熱が呼び覚ます Wish of Day 6/7

その後は今後の方針を決めることにした。

今の映画はあくまで東雲を主人公にしたものだし伊吹にもずっとその路線で行ってもらってるからそこは変えない。

なら次の脚本を作ってそれを演じる方針で行くことにした。

もっともブランクもあるし何よりまた無理すると倒れかねないが、空いた時間や行き詰ったときの散歩中に見つけた公園で体を動かす程度には問題は無い。

寧ろこれも初心に帰ってやり直すことだと考えたらなんだか楽しくなってくる。

すごく久しぶりに、心がワクワクしてるような気がしていた。


(自分で作ったものを演じるかぁ、やってみるのもいいかもしれないな)


そうすれば東雲に演技を伝えるときに分かりやすくできる。

それならとスマホを手にして進捗をチェックすればその最中に電話がかかってきた。


(東雲?どうしたんだ?)


即座に連絡ボタンを押して電話に出る。


「東雲?珍しいじゃんそっちから電話してくるなんてさ」

「…………」


間違い電話かと思うくらいには長い沈黙とその向こうで聞こえる息遣い。

何かを伝えたいのに何を言えばいいのか分からない、そういうところだろうか?


「蓮、さっき幽霊の事について聞いたよね?」

「うん、あの事は本当にごめん。無神経だったよ」


切り出したのがそれということはやっぱり気にしていたという事なんだろうか。


「ううん、そうじゃなくて。少しだけ気になることがあるんだ」


そう言うと何回か深呼吸の音がした後、それは告げられた。


「浅井京子って人を蓮は知ってる?」


その言葉を聞いた時すぐには答えることが出来なかった。

どうしてその名前を知っているとか、言うべきことは幾らでもあったはずなのに言葉が出ない。

その声が泣き出しそうなほど切羽詰まっているのが分かったから。


「……ごめんなんでもない、忘れて」

「まって、東雲!待って!」


呼び止めるよりも早く通話は切られそこには静寂を残すだけだった。


(京子さんのこと、東雲が知ってるのか?だけどなんで?)


一難去ってまた一難、気が付けば新たな困難が僕らに降り注ごうとしていた。

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