第2章 心を繋げるOne action 1/3
幸いにも天気にも恵まれ、雲一つない快晴のおかげか撮影は捗りそうだった。
僕はと言えば待ち合わせにしておいた広場の木陰で東雲と伊吹が来るのを今か今かと待っていた。
(まだかな、早く来ないかな)
実際のところ二人が時間に遅れているというわけでもなく、朝早くに目が覚めてしまった僕が時間より早めに来てしまっただけなのだが。
「おはよう、蓮」
少しだけ気に体を預けていると10分前に東雲が姿を現した。
「おはよう東雲、早いね」
「そういう蓮こそ早いじゃん、一番乗りするつもりだったのに」
そんな軽口をたたく東雲はデニムスカートとシャツという動きやすさを重視した出で立ちだ。
あらかじめ動きやすい格好でとお願いしていたがこれなら問題は無いだろう。
「改めてありがとうな、東雲」
「いいよ、写真部の活動にもなるし蓮も宣伝とか必要でしょ」
「なるほど、お互いに利害の一致って訳だね」
「そういう事、写真撮影も悩んでたし活動記録って形なら向こうも納得するでしょ」
そう、僕と東雲は同じ撮影という言葉を使うけどその意図するところはだいぶ異なっていた。
「東雲はさ、どうして写真部に入ろうとしたの?」
彼女の作品をいくつか見たことはあるがどれもこれも美しいものだった。
花弁が散る一瞬、空が紫色になる一瞬と生物や植物などではなく風景を中心に撮影していてそのどれもがきっとこの刹那でしか撮れないだろう瞬間をとらえていた。
だからだろうか、どうしても気になっていたのだ。
「そうだな、それは秘密かな」
「えー、教えてくれてもよくない?」
「いい女には秘密があった方がいい、そうは思わない?」
悪戯っぽく東雲は笑う、どうやら教えてはくれないらしい。
まぁここで押し通して不興を買うよりはいい、東雲はへそを曲げると長いから。
「おーーい!蓮、東雲!待たせたなー!」
そんな会話もひと段落したところでちょうど伊吹も来たみたいだった。
「よっ、待ってたぞ脚本担当」
「いやぁ悪い。少し筆が乗りすぎて気が付いたら落ちててな」
そんな彼の手には近くのコンビニでコピーしてきたのだろう紙の束が握られていた。
「後はホッチキスで止めるだけだから少し待っててくれよな」
伊吹はページを確認しながら紙束を纏めて留めていく。
(いいなぁこういうの、昔を思い出す)
そう、脚本を貰えた時は何時だってワクワクしたしそれを開くまでの瞬間がたまらなく好きだった。
どんな役だろうとそれを演じたこと、それを自分だと思えるあの一瞬は何物にも代えがたいものだった。
(……だめだめ、昔のことだ。今は東雲が主役なんだから)
そんな感傷を振り払ってただ目の前のことに集中する。
こんな心境じゃ演じてくれる東雲に失礼だ。
「おーい監督、脚本出来たからチェック頼むぜ」
思案から我に帰ればいつの間に終えていたのか、伊吹が出来上がったばかりの脚本を振って見せた。
それを受け取って三人で確認していく。
「どうだ?何か気になるところはあるか?」
「今のところは無いな、撮影してみないと細かいところは分からないけど」
そう、楽しいのはここからだ。
ナップザックの中から三脚とビデオカメラを取り出して丁度いい場所に設置する。
もう一つハンディカメラもあるけどこれは動きを重視する際に使いたい。
ざっと読みこんだところそこまで激しい動きを要求されるのが無かったためこっちのビデオカメラの設置で十分だと判断した。
「それじゃ記念すべき初撮影だ、東雲の準備はいい?」
「私もちょうど読み終えたし何時でも行けるよ」
そう言うと東雲は撮影場所に立った、そしてカチンコを用意してそれを掴む。
「それじゃ行くよ、アクション!」
その掛け声とともにカメラを回しカチンコを鳴らす。
そして、初めての撮影が始まったのだった。
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