欠けたピースとDestrudo 2/6
そこにあったのは小高い丘と簡素なベンチ、そしてそれを覆うかのように生えた大きな木だった。
昔からちょっとした休憩所として噂には聞いていたけどここがおすすめの場所なんだろうか?
「ここね、朝日がとってもきれいなんだ。始めてみた時には感動しちゃったんだよ。写真は撮ってないけど」
「朝日ですか、確かにシチュエーションには使えそうですね」
昇る太陽は再起の象徴でもある、撮影時間がその時だけ早くなるかもしれないけど候補としては十分にありだ。
たとえ時間が合わなかったとしても合成する方法もある、そこだけチープになってしまうのが欠点だけどそれでもその要素を入れられるなら。
「ふふ、また楽しそうな顔してる」
軽く眉間を突かれてようやく我に返った。
そういう京子さんはやっぱり楽し気に笑い、夕日に照らされながら僕の顔を見た。
「やっぱりここに君を連れてきて正解だったよ、それだけ楽しそうな顔してくれるんだから」
「そんな風に見えるんですか?」
「うん、すっごく素敵だと思う」
やっぱり京子さんと話していると楽しい、知っているはずの場所の知らない顔をたくさん見せてくれる。
そしてそれが新しいアイデアとなって力をくれる、そうこの時間はとても楽しい。
それなのに、また胸の奥が疼いてしまう。
「……そんなこと、無いんですよ」
この前の痛みとはまた違う疼きのようなもの、それがまた昇ってくる。
どうして映っているのが僕じゃない?どうして僕は、あの場所に立ててない?
分かっている、全て自分のせいなんだ、だから諦めたんだ。
喉元まで登ってくる言葉を必死に飲み込んで何でもないような顔をするが、それも京子さんには見破られていた。
「……その顔を見て分かったよ、蓮くんは本当は舞台に立ちたいんじゃない?」
京子さんの表情が変わる、いつもの朗らかな笑みから悲しむような表情へ。
あぁお願いだ、その顔で僕を見ないで、今まで耐えてきたものが堪えきれなくなる。
「それの、なにが、わるいんですか」
「ううん、何も悪くない。君は何も悪くないんだよ」
「分かったようなこと、言わないでくださいよ」
本当にやめて、これ以上口に出させないで。出してしまったらもう戻れなくなる。
何もかも諦めてやっとここまでこれた、全部全部捨ててここまで耐えてきた。
それなのに、それを口にしたらまた思い出してしまう。
もう僕が何者でもない事を。
「───僕はもう、舞台に立てないんですから」
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