第136話「黄金竜」
《ギュルルァァアーーーーーーッ!!》
空に向かって大きく咆哮を上げた黄金の竜は、翼を広げて上空へと舞い上がり、その口に巨大な魔力を集中させ始める。
「先輩、あれはやばいですよ!」
「ああ、わかってる!」
二人して慌てて【蝙蝠の羽】を羽ばたかせて空に舞い上がると、先程まで俺たちがいた場所に向かって、奴の口元から眩い閃光が放たれた。
その光線は、地上に向かって凄まじい速度で落下していき――
――ドゴォォォーーーーーーンッ!!
激しい爆発音と共に地上の草木を吹き飛ばし、辺り一帯に巨大なクレーターを作り出す。周辺には巨大なキノコ雲が巻き上がり、その衝撃波は空中を舞う俺たちの身体を大きく後方へと吹き飛ばした。
……ああもう! 完全に暴走してるじゃねえか!
結界石があって本当によかった。あれがなかったら、今頃代々木公園が吹っ飛んでいただろうし、多くの一般人が巻き添えになっていたに違いない。
「はぁぁぁぁぁーーーーッ!」
空中を旋回しながら、俺は両手に竜殺剣を構え、奴に向かって突進する。
しかし、そんな俺の攻撃は黄金の鱗によって弾かれてしまう。バキンッ、と音を立ててノーマルのほうの竜殺剣が砕け散ってしまった。
固すぎる! ドラゴン系に特効を持つ竜殺剣ですら、奴の黄金の鱗に傷一つ付けることはできないのか!
魔力を溜めて、それをすべて完凸竜殺剣に集中させればあるいは……。だがそんな隙を奴が与えてくれるはずもない。どうすれば……。
「先輩、一旦結界石の効果を切ります!」
「お、おい! そんなことしたら一般人が――」
俺の制止も聞かずに十七夜月は結界石の効力を停止させた。
すると、公園の上空を飛んでいたヘリコプターのスピーカーから、慌てたような声が聞こえてくる。
《み、皆さん! ご覧ください! こちら渋谷区の代々木公園上空です! 突如として現れた巨大な竜と少女が戦っております! これは映画の撮影でしょうか!? それとも異世界からの侵略なのでしょうか!?》
ほらぁ……。早速マスコミさんが嗅ぎ付けちゃったじゃん。
竜と化した天獄もうざそうにヘリコプターを睨みつけているし、このままだと彼らが危険に晒されるかもしれない。
「そっちじゃないです! あっちの自衛隊のヘリを利用しましょう! 先輩、パイロットの能力持っているんですよね!?」
「そ、そうか!」
十七夜月の狙いに気がついた俺は、すぐに自衛隊のヘリコプターに向かって飛んで行く。
アメリカで"魔物の壺"という魔導具から街にモンスターが溢れてしまい、軍がそれを殲滅したという事件を受けて、日本でも有事の際に出動する、対モンスター用の戦闘機が自衛隊に配備されているという話を聞いたことがある。
ドラゴンが出現したとの通報で駆け付けたなら、あのヘリにはそういった装備が積まれている可能性が高い。
背中の羽を羽ばたかせながら機体のすぐ近くまで到達すると、俺は自分の手首を剣で切りつけて大量の血を流し、それをヘリに向かって振りかけた。
窓の隙間からにゅるにゅると機体の中に入り込んだ俺の血液は、ヘリの操縦席の隣で瞬時に凝固し、その形を人型へと変えていく。
「――"ブルートゲンガー"!」
俺そっくりのぷりちーな姿へと変身した血液の塊は、パイロットから操縦桿を奪い取ると、黄金竜に向かって突っ込んでいった。
「うわぁぁ! な、なんで急に女の子が!」
「すみませーん、ちょっと機体借りますねー」
「な、なん……! ど、どこから入って! しかもなんで裸っ!?」
OH~……。"ブルートゲンガー"で作った分身って服までは再現されないのかよ。今度からは気をつけないとな……。
混乱するパイロットを尻目に、俺の分身は【エースパイロット】の長所をふんだんに発揮し、ヘリを旋回させながら黄金竜の周囲を飛び回る。
黄金竜がブレスを吐こうと大きく口を開いた瞬間、十七夜月は再び結界石を発動させて、パイロットらを結界の外へと弾き飛ばした。
「先輩、もう撃っていいですよ!」
「合点承知の助!」
十七夜月の言葉を合図に、俺は操縦桿を握り締めて旋回すると、積まれていたミサイルを黄金竜に向けて発射する。如何に魔力と鱗に覆われた竜種といえど、近代兵器の直撃を喰らえばただでは済むまい。
放たれたミサイルは黄金竜の胴体へと命中して、激しい爆発を引き起こした。
《ギュアァーーーーーーッ!?》
竜が悲鳴を上げてのたうち回っている。どうやら、ミサイルは奴に有効だったらしいな。
続けざまに二発、三発とミサイルを打ち込むと、奴の黄金の鱗が剥がれ落ちて、その下から真っ赤な鮮血が流れ始めた。
《グルルァアーーーーッ!!》
怒り狂ったように咆哮を上げた竜が、ヘリに向かってブレスを吐き出してくる。
なんとか機体を急旋回させて直撃は避けることができたが、どこか重要な部分を傷つけられてしまったらしい。コントロールが上手く効かない。
ええいっ! もうこうなったらアレをやるしかねえ!
「神風アタックじゃぁぁぁーーッ!!」
「ちょっと先輩なにやって――」
ヘリをそのまま黄金竜に向かって突っ込ませようとした俺に、十七夜月が慌てたように制止の声をかけてきたが、それに構わずヘリを加速させる。
機体は激しい振動と風圧に揺れながら竜の胴体へと一直線に突っ込み――凄まじい轟音を立てながら爆散した。
「せ、せんぱぁぁぁーーーーいっ!!」
「お、俺ぇーーーーーーっ!」
十七夜月と一緒に、星になった俺 (分身)に合掌する。ちなみに痛そうなんで、衝突寸前にオートに切り替えて五感の共有も解除した。
「って、ああ……そういや分身でしたね。便利だなぁ……」
「ああ、それより分身が時間を稼いでくれたおかげで、剣に魔力を溜めることができたぞ!」
眩いばかりに輝く深紅の魔力が、俺の右手の竜殺剣にたっぷりと注がれている。
これならミサイルや俺の神風アタックで鱗を剥がされた黄金竜の肉体を、容易く切り裂くことができるはずだ。
「せ、先輩! まずいです! 結界石の効果がもう切れそうです!」
「なにぃ!?」
もうそんな時間が経っていたのか! ならば周囲に被害が出る前に仕留める!!
背中に【蝙蝠の羽】を生やすと、俺はそれを大きく広げて、高く、高く上空に向かって飛び上がる。そして、地面でのたうち回る竜を眼下に収めたところで、結界石の効果が切れたのか周囲に喧噪が戻り始めた。
《ふ、再び竜が出現しました! これは一体どういうことでしょうか!? ああっと! 先程の美しい少女が空に浮いています! そしてその手には剣が握られている! これは今まさに竜を討伐せんとしているところなのかぁぁーーーーーッ》
うるせぇ! だけどその通りだよ! さあ、これで最後だッッッ!!
上空にいる俺をギロリと睨みつける竜に向かって、右手に持った竜殺剣を大きく振りかぶる。そして、全魔力をその剣に集中させたまま急降下した。
黄金竜がブレスを吐こうと大きく口を開くが、その足元に十七夜月の影が伸び、ずぶずぶと奴の右足を地面に沈めたことによって、バランスを崩されてブレスが明後日の方向へと飛んでいく。
慌てて体勢を立て直そうとする黄金竜だが、その前に刃は奴の身体に食い込み――
《ギィァァァァァアアアアアアーーーーーーーーッ!!》
竜の醜い叫びが渋谷中に響き渡る。
次の瞬間、肩口から腹部までを袈裟斬りに切り裂かれた黄金の身体から、大量の鮮血が空に向かって吹き上がり……そして豪雨のように地上へと降り注いだ。
俺はそれを【ブラッドスティール】で全て吸収すると、静かに地上に降り立つ。
《【天運】を獲得しました》
ぐらり……と巨大な身体を傾かせながら、竜の身体がゆっくりと倒れていく。
大きな音が鳴り響き、地面が揺れる。そしてしばらくすると……辺りは静寂に包まれ、公園には激しい戦闘があったことを感じさせない穏やかな風が吹くのだった。
【名称】:天運
【詳細】:まるで天に愛されているかのような強運。特に自らの命が危険に晒されたときに高い確率で発動し、その危機を回避することができる。しかし、連続で発動することはなく、より大きな幸運に恵まれるほど、次に発動するまでのインターバルが長くなる。
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