第11話 武勇の鬼、見ゆは剣舞
ージェームス・マットー
「やっておるな。」
ワシの言葉に、アクライヤ殿が手で促す。
先程まで、かなり訓練をしていたのだろう。むせ返るほどの熱気が全身を覆う。
「私は準備をして参ります。少々お待ちを。」
アクライヤ殿が一礼して、訓練場を整えていく。
「よし、全員整列!」
ワシの言葉に兵士達が乱れることなく並ぶ。
「これから見るのはあのソフィア様に剣術を指導した者だ。お前らも知っているだろう?あの方の強さを!よく見ておけ!今日で盗めるものは全て盗め!」
「「「「「おう!」」」」」
兵士達が子どものようにキラキラした目でこれから起こることを楽しみにしているようだ。
まぁ、ワシもだがな。
「では、各自待機!」
ワシの言葉に散開する。
「ジェルマ。」
「は。」
「バーンロー家の兵士はどうであった?」
「そうですね……我らの戦績は六戦六勝。強者、とは言えませんが、全員が逃げる技術、敵を消耗させる粘り強さを持っていると思われます。ナジィリがあと一歩のところまで追い詰められました。」
ナジィリは確か、才能のある新兵だ。経験がないのが祟ったのだろう。
「そうか。報告ご苦労。」
厄介だな、敵に回すべきではない。
逃げる技術、それは下に見られがちだが、重要なことだ。戦場で敗北しても、逃げることが出来ればまた出撃出来る。数がいれば人員不足が少しでも解消される。人員が少しでもいれば、城から弓を放てる。石を投げられる。これだけでも、敵に被害を出せる。
それに、粘り強さ。真っ向から戦えば持久戦となり、援軍に挟み撃ちにあう可能性もある。こちらが消耗した時に、逆に牙を向く時もある。
もっと大きくなれば、メイヤー様にも一目置かれるだろう。前の戦のような奇襲を思い付く若き当主もいる以上、今のうちに抱え込んでおくのもありだな。
「ジェームス様、こちら準備が終わりました。どうぞこちらへ。」
「む、そうか。」
案内され、巻藁の立った訓練場の横に設置された椅子に座る。近くには、子飼いの兵士達がワクワクを隠せない様子で地面に胡座をかく。
「それでは……アファル!お願いしますね!」
アクライヤ殿がそう言うと、バーンロー家兵士達の中から、一人の男が巻藁の前に立つ。
年は三十を過ぎていると聞いていたが、どう見ても二十前後に見えるな。
「ご紹介にあずかりました、アファルと申します。この度は、はるばる来ていただき感謝の念に堪えません。それに、私の虹霓流を見たいと言っていただき感無量でございます。私が編み出した七つの型。楽しんでいただければと存じます。」
アファル殿は一礼をして、剣を構える。
それは、左の脇腹に沿うように横に構え、走り出す。巻藁との差が剣身にまで近付くと、剣を少し背中側に押し込み、一気に顔の位置を狙った重い一撃が放たれた。
それは踊っているような、剣と全身を一体化させて、一つの形としているようだった。ソフィア様の型を見た時に、これだけ美しい完成された技はないと思った。そして、告げられた。これはあくまで再現でしかないと。とても高揚した。これよりも素晴らしい剣舞があるのかと。
そうして今現在、目に映し、一瞬でも見逃さないように目を見開きながら実感した。これを自分は再現出来ないと。今までたくさんの技を見て、可能な限り再現は出来ていた。この虹霓流もやろうと思えば出来るだろう。
だが、それはあくまで威力の話。私はおろか、この世界のどんな存在でもこれと同等、またはそれ以上の使い手はいないだろうと。
いや、ワシがいてほしくないと、思ってるだけかもしれないな。
「フッ………」
主賓が満足そうに頷いたことで、静かにガッツポーズを取るアクライヤだった。
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