第4話 始まりの合図

「無事終わって何よりですね。」

「ホントですね。こんなにたんまり……」

 納期にはちゃんと間に合い、中身の確認を終えたハタリさんからお礼を袋一杯に貰えた。確認には何日も掛かり結構暇だった。

 まぁ、しょうがないとは思うがね。

「それはここに置いてください。」

「了解です、よっ!……ふぃー。」

「お疲れ様です。それと打ち直した剣が直ったそうですよ。」

「本当ですか?」

「ええ。それに、あの一団の謝礼金であなたの借金が丁度無くなりましたので、あなたはもう自由の身ですよ。」

「え?」

 俺が振り返ると優しく微笑むマッターさんがいた。

「でも…あれではまだ……」

「構いませんとも。」

「っ!ありがとうごさいます!」

 俺は精一杯の感謝をして、鍛冶屋に向かった。






「よぉ、兄ちゃん。出来てるよ。」

「見せてもらっていいですか!?」

「おう!」

 店主が奥に行って暫く、一振の剣を持って戻ってきた。

「これが注文の品だ。確認してくれ。」

「うおぉぉ……」

 そこには在りし日の相棒がそのままの状態で俺の手に収まっていた。

 俺は唾を飲んで鞘から抜く。

 静寂の中、鞘と刀身が擦れる音が心地よく耳に入ってくる。一つしかない照明の光を浴びて、爛々と輝きを放つ。

「最高だ。」

「そりゃよかった。お代は貰ってるからそのまんま行っていいぜ。もちろん、もっと買っても良いがな。」

 ワッハッハ!と笑う店主のサズリさん。

「いや、とりあえずは……あ。」

「ここがオススメらし……おや。」

 俺が帰ろうと後ろを向くと、丁度入り口からあの一団が入ってきた。

「お久し振りですね、アファルさん。」

 アクライヤさんが丁寧に頭を下げてきた。

「あ、あぁ。」

 俺も釣られて頭を下げる。

「アファル!元気だった!?」

 キグミナスくんが目をキラキラさせて話しかけてきた。

 俺も何か返そうとしたが、カズィンとセルヤが笑いながら手を振る後ろで、険しい表情で睨み付けてきたジジイが見えたので、笑うだけにとどめておいた。

「アファルさんも武器を探しに?」

「いや、俺は打ち直して貰ってたんだ。これさ。」

 俺は新品同然となった相棒を少しだけ鞘から出して見せる。

「おぉ、これはなかなか。」

「業物ですね。」

「「かっこいい!」」

 カズィンとキグミナスくんのセリフが被ったのは触れないでおくか。

「ふん、貴様のようなボロ布には似合わないな。」

「ハッ!そいつはどうも。」

 俺はこのジジイと仲良くなる未来が見えねぇな。

「モスコさん、辞めてください。」

「これはワシの問題だ!口出しせんでくれ。」

 アクライヤさんが制止しようとしてくれたが、謎の主張で無下にする。その後、ズンズンと俺に近付いてくるジジイ。

「お前、ワシと勝負せい!」

「は?嫌だが?」

「なぁ!?ワシを虚仮にする気か!?」

「ハァ?」

「あのぉ、アファルさん。出来れば受けてくれると有り難いです。モスコさんは実力至上でして。」

「えーと、俺になんの関係が?」

「前回助けて貰った時、戦果を盗られたと思われたようで…このままだと……」

 そう言ってチラチラとキグミナスくんを見るアクライヤさん。

 はっはぁ~ん。確かにキグミナスくんの教育に悪影響はありそうだ。

 そう思っていると、シュバッ!とアクライヤさんが俺の手に何かを握らせた。

 ゴソゴソ……フム………謝礼としては十分だな。

「良いぜ、爺さん。やってやるよ。」

「フン!図に乗るなよ若造が!」





 店主に店の裏を借りて、一騎打ちとなった。

「へぇ~、爺さん大楯とロングソードかよ。」

「文句でもあるのか!?」

「ないない。いつでも良いぜ。」

 あの大楯とロングソードを片手で持てるとは相当な馬鹿力だな。盗賊の時は今と比べればかなり軽い剣だったからこそ、俺の助太刀が入る余地があったんだろう。

 今のフル装備の爺さんは手練れだ。本気でやった方が良いな。

「スゥーハァー………こちらも構わん。」

「それでは…始め!」

 アクライヤさんの合図で俺は走り出す。

 まずは重そうな大楯を集中的に攻撃して、身体のバランスを崩す!

「フ!所詮はその程度ォ!」

 ぐあ!?あれ本当にジジイか!?バケモンじゃねぇよな!?

 俺は大楯に体当たりをされて後ろに吹き飛ぶ。全身が大楯と地面の打撃で痛む。

「しゅぅふぅぅ……いてぇじゃねえか。」

「当たり前だ。我が防御、崩せるものならやって見せろ!」

 チッ!見透かされてるか………流石は経験の多い爺さんだっと。


 それから数刻、切れど切れども手応えはなく、俺はとうとう膝をついた。

「やはり威勢はよかったが、所詮は雑兵よな。これで終まいだ!」

 爺さんは俺の目の前で剣を振り上げる。

 クソッ!捨て台詞も吐けねぇぐらいの完敗だ。

「…ん?………チッ!辞めだ。」

 爺さんはそう言うと剣を鞘に納めた。

「おい!勝負なんだから首筋に剣を!」

「ワシの誇りにかけて、手負いの戦士は手にかけぬ。本気でまたやりたいならその誓約を消してからにしろ。誓約を…しかも二つ背負ってそれほどならば、貴様は雑兵では無いと認めざるを得ぬわ。」

 そう言うと、爺さんは他の仲間を置いて歩き出してしまった。

 俺がポカンとしているとアクライヤさんが駆け寄ってきた。

「っ!本当に誓約が二つ……しかも赤黒い……二つが発動済みであんなに動けるなんて!アファルさん!是非とも!キグミナス様の剣術指導、並びに色々と!お願いできませんか!?」

 興奮したように俺に捲し立てるアクライヤさん。

「え?あぁー……」

 どうする?マッターさんへの恩を返しきれたとは言い切れない。……だが、俺の最終目的は姫様にお会いすること。貴族らしきこの人達の側にいた方が確率は上がる……はず。それに、マッターさんの好意も、ちゃんと受け取りたい。この恩はちゃんといつか返したいな。

「分かりました。その話、受けさせていただきます。」

「おぉ!あなたも受けてくれて心強いです!」

「あなた"も"?」





「やぁ、アファル。元気かい?」

「マッ!マッターさん!?え?てことは……俺のことを思って野に放ったんじゃなくて、アクライヤさんの話に乗るために俺を捨てたんですか!?」

 あの時の感動を返してくれよ!

「人聞きの悪いことを言わないで下さいよ。私はあくまでもあなたの雇用主ですから、自らの手から離すことまでしか協力は出来ないと言ったまでです。」

「でも、その協力分も貰ってたよな。」

 カズィンのタレコミに目を背けるマッターさん。

「…ハァー、もういいです。それでアクライヤさん話って?」

 俺は今回の用件を聞く。


「はい。アファルさんもお気付きかもしれませんがキグミナス様は貴族で、私はその従者です。モスコさんはキグミナス様の傅役で、カズィンとセルヤは私の友人でありキグミナス様の家の騎士でした。」

「騎士でした?」

「はい。我々はフロート王国に所属するバーンロー家の者達…でした。ですが、国が割れた時にフロート王国の国王が気に入らないと言う理由で我が家を罰し、御家断絶。キグミナス様を連れて我々は命からがら逃げ延び、日々過酷な環境に耐え、この前フリック王国より貴族として召し抱えると使者が参りました。」

「つまり、この少数で戦争をして名を上げると?」

「その通りです!」

 え?アホなん?無理やろ。

 ………でも、やってみる価値はあるかもな。こんな大博打、罪人になる前には絶対選ばなかっただろう。

「……乗った!よろしくなアクライヤ、そしてキグミナス様。」

「っ!ありがとう!アファル!」

「ホッ、良かった。承諾がなければ泣く泣く消すところでした。」

 え?ちょっ!アクライヤさん!?

 物騒な言葉が聞こえたんですが!?

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