熱が呼び覚ます Wish of Day 5/7
昨日紹介してもらった朝焼けが綺麗に見える丘、そのベンチであの人は確かに待っていた。
その姿を見つけると気が付いたのか少し切なげに微笑んでいた。
「来てくれてありがとう、蓮くん」
夕焼けを背に佇むその姿は何よりも鮮明に心を奪っていく。
だけどずっと胸の内に沸いていたのは疑問だった。
「なんで、なんで僕を呼んだんですか」
「謝りたかったからだよ、君の傷に触れちゃったことに」
「よかったんですよ、あのまま放っておいてくれても」
そう、それが自然の成り行きだ。
人は待たない、人は失敗を許さない、人は容易く切ろうとする。
それがごく自然なことだし関わりたくないと思えばそれでおしまいだ。
たとえそれが友達だろうと、憧れであろうときっと同じなんだと思ってきた。
なのに、あんな風にしておきながらどうしてこの人は切ろうとしない。
「そこで終わらせちゃったら、君はずっと泣いたままでしょ?」
「そんなの、関係ないじゃないですか。あなたと僕は結局のところ他人なんですから」
「うん、そうだね。私は君じゃないから君の抱える痛みも苦しみも分からない」
それでもと前置きをしたうえで、かつてないくらい真剣な目で僕を見てくる。
「それでも私は君を知りたい、君が抱える傷を癒して生きたい。それじゃダメかな?」
その言葉と共に心臓が脈を打つ、体をめぐる命の線が少しずつ熱くなってくる。
「ねぇ蓮くん、教えて?君は本当は何をしたいの?」
その真摯な瞳から、声から、仕草から目が離せない。
(本当に、したいこと……)
それと同時に体の奥がだんだんと熱を帯びてくる。
この感覚は知っていた、この感覚は分かっていた。
病院のベッドで初めて舞台を見た時の高揚感。
ずっと忘れたくて、消し去りたくて、否定したくて、それでもできなかった熱。
それがまた体の底から湧いてきて仕方ない。
「もう一度、あの場所に立ってもいいんですか?」
「うん、キミを止めるものは何もなかったんだよ。だから後はキミの言葉で聞かせて」
沈みゆく黄金色を背にゆっくりと手が差し伸べられる。
「僕は、僕は……っ!」
あともう少し、のどに詰まっているそれを激情と共に吐き出せ。
本当は分かっていた、何を代償にしてもいい、誰に許されなくてもいい。
もしこの世界で見てくれる人がいなかったとしても、僕はもう一度、
「立ちたい、僕は、また舞台に立ちたい!!」
結局のところ、それがすべてでしかなかった。
「立とうよ、私もそれを見たいからさ」
その手を掴み、今まで流せなかった分の涙がとめどなく溢れていくのだった。
「初めてあった時とは逆になっちゃったね」
だとしたら本当に皮肉な話だ、あの時は僕が手を差し伸べて、それがこういう形で帰ってくるなんて。
「そうですね、だけどこういうのが僕にとっては丁度いいです」
そう言って手を取る、ここからまた立ち上がるために。
燻っていた日々にさよならを告げるために。
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