第12話 緊張の剣舞

「ハッ!?……朝…………?」

 確か……剣術を見せた後、マット様とちょっと話してすぐに下がらせてもらったんだっけか。やっぱ久し振り過ぎて、身体が追い付かなかったようだな。これからは、もう少し剣と向き合うか………

「く…うぅぅぅぅぅぅ………」

 思い切り伸びをして、全身をゆっくりと伸ばしていく。これをすると身体の痛みが少し緩和される。俺の気分ってだけかもしれんがな。


「ふわぁぁぁぁあ………」

「あら、アファルさん。遅いお目覚めですね?」

「やぁ、あはよう。軽い物はあるかな?」

「今日のパンとスープが少しなら。」

「もらえるかい?」

「えぇ。」





「やってんなぁ。」

 スープをゆっくり飲み込み、二つあったパンの内、一つを食べ終え、一つを噛りつつ訓練場へと向かう。

 一人が俺に気付いた。

「お、おぉい!皆!剣聖様のご登場だ!」

 俺を見て発せられた言葉にパンを落としかける。

「はえ?」

「ハッハ!何をそんな呆けてんだよ。」

「カズィン、どういうことだ?」

「ジェームス様がお前に与えるとか息巻いてたぞ?王様を説得してみせる!って。」

 ……………………?

「剣聖ってもういるだろ?」

「それは、フロート帝国にだよ。フリック王国にはまだいないだろ?」

 スゥー………マジ?

「剣聖様に鍛えてもらえるなんて、一生自慢できるぜ!」

「いや待て待てお前ら!まだ決まったわけじゃないんだろ?」

「なんだよ、嫌味か?」

「そうだぞー!」

 皆が口々にブーイングをしてきた。

「は?何言って……」

「お前の剣術がそれだけ素晴らしかったってことさ。」

 横からセルヤが補足してくれた。

「……お…おう、ありがとな。」

 めちゃくそ荷は重いが、こんなに褒められるんなら寝不足になったかいがあるってもんだ。







 そんな暖かい気持ちになってから約三週間後。

 俺はフリック王国国王のメイヤー様の御前にいた。

 いや、そりゃ呼ばれるとは思ってたよ?なんせ剣聖と言えば国一番の栄誉だし、王直々の物だからしょうがないけどさ?威圧やばすぎだって!

 何あれ?戦場以外で命の危機を感じるとは思わなかったぜ。

「早速、見せてくれないか?」

「っ!はっ!」

 やべぇー緊張で挨拶した後なんも聞いてなかった…


 移動してる途中、

「大丈夫だよ、アファル。メイヤー様はお優しいからちょっとくらいなら問題ないよ。」

 と、キグミナス様に言われた。

 ……もう自分が情けないよ………



 国王陛下、宰相様、ジェームス様、その他王家直属の兵士達に見守られながら、俺は虹霓流を披露した。あれから剣への時間を大幅に増やしたかいもあって、前よりも良いものになったと思う。





 軽く汗を拭き取り、さっきの王の間ではなく、執務室のような場所に案内される。

「協議の結果、アファル殿に剣聖の称号を与えたいと思うのだが、どうかな?」

「一つ、聞きたいのですが、その結果はフリック王国にも強者がいると示したいという意図ですか?それとも若者の目標を作るためですか?」

「……どちらもだ。」

「ならば、私はそれを辞退したいと思います。」

「「「な!?」」」

 キグミナス様、ジェームス様、宰相様が驚愕の声を上げる。メイヤー様は眉を片方上げただけだ。

「そうか、無理強いをするつもりはないから、別に構わないよ。」

 ……あれ?これ、ジェームス様の顔に泥を塗ったことにならないよな!?大丈夫かな!?


「アファル殿、一つよろしいか?」

「は、なんでしょうか?」

 メイヤー様が直々に俺に話しかけてきた。もしかして、ちょっと怒ってるかな?

 キグミナス様に助けを求める視線を送ったが、笑顔でスルーされた。

「今更遅いかもしれないが、冤罪で奪ってしまった君の時間を、私の謝罪で許してくれないか。」

「な!?頭をお上げください!」

 まさかそう来るか!というか、他の人達は止めないのかよ!

「元々この話が来た時、それの罪滅ぼしも含めて剣聖に任じようと思ったのだ。だがあの剣術を見て、今は心からの謝罪をさせていただく。あなたの剣術には価値があると、我ながら手のひら返しだと思うが、この通りだ。」

「もう気にしていませんので、大丈夫です。」

 俺なんかに使うその思考のが勿体ないっすよ。

「そうか……すまないことをした。」

 メイヤー様は申し訳なさそうに頭を上げた。

「国王陛下に罪はありません。」

「いや……王家の者として、貴族の愚行を止められなかった。我々の力及ばずすまなかった。」

「いえ、牢獄なんて一々調べることなど出来ないでしょう。」

「いや、公的にある牢獄は全て調べたのだ。主に妹がだが。だが、見付からなかったのだ。」

「……そうでしたか。まぁ、違法なところだったのでしょう。」

 あの俺を冤罪にした貴族みたいなやつが持ってんだろうな。

「どこにあったか覚えてないか?」

「うんん………歩いて暫くしたところで道に出て、そこで今バーンロー家にいるマッターという商人と会ったので、その方に話を聞けばおおよその範囲は分かると思います。」

「む、そうか。アファル殿、今日は有意義な時間だった。下がって良いぞ。」

「は。」



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