欠けたピースとDestrudo 1/6

倒れた日から2日ほど経ち、ほどほどに編集も進んできた夕暮れ時に凝り固まった体をほぐすべく僕は町を歩いていた。

とりあえずで向かった先は依然倒れた文化館の前、そこにあるベンチだった。


(……さすがに連絡もなかったし来ないかな)


大した期待もしてないがそれでもここに足が向かってしまうのは単に京子さんにこの前のお詫びをしたいというところだ。

それでもそこへ着けばそのベンチで彼女は待っていてくれた。


「よっ、元気してる?蓮くん」


相変わらずのラフな格好に最早安心感さえ感じてしまう。

見つけるなり京子さんは近くまで寄ってきて軽く小突く。


「えぇまぁ、それにしてもここに来るって分かってたんですか?」

「ここに居たら君が来るような気がしてね、なんて言うのは気取りすぎかな」


軽く舌を出してはぐらかされた、どうやら教えてはくれないようだ。


「それよりさ、今日は大丈夫なの?」

「何とか、この前みたいに倒れることは無いですよ」


きっと体力的な問題だったと思うし昨日今日で十分に睡眠はとれている。

むしろ新しいネタが見つかるのなら積極的に歩いていたいくらいだ。


「なんというかタフだねー、そんな情熱的な子始めてみたよ」

「そうですか?このくらいならまだ普通だと思いますけど」


そんな会話をしていると不意にスマホが鳴った。

少し失礼して覗いてみれば伊吹からのメッセージだった。


「お話?」

「そんなところです、少し失礼しても?」

「だいじょーぶ、少し離れとくから遠慮しなさんな」


そう言うと画面が見えないように少し距離を置いてくれた。

それに感謝しつつアプリを開いてメッセージを確認する。


【続きは何とか形に出来たぞ、俺としては書き直しが入る前に撮って欲しいがどうだ?】

【私は何時でも行ける、さすがに今からとかは無理だけど】


伊吹に続いて東雲も準備万端みたいだった。


(京子さんの知ってる場所、入れるとしたら次からになるかな)


なるべく撮れる時には撮っておきたいしああ見えて伊吹は繊細だ。

彼の書く文章は胸を打つがどうにも本人だけはそれでも納得いかずに消してしまうことも多々あるらしい。

それが長く続くとスランプになってしまうらしいのもあって、彼自身がいけるというのなら行っておきたい。


【なら明日この前の場所に9:00で良いかな】

【了解、予定は明けとくよ】

【おーけー、今度は真っ先についてみるぜ】

【期待しないで待っとく】


それだけ打ち込んでからスマホを仕舞って待ってるだろう京子さんの方を向いた。


「もういいの?もっとお話ししててもよかったんだよ?」

「いえ、それだと京子さんの時間を取りますし、それに二人には明日も合えますから」


そう言うと彼女は少しだけ口元を抑えて笑っていた。


「ふふ、なんだかうらやましいな。君の映画って多くの人に支えられてできてるんだね」

「そうですね、俺にはもったいない人たちばかりです」


自分がこうしたいと思うことがあってもそれを形に出来る人は少ない。

現に俺も構想を考えていただけでここまで形にするためには伊吹や東雲の力が必要だった。

二人がいなかったら完成しないんだ、感謝してもし足りないくらいだ。

少しだけ感傷に浸っていると京子さんは傍に寄ってきた。


「それならさ、出来上がったら私にも見せてよ。そのためのお手伝いならいっぱいするからさ」


そう言うと今度はゆっくりと手を引いて何処かへと歩き出した。

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