観客のいないelegy 2/4

昨日の疲れもあるだろうが、結局起きたのは昼過ぎになってしまった。

まぁ毎晩夜遅くまで除霊はしていたわけだし爺さんもこれくらいは許してくれるだろう。

なんせ夏休みだ、執筆に撮影にとやる事はわんさかある。

だからここで俺がゆっくり眠っていても何の罰も当たるはずがない。


「ンなわけねぇだろ起きろ坊主!」


突如耳元で何かが叩かれた音がする。

跳び起きてそっちを見ればハリセンのようなものを携えた爺さんがそこに立っていた。


「あら爺さんおそようございます、そんで寝ます」

「寝てんじゃねぇぞ寝坊助がぁ!もう日も高ぇんだからちったぁ運動でもしやがれ!」

「布団を剥がそうとすんな、そう言うのはもっと別の奴にやってもらいてぇんだよ!」


朝起こしに来るシチュエーションをこんな禿げた爺さん相手に行われたくはない。

せめてシノあたりの美少女にやってもらいたい!


「いいから起きろ!お前にお客さん来てるんだよ!起きねえってんなら糸で操るぞ!」


ギリギリ出来そうなこと言うのやめてくれ、後それ操り人形用だろ。

そんな応酬をしていたせいか頭も少しずつ冴えてきて、視界もはっきりとしてくる。

とりあえず手近な服に着替えてから爺さんに幾らか尋ねる。


「で?お相手は?」

「50過ぎのばあさんだ、俺とタメくらいだな」

「困り度合いは?」

「少々心配程度だ、おおかた娘か孫関連だろうよ」



それだけ聞いてから櫛で髪型だけ整える。

一応特殊とはいえ客商売だ、寝起き姿のままは流石にマズい。

簡単に整えてからお客さんが待つ門の前へと足を進めた。


「あ、貴方が伊吹さん?」


そこに居たのは本当に50過ぎなのか気になるくらい若々しい婆さんだった。


(爺さん、目でも衰えたんじゃねぇか?)


内心思うところはあったが今は置いておいて目の前の婆さんに集中する。


「はい、伊吹ですけどどうされました?」

「あのですね、娘がここの所ずっとうなされてて。心配なんですよ」

「そうですか、最近それ以外に何かあったりはしませんか?」


それだけで霊の仕業と思うには早計だ、単に夢見が悪いだけなのかもしれない。

彼らは直接害を与えることはない、せいぜい悪い影響を与えやすくするだけだ。

例えば身体が急に重くなったり普段では考えられないような行いをしたりと。

だからこそ軽々に判断できないのが厄介な所で、気が付いた時には不味い所まで行く。

そうなる前にこうした聞き込みはとても重要だった。


「ここ最近ですか、ごめんなさい今のところそれくらいしか」

「でしたら近いうちに伺います、ですのでお名前などをお願いします」


もっともこの様子なら後回しにしてもいいかもしれない。

今はウィジャ盤の捜索もあるしそれらが一息ついたらでいいかもしれない。


「そうだ名前、うっかりしてました。東雲千種と申します」


目的訂正、何よりも最優先で調べよう。

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