力の試練 その2

 ――パコーン! (←オルトーが吹っ飛ばされる音)


 ――カッキーン! (←ギャゴが吹っ飛ばされる音)




--




『ああ! 弱い! 弱すぎるぞ!

 戦士オルトー・ビゾンと魔術師ギャゴ・タジーファ!

 あれだけ威勢が良かったのは何だったのか!?

 瞬殺されてあっさり戦闘不能になったあ!』


 実況を務めるお姉ちゃんの声が、闘技場中に響き渡る。

 彼女が語った通り……。

 あれだけ放っていた強者のオーラは何だったのかという、圧倒的な瞬殺劇であった。


『と、いうよりは、相手が強すぎるのかあ!?

 戦士アラン・ノーキンと聖騎士シグルーン!

 さすがはSランク冒険者というべきか!

 タイクン家が用意した助っ人を、瞬く間に倒してしまったあ!』


 お姉ちゃんの実況に合わせて……。

 噛ませ二人を瞬殺した闘士たちの姿が、場内へ浮かぶ光球に映し出される。

 戦士アラン・ノーキンと、聖騎士シグルーン……。

 二人の戦い方は、対照的なものであった。


 アランは、高速回転する刃を素手で受け止めると、残る片手の張り手で相手を吹っ飛ばし……。

 シグルーンは、魔術の行使など許さぬほどの速度で接近し、峰打ちで吹っ飛ばしたのである。


 剛と速……。

 同じ前衛職でありながら、戦い方の異なる二人が、闘技場内で向き合う。

 両者の距離は、たっぷり十歩分は離れていたが……。

 これは、二人にとって一息で詰められる間合いの内であった。


『こういう機会……。

 なかなか、ありそうでねえよなあ?』


 こきり、と首を鳴らしながら、アランが背中の大剣を引き抜く。


『うむ。

 一度、尋常に戦えばどちらが勝つかというのは、試してみたいと思っていた』


 ちきり……と。

 すでに抜いていた聖剣を正眼に構えて、シグルーンが不敵な笑みを漏らした。


『おおっと!

 タイクン家の助っ人を倒した二人の間で、熱い火花が散っている!

 これは、このままSランク冒険者同士による死闘開幕かあ!

 ――あ、助っ人を失ったノアークさんは、両手を上げて降参のポーズですね?

 お疲れ様でしたあ! 邪魔にならないよう、係官が開けた結界の穴から速やかに撤収して下さい!』


 実況のお姉さんに促され……。

 気絶した助っ人二人を一生懸命に引きずったノアーク・ケイワマ・タイクンが、速やかに撤収していく。


「相手が悪過ぎたなー!」


「他の試練で頑張れ!」


「傷が大きくならない内に引き上げるのは、大正解だぞ!」


 彼に向けられる観客たちの声は、意外と暖かいものである。

 これは、相手が強過ぎて早々に助っ人を失い、もはや勝ちの目がなかったから、というのが第一だろうが……。


「……これまで培ってきた評判によるところも、大きいだろうな。

 普通、ここまで見せ場の一つもなければ、野次くらい飛びそうなもんだ」


 観戦していたヨウツーは、腕組みしながらそうつぶやいた。

 人気によるところが影響するのは、あくまで、候補として選出されるまで。

 魔術公になれるかどうかは、試練の結果によって決まる。

 だが、この光景を見れば、人徳という面において彼へ軍配が上がるだろうことは、明らかだった。


『さあ、じっと向き直った戦士と聖騎士……。

 このまま、千日手かあっ!?

 ――いや、動いた!』


 そのような退場劇を尻目に……。

 ついに、Sランク二人が激突する。

 シグルーンが一気に間合いを詰め、アランへと攻めかかったのだ。

 だが、これは……。


『――見えない!

 シグルーン卿の動きが、肉眼では全く捉えられません!

 何という超人的な身体能力でしょうか!』


 一瞬の脱力と共にかき消えたシグルーンの姿……。

 これは、よほどの使い手でない限り、捉えることができないだろう。

 それほどの速度でもって、アランへと斬りかかっているのだ。


 だが、アランはこれに対応できぬほど未熟な使い手ではない。


『戦士アラン! 聖騎士の猛攻を、しのぎにしのぐ!

 手にした分厚い大剣が、まるで紙切れか何かのように振るわれ、連続攻撃を弾き返しています!』


 体の動きが、そのまま残像として残るほどの速さで……。

 アランが、縦横無尽に大剣を振るう。

 すると、そこには聖剣と打ち合ったことで生じる火花が発され……。

 恐ろしい攻防の残滓のみが、観客たちの目に映っていた。


 ことスピードという点においては、シグルーンの方が勝っているだろう。

 だが、瞬発的なそれに関しては、アランもそう劣るところではないのである。


 また、アランが得物としているのは、自身の身長ほどもある分厚い大剣だ。

 これは、刀身を横にすることで、そのまま盾のごとき役割を果たすこともできた。

 最強の力によって振るわれる大剣が、大男の半身をそのまま覆ってしまうのである。

 いかにシグルーンが神速を誇ろうと、その肉体へ剣を届かせるのは、容易いことではないのだ。


 聖騎士が攻め込み、それを戦士が防ぐ。

 そのような戦いが、それからしばらく続いた。

 だが、アランとて超一流の使い手……。

 ただ守りに徹するだけではなく、その目は、攻め込む機会を伺い続けている。


 隙を待つのではない。

 どの道、そんなものを晒すシグルーンではないからだ。

 では、どうするのかといえば……。

 最大の持ち味――力に物を言わせ、強引に攻め込む機を作り出すのである。


『――ああっと! これは私にも分かります!

 戦士アランが、闘技場の地面を大剣で叩いたあっ!

 砂漠から運び込まれた砂が、大爆発でも起こしたかのように舞い上がります!』


 実況のお姉ちゃんが、興奮気味にまくし立てたように……。

 一見すれば空振ったようにも見える一撃により、爆圧的な凄まじさで闘技場に砂が舞い上がった。

 だが、これこそがアランの狙い……。

 相手の視界を奪い、かつ、俊敏な踏み込みに必須の足場を崩すことで、流れを自分の方へ持ち込もうとしているのだ。


『くっ……』


 それまで、かき消えていたかのようの見えたシグルーンが、わずかに足を止める。


『――らあっ!』


 そこへ、アランが反撃を叩き込んだ。

 縦に……。

 横に……。

 あるいは、斜めに……。

 大剣の重さなど感じさせぬ斬撃が、次々とシグルーンへ襲いかかった。

 恐るべきは、振り下ろした大剣が地面へ触れる前に、勢いを殺すことなく切り上げられていくことだろう。


 一度、攻勢へ出たアランの連撃に、切れ目などというものは存在し得ない。

 ただ、敵を一刀両断にするまで、颶風ぐふうと共に大剣が振るわれるのだ。


『さあ、攻防が入れ替わりましたが、シグルーン卿、避ける! 避ける! 避ける!

 守勢に回れど、その俊敏さが衰えることはありません!

 そして、Sランク冒険者といえば、残る二人を忘れてはならない!

 エルフ魔術師のレフィと、獣人忍者のギンにも動きがあったあ!』


 絶好調な実況のお姉ちゃんに合わせ……。

 攻め手が入れ替わったものの、膠着状態に変わりはない前衛二人から、残る冒険者たちへと光球の映像が移り変わる。

 映し出されているのは、レフィとギンであり……。

 両者共に、勝利を確信した笑みであった。

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