カクヨム版 クラーケンマン

紙緋 紅紀

第1話 クラーケンマン誕生前夜

北大阪府シティ。東京に某国のミサイルが2発着弾した事により、大阪府をほぼ関西全域に広げ、新たに制定された日本の首都である。大阪を日本の首都にする事に反対した大阪府民達を中心に南大阪自治区なるものが、誕生し、一国二制度になってしまうなどの混乱をきたしたものの、今は、人口3000万都市となり、東京があった頃より、経済は栄えている。

そんな大都市にいながら、俺は、ど低辺な生活を送っていた。

何故か、近所のコンビニが何処もしまっていて、遠くのコンビニまでこうして、やって来て、購入した今日の晩飯は、パックに入れられた6個の卵に缶焼酎のソーダ割り3本。

卵は、家に帰ってから、ゆで卵にして、調味料を鍋にドホドボ入れて、味付け卵にする。

それが今日の俺の最初の食事であり、最高のディナーだ。

何故なら、来月から唯一の収入源である親の仕送りが無くなるからだ。

親も今年で70代になり、病院に厄介になる事になったので、こっちに金を送る余裕が無くなったのだそうだ。

そう、俺は、37歳独身一人暮らしのクズニートだ。

名前は、時東ときとう誠人まことという少しカッチョいい名前をしている。

まぁ、親の仕送りがなくなっても、生活できるように人生はじめてとなるバイト先は、すでに見つけてあるのだが、給料が振り込まれるのは、2ヶ月先なので、その間、家賃、光熱費含めその他もろもろ今の少ない所持金でやりくりしないといけないので、食費は最低限に絞らねばならない。

まぁ、死ななければそれでいいのさ、人間なんて。

腹が減るぐらい我慢できるさ。たぶん。

どうして、こんな体たらくな自分になってしまったのだろう。気づけば、立派な社会不適合者だ。

過去を振り返ってみて、やっぱり、あれがいけなかったのではないか。

昔、俺は、ものほんの悪魔崇拝者だった。

悪魔に願えば、なんでも叶う。テストでいい点をとることも、50m走で一位をとることも、女子の人気を集めることも。

俺は、陸上部でありながら、剣道の大会に出て、優勝したことがあるし、高校時代は、生徒会長で風紀委員長で番長だった。

誰もが俺を恐れ、敬い、たてまつった。

そのまま、ずっとバラ色の人生が続くものだと思っていたが、あれがいけなかったのか。

俺は、悪魔との契約に違反した。

悪魔の俺の願いをいくつでも叶える条件は、人類を滅ぼす事だった。

俺が悪魔と契約したのは、小学5年生の頃だ。当時は、その意味を深く理解もせずに契約した。

しかし、20歳になり、その契約を履行しなければいけなくなった時、俺は、震え上がった。

人類を滅ぼせとは、悪魔は、つまり、俺に人殺しになれと言っていたのだ。ずっと、大虐殺をしろと。

俺には、人を殺すなんて怖くて、とても、できることでは、なかった。

契約に違反した俺は、悪魔から願いを叶える力を奪われた。

勉強ができなくなって、大学は中退。就職しようにも悪魔の力で手に入れていた抜群のコミニケーション能力を失っていた俺は、どの面接でも不合格。100社、落ちた時点で心が折れ、人生を捨てた。

やけくそになってギャンブルに手を出し、負け続けた。

親は、そんな俺を見かねて、ギャンブルをせず、借金を作らないかわりに、しばらく生活費を工面してくれる事を申し出てくれた。

俺は、それに甘えた。甘え続けた。

親が言ったしばらくは、永遠に続くものだと思っていた。

そして、現在である。

今から思えば、最初から悪魔などに頼らず、普通の人生を普通に頑張ればよかったのだ。

しかし、もう37歳、後戻りはできない。

時間は、戻らないし、若さも戻らない。

俺は、そんな意味のない人生の振り返りをしながら、絶望に目をしばしばさせ、家賃7万円の家へ向かう。一人暮らしには、やや広すぎる部屋だ。

もう少しで引っ越す事になるだろう。また、生活レベルを一段、下げなければ、生きていけない。

俺は、コンビニに行った時と同様に王技町公園を突っ切る事にした。自宅のある天六地区に向かうには、それが一番、近いのだ。

王技町公園は、工事でもないのに赤いコーンとフェンスで封鎖されていたが、人が周りに誰もいなかったので、俺は、それを普通にどかして、中に入って行った。

すると、そこでは、来た時とまったく違う光景が広がっていた。

二人のピンクのミニスカドレスを来た魔法少女と巨大なイカの魔人が戦っていたのだ。

人生に後戻りはない。でも、37歳になっても、人生が変わる事はある。

それも突然に。とても理不尽に。

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