第2話 大魔人と魔法少女の決闘 そして、クラーケンマン誕生
3メートルを越える巨躯に大王イカのような巨大な触手が12本ついている。成人男性の逞しい腕と足もあるから、ギリギリ人型には見えるが、その頭部は、食虫植物か壺のようで目が見当たらず、肌もイカのように白くぬめっとしているので、異形だ。
あれは、確か、大魔人会という悪の組織の幹部・クラーケン大魔人ラブリーではないか。
ネットで奴が人々を虐殺してるのを何度か見たことがある。
それと対決してるのは、中学生か高校生ぐらいの年齢の大きなリボンの付いたピンクのミニスカドレス姿の女子二人。
濃いピンク(ショッキングピンクというのだろうか)の方のミニスカドレス女子は、確か、ピクシートラップ
背が低く、女子にしては、ヘルメットをつけたようなどデカい頭をしているので、四頭身か三頭身に見える。おまけに足も太いので、一人だけギャグ漫画から出てきたようで、世界観にマッチしていない。
薄いピンク(ベイビーピンクというのだろうか)の方のミニスカドレス女子は、確か、ピクシースパイス
二人共、日本政府が大魔人会対策で設立した公的執行機関・魔法少女課の構成員、魔法少女だ。
2024年度版の魔法少女図鑑を読了済みなので、知っている。
大魔人会に所属する魔人達は、動機は不明だが、人を襲い、喰らい、殺戮する。彼らがどこで生まれたのか、元は人間だったのか、色々と憶測がネットで拡散されているが、真実がわからぬまま、彼らが現れてから、もう13年の時が経過している。
13年間も魔法少女達は、世代交代しながら、魔人達と戦い続けている。
そうだ。そういえば、夢のようなぼんやりとした記憶だが、確かに朝のニュースで今日のこの時間帯に魔人と魔法少女の決闘が王技町公園で行われるので、周辺住人は避難するようにと政府から御達しが出ていた。
どおりで何処のコンビニも閉まっているはずだ。さっきのコンビニも電気は点いていたが、店員がいなかった。そういう店なのかと思って支払いは、セルフレジで済ませたが。
状況がようやく把握できた俺は、王技町公園内のベンチに腰を降ろし、クラーケン大魔人ラブリーと魔法少女達の戦いをアテにブルタップをぷしゅっと開け、晩酌を始めた。
クラーケン大魔人ラブリーと魔法少女二人の戦いは、俺の見る限り、拮抗していた。
ピクシートラップ弥馬田グフ子は、最強の魔法少女と呼ばれてるだけあって、いつどこにでもトラップを出現させれるというトラップ魔法を駆使し、クラーケン大魔人の触手の攻撃を竹槍付きの落とし穴や鳥もちや虎挟みで防ぎ、煙幕で相手の視界を塞ぎ、地雷で反対に相手に攻撃を加えた。
それをクラーケン大魔人ラブリーは、トラップで使えなくなった触手を次々と切り落とし、新しい触手を生やすことで対応していた。
クラーケン大魔人ラブリーの肉体は、体内のどこかにある核を破壊しないかぎり、いくらでも再生する。
と魔人攻略ガイドに書かれていたとおりのようである。
ピクシートラップと大魔人ラブリーとの拮抗している戦いを台無しにしているのが、ピクシースパイスだった。
彼女は、自らのマジカルステッキから放つビームで相手を麻痺させるスパイス魔法の使い手なのだが、大魔人会の魔法少女対策課研究部のDr.ゲルリオンに自らのスパイス魔法が効かなくなる抗体ワクチンを作られてしまい、それ以来、魔人との戦闘に劣勢を強いられ続けている。ついた渾名は、最弱の魔法少女。
スパイス魔法が相手に効かないピクシースパイスは、終始、クラーケン大魔人ラブリーの攻撃に対して防御一辺倒であった。
半透明な壁のような防御魔法である魔法障壁を前面に三重に張るが、簡単にクラーケン大魔人ラブリーのしなりを上げた強力な触手の攻撃で破壊され、吹き飛ばされる。自らの後方に硬くない魔法障壁を作り、受身をとるのが、やっとである。
魔法少女ピクシースパイスは、完全な足手まといだった。
ついには、クラーケン大魔人ラブリーに足を触手で掴まられ、引き寄せられてしまう。
クラーケン大魔人ラブリーは、捕らえたピクシースパイスを盾に使った。ピクシートラップの攻撃の手が止まる。
「お〜ほっほっほっ。仲間を盾にされたら、さすがの最強の魔法少女も攻撃できないようね〜」
とクラーケン大魔人ラブリーは、高笑いする。
「卑怯者!」
ピクシートラップは、ふざけた見た目に反した歯噛みした表情になる。
「そのまま、動くんじゃないわよ。あんたが動いたら、アタシ、この子、握り潰しちゃうからね」
そう言って、クラーケン大魔人ラブリーは、ピクシースパイスを掴んだ触手の力を強めた。
「うぎゃああああ!!」
あばら骨が折れそうなのか思わず、叫び声をあげるピクシースパイス。
「くっ……」
ピクシートラップ弥馬田グフ子は、マジカルステッキの構えを降ろした。
「そうそう。いい子ね。それでいいのよ」
満足そうに微笑みながら、クラーケン大魔人ラブリーは、頭頂部にある口にピクシースパイスを掴んでない触手のうち一本を突っ込み、ラケットを取り出した。
「最近、アタシ、スポーツにハマってるのよね〜」
言いながら、クラーケン大魔人ラブリーは、頭頂部の口からラグビーボールの形と大きさをした卵を出産する。
「いくわよ〜!!」
クラーケン大魔人ラブリーは、そのラグビーボール大の卵を天高く投げ、自分の頭上の届く範囲に落ちてきたそれをラケットでスマッシュした。
ラグビーボール大の卵は、ミサイルの如き速さで飛んで行き、
「ぐふっ……!!」
弥馬田グフ子の下腹部に炸裂した。
卵は破裂し、弥馬田グフ子は、白濁液まみれになる。
「続けて、いくわよ〜!!」
クラーケン大魔人ラブリーは、次々とラグビーボール大の卵を出産し、連続でラケットでスマッシュし、その全てを弥馬田グフ子に着弾させたが、弥馬田グフ子は、倒れなかった。
いや、倒れられなかった。
クラーケン大魔人ラブリーの卵から割れて出てきて、浴びせられた大量の卵白が乾き、弥馬田グフ子の全身をガチガチに固めたのだ。
「おほほほ〜。上手くいったわね。それじゃあ、最強の魔法少女、いただきま〜すっ!!」
クラーケン大魔人ラブリーは、頭頂部の大口を開けて、弥馬田グフ子を食おうと近づこうとした。
が、前進しようとするクラーケン大魔人ラブリーを12本の触手が引っ張り止めた。
ん?アタシを触手が引っ張る?
という困惑した表情でクラーケン大魔人ラブリーは、思わぬ、異常事態に首を180度回転させ、振り向いた。
振り向いたそこには、自らの12本の触手がジャングルジムにくくりつけられ、ジャングルジムのてっぺんでピクシースパイスをお姫様抱っこしている男がいた。
俺、時東誠人だ。
「ったく、お前の割れた卵の殻が飛んで来て、俺の買ってきた卵が全部、割れちゃったじゃねぇか」
「あんた、誰?」
と困惑し続けるクラーケン大魔人ラブリーの肩に、ピクシースパイスをジャングルジムに置いてから、飛び乗った俺は、クラーケン大魔人の頭部を力ずくで首から引っこ抜いた。
どうして、俺がそんな力を持っているのか、というと悪魔との契約破棄で頭脳は、凡人に落ちたが、悪魔との契約時に願いを叶える能力で底上げした身体能力は、悪魔との契約破棄後も何故か残ったからだ。
俺は、そのめっちゃパワフルな怪力のことを魔導パワーと呼んでいる。ちなみにクラーケン大魔人ラブリーも気づかぬうちに触手を全てジャングルジムにくくりつけ、ピクシースパイスを救い出したスピードのことは、魔導ステップと名付けている。
俺は、そのまま手を止めることなく、力ずくでクラーケン大魔人の身体を八つ裂きにし、核を見つけだして、破壊した。
後に残ったのは、もの言わぬ亡骸となったクラーケン大魔人ラブリーとそのクラーケン大魔人ラブリーの触手に握られ、圧迫されたダメージから回復せず気を失っているピクシースパイスと固まったままのピクシートラップ。
そして、無敵な俺様。
人を殺すことには、抵抗があったが、クラーケン大魔人ラブリーを殺すことには、不思議と拒否反応や躊躇は生まれなかった。後悔もない。
相手が人食いだったからか? それとも、正義の為だからか?
「あんた、誰なの?」
固まったままの弥馬田グフ子は、白く固まった卵白に眼鏡の視界を塞がれ、俺のことがよく見えてないらしかった。
俺は、このまま、ここにいると、なんだか面倒くさいことになりそうだったので、そそくさと王技町公園から退散した。
そして、自宅に帰り、買った割れた卵の替わりにクラーケン大魔人ラブリーの身体から取り出し、持ち帰ったラグビーボール大の卵でだし巻き卵を作り、食べた。
不味かった。イカ臭くて、とても通常なら食べられる代物じゃなかったが、腹が減っていたので、我慢して残さず食べた。
それが、いけなかった。
翌朝、目覚めると俺の右腕は、12本の巨大なイカの触手と化していた。
「これって、ヤバくね? 」
後悔、先に立たず。
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