万年Cランク冒険者のおっさんが引退し開拓地で酒場を開くことにした結果、ギルドの冒険者たちがこぞってついてきてしまった件 ~俺が師匠? 何のことです?~
(腰が絶対痛くなるから)行かなくてよかった迷宮初探索
(腰が絶対痛くなるから)行かなくてよかった迷宮初探索
ヨウツーがSランク四人組を伴っての遺跡捜索から帰還して、およそ三ヶ月……。
開拓計画全般でみれば、公国を経ってから半年が経過しただろうか。
ドルン平原に築かれた開拓村の様子は、大幅に様変わりしていた。
先人の開拓跡地は、魔術なども駆使してその全てが綺麗に撤去されており……。
代わって、開拓者たち自らの手によって建設された木造住宅がずらりと並んでいる。
丸太を組み合わせたような様式は、いかにも単純なものであったが、素人建築とは思えない強度も備わっていると思えた。
しかも、単に住居のみが連なっているわけではない。
吉報を聞き駆けつけた各商会の手によって、様々な商業施設が目下建設中なのである。
気が利くことに、専門職の大工なども派遣されているため、それらの建設は驚くほどの早さで行われていた。
村の前方部に広がっているのは、草原を切り開いて作られた畑であり、ここでは主に芋類が植えられている。
だが、あえて種を植えず休耕地とされている箇所もあり、そちらは時がくれば麦や米の栽培に使われるのだろうと推測することができた。
元々の土質が肥沃であることに加え、各畑には後背の森林内から引いてきた水路が行き渡っており、水の供給も十分なものが期待できる。
いずれ、かなりの生産量を発揮するに違いないだろう。
村の高背部に存在するのは河川を抱えた森林地帯であり、こちらは、特に資源地帯としての重要性が高い。
建物を作るにせよ、燃料として使用するにせよ、木材は必要不可欠であった。
また、森林内からはきのこや山菜、河川からは淡水魚も得られるわけで、食料の供給も期待されている。
豊かな森林へ隣接できたことは、新規の開拓地にとって非常に有益であったといえるだろう。
このように、通常の開拓地としても非常に有望なこの開拓村であるが、最大の目玉と呼ぶべき場所は、森林地帯を抜けた先……山岳の麓にあった。
総出で開通させた森林内の道を一刻ほども歩めば、そこには、とても自然のものとは思えないような……巨大な奇岩が姿を現すのである。
まるで、命を持っているかのような……。
恐ろしく精緻な造作をした、竜の頭部がごとき巨岩であった。
開かれた
実際、この奥がどれほどの広がりを見せているかは、誰にも分からない。
そこにあるのは、このドルン平原を今の姿に作り変えた古代人たちの遺跡――いや、迷宮なのだから。
「さしずめ、ドルンの竜迷宮ってところか」
巨岩……いや、迷宮の入り口を見上げながら、戦士ヨウツーは感慨深げにつぶやいた。
「見つけ出すまでには、思ったより時間がかかっちまったな」
戦いと冒険の予感へ笑みを浮かべた戦士アラン・ノーキンが、そう言って自慢の大剣を背負い直す。
「仕方があるまい。
まさか、あのような仕掛けになっているとは、誰も思わなんだ」
鎧の上からでも分かる豊満な胸を揺らしながら、聖騎士シグルーンが肩をすくめる。
「まさか、平原各地に埋もれている祠を掘り当て起動させなければ、この入り口が姿を現さないなんてね」
自慢の黒髪をかきあげながら、エルフ魔術師のレフィも探索の日々を思い出した。
「最初は、東部で発見した祠でしたね。
魔力的な繋がりが発されてると先生が見抜かなければ、探索はもう少し難航していたことでしょう。
……祠に仕掛けられていた謎解きも先生がやりましたし、そういうのを見抜かれるのは、魔術師であるレフィさんの領分では?」
「あーあー、聞こえなーい」
キツネ耳をピコピコと揺らしながら獣人忍者のギンが問いかけると、レフィが明後日の方を向く。
「しょうがないじゃない。
そういう細かい探査とかは、あたし苦手なのよ。
それに、東西南北に祠があるんだろうって推理したのは、あたしよ」
「まあ、東部のド真ん中に祠が埋もれていて、そいつだけじゃ封印が解けた感触がないんだから、東西南北に散ってるだろうっていうのは、普通の推理だけどな。
にしても、迷宮の入り口そのものは、俺の探知でも届かない遥か地下深くだったんだから、念入りに隠したもんだ。
それが開拓村の近くだったのは、運が良かったのか、あるいは何かの必然かね」
苦笑を浮かべたヨウツーが、背後を振り返る。
そこに居並んでいるのは、迷宮都市ロンダルで腕を磨いた冒険者たちであり……。
皆が皆、前人未到の迷宮へ目を輝かせていた。
彼らの半数は開拓当初からいた者たちであるが、もう半数は、後から合流した者たちである。
ヨウツーを慕っていた者もいるし、新たな迷宮の話を聞きつけた者たちもいた。
共通しているのは、迷宮都市での重い税に嫌気がさしていたことだろう。
「それにしても、いいんですか?
迷宮都市みたいに税金をかけなくて?」
ヨウツーが問いかけたのは、開拓団の団長であり、いずれこの地に形作られていくだろう都市国家の主となる青年ー――ハイツ・ザドントだ。
「ああ。
関所そのものは、必ず設ける。
これは、迷宮内部から危険な品が無造作に持ち出されることを防ぐための措置だ。
しかし、収穫物に税を課すことはしない。
それは、何も迷宮に限った話ではなく、商業全般にいえることだ。
このドルン平原は、開拓が進めば北方諸国との重要な交易拠点になるからね。
あえて、関税などを安く……場合によっては、完全な無料とすることで、より民間の動きを活発化させる」
整った顔立ちをすましてみせたハイツが、流れるように自分の考えを述べる。
それは、若さに見合った野心的な政策であるといえた。
確かに、交易は活発化するだろうし、冒険者も数多く逗留することになるだろうが、やはり、税を課した方が国庫を潤しやすいからだ。
それをしないのは、短期的に為政者が財を成すことよりも、長期的にこの地が栄えることを優先したからに違いない。
一長一短ある政策とはいえ、資質ある若者が十分考えた末に導き出した答えであるのだから、口を挟む必要はないだろう。
「小難しい話は置いといてよお!
ここでは、おれたちは探索すれば探索しただけ、儲けられるってわけだ!
査定がどうのこうのなんて、細かいこと言われずになあ!」
戦士アランがそう言うと、他の冒険者たちがその通りだと言うように力強くうなずく。
いや、中にはそれを言葉にして吐き出している者の姿もあった。
小役人のごとくあれこれと値付けしては、上がりを要求する迷宮都市の鑑定士たちは、冒険者から忌み嫌われる存在だったのだ。
「我らが目指すは未踏!
今日、この記念すべき日に、皆で前人未到の迷宮へ共に足を踏み入れようぞ!」
聖剣を抜き放った聖騎士シグルーンが、高らかに言い放つ。
「あまり、張り切りすぎないようにしましょう。
あくまで、これから行うのは、迷宮の規模を調べるための偵察なんですから。
本格的な探索は、それこそ内からの脅威を封じ込めるための関所が形作られてからです」
最年少にして、最も冷静な獣人忍者のギンが、いきり立つ前衛たちに告げる。
とはいえ、張り切っているのはアランとシグルーンのみではない。
他の冒険者たちも、誰よりも多くの収穫を得てみせると意気込んでいるのだから、この忠告はあまり意味を成さないだろう。
「――ふん!
未踏の迷宮だか何だか知らないけど、あたしに恐れはないわ!
最初から全力全開の魔術で、立ち塞がる全てを薙ぎ払ってやるんだから!」
自身の身長ほどもある杖をかざしながら、レフィが宣言した。
その意気込みに嘘偽りはなく、彼女は魔術師でありながら、アランたち前衛の列へと食い込んでいる。
「ようし!
それじゃあ、行って来い!
くれぐれも、無理し過ぎないようにな!」
――おう!
ヨウツーの言葉に応えた冒険者たちが、次々と巨大な竜岩の口腔内――迷宮内部へと踏み入っていく。
「頼もしいな。
一体、どれだけの成果を持ち帰ってくるのか」
「はっはっは。
堪え性がないだけですよ。
まだ開拓村での支援体制も整い切ってないってのに、潜るって言って聞かないんだから」
ヨウツーはハイツと言葉を交わしながら、冒険者たちの消えて行った迷宮入り口を見やった。
「レフィさんも、ずいぶんと張り切っていたな。
魔術師だっていうのに、前衛と並んでいたし」
「ええ。
最初から全力全開だって言ってたが、あいつが何も考えず本気を出したら――」
――ズッ!
――ゴオオオオオンッ!
という、火山噴火のような轟音が眼前の遺跡内から響いてきたのは、その時だ。
同時に、山岳の中ほど……ちょうど、あの調子で冒険者たちが進んでいったなら先頭がたどり着いているだろう辺りが地下から崩壊し、巨大な火柱を天に吹き上げる。
「……なあ、ヨウツー?」
「何でしょう?」
自分のアイデンティティが腰痛なのか頭痛なのか分からなくなってきたヨウツーに、ハイツが抑揚のない声で尋ねた。
「あれは、レフィさんの魔術だろうか?」
「……ほぼ間違いなく」
眉間を揉みほぐしながら、答える。
「あんなもの内部で放って、その先へ探索することができるのだろうか?」
「自動修復能力が備わった迷宮だとしても、かなりの長期間放置しないと、瓦礫で埋まったままかと」
果たして……。
それからしばらく経つと、熱で髪の毛がチリチリになったレフィが、やはりチリチリ髪となった他の冒険者から追われる形で迷宮の入り口から飛び出してきた。
「仕方ないじゃない!
こんなに脆い迷宮だなんて、思わなかったのよ!」
「「「やかましいわこの魔力バカが!」」」
ヨウツーとハイツは、高ランク冒険者たちによる壮絶な鬼ごっこを、生温かい笑みで見守ったのである。
--
――ドルンの竜迷宮。
後の世に、様々な伝説を残すかの迷宮であるが、その一ページ目には必ずこう綴られていた。
――記念すべき初日の探索結果。
――直線百メートル。
……と。
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