第10話 相棒と過ごす日々

「いててて…………」

 あぁーメイド長の声が響いてる。

 昨日、どうやらカズィンと酔っぱらって真剣勝負をしたらしく、翌朝全身血だらけの状態の俺とカズィンが見つかり、緊急の手当てと貴重な回復薬を使用してもらったようだ。

 その結果が、大の大人が屋敷の庭先で正座したまま説教をされた。終わった今、俺とカズィンの相棒は没収され、罰として掃除中である。

「うあ…ホウキと地面が擦れる音ですら痛い………」

 まぁ、カズィンの方は風呂掃除らしいから、俺のがマシではあるがな。俺なら屈んだ瞬間リリースする自信があるぜ。


「……?門の方が騒がしいな…イテテ……」



 どうやらキグミナス様が戻られたようだ。予定よりはかなり早いが、理由としては念願の領地、しかもブレン山と隣接しているということで、バーンロー領地の民達を早く呼びたい一心で王都に泊まらずに馬の脚を酷使しない範囲で飛ばしてきたらしい。

 そこで、ジジイが号令をかけて、騎士団は荷造り。メイド(俺とカズィンを含む)は使わせてもらっていた屋敷をピカピカになるまで掃除することになった。

 本当はもう庭掃除は終わっていたが、まだ終わってません!とか、言ったことで他の仕事は振られなかった。いやぁ楽できますわぁ…………



 そうして、諸々の手続きを終わらせて、キグミナス様がバシュマル領の領主となって一週間ほど、アクライヤが先導して、バーンロー領からキグミナス様の下に向かいたいと申し出た、総勢二百三十一名が少しずつ少しずつ、バラけながらもバシュマル領に全員無事入ることが出来たようだ。










「フゥー……なんとかゴタゴタは片付いたな。」

 セルヤが腕で汗を拭いながら呟く。

「本当だよ……家建てるのがこんなに大変だとはな。」

 同意して、カズィンが水を一気に飲みほす。

 今さっき、元バーンロー領の領民達用の家を騎士団とバシュマル領の大工衆で終わらせたところだ。

「あぁ……風が気持ちいい…………」

「アファル、お前、元気だな。」

「まぁな。」

 ちょっと前まで、風が通らない閉じられた密集空間で何年も働いてたからな。水だって食事に入ってる雑草スープの水分しか無かったし。

 それと比べたら最高の環境だよ。

「いやーこれで一段落だな!」

「あぁ、久し振りに家族に会える。」

「あ、そういや二人の嫁さん一目見たが美人だったな。」

「ったりめぇよ!」

「当たり前でしょう?」

 なんだかんだ似た者同士だな。

「俺も出会いがあればなぁ………」

 俺の呟きは、ほどよい風に流されていった。


「アファルッ!」

「お?」 

「なんだ?」

「アファル!ここにいましたか!」

 走ってきたのはアクライヤだった。なんであんな全力ダッシュして息切れしてないんだ?やっぱこの人には勝てない気がするわ。

「どうしたんだ?アクライヤ。」

「マット家当主ジェームス様がこちらにおいでになります!準備をして下さい!」

 俺とカズィンとセルヤはお互いに目を合わせた。

「なんで俺?」

「だよな?」

「それはメイド達の仕事では?」

 俺たちの発言に、アクライヤは溜め息をつきながら俺の袖を引っ張るように会話を続ける。

「ジェームス様は親睦を深めるためという名目で向かっていますが、本当の目的はあなたの流派、虹霓流を見にくるのです。ですので、ジェームス様を満足させるように、いや満足させてください。」

「………は?」

「この通りです。」

 俺が反応できないでいると、アクライヤは土下座をしてきた。

「な!?」

「勝手に話を進めたことは許してください。ですが、これもキグミナス様のためだと思って、どうかお力を!」

「やめてくれ!アクライヤ。キグミナス様には恩義もあるし、それくらいやってやる。」

「ほ、本当ですか!?」

「あ、あぁ………全力を尽くそう。」

「ありがとう…ございます……」

 この時、初めてアクライヤの泣き顔を見た。










 あの衝撃的な発言と行動から四日後。少数ではあるものの、他ではないような異彩を放つ兵士達を連れて、マット家当主ジェームス様が、バーンロー家の屋敷に到着した。

「ようこそいらっしゃいました、ジェームス様。あの時は簡単な挨拶のみであったことを御容赦ください。」

「なに、気にするものか。それとワシのこと普通に呼んでくれ。その言葉は我らが王ただ一人にのみだ。」

「若輩者ですが、その言葉に甘えさせていただきます。」

「おう!甘えておけ!」

「キグミナス様…中へ……」

 キグミナス様とジェームス様が仲良さそうに話し、頃合いを見たアクライヤが先導して中へと案内する。

 数人を連れて歩いていくジェームス様を見送った後、手持ち無沙汰となったマット家兵士達と訓練をすることとなっている。

 マット家は当主だけでなく、兵士も精鋭ばかりだ。ここで経験を積んでおくべきだと判断して、キグミナス様が提案されたそうだ。






「すごいな……」

「今のところ六戦全敗……分かってはいたがこうも現実を突き付けられると………」

 バーンロー家の兵士達が目の前の光景にがっかりしたような、まぁ、しょうがないといった雰囲気を醸し出している。見たところ、マット家の兵士は瞬発力を生かした回避と的確に相手を追い詰めるキレが特徴のようだ。

「アファル、そろそろ来るって。」

 ………あぁ…イヤだぁ……姫様が独自に剣技を完成させたとか、ジェームス様が俺の流派に興味があるってアクライヤが言っていたし、それを聞いて気分は高揚した、したが!

 俺にあの時の虹霓流を再現できるかと聞かれればもちろん否である。そりゃ何年も剣を握ってなかったんだ。そうなるのは当たり前。問題は俺がジェームス様に少しでも違和感を与えてしまえば、キグミナス様の顔に泥を塗ることになる。それだけは何があっても避けねばなるまい。

 この四日間。一分一秒も無駄にしないように、剣を持ってみっちりと仕上げた。睡眠はさっき三時間取ったのみだ。始めてみると、やはり身体は覚えていたようで、ギリギリ年を取ればこれくらいになるか程度の妥協点まで、力を戻すことが出来たと思う。

 あとはジェームス様に気に入られるのみ!

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