第6話 初陣
「よく聞けェ!!誇り高きフリック王国の戦士達よ!今回は前のような小競り合いではない!全面戦争である!この戦に勝利し、我らが正統な権利を保有していると証明するのだ!」
「「「「「おおぉぉぉ!!!!!」」」」」
第二……おっと、フリック王国国王のメイヤー・フォン・フロート様が演説を行い、兵士達が呼応するように武器を掲げて声を張り上げる。
「うおぉぉぉ!」
我らが主君もまだあどけない顔で、精一杯声をだしている。
「御報告に参りました!」
「入って。」
バーンロー家に支給された陣幕に、本陣からの使者が入る。
「メイヤー・フォン・フロート様より、此度の戦の陣形を伝えます。バーンロー家は左翼のコーデル家の後詰めを任せる、とのことです。詳細はコーデル家当主のデュッタル様より御訊きください。」
「ご苦労だったね。委細承知したと伝えてくれ。」
「はっ。」
使者が去った後、キグミナス様がフゥー、とため息をつく。
「お疲れですか?」
「ん、ちょっとね。でも、大丈夫だよ。」
アクライヤが心配そうに尋ねるが、笑いながら心配無用と伝える。
その日中に、コーデル家にお目通りして、役割を与えられ、コーデル家はキグミナス様が提案した作戦に乗ってきた。
ジジイは戦士のする行為ではないと若干不満そうにしていたが、そんなやつは無視だ無視。戦はそんな綺麗事じゃない。
バーンロー家の兵士の内、特に足の速い三名を伝令としてコーデル家に留め置いてもらい、計四三名が指定区域に行軍を始めた。
目指すは敵の右翼から五キロ離れた森林。本格的にぶつかり合った時に、斜め後方から敵を突くことが出来るようになっている。
ちなみに俺は剣しか使えないため、突撃の時の最前線を任されている。俺が真ん中でカズィン&セルヤがそれぞれ左右に配備し、敵を撹乱したところを俺がぶったたく!簡単だろ?
ジジイとアクライヤはキグミナス様の身辺護衛を勤める。あの二人がいれば身の安全は確実だろう。
え?キグミナス様は戦わないのかって?バカ言え、仮にも貴族の当主が前線出る時なんて、よっぽどの腕自慢か、部隊の鼓舞か、身の程知らずのどれかだ。
その点、キグミナス様は優秀だから、自分の立場を理解していらっしゃるし、どう動けば、後々有利に事が進むかをアクライヤに質問しつつも、自分で戦争についてやその他諸々を決めていた。
今回で活躍出来なければ、またフロート帝国の時のように切り捨てられるかもしれないし、前とは比べ物にならない程の木っ端な家格に留まってしまう、と。それに、一見仲睦まじい雰囲気だったコーデル家訪問も、コーデル家は我々と同じ領地無し、つまりライバルというわけだ。
そこでキグミナス様が提案したのが、バーンロー家が後ろから撹乱し、コーデル家に一網打尽にしてもらうというものだ。これには悪どい笑みを一瞬浮かべてから、嬉しそうにその申し出を受け入れていた。
もちろん、これは偽装。我々が動かずにしびれを切らして、または相手から攻撃を開始した後に、美味しいところをかっさらう作戦だ。本来ならもっと思慮深く考えて、慎重になるところだが、コーデル家が優秀だったのは前当主。現在のあれは女にしか興味がない俗物だ。それに、父である前当主からも半ば見放された状態のため、コーデル家のコネも上手く使えず、ここで恨みをかっても報復はそよ風程度だと結論が出た。
現在のフリック王国の家臣達の内、フロート帝国から離反したものや、元々領地を持っていなかった貴族は、この戦で名を上げて念願の領地持ちへとなるために、目をギラギラさせている。
ブォォォーーーー!!!
来たか!
「皆、開戦だけど慌てずに息を殺してね。」
キグミナス様の言葉に全員が無言で膝を折る。
「アクライヤ、偵察任せたよ。」
「御意。」
いつものアクライヤとは別人のような雰囲気で、瞬きをした瞬間には、もうその場にアクライヤはいなかった。
………アクライヤは怒らせんとこ。
その後、コーデル家と敵であるアシュリネ家が確実に接敵するまで、コーデル家から何度も出撃を促すための使者がやってきていた。しかし、キグミナス様はあの手この手で時間を稼ぎ、遂に両家による戦闘が開始された。
「報告します。」
「どう?アクライヤ。」
「アシュリネ家が優勢です。コーデルはやはり、あれがダメなせいでろくな指示も出せておりません。」
「そろそろかな……バーンローの兵士達!」
キグミナス様の一声で全員がピシッ!と背筋を伸ばす。
「これから僕たちの初陣だ!誰もかけることなく…なんて夢物語を言うつもりはない。……でも、これは言わせてほしい。生き延びろ!全軍…突撃!」
「「「「おぉぉ!!」」」」
さてさて、張りきりますかっ、と。
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