幕間の夜噺 夜と昼 2/2
彼岸送り、それが俺の預けられた寺の仕事でもあった。
爺さん曰く霊媒体質を持つ俺は彼岸へ向かう途中でこの世に迷い込んだ霊たちが悪霊になる前に送り返す責務があるのだという。
(よしっ、とりあえずこれでここ等一帯は終わりかな)
地図上からピンが消えたアプリを眺めて少しだけ達成感に浸る。
それと同時に眠気も襲ってくる、今日が休みになっていてよかったかもしれない。
(ねむ、帰ったら即寝よ)
そうでなくても昨日の朝から動きっぱなしで体が重くて仕方ない。
夏休みだし1日くらいは昼過ぎに起きても罰は当たらないだろう。
「ただいま爺さん、そんで寝るわ」
机に向かい筆で札を書いてるツルピカの爺さんに一言告げてその場を離れようとする。
「おうお帰り伊吹、その前に札足りてっか?」
「足りねぇ、出来りゃ明日までに机の上にでも置いておいてくれ」
会話を早く切り上げる、一刻も早く布団に入りたかった。
「その前によ、ここ最近やけに霊が多いとは思わねぇか?」
「…まぁな」
いつもは1週間に1人か2人くらいで少し多いかなと思うほどだった。
お盆が一番忙しい稼業とはいえそれでも日を跨いで3人が大体の目安でもあった。
なのに今はお盆前で10人ほどに増えている、明らかに異常だった。
「儂も仕事がてら色々聞いたんだがよ、そこで面白い噂を聞いてな」
「それ起きてからじゃダメか?もう眠くて仕方ねぇよ」
「そうか、なら要点だけ話すぞ。誰かが霊を呼んだんじゃねぇかって話だ」
霊を呼ぶ?そんなことが出来るなんてこちとら聴いてもいない。
眠い目をこすりながら結局は爺さんの方に向き合う事にした。
「なぁ伊吹、降霊術ってのは聞いたことあるよな?」
「あれだろ、自分の身体に霊を降ろして代弁させる奴」
「あぁ、だがそれの応用で本当に霊を召喚できるもんがあるんだとしたら?」
まさかそんなもんがあるとでも言いたいのかよこの爺さんは。
タチの悪い妄想だと思いたかったがどうにも醸し出す雰囲気が冗談のそれじゃない。
つまりそんなものが本当にあるということになる。
「この前聞いちまったんだよ、死者を呼び出すウィジャ盤なんてものがこの近くにあるってな。んで調べたら大当たりって訳だ」
そう言うと爺さんは甚平の内側から封筒を取り出して投げつけてきた。
その中身を見ればそれと思しき盤を撮った写真が何枚も入っていた。
「なんでも大戦前から使われていたらしい曰くつきでな、こんなもん放置してたら儂らの仕事は増え続けちまうし、最悪お前みたいなのも増えるぞ」
「……的確に嫌なところついてくるじゃねぇか爺さん」
「あぁ、だがそれが遠くないうちに訪れる事実ってやつだ。気に入らねぇってんならそいつを見つけ出さねぇとな」
封筒の中身を手に自分の寝室へと向かう、さすがにこれ以上問答をする気はなかった。
(霊を呼び出すウィジャ盤ねぇ、そんなもん使う奴に心当たりなんてねぇな)
寝室で敷かれた布団に潜りこみながら爺さんから言われていたことを反芻していた。
少なくとも蓮は違うだろう、アイツに身内の不幸があったなんて話は聞かない。
同じく東雲もそうだ、そんな話は聞いたことも無い。
となればこの仕事は枯草の中から針を見つけるような地道な仕事になりそうだ。
(まぁいいや、起きたら散歩がてら聞き込みと構想を練らなきゃな)
そう全ては起きてからだ、生者の歩く時間になってからだ。
そして俺の意識は溜まりに溜まった疲れという澱の中に溶けていくのであった。
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