欠けたピースとDestrudo 3/6
子供のころから身体は強い方ではなかった。
やれ遺伝だ何だと適当な理由は付けられるだろうけど、その結果がこれだった。
心臓に至っては誰かから移植を受けなければならないほどだった。
いわゆるドナー待ちという事だったが、それもただ退屈な日々でしかなかった。
そんな朦朧とした日々の中で目を引いたのが演劇だった。
舞台の上であらん限りの声を張り上げ全身で何かを表現するそれは僕の目には輝いて見えた。
その思いは日に日に大きくなっていき、遂には誰にも内緒でこっそりと演劇の練習をした。
自分ではない誰かを演じるのは楽しかった、この身体から魂が離れて何でもない普通の人間になれるし、はたまた伝説の生き物にもなれる、何でもなれるし何でもできる。
たとえ見てくれる観客がいなくても、それが出来ることが僕にとって唯一の慰めだった。
それを続けていたらいつの間にか一人また一人と集まって目にする機会も増えた。
そして遂には本物の舞台に立てるかもしれないチャンスがやってきた。
たまたま披露した演目を見てくれたお客さんの中に演劇の教師がいた。
その人からプロにならないかと誘われたのだった。
夢みたいだった、自分のために踊っていたはずがたくさんの人を引き付けていたことが。
そしてそれが出来ていたことが。
だけど、その時舞い上がっていた僕は大事なことを伝え忘れていたのだった。
紹介された先はいずれも将来を有望視される逸材が並んでいた。
当然その中での練習は過酷を極めたし生まれついたハンデもあった。
だけど練習すればするほど見てもらうのが楽しみだったし、何より主役になりたかった。
もうテレビで見るだけの日々じゃない、あの頃みたいにテレビの向こう側にいる人に勇気や憧れを届けたい、そう思えば何度だって立ち上がれた。
だけど、そうはならなかった。
練習のあとに気が付いたら倒れて、気が付いたら病院のベッドに戻されていた。
そしてそこには、失意に満ちた教師の姿があった。
結果、僕は舞台を降ろされ再び闘病の日々が始まった。
最初のうちは何人か見舞いに来てくれた人もいたけど、何でもなくなった僕を見続ける人は家族以外に居なかった。
それでも耐えていた時、ドナーが見つかりその順番が回ってきたのだった。
これでまた舞台に立てる。それが嬉しくてすぐに手術をお願いした。
幸いにもそれは成功して、それからも長い時間リハビリと投薬による治療に励んだ。
やっとこの身体から解放される、やっと普通の人間として舞台に立てる。
だから耐えた、だから続けた、そこに必ず自分の居場所があるって信じていたから。
だけど、人間万事塞翁が馬、いいことの後には決まって悪いことが取り立てに来る。
当然のことだが登録は抹消されて、僕は最初からここにいないことになっていた。
それはあくまで他のメンバーを守るためで、その事についての覚悟は当然していた。
だからそれを見ても恨み言は無かったし仕方ないとも思っていた。
そのあとに拾ってくれた人から「君に期待したことが間違いだった」と吐き捨てられるまでは。
これが一つの嘘でたくさんの人を失望させた最悪の役者もどき、つまるところ僕の過去だった。
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