第14話 危険を負う価値
「な!?それは本当ですか!?」
アクライヤが驚き声を上げながら目を見開く。
「あぁ。」
「そうですか…………」
俺の肯定に、考え込むように黙り込む。
魔獣が出たことをキグミナス様とアクライヤに報告した。
「アクライヤ、どう思う?」
キグミナス様が真剣な顔で尋ねる。
「は、魔物がいる可能性は極めて高いでしょう。このままでは作業中の方々の背後を襲われることも視野に入れるべきですね。」
冷静を取り戻しつつ喋る。
「……そうなると、被害は甚大だ。今の水路は中断するべきかな?」
キグミナス様は、不安そうな声で提案する。
「………民の安全を考えるのであれば、致し方ないと思います。」
んーでも、そうしたら逆に怪しまれそうだし………そうだ!
「では、俺が単独で調査をするというのはどうでしょう。」
「え?」
「………妙案ですね。」
キグミナス様は驚いて目を見開いたまま固まっているが、アクライヤはすぐに考え込んだ。これが経験の差ってやつか?
「ダメだよ!アファル一人にそんな危険なこと!」
一拍遅れてキグミナス様が心配そうな顔でアクライヤを見つめている。
「大丈夫です。俺が強いってのはご存じでしょう?
てすので特別ボーナスを……」
「それは終わってからですね。」
俺の交渉はアクライヤの笑顔で断ち切られた。
悲しい……
今頃、俺の情報はアクライヤ経由で四班に伝わっているころだろう。言い訳として体調不良ということにしておいた。
………まぁ、復帰した後のくそジジイの反応が少し怖いが、仕方ない。影より守るヒーロー……なかなかかっこいいと思う。
調査としては前回の熊が出た所から徐々にしらみ潰ししていく。一応皆には最近盗賊がなんちゃらと言っておいて、武器を持ってもらっている。
問題は、俺がしくって作業中の近くに行ってしまえば、盗賊かと警戒し、仲間の作業を止めてしまう可能性があるため、そこら辺は慎重に動かなければならない。
とりあえず、あの見晴らしの良い場所で一休みをする。大樹にもたれ掛かりながら風を一身に浴び、遠くまで視線を向ける。そうすることで、小さいけれども人々の営みが見える。
「……さ、行くか。」
守るべきものを再確認し、俺は歩き出した。
魔獣は足をつけた場所や身体を当てた場所には特徴的な臭いが残る。簡単に言うと腐った肉を火で焼いてるような臭いだ。
魔物はそれよりもかなり臭いがキツイ。あの奴隷のような環境で働いていた場所で起きた、たくさんの死体という惨状を見て、俺は気持ち悪くなったと思っていたが、今思い返すと大部分が臭いによって気が滅入った程だと思っている。つまり相当ヤバかった。
流石にと言うべきか、初日は何も出なかった。まぁそれくらい想定内だ。これからこれから。
二日目、今日は川沿いを調査だ。
猪と対面しあわや戦闘かと思ったが、ここで倒してもメリットが無いため、逃げに徹した。
三日目、今日も川沿いの調査。
昨日の猪と鉢合わせた場所を迂回するように行動し、調査を一通り終えたが何もなかった。
やはり人通りが多いこともあるせいか?なら……
四日目、ブレン山の中でもほぼ人が来ない、海に面している場所にやってきた。切り立った石と、ほぼ垂直の崖があるこの場所なら考えられるのではないか?
キグミナス様に相談したところ、ここを教えてもらった。
「うお、やっぱ海は広いな。」
何年振りだ?この景色を視界に収めるのは。
磯の香りと水の流れは、永遠にこの場にいたいと思わせる不思議な力があると思う。太陽の光を反射させて見れる白い光はとても神秘的だし。海を神として信仰している国があると聞いたが、分からなくはないな。
俺が感動と懐かしさで感傷に浸っていると、微かではあるが、どこからともなく異臭がした。
すぐに戦闘体勢を取り、周りを警戒する。
「ここはまずい!」
俺は背水の陣にならないように身体を屈めながら、移動を開始した。
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