第2話 食い違い

 見渡すばかり、草草草。体感三時間歩いてやっと見つけた道らしき何かを進んでいく。地面はそれなりになだらかだが、手入れをされてる様子は見受けられない。多分人は来な……

 ガラガラガラ……

 なぬ!?




「ふむ?道に迷われたと?」

「お恥ずかしながら……金はあります!近くの王国まで運んでくれないでしょうか?」

 俺はくすねてきた金の内、所持金の半分をつきだす。ここで糸目はつけられない。断られたら野垂れ死にしか出来なくなってしまう。

「まぁ、構いませんよ。行き先は同じですし。

 ただし、武器は私に預けていただけますか?」

「当然だ!」

 よっしゃ!


 ガタ……ガタ……

 長年の労働で酷使された身体に、馬車の揺れがかなり響く。

 俺を運んでくれるのは色々な国の特産品を扱う旅商人のマッターさんだ。この道は推測通り現在ではあまり使われてはいないが、現在主流の街道よりも目的地への距離が短いため、こちらの道を今でも使ってる人は意外といるらしい。

 俺は外の景色や積まれている荷物を見ていると一つの地名が目に留まった。

「マッターさん、このファナト村の箱見て良いですか?」

「……なぜですか?」

 マッターさんの機嫌が多少悪くなる。

「いえ、俺が小さい頃住んでいた村なんですよ。でも、あの村なんもなかった気がするんです。」

「そうでしたか。何が入ってるかの説明だけでも構いませんか?」

 俺の言葉に納得してくれたのか、口調が元に戻ってくれた。

「もちろん良いですよ。」

「と言っても、入っているのは綿です。」

「わた?布団とかに入ってる……あれですか?」

「そうですよ。」

「綿ってあんな環境で育つんですか?」

 ファナト村は年中暑……温かい地域だし、土も乾燥していて作物が育たないゴミのような村扱いだった。

「らしいですよ。なんでも、遠い南の島から種を持ってきたそうです。乾燥しているというのも条件に合致したとか。」

「へぇ~そんな政策を態々するなんて優しい方もいたもんだ。」

「ハッハッハッ、その優しい方も利益の為の打算でしょうがね。」

「良いんですよ。顔見知りが飢えずに暮らせてると知れましたし。」

 俺は手繰り寄せるように記憶の片隅にある物を引っ張り出す…………………あ、忘れてた。俺あの村と絶縁したんだった……

 凡人の剣で飯が食えるかバカ野郎とか言われて、カッとなったのを思い出した。まぁ、絶縁したお陰で罪人としてしょっぴかれた時も情報は向こうにいってないだろうからそこは安心だ。もしバレてたら裏で何言われるか想像に難くない。

 俺はそっと、今思い出した記憶を元の場所に戻した。二度と思い出すまいと再び願って。

「村を出て長いんですか?」

 俺が感慨に耽っていると思ったのかマッターさんが尋ねてきた。

「えー……と確か…十五年は経ってますかね。」

「え!?失礼ですがおいくつで?」

「えぇ?………三十は越えてる筈です。」

 そんなん考えてる暇無かったなぁ……

「そ、そうでしたか。成人したてのわりにはやけに金払いが良いと思いましたが、既にそこまで年を取っておられてましたか。」

「アハハ、いらぬ心配をかけてしまい申し訳ない。」

 そこまで若く見られていたのか?確かに成人したばかりで二つも剣を持った男が大金を持っていたら盗賊や面倒事、後ろ暗いものを感じてしまうだろうな。

「いやはや、失礼しました。目には自信があったのですがまだまだでしたね。

 それなら剣の腕もかなりのものでは?」

「いやぁ、どうでしょう?期待に応えられるかは分かりませんが、自信はありますよ。」

「ほう!………ではこうしましょう。先程頂いたお金をお返ししますので護衛として働くというのは?」

「え?………良いんですか?」

「これも何かの縁……と言いたいところですが、その分の護衛料は無しということで。」

「構いませんよ。」

 俺の運も捨てたもんじゃ無いな!




 護衛と言われ張り切ったのだが、結果は何も無し。まぁ、マッターさんはその方が嬉しいだろう。

「さぁ、着きましたよアファルさん。」

「おぉ…おぉ?こんなんだったかな?俺の記憶ではもっとデカイ門だったんだが……」

「おや?…………もしかしてフロートに行きたかったのですか?」

「え?……じゃあ…もしかして……」

「はい、ここはフリック王国です。」

「???どういうことだ?」

「んむむ…もしかして最近までかなり遠くにいたんですか?フロート王国は国王が崩御した後、第一王子と第二王子が争い、分裂したのです。このフリック王国は第二…いえフリック王国の領土です。」

 なんじゃそりゃ!?外ではそんなに騒がしかったのか……

「ぐ、具体的に頼めるか?」

「本当なら料金が欲しいですが、まぁ良いでしょう。第二王子が反乱を起こし、戦争が起きたのが七年前。和平調印をして表向きは平和になったのが三年前です。」

「……因にだが、他の王侯貴族達は?」

「確か…地方領主や新興貴族等の今までの体制に不満を持っていた層が第二王子へ、それ以外は元のままです。」

「ではフリック王国の領土はかなり狭いんだな。」

「はい。あぁそれとフロート王国はフロート帝国に名を変えました。」

 …だからフロートではなくフリック王国に来てしまったのか。

「そうか。四年間の戦争の被害は?例えば王族とか。」

 姫様……どうか……!

「それなりに亡くなられたようですが、王族の訃報は聞いておりませんね。」

 一先ずは安心だな。

「なるほど。ありがとう教えてくれて。」

「いいえ、構いませんとも。ですが、ここまで話して何もないは商人としてどうかと………そこで、これからあなたは私の専属護衛になってもらいましょうかね?」

「……アリですね。」

「ほ、本気ですか!?」 

「え?」

 なんだなんだ!?食い付きがすごいな!

「頼んでもよろしいので?」

「それは俺も願ったり叶ったりです。

 ……よろしく?」

 俺は戸惑いつつ、右手を差し出す。

「っ!よろしくお願い致します!」

 嬉しそうに両手で俺の右手を掴むマッターさん。

 

 後で聞いたら旅商人は需要はあっても供給が追い付いてないとかなんとか。……まぁつまり命の危険があるせいで人手不足だから、身の安全が確保できるのは最高に嬉しいらしい。

 ……目的とは違うが、急いではいけない。少しずつでも姫様に近付いていこう。

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