楽屋裏の打ち合わせ 2/2


 【そういやさ、この近くで幽霊が最近出るらしいけど二人は大丈夫か? 】

 【大丈夫って何が? 】

 【うちは寺だからそういう話に敏感でさ。特に東雲は夕方に用事あるんだろ?三枚のお札って程じゃないがお守り代わりになんか渡そうか? 】

 【必要ない】

 【そうか、寂しいな】

 【そうならないよう祈ってて。祈祷は寺の恒例行事でしょ? 】

 【祈祷ってそういうのじゃねーんだけどなー、そういや蓮の反応が無いな? 】


 シャワーから上がってスマホを確認するなり大量のメッセージが届いていた。


 (幽霊騒動か、アイデアとしてはいいかもしれないけど今回は使わないかな)


 みんな夏になると涼を求めてこういう怪談とかを探すのだ。


 【生きてるよ、それで幽霊関連の話って何? 】


 ただ専門家に話を聞くのもいいかもしれない。

 伊吹の寺は除霊などを専門に行っていてそう言った話をよく聞く。

 「在るべき場所からはぐれた霊をもとの場所へ送り返す」のが彼らの仕事なのだという。

 そう言うのが作風にも表れるのか、彼の作る話は幽霊に関する話も多い。

 僕としてはそういう知識もないからただ聞くだけなのだが、もしかしたら面白い経験などもあるかもしれない。

 そんな期待もあってチャットに参加したのだった。


 【爺さんから聞いたんだけどさ、夕方になるとどこかに幽霊が出てあの世に連れてかれるって話だ。よくある話だろうが少し気になるのもあってな】

 【子供が夜遊びしないために撒いたデマとかじゃないの? 】

 【そうも考えてるんだけどなんか釈然としねえんだよな】


 今も向こうで頭を悩ませているのか伊吹の返信は少しばかり時間がかかった。

 しかし仮に伊吹の言うことが合ってるとするなら撮影の時間ももっとずらした方がいいかもしれない。


 【もしそうなら困るな、おばさんの迎えとか時間帯が結構被るし】

 【あれ? 東雲っておばあちゃんっ娘だったの? 】

 【そうだよ、何か悪い? 】


 まずいな、伊吹が地雷を踏んだっぽい。

 人には踏み込まれたくないのがあるのは知っているだろうがついうっかりでなってしまうこともある。


 【それならさ、明日の撮影は早く切り上げて何処かで昼飯でも食べない? 】


 少し露骨かもしれないけど軌道修正を図る。

 誰かがミスったときは助け船を出す、それがコミュニティの円滑な運用なのだと難かしらの本で読んだことがある。

 ならそれはこういう友人関係の修復にも役に立つはずだ。


 【いい、その為に使わせるのがもったいない】

 【すまねぇ、こっちもぶしつけだった】

 【言わなかった私も悪いし、それならお弁当でも持ってきた方が安上がりでしょ】

 【それはまぁそうだけど、いいのか? 】

 【気にしないで、昔から料理は得意だから。でも伊吹の分は茶色少な目ね】

 【そんな殺生なーーーー!! 】

 【これを機に精進料理でも嗜め、生臭坊主】


 それを機に今回の話は終わったのか誰もチャットの続きを撃とうとはしなかった。

 何はともあれ明日は初めての撮影だ、相応の用意はしておかなければ。


 (えーっと、カチンコとメガホンは必須で、それからレジャーシートに水分補給用の水稲も幾つか用意して、それから……)


 押し入れからナップザックを取り出すとその中にいろいろ詰めていく。

 そこには少しだけの緊張とこれから始まる撮影への期待が大きかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る