熱が呼び覚ます Wish of Day 4/7
何となくだけど、自分が夢を見ているという感覚が分かる時がある。
前後の記憶が思い出せない、途中が破かれたマンガのようにシーンが飛びそしてそれに疑問を持つことも無い、それが寝ているときの夢だ。
だけどここ暫くはずっと奇妙な夢を見る。
ゴミが散乱した部屋、聞き取れこそしないが男と女の罵声、そして両手を広げて背後の少女を守ろうとする人物。
背後の少女には見覚えがあった、黒く長い髪に大分痩せてしまったその体系。
何より薄桃色の瞳を持つのは一人しか知らない、東雲だった。
(あぁまたか、この夢は)
ドナーから移植を受けて以来、定期的に自分じゃない誰かの夢を見ていた。
医者が言うには思い出は脳ではなく血が覚えているのではないかというらしい。
実際にも移植手術を受けて嗜好が変わった人を見てきたらしいからこれもきっとそうなのだろう。
(そうだ、この夢があったから僕は東雲を見つけたんだ)
目の前の光景をよそに少しだけ昔の事を思い出す。
高校に入学してから意気投合した伊吹とは違って、東雲はこの夢で見た少女と似ていたのがきっかけだった。
すれ違ったときにそのシルエットが似ていたから思わず声をかけたがその時の冷ややかな視線はしばらく忘れられなかった。
それで興味を持たれたのか今度は東雲から近づいてきて、それで気が付いたら一緒にいるようになった。
だけどもしそうならこれは誰の夢なんだろう。
東雲を守っているその少女はいったい誰なのだろう。
思わずその少女に手を伸ばそうとして、急速に意識が遠のいていく。
そして気が付けば見慣れた天井に向かって手を伸ばす僕の姿があった。
ファミレスから帰った後に眠り、気が付けば窓の外はすっかり夕焼けに沈んでいた。
(……少しはリラックスできたかな)
ベッドから体を起こしてスマホを確認すればもう17時を過ぎていた。
そのままパソコンに接続して編集でも始めようかと思ったとき手の中でそれが震えた。
電話番号は非通知、だけどいつもこのあたりにかかってくるということは相手はきっと京子さんだろう。
(なんで、昨日あんな事したっていうのに)
一度ここでとらない方がいいかもと考えたが意を決して通話ボタンを押した。
「もしもし」
「ありがとう、出てくれたんだね、蓮くん」
やっぱりそうだった、いつもより弾んだ声色、何度も聴いたかのようなその声。
「どうしたんですか?連絡なんて」
「その事なんだけどさ、昨日紹介したあの場所に来てくれないかな?」
「どうしてですか?京子さんにはもう気にかけるような理由なんてないでしょう」
「うん、理由は無い。だからこれは単なる我儘なんだよ」
その言葉に言葉が詰まる、何とか次の言葉を探そうとしていると少しだけ苦笑された。
「私はあの場所で待ってるから、君が来たくなったら来てよ」
それを最後に受話器が降ろされる音がした。
きっとあの人の事だ、行かなくてもずっと待っているに決まっている。
たとえ来なくても責めないだろう、その為に我儘なんて言ってたんだから。
だけど一人で待っているその光景が何故か胸が締め付けられるように切なくて、苦しくて。
気が付いたら僕は部屋を飛び出してそこへ向かっていった。
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