万年Cランク冒険者のおっさんが引退し開拓地で酒場を開くことにした結果、ギルドの冒険者たちがこぞってついてきてしまった件 ~俺が師匠? 何のことです?~
(腰をまたやったけど)料理しながら皆に指示を出した
(腰をまたやったけど)料理しながら皆に指示を出した
――Sランク冒険者4名。
――Aランク冒険者21名。
――Bランク冒険者56名。
――一般開拓者18名。
――公国騎士団15名。
――総指揮官第二公子ハイツ。
最後に――Cランク冒険者1名。
以上が、此度のドルン平原開拓団を構成する人員の内訳である。
当初の予定と異なるのは、指揮官であるハイツ直属の公国騎士が大幅に数を減らされていること。
そして、開拓団と銘打ちつつも、過半数を迷宮都市ロンダル出身の冒険者によって占められているということであった。
「これ……オレたち、必要なんだろうか?」
様々な理由により、故郷へ居場所がなく……。
この開拓団へ身を寄せるしかなかった一般開拓者にとっては、そのような感想を抱くしかない。
何しろ、開拓初日で接敵したプトルの群れは、たった四人のSランク冒険者によって、ことごとくが処理されてしまったのだ。
騎士と戦士の手によって血しぶきが舞い、魔術師によって、空から礫のようなものが降り注ぐ……。
そのような光景を、一般開拓者たちはただ遠目に見ているしかなかった。
そうして、全てが終わった後……。
平原に残されたのは、無数の衝突痕と、おびただしい数の死骸である。
何しろ、原型を留めぬまで破壊し尽くされた死体も多数存在するため、どの程度の群れであったかは、推測することしかできない。
ただ、まず間違いなくこの開拓団と同規模の数はいたはずであり……。
いかなる方法によってか……同士討ちや自害によって死んでいる死体を見てみると、このように凶悪な魔物がそれだけの数で闊歩していたことに、戦慄を覚えた。
過去に行われた入植が、ことごとく失敗したというのもうなずける。
本来の戦力――公国騎士団だけで対処しようとすれば、どうなっていたか?
もちろん、一度や二度の撃退は可能だろう。
騎士団とて、ドルン側から進出を目論む魔物の撃退は日常的に行っているからだ。
そう、撃退だ。
眼前に広がる光景のような、虐殺じみた殲滅ではない。
一度、追い返せばそれで終わりというわけではなく、最終的には、騎士団に頼らずとも入植者のみで暮らせる状況を整えなければならないのだ。
公国騎士団のみでそれを達成するなど、到底不可能であろう。
あらためて……。
ここドルン平原は、本来、人間など足を踏み入れるべくもない魔境なのである。
そして、今回の開拓団は、魔境に住まう魔獣たちすら遥かに凌駕する怪物たちで構成されているのだった。
「あのSランク冒険者たちだけじゃねえ……。
てきぱきと、まあ、手慣れた感じで野営地を作っちまって……」
一般開拓者たちの前に広がるのは、今回出番がなかったAランク以下の冒険者たちによって構築されていく野営地の様だ。
プトルたちの凄惨な死体からは、やや離れた地点に……。
連れて来た荷馬車に乗せられている天幕などを使って、手早く野営地が作られていく。
何しろ、開拓団の人数が人数であり、張られる天幕の数が数である。
あっという間に……ちょっとした村じみた規模の野営地が完成し、中央部では煮炊きの準備が始まりつつあった。
「あっちの方は、完全に処理場だよな」
その煮炊きに使われている食材……。
これは、何を使うかといえば……。
当然のように、先ほど仕留めたプトルの肉である。
死体の中には――主に戦士アランと魔術師レフィが仕留めた個体だが――原型を留めぬものも数多くあるが、綺麗な状態を保っているものも多い。
とりわけ、聖騎士シグルーンが仕留めたプトルは、首という首が切断されているため、これを狩りとして見立てた場合、血抜きなども含め完全な状態に近かった。
そのように、状態が良い死体には手空きの冒険者たちが群がり、驚くべき速さで解体しているのである。
見るからに頑強そうな皮を持つ小竜種であるが、動いているならばともかく、今はただの死体だ。
冒険者たちは、どこからどのように刃を入れれば速やかに解体できるのか熟知しているらしく、死体はあっという間に腹を割かれ、内臓が取り出され……。
最終的には、各部位へ切り分けられていく。
その内、肉のいくらかが野営地へと回り込まれ、中央で煮炊きを行う男へ回されていくのであった。
その男こそ、この開拓団で唯一のCランク冒険者――ヨウツーというおっさん戦士である。
彼は、折り畳み式の調理台で、たった今解体されたプトルの肉や、公国から持ち込まれた野菜を手早く切り刻み……。
贅沢にも魔術で起こされた炎を使い、大鍋でそれらを煮込んでいた。
塩だけでなく、香辛料なども放り込まれており、並々ならぬ料理への情熱を感じさせる。
と、これだけだと、単なる炊事のおじさんであるが……。
彼がそうでないのは、調理の傍ら、冒険者たちに次々と指示を飛ばしていることであった。
「冒険者と騎士団を合わせて四班編成にして、三交代制の夜番にする。
一つが一般開拓者と一緒に完全な休みで、残りの三班で回していく形だな。
一班がヨハンをリーダーにしたメンバーで、内訳は……」
そのようなことを、次々と冒険者たちに伝えていく。
意外なことは、あれだけ大活躍をしたSランク冒険者たちが、夜番のリーダーとして一人も抜擢されてないことであり……。
これは真実、適性を見た上で割り振っているのだと、何も知らない一般開拓者たちでも判断することができる。
そして、彼が指示する対象は、何も冒険者だけに留まらなかった。
「さあ! 開拓者諸君! お仕事の時間だ!
ここに、冒険者たちが解体してくれた肉が集まっている!
当然、全てを食すことはできないし、このままでは足が早い!
そこで、諸君には、食事前にこれら肉の塩漬け加工をしてもらいたいと思う!
なあに、やってみれば簡単なもんさ」
自身の前へ集められた一般開拓者たちへ、集められた肉や荷馬車から下ろした塩樽を指差しながら、彼が告げる。
「包丁を使ったことがある奴は、俺と一緒に肉の加工。
他の奴は、手分けして塩をすり込み、空の樽へ放り込んでいってくれ。
なあに、皆で力を合わせれば、そう大した手間でもねえさ」
彼の指示に従い……。
慣れない塩漬け肉作りへと、全員で挑む。
もはや、この開拓団の中心となっているのは、完全にこのおっさん戦士ヨウツーであった。
--
人知を超える戦いとしか言いようのなかった、魔物との初戦……。
口を出す暇もなく行われた野営地の構築……。
手を出すことすらはばかられる手際良さだった魔物の解体……。
そして、それによって得られた肉を長期保存するための加工……。
いずれも、この開拓を成功させるための重要な作業でありながら、そこに一切噛む余地のなかった者たちがいる。
しかも、彼らは本来、この開拓団を指揮する立場なのであった。
「ハイツ殿下……どうしましょうか?」
その集団……公国騎士団の一人が、野営地の中心で開始された食事の配給を眺めながら、指揮官たる青年に問いかける。
「どうもこうもない。
……必要なことをやってるんだから、口出しする必要もないだろう」
ザドント公国の第二公子ハイツは、愛馬にまたがりながら、面白くもなさそうにそう答えた。
彼の容姿を一言で表すなら、これは、金髪の貴公子ということになるだろう。
黄金の髪は、ゆるく優雅に整えられており……。
その甘い容姿は、国内のみならず、国外のご令嬢たちまで数多く魅了してきている。
では、顔だけがよい優男なのかというと、そのようなことはない。
剣の腕前も一流であり、少なくとも、公国騎士団に彼より上の使い手は存在しなかった。
長子でないため、公主の相続権こそ兄に譲ったが……。
才覚において完全に勝っていることは、宮中において誰もが知っている事実である。
故に、過去何度も失敗した開拓計画が、彼の主導ならばと認可されたのであった。
最も、Sランク冒険者4名を含む大勢の冒険者が加入すると聞いた兄公子の提言により、連れて来れた騎士たちの数は予定より大幅に少なくなっていたが……。
部下の数が減らされたことも含め、何もかもが面白くない。
計画を立ち上げ、一年以上も前から準備してきたのはハイツであるというのに、今や完全に流れ者の冒険者たちによって乗っ取られているではないか。
さらに面白くないのが、彼ら冒険者の判断や行動は的確であり、何より戦闘力が高すぎるため、一切、口を挟む余地がないこと……。、
さらにさらに面白くないのが、そんな冒険者たちの中心にいるのが、よく分からない煮炊きのおっさん……。
それも、食器が入った木箱を持ち上げようとして腰をやってしまい、今は野営地の隅でダウンしている情けないおっさんだということである。
つまり現状は、情けない格好でキツネ耳の獣人娘に湿布を貼ってもらっているあのおっさんが、ハイツいるべき位置へに成り代わっているということであった。
「Sランク冒険者が指揮を執るというなら、まだ分かる。
だが、どうしてこの僕があんなおっさんより下みたいな立ち位置にいなければならないんだ……」
不満げなつぶやきは漏らすも、腹は減るものであり……。
本日、最大の無駄飯食らいチームとなってしまった配下の騎士たちと一緒に、配給の列へ加わりに行く。
とりあえず、プトルの肉を使ったスープは、香辛料がよく効いていて、驚くほどに美味ではあった。
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