欠けたピースとDestrudo 5/6

(あぁ、やっぱり駄目だなぁ私)


ただ遠ざかっていくその背中を見送ることしか出来ない。

本当ならあそこで何かエールでも送るべきなんだろうけどそれも振り向いた際の顔で消えてしまった。


(妹の時以来だな、あんな顔見るの)


そう、彼に声をかけられて以降もずっとその陰がちらついて仕方ない。

何となく彼は雰囲気が似ているのだ、だから世話を焼きたくなるしおせっかいもしたくなる。

だというのに、20程度しか生きてない私の人生観じゃあの深い挫折をどうしても救い上げられない。

力になりたいのになれない、その事がもどかしくて仕方ない。


(顔色伺う癖、やっぱ無くならないなぁ……)


口にしてしまったのもあるけどやっぱりこれは悪癖だ。

そんな風に見られていい気がする人なんていない。

私だってこんなの無くしたくてたまらないけど、染み付いた処世術というのは拭うのも出来ない。

近くのベンチに腰かけてそのまま黄昏る。


(なんて声かけてあげればよかったんだろ、分かんないなぁ……)


同じ出来事を体験してない私の言葉じゃもしかしたらなにも届かないかもしれない。

そう思えるほどに彼の目に映った絶望は深かった。


(君の演技が見たいよとか、それでも君ならできるよとか、全部違うもんなぁ……)


どれもこれも当たり障りのない言葉でしかない。

それじゃ何も変わらない、ただその場をやり過ごすためのものでしかないのに。

そんなのを受け続けて、そんなのが嫌で、二人で逃げだしたっていうのに。


(……やっぱりもう一度会おう、会ってちゃんと話をしよう)


頬を軽くたたいて気分を切り替える、悩みすぎて行動できなくなるのも悪い癖だ。

それならいっその事ぶつかってしまえばいい、そうして何度だって言葉を交わしたい。


(だってそれをしなかったら、また後悔しちゃうから)


明日は撮影があるみたいだし、それが終わったころにもう一度電話してみよう。

今度は私からちゃんと伝えなきゃならないことがあるから。

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