンドガンは飽くまでも自衛の為であり、間違っても暗殺や喧嘩で使用されても治療が間に合うようにと小口径かつ火薬量もかなり少ないものが支給されるのだが、アダン・グラッドは「発砲音がダセえ。オモチャかよ」とそれを一蹴、自身の所持する銃だけデザートイーグルのような大口径かつ火薬量の多い弾丸を使用したものを携帯している。

 それこそそっちの方がよっぽどオモチャみたいではと思ってしまう程バカデカいハンドガンをしっかり扱えるのかと疑問に思ったルーニャレットだが、竹で出来た弾頭を使用した模擬弾での射撃訓練にルーニャレットが同行した際にその疑問はすぐに晴れた。デザートイーグルクラスの、もはやハンドに収まっていないハンドガンを容易く片手で構えたアダン・グラッドは、体を横向きに流すように銃を構えると難無くそれを撃った。ガコォンという野太い重低音と共に発射された竹製の模擬弾頭は数十メートル先にある標紙のど真ん中を的確に撃ち抜いたかと思えば、即座に次弾を発射。まるで獣の唸り声のように低く太いガコンガコンという連続した発砲音と共に、初弾で開けた穴を次々と広げていったのだから、アダン・グラッドというイケオジは浪漫だけの男では無いとルーニャレットは見識を改めざるを得なかった。

 そして同時に、都合十二発を撃ち終えたアダンが掠れるような声で「手首痛え……」と呟いたのを聞き逃さなかったルーニャレットは「この人少し可愛い」とアダンを意識するようになり始めた。

「よっしゃこれ実用化だ。明日には前線配備だ。現地に持ってって敵味方共に大自然すらもを蹂躙だぜ。さくらCherry Blossom、早速量産体制に入れ」

 膝を付いていたアダンがすっくと立ち上がってそうまくし立てると、さくらと呼ばれた氷のような無表情の女性は、表情通りの無機質な声色で「耐荷重オーバーですマスター。積載量を減らして下さい」と悲しい事実を突き付ける。その言葉に、立ち上がったばかりのアダンは再び膝から崩れ落ちた。

「…………………何キロ超えてる。誤差の範囲なら他の駆動系に調整加えて負担減らす」

「耐荷重をおよそ百八十キログラム超過しています」

「誤差だよ誤差ぁぁぁあああああっ!」

「いっいっいっいやっ! ひゃっ百八十キロはごっごっ誤差じゃないと思いますっ! どう考えても見過ごせない数値だと思いますっ! はっはっ、博士と私を合わせてもおっおっ重いですっ!」

 ルーニャレットが声を荒らげるが、それはアダンにとっては追い打ち所かトドメとなったようで、アダンは「おっぴょぉぉぉおおお」という奇声を上げながら横に倒れゴロゴロと転がっていく。

 かと思えばゴロゴロと転がりながら再び同じ位置まで戻ってきて、まるで何事も無かったのように渋い声で「仕方が無え」と呟く。それを見たルーニャレットは、しかしもう慣れたもので。床の埃で灰色になり掛けたアダンの白衣に手を伸ばしてパンパンとそれを払ってあげた。

さくらCherry Blossom、もう一度それ回転させろ。その駆動音、耳に焼き付けてちょっとシコってくる」

 唐突なその爆弾発言にルーニャレットが「え」と声を漏らすが冗談では無かったようで、さくらと呼ばれた氷のような無表情の女性がドリルを回転させると、アダン博士は深く見据えるようにそれを睨み付ける。それと同じようなタイミングで、白衣に付いた灰色の埃を払っていたルーニャレットの手の先に、下着とズボンの二枚の布を間に挟んでいるにも関わらずドリルよりもよっぽどドリルのようにそそり勃つバベルの塔が浮かび上がっていた。

「─────ひぇっ」

 唐突に視界に現れた余りにも巨大なテントに驚いたルーニャレットが尻餅を付く。僅かながらも恐怖心があるが、その恐怖心は本当にちっぽけなもの。布越しとはいえここまで男性器に近付いた事など生まれて初めてなルーニャレットなのだから、ましてそそり立つ男根なんて本の中の世界の話。

「うっし。イケる。これならイケる。三擦り半より遥かに早くイケる。最速を追い求めろ、世界を塗り替えてみせろ」

 尻餅を付いているルーニャレットには目もくれず、共用トイレの方向へと歩き出そうとしたアダン・グラッド。その白衣のズボンにルーニャレットは、

「まっ待ってくださいっ!」

 体が勝手に動きいてしがみついていた。

 尻餅を付いたままのルーニャレットに下方からズボンへしがみつかれた事でちょっと擦れちゃったのか、アダン・グラッドが「おぅんっ!?」と上擦った声を出す。慌てた様子で股間のテントの先端を抓んで中のモノと服とに隙間を作ったアダンは思わず「何しやがんだっ」と声を荒らげてしまった。

「あぇっ!? あっあのあのあのあっあっあっあのあのあの」

 怯えと興奮により吃音が強くなったルーニャレットを見て、アダンは声を荒げて怒鳴ってしまった事を強く後悔した。

 感情の中に恐怖が入り込むとルーニャレットの吃りが強くなる事を知っていたアダンは「ああ、別に怒った訳じゃねえ。ちっとビビッて焦っただけだ」と声色を戻してルーニャレットに語り掛ける。

 本来なら、いつもなら、これでルーニャレットは落ち着きを取り戻す。しかしどうした事か今回のルーニャレットは一切落ち着きを取り戻す様子が無くキーボードを連打するかのように「ああああああのあのあのあのっ」と吃り続けている。

「よおルーニャレット女史」

 それを見たアダンがズボンの裾を掴まれたままで立て膝を付く。掴まれた側の足を立て、反対の膝を折った状態でしゃがみ込んだアダンがルーニャレットと目線を合わせると、ルーニャレットは反射的に左手で顔の半分を隠した。

 その仕草を見たアダンは敢えてその左手の上に自身の右手を重ねながらゆっくりと、まるで子供に諭すように言葉を続ける。

「今のオレはちょいと急いでる訳だが、別にそれでお前を置いて行くようなこたぁ無え。急いでるのはオレ個人しか関わってねえ内容だからな。誰ぞを待たせてるとかじゃあねえし、納期が九尾鞭ナイン・テイルズを振り回してオレのプリケツ追っ立ててる訳でもねえ。オレは居なくならねえ。オレはここに居る」

 ドリルを見て心底から興奮する様子や、そのドリルを実戦に持っていけない悔しさから横回転するような男とは思えぬ程に落ち着いた声色で優しく諭すアダンに、吃音症が悪化して過呼吸になり始めていたルーニャレットの心拍数が、手を引かれ共に歩くかのように同調し、落ち着いていく。

 ルーニャレットが両手を下げ、ゆっくりと深呼吸を行う。左手で隠れていた顔の半分をアダンに見られる事に、ルーニャレットはもはや何も感じなかった。

「すぅぅぅ────────はぁぁぁ───────」

 それはアダンから教わった深呼吸のやり方。「鼻から六秒吸って、口から十秒吐け。それを五セット。しっかり数えろ。ミスって吸うの吐くの間違えたら最初からやり直しだ」と事細かに言われたその深呼吸を行うと、半信半疑だったルーニャレットの心は不思議と落ち着いていった。

 パニックや焦り、混乱というネガティブな事象から一時的に目を逸らす事の出来る深呼吸。

 数字を数え、その数字とは異なるセット数を数え、鼻呼吸と口呼吸を意識して切り替える。呼吸だろうと数字だろうと間違えてしまったら最初からやり直し。意識して呼吸時間を調整して長く吸って長く吐けるようにするが、しかし慣れない内は何度も時間に満たないで止まってしまう。呼吸の調整が出来るようになってくれば、今度は口呼吸と鼻呼吸の間違いが現れる。それを制御する頃には「今何セット目だっけ」なんて疑問が頭に浮かぶ。

 それらを通り抜ける頃には、目の前に立ち塞がっていたパニックや焦り、混乱というネガティブな感情は全て思考の外に追いやられている。呼吸に全意識を向ける事で、パニックを軽減するアダン・グラッドから教わった深呼吸法。

「落ち着いたか」

 ルーニャレットの顔の半分。禁じられた左頬を撫でながらそう言うアダンに、ルーニャレットは「は、はい」と答える。

「したらオレぁちんちん磨きに文字通り精を出したい訳だが、お前何かオレに用あったんだろ。何だ。言ってみろ。内容によっちゃあ聞き入れてやらん事も無え」

 余りにも明け透け過ぎるその物言いに落ち着いた心臓が再び跳ねそうになったルーニャレットだったが、再び吃りそうになる自身の声を唾を飲むようにして抑え込む。これはルーニャレット自身が編み出したテクニックの一つだが、成功率はそう高くない。

 しかし今回は成功したようで「あ、あ、あの」と軽く吃りながらもしっかり喋れる予感がしていた。

「おて、お、お、お手伝い、その、そ、そ、そのその、お手伝いします………。わ、わ、わ、私、私が、そそそそそその、はかっ博士の……そそそその、しししししこ、………あのあのあの」

 予感は所詮予感だった。結局吃りまくったルーニャレットは言いたい事を最後まで言い終える前に真っ赤になって俯いてしまったが、アダンは断片的なその言葉ピースからルーニャレットが言いたい答えを導き出したのか「ああ? お前まさか……」と驚いた表情になる。

「おいルーニャレット女史、お前まさかヌいてくれるっつーのか。オレがシコるの私が手伝いますよってお前そう言いてえのか」

 下がっていた両手を再びアダンの膝に乗せたルーニャレットは、そのズボンをギュッと力強く掴みながらそこに顔を押し付けて黙ってしまった。今のルーニャレットは、例えアダンに「顔を上げろ」と言われたとしても到底上げれる気がしない。ただでさえ見せたくない顔が、もっと酷い顔になっているだろう気がしたからだ。

「あー。んー。ゔぁー。………そうかあ」

 アダンが顔を上げて唸る。

 その呻きに、ルーニャレットは恐怖した。今のルーニャレットの心の中は、一から十まで恐怖で埋め尽くされていた。想いが伝わった際に、必ず訪れる拒否の可能性。自らの想いが否定され、突っぱねられてしまう可能性に、ルーニャレットは心底から怯えていた。

 今すぐに逃げ出したい。何もかも投げ出して逃げ出したい。そうしてまた何から何まで初めからやり直してしまいたいという強い衝動AVPDに駆られるが、顔を押し付けたズボンからする煙草臭いアダンの香りを頼りに、ルーニャレットは歯を食い縛って耐え続けた。

「……………本気か? それジョークとかじゃなくてマジで言ってんのか?」

 ルーニャレットの背中が強く跳ねる。答えなければいけない。本気ですと、自身の想いを伝えなければいけない。しかしルーニャレットの口は歯を食い縛った形のまま微動だにせず、喉の奥が詰まったように言葉が出ない。

 そんなルーニャレットの頭の中には、心の奥から尊敬しているとある男性の姿が浮かんでいた。

 アダンでは無い。アダンも心の奥底から尊敬している男性ではあるが、今回浮かんでいるのはアダン・グラッドというイカれ博士では無い。

 ルーニャレット・ルーナロッカが吃音症を発症してから、ずっと心の支えにし続けてきた人物。ルーニャレットの比にならぬ程に強く酷い吃音症を持ち、幼少期から馬鹿にされ、笑われ、虐げられそしられ続けたその人は、まるで象の足のように大きく重くのしかかるその吃音を、Scatにするという形で乗り越えた。

 ルーニャレット・ルーナロッカの脳裏に浮かんだ者は、パッと見気の良いおいちゃんにしか見えない伝説の歌手。ジョン・ポール・ラーキンスキャットマン・ジョンその人であった。

 上手く喋れない。普通の人のように喋る事が出来ない。

 なら歌えば良い。喋りたい事を歌詞に乗せて、伝えたい人に届ければ良い。

 喋る事と、歌う事は違うのだ。

 ルーニャレットは力強く掴んだアダンの膝に自身のデコを叩き付けんばかりの勢いで頷いた。自分は歌に自信が無いから想いを歌詞に乗せる事は出来ないけれど、かの偉人には到底及ばないながらも、ルーニャレットは喋る以外の手段を用いて必死に想いを伝えた。

 自らの問い掛けに対してテンションが高い時のインコのように頷き続けるルーニャレットを見たアダンは、誰にともなく「そうか……」と呟く。

「ルーニャレット女史。お前男性経験は? 処女は捨てたか?」

 ルーニャレットが激しく首を横に振り、アダンは「そうか」と返事をする。

「………わりいんだが───」

 その言葉にルーニャレットが強く震える。泣き出して喚き散らしたい衝動に駆られるルーニャレットに対して、アダンはゆっくりと言葉を紡いだ。

「オレぁヌいて貰うだけじゃ満足出来ねえ。手とか口とか関係無え、するなら最後までだ」

 ルーニャレットの体の震えが止まる。しかしアダンが何を言っているのか理解が出来ず、立て膝のままで呟くアダンの膝に顔を埋めたままで動けない。

「んで、一度でもヤッたらオレは調子に乗る。一度でもヤれたらオレは図に乗る。最低でも一日いちんち一回はヤらせろって言うだろうし、ルーニャレット女史が想像も出来ねえようなプレイもしたがる。しかもオレぁ独占したがるタイプだ」

 さっきしたそれと同じようにゆっくりと諭すように言葉を紡いていくアダン・グラッドは、その手を持ち上げルーニャレットの頭の上に乗せる。一切の引っ掛かりを見せぬまま指の隙間をするすると通り抜けていくその髪を楽しんだアダンが、ルーニャレットの耳の上端に一瞬だけ指を擦らせる。

「───ひんっ」

 人間の体の部位の中でも、耳はかなり敏感な部位に含まれる。そこを不意打ちのように撫でられたルーニャレットは思わず飛ぶように背中を跳ねさせたが、しかしアダンのズボンを鷲掴むその手を離すような事は無かった。

「オレが言ったらヤらせろ。でもオレ以外の男には死んでもヤラせるな。オレが死んでも、お前は死んでも他の男に股を開くな。…………良いな?」

 耳の上端をすりすりと擦られるルーニャレットは、その異質な快感に上手く頷く事が出来なかった。代わりに俯くような体勢のまま右手、左手と少しずつ交互に前へと進めていき、やがてルーニャレットはアダンの股間に自身の顔面を押し付けた。その姿を見たアダン・グラッドは、歳相応の穏やかな声色をしながら「そうか。いい子だな」と言ってルーニャレットの頭を優しく撫でる。

「オレのはデケえからな。まずは一から慣らしていくか。………ルーニャレット女史、嗅げ。深呼吸して、まずはオレの臭いを覚えて、オレに慣れろ」

「すぅぅぅ────────はぁぁぁ───────」

 言われるままにルーニャレットが深呼吸を始める。アダンに命じられてから何一つの躊躇も無いままその言葉に従ったルーニャレットは、機械弄り続きで汗臭いアダンの股間に顔を押し付けたままで深く深呼吸をする。ルーニャレットの頭を撫でていたアダンの指が、再び耳の上端を筆で撫でるように僅かに擦る。

「────ふっ………んっ、ふんっ、ふっむ……………んふっ」

 過敏な耳を撫でられたルーニャレットが呼吸を乱すのに合わせ、ぺたんと座っていたルーニャレットの腰がバネ仕掛けの絡繰からくりのように震えてしまう。

「………良い子だな。ゆっくり落ち着いて、しっかり覚えていけ。金が掛かってる時以外は焦った所でロクな結果にならねえからな」

 歳相応の声色と、歳相応の穏やかな微笑みを浮かべたアダンだったが、貴重極まりないアダン・グラッドのその笑顔をルーニャレットは惜しい事に見逃してしまった。



 ───────



「げ……………」

 長い長いエレベーターでの旅を終えたニェーレは、執務室に入って二秒で呻いた。

 政務に関する書類や作戦立案書が丁寧に整えられて並ぶ自身のデスクの上に、一枚の白い紙が置かれていたからだった。

 真白なその紙にはニェーレも見覚えや聞き覚えのある内容の文字が整然と並んでおり、それはサンスベロニア帝国の地下施設の警備強化に関するもの。

 何日か前にニェーレがペルチェと話した内容。魔力導炉のある最下層への侵入を防止する為の手段は豊富に用意して厳重なものとなったが、『それでも侵入された場合』に侵入者を排除し、ヤケになった対象が起こすだろうサボタージュ破壊工作を阻止する為の手段に乏しいのではという会話をした時に聞いたような単語が羅列されている書類。

 地下空間の施設警備に関する書類。要するにアダン・グラッドに渡さなくてはならない書類である。

「…………はあ」

 ニェーレ・シュテルン・イェーガーという女が敬愛し盲信しているペルチェ・シェパードという男は、当代の国王であり総帥でありサンスベロニア帝国に於ける現帝王であるが、しかし彼はお世辞にも仕事が早い有能人とは程遠い。

 サンスベロニア帝国の頂点に立つペルチェ・シェパードは独裁国家の最高権力者であるにも関わらず非常に優しい心根の持ち主であり、極めて思慮深く誰かの為に泣き笑い怒る事が出来るものの、反面で書類仕事に関しては中々どうしてパッとしない。内容自体に文句は無いのだが、書類一枚完成させるのにそこそこ時間を掛ける上、いざ完成してもちょこちょこ誤字や脱字がある。

 ニェーレかここを出る時には無かったその書類は、そんなペルチェが作ったものなのだろう。何日か前に話したような内容がそっくりそのまま書き記された書類は、急いで作ろうとしたのかいつもよりも少しだけ誤字が目立つ。

「………ふふ」

 それを見てニェーレは小さく微笑んだ。

 嘲笑っている訳では無い。愛おしくて笑顔になってしまっただけだ。

 何もかもが完璧な人間が居たとしても、きっとその人は、何もかもが完璧であるにも関わらずひとりぼっちで孤独に泣く事だろう。何から何まで自分より優れているような人物がもし本当に居たのなら、過半数の人が目障りに感じる事だろうから。

 どうしたって自分はそいつの下位互換のようなもので、誰もがそいつを重用する。

 そんなような人間であれば、きっとみんな付き従う気にはならない。「何もかもが完璧なんだろ? なら全部お前一人でやれば良いよ、別に自分が居る必要無いじゃんね」という話になってしまうからだ。

「………………」

 書類の中の誤字を指でなぞりながら微笑むニェーレは、ペルチェが完璧では無いからこそここまで慕っている。

 森林伐採を伴う開拓を止める政策に強い同調を示したニェーレは、当初体を許すまでには至らないと思っていた。精々が従順な部下であり、目指すとすればペルチェの右腕と呼ばれるようなポジションだったが、気付けば不器用で未熟者ながらも心の優しいペルチェに惚れ込んでしまっていた。

 駄目な子程可愛いというような感じだろうか。誤字や脱字を指摘すると悔しそうに顔を歪め、良い政策や作戦を考え至ってニェーレに褒められた時は心から嬉しそうに微笑む。

 そんな人だからこそ、ニェーレは法度ルールを得るまでペルチェに心を許したのだ。

「………全く。仕方がありませんね」

 手に取った書類を丁寧に折り畳んだニェーレは、デスクの上に立て掛けられた金属製のミニラックから茶封筒を取り出し書類を入れる。そしてデスクの上に置いてあった小さなおもちゃを片手に握ろうとした、その時だった。

「ニェーレ様、いらっしゃいますか」

 部屋の外から誰かが呼ぶ声がした。男性の声だ。

 知らない男の声だ。しかし勇者では無い。勇者の声と名前はもう既に全員覚えている。

「開けて構いません。どうぞ」

 ニェーレがそう言うと「失礼します」と言った後、部屋の扉が開かれ男が入っていた。

 男はサンスベロニア帝国の文官が共通して着る制服を纏っており、部屋に入ると「つい先程ニェーレ様の元を伺ったのですが、ご不在でして」と何やら勝手に喋り始めた。帝国の文官たちはどいつもこいつも揃って似たような顔付きをしているし、その上制服を着て見た目も同じようであれば見分けなど付きようが無かった。

「陛下から書類を預かりまして、ニェーレ様の元へとお届けしようとしたのですがお部屋に居りませんで。デスクの上に書類はお目に掛かられましたか?」

 そう語る文官に対して、しかしニェーレは何も反応せず、伸ばしていた腕を動かしデスクの上に置いてあった小さなおもちゃを手に取った。

「……………」

 そして何も言わないまま、その小さなおもちゃを片手で弄ぶ。

「………ニェーレ様?」

 完全に無視された文官は、しかし顔をしかめたり苛立ったりするような様子は見せずに問い掛ける。

「───────これは私の持論なのですが、」

 片手でおもちゃを弄りながらニェーレは独り言のように呟き始める。

「一般の方々にとって損にも得にもならないような『無駄』というものは、私にとってマイナスなのですよ」

「……はあ」

 唐突に脈絡の無い事を語り出したニェーレに、文官は気の抜けた返事を返すしか出来ない。

 そんな文官にニェーレは「フィジェット・トイってご存知ですか?」と問い掛ける。

「手のひら台の小さなおもちゃ。オンオフのスイッチや小さなレバーとかが色々と詰め込まれたおもちゃなのですが、どれも意味の無いパーツなんですよ。スイッチはオンオフを切り替えても何も起きませんし、レバーは何も操作出来ない、無意味なパーツの詰め合わせなのですよ」

「……えっと、あの」

「ですが落ち着きの無い子や精神的に参っている方は、それを弄る事で癒やされたり、夢中になって落ち着いてくれたりするのです。…………意味の無いパーツの詰め合わせなのに、プラスになっているのです。無意味なものを掛け合わせた結果、そこから得が生まれているんですから、全く不思議なものです。貴方もそうは思いませんか?」

 語り続けるニェーレにそう問われた文官は「はあ、まあ確かに不思議ではありますね」と当たり障りの無い返答を返した。

「本当に不思議です。一般の方々にとっては損でも得でも無かったはずのものが、掛け合わされる事でプラスになる。その辺の人間がプラスでは無いと思っているものは、実際にはしっかりマイナスなんですよ。………私が何を言いたいか分かりますか?」

 ニェーレのその言葉に文官は少しだけ考えるような素振りを見せてから「申し訳ありません。全く分かりません」と素直に答えた。

「私にとって貴方のような存在はマイナスなんです。草とはよく言ったものです。どれだけ刈り取っても無限に現れる、まさしく雑草のような存在ですからね。居ても居なくても何も変わらない貴方のような存在はマイナスなんですよ」

 手に持ったおもちゃのレバーを親指でくりくりと動かしていたニェーレは、満足したのかそのおもちゃを上着のポケットに入れて向き直る。

「掛け合わせてプラスになる前に、いっそ除草剤でも撒く事が出来れば楽なんですがね………」

「───────っ」

 文官が思わず後退る。

 文官を見るニェーレはいつもと何ら変わらない無表情ながらも、しかし素人であっても分かる程の強い殺意を身に纏っていた。

「私は人の顔を覚える事がとても苦手なのですが、その代わりに人の声は一度でも聞けば二度と忘れません。………どちら様でしょうかね」

「さっ昨日さくじつサンスベロニア城内で勤めさせて頂く事に───」

「私これでも最高幹部なんですよ。新人であれば執務室への入室はおろか、声を掛ける事すら越権行為とされます。仮に才能を買われて初日から高官と同じ立場を得たのだとして、であれば何故それが私の耳に入っていないのでしょうか。優秀な人物が即日で成り上がったとして、何故私の元へ挨拶の一つもせずにシレっと過ごしているのでしょうか」

「────────」

「もしも挨拶回りに来ていたのなら、私はその声を絶対に忘れません。外見こそ数秒で忘れるでしょうが、三十年前に一言だけ言葉を交わした行商の方の声ですら私ははっきりと覚えています。今まさに喋り合っているかのように、その声を思い出す事が出来ます。他の方はそうでは無いようですが、私はそういう脳異常を持っているそうですからね」

 呻くように黙り込んだ文官を見詰めたまま、ニェーレは茶封筒をデスクにそっと置き、

「し───ッ」

 扉の前に立ったままの文官に向かって急接近する。文官が懐に手を入れ即座にナイフを取り出すが、その次の瞬間には文官の視界からニェーレの姿は消えていた。

「な……………っ!?」

 ニェーレ・シュテルン・イェーガーは身長百センチ程度の非常に小柄な人物である。幼子にしか見えないその外観で「今年で三十八です」だなんて言われれば、小人症か栄養不足かそういう種族なのかと思ってしまう程に背が低い。

 そんな小柄なニェーレが不意を突いて急接近してきて、かと思えばダッキングのように膝を曲げしゃがみながら床を滑ってくるのだから、余程動体視力の良いものでも無い限りはその姿を見失って当然である。

「……くっ。────────────ひッ!?」

 慌てた文官がナイフを握りながら足元を見れば、文官の足元に急接近したニェーレが何事も無かったかのようにすっくと立ち上がる。

 そして文官はニェーレと目が合う。それまで纏っていた殺気がどこかに消えたかのような雰囲気を醸し出しているニェーレはやはり何事も無かったように文官を見上げるが、その小さな顔の閉じられた口元は、少しだけ唇を突き出しおちょぼ口のようになっている。

「ギッ────ァガッ」

 途端、文官は握っていたナイフを取り落としながら両手で股間を押さえ始めた。

 しかし文官の両手の指には本来無ければならないはずの感触が感じられなかった。履いていたはずのズボンの感触も、────そこにあるはずの、自分の陰茎の感触も無かった。

「………ペッ」

 膝から崩れ落ちた文官の視界にニェーレが何かを吐き捨てる。文官が反射的に目を向ければ、それは赤み掛かった液体に濡れた二枚の小さな布片だったが、どういう事なのかその布の色や柄には見覚えがある。

「………ん。………んっん」

 両膝を抱くようにしゃがみ込んだニェーレがうずくまって脂汗を流す文官に口を閉じながら鼻を鳴らすように呻いて呼び掛けるが、小刻みに震えるような全身の痙攣と冷や汗が止まらない文官は、自身の身に起きた事実を受け入れられずニェーレの顔を見る事が出来ない。

 通常の生活を送っていればまず経験しないだろう痛み。尿管結石痛みの王を容易く超える、もはや異次元レベルの痛みに呻く事すら出来やしない。心臓が鼓動をする度に、送り込まれた血流によって血管が膨張。その際に都度訪れる想像すら出来ない激痛に息をする事すら必死なのだから、ニェーレの声なんて耳に入る訳が無かった。

 そんな文官の目線の先に、膝を抱くようにしゃがんだニェーレのスカートの中身が見える。それは下着としての機能を果たしていない紐同然のものであり、会陰から二本に分かれた紐はニェーレの股間の両脇を通って腰まで繋がっている。だがしかし、その紐と紐との間に布は無く、ニェーレが履いているそれは下着を縁取っただけのただの紐でしかなかった。

「ひ──ぐ……ヒ、ヒィッ」

 ほんの少しだけ白い半透明な液体が垂れているそこを目の当たりにした文官は、本来であればラッキースケベに大興奮するべき瞬間なのかもしれない。しかし自身の股間を押さえる文官は自分の股間が目の前にある割れ目のような状態になっているのではと思ってしまった。

「ん。……んっんー。………んーっ!」

 再び鼻を鳴らして呻いたニェーレは片手を文官の顔の近くまで伸ばし、指を立ててくいくいと曲げる。床にへばり付いた布の欠片を呆然と見ていた文官は、そこでようやく頭を上げてニェーレの顔を見る。

 両頬を膨らませながら小さく唇を突き出し、まるでキスでも待っているような顔をしたニェーレが涙目になった文官と目が合う。するとニェーレは口をもごもごと動かして────、

「………んぉえ」


 ────食い千切った文官の陰茎を口からだらりと垂らした。


「────────────」

 女性と違い、男性は自らの股間を目にする頻度がかなり多い。だからこそ、まるでニェーレの口から陰茎が生えているかのような光景。通常のフ◯ラチオとは百八十度反対から陰茎を咥えられているそれが、噛み取られた自身のモノである事はすぐに理解出来た。

「ぁ」

 眼球をぐるりと上に向けた文官がどさりと音を立てて横に倒れ、そのままピクリとも動かなくなった。

 それを見たニェーレは口から垂らしていた文官の陰茎をポッと音を鳴らしながら床に吐き捨てると、べちょりと湿った音が執務室に響く。

 すっくと立ち上がったニェーレは床に落ちた男根を黒いパンプスの爪先で踏んだ。しかしそれは力強く踏み付けるようなものではなく、ただパンプスの靴底に当てるだけのもの。

 それをむにむにと押し付けたり離したり転がしたりつついたりと弄びながら、ニェーレは口元もごもごと大きく歪めながら口内に唾液を溜め込んでいく。噛み切った際に溢れた血液を唾液と絡めながら舌の上に集めていき、

「……………………………ペッ」

 横向きに倒れたままで動かなくなった文官に向かって吐き付けた。……しかしまだ口の中が気持ち悪いのか「………んっんん! ぺっぺっ」と痰を吐き出すかのように何度か喉を鳴らして唾を吐き捨てる。

「………全く」

 デスクの前に戻り茶封筒と小さなおもちゃフィジェット・トイを取り直したニェーレは執務室から出ようと扉に向かう。その途中、完全に意識から外れていた肉片をぐにゅっと踏み付けたニェーレはズルリと足を滑らせ「──ぁわっ!?」と驚くが、寸での所で何とか転ばずに済む。

「なぁーもうっ!」

 苛立ちを顕にしたニェーレが扉の前だ横倒れになっている男をパンプスの靴底でぐいぐいと必死に転がして動かす。

 何とか男を退かしたニェーレが執務室から出ると、丁度そこに女性の文官が通り掛かる。無表情で廊下を歩いていた女性の文官はニェーレを見るとパッと顔を綻ばせ「あら、これはニェーレ様。お疲れ様です」と頭を下げた。この人の声には聞き覚えがある、元々は飛空艇部隊の医療班に所属していた人だ。私の出世に伴って後を追ってきたとか言っていた気がする。

「……貴女、今急いでいますか?」

「………はい? …………いえ、仕事は残っておりますが急ぎの用ではありません。何かお困り事ですか?」

「スパイが紛れ込んでいました。中で倒れています。運び出して尋問に掛けて下さい」

 それだけ言ったニェーレは女性の返事を待たずにコツコツと音を鳴らして廊下を歩き始めた。



 エレベーターの扉が閉まると、コトンと小さくカーゴが揺れ体が宙に浮かぶような感覚がする。それは少しの間だけで、すぐに地面に立っている感覚が戻ってきた。

 その感覚に合わせて、ニェーレは上着のポケットの中に入っているフィジェット・トイに触れる。親指に触れたのはオンオフのスイッチだったが、正直それは好みでは無い。ニェーレはフィジェット・トイを他の指で動かし目的のパーツを探す。

 やがてゲームのコントローラにあるアナログスティックのようなレバーに触れたニェーレは、それを親指でくりくりと回し始め、

「───ずっと貴方を見ています───」

 エレベーターのカーゴの中で、世界に向けて自らの想いを宣言した。

 深い紺色をしていたニェーレの瞳の、その右目が淡く輝きを放つ。するとニェーレは右の視界に映った光景に思わず大きく微笑んだ。

 ………ニェーレ・シュテルン・イェーガーの持つ法度ルールは自身に対して適応する自己型の法度ルールであり、その効果は『ペルチェ・シェパードを見れる』というだけのもの。適応すると現在のペルチェ・シェパードとその周囲の光景が右の視界に映り、適応中の右目はそれ以外見えなくなるというものである。

「あ………ちょっとおへそ出てる。………ふふ」

 男性は性的絶頂を終えるとすぐに眠くなってしまうらしいが、ペルチェ・シェパードもその例に漏れない。少し前に前にニェーレと行為に及んだペルチェはいつもよりもかなり長く行為に及び、都合三回に及ぶ連戦の最後もとても長く出し続けた。

「………いっぱい出して疲れちゃったのかな。………………可愛い」

 誰にともなく呟きながら笑うニェーレは他の者が見ればとても可愛らしい姿であり、数分前に男性の陰茎を噛み千切ったものとは到底思えないだろう。

「………おやすみなさい。ゆっくり休んで下さいね」

 愛おしげに呟いたニェーレの右目が輝きを失っていくのに合わせ、上着のポケットの中で動きを止めていたニェーレの手が動きを再開し、ゲームのコントローラにあるアナログスティックのようなレバーを親指でくりくりと回す。

 ニェーレ・シュテルン・イェーガーはペルチェ・シェパードの事を考えるだけで一日を過ごせるような女である。何せ法度ルールを得るぐらいまで彼を愛しているのだから、これから始まるエレベーターの長いぐらい脳裏に焼き付いた想い人の寝顔を思えば、きっとあっという間に過ぎるだろう。

 上着のポケットの中でフィジェット・トイを弄りながら目を閉じたニェーレは、ヘソを出しながら寝ていた総帥を思い返し「風邪ひかないといいな……」と呟き、やがてゆっくりと目を閉じた。

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