第119話「シャークダンジョン②」
「ふ~、今夜はフカヒレのフルコースだな」
『サメでもモンスターにゃよ? 食えるかどうか怪しいにゃ』
……まあ、そうだよな。俺は【状態異常耐性・極】があるからいいけど、十七夜月ら普通の人間にモンスターの肉を食べさせるのはやめたほうがいいだろう。
というか、モンスターは死体でもダンジョンの外には持ち帰れないので、そもそも意味のない問答なのだが……。
真っ赤な血で海を染め上げながら、ぷかぷかと海上に浮かぶ大量のサメの死体の上で伸びをすると、獲得したアイテムを確認する。
────────────
・赤ポーション×1
・青ポーション×1
・桃ポーション×1
・水色ポーション×4
・橙ポーション×2
・命の実×1
・超毛生え薬×1
・石化薬×1
・元気飴玉×1
・氷結の杖×1
・液殺鞭×1
・冒険者の魔法服 (♀)×2
・怪力グローブ×1
────────────
これがこのダンジョン内を探索して入手した魔導具の一覧だ。
隠し部屋の宝箱やレアモンスター、中ボスからもすで回収済みである。まだ探せばレアモンは何体かいるかもしれないが、そろそろボスを倒してしまってもいいかもしれない。
ちなみに、新しく入手したアイテムの効果は下記の通りだ。
【名称】:命の実
【詳細】:一つ食べると、寿命が一年伸びるという貴重な実。ただし、老衰に至るまでの寿命が延びるだけで、すでに罹っている病気などを回復する効果はない。非常に不味いので、吐き出さないように注意しよう。
【名称】:元気飴玉
【詳細】:これを舐めている間は、半径一キロ以内にいる仲間全員から少しずつパワーを分けてもらえる。仲間の許可があれば、限界ギリギリまでパワーを分けてもらうことも可能。
【名称】:冒険者の魔法服 (♀)
【詳細】:丈夫で動きやすく、着た者の身体にジャストフィットする不思議な服。破けても時間が経てば自動で修復されるほか、臭いや汚れも自然浄化してくれるなど、冒険者にとって非常に利便性の高いアイテム。女性専用。
【名称】:怪力グローブ
【詳細】:これを嵌めた者は、大岩をも持ち上げるほどの腕力を得る。伸縮自在で装着者の手に吸い付くようにフィットするが、とてつもなく不快で蒸れるため、長時間の使用は推奨されない。また、装着中は素早さが大きく下がる。
遂に冒険者の魔法服 (♀)が手に入ったぞ。
どうやらこの服は効果は同じでも色々なデザインがあるようで、今回入手したものはパンツタイプとスカートタイプの二種類だ。
スカートタイプは見た目も結構かわいいし、今度からダンジョン探索のときに着ていってもいいかもしれない。
『ふ~む……不思議だにゃ~』
「どうしたんだよミケノン?」
イヤホンから聞こえるミケノンの呟きに反応する俺。
さっきから彼は、うんうんとなにか考え事でもしているようで、俺がサメを狩っている間もずっとそんな調子だった。
『ナユタはイレギュラーな存在だから省くとして、それでもこのダンジョンという場所は、星一から魔導具を集め、そして情報を収集し、綿密な計画を立てて挑めば、人間でもちゃんと攻略できるように作られているのにゃ』
「そりゃそうだろ。攻略できなきゃ誰も挑戦しないし、あっても意味ないじゃん」
『だからなんのためにあるのにゃ? 魔導具はより難易度の高いダンジョンに挑戦するためのアイテムにゃ。ならそもそも、これを作った存在はどういう目的でダンジョンを作ったのにゃ?』
「……え? それは……」
考えたこともなかった。でも言われてみると確かに不思議な話だ。
神様だか宇宙人だか未来人だか知らないが、彼らはどういう目的でダンジョンなんてものを作ったんだ? そして俺たちにそれを攻略させてどうしようというのだろうか。
『吾輩には……これは試練のように思えるにゃ」
「試練?」
『そう、選別の儀式と言い換えても差し支えないと思うにゃ。世界に五つしかないといわれる星五ダンジョン。これをクリアした者には、きっとなにかがもたらされるはずにゃ』
「なにかって?」
『それはまだわからないニャが……手にできるなら絶対にすべき、そんな予感がするのにゃ』
……う、う~む。もうすでに確実に俺より頭が良くなっているであろうミケノンの言うことは、俺にはちょっと難しいぜ。
だけど、そうだな……もし俺がもう一段階進化するようなことがあれば、彼の言うように星五ダンジョンに挑戦してみても面白いかもしれないな。
◇
「よし! それじゃ、そろそろボスを倒しに行くか。あっちにクソデカい赤いヒレをした奴がいただろ? あれがたぶんボスだ」
『待つにゃ、ナユタ。その前に【蝙蝠の羽】で空高くまで飛んでみるにゃ』
「え? なんでだよ? ここは海が舞台のサメダンジョンだぜ? 空になんてなんもないだろ?」
『いいから行ってみるにゃ。時間はあるんだし、たとえなにもなかったとしても損はにゃいはずにゃ』
「う~ん、そこまで言うなら……」
ミケノンの提案に従い、俺はその場でバッサバッサと羽をはばたかせ、空高くへと飛び上がった。雲を突き抜け、さらに上昇を続ける。
……しかしダンジョンの中でこのまま上に昇り続けたらどうなるんだろうな? まさか宇宙にまで行けるってこともないだろうし。
『ナユタ、あそこを見るにゃ! なにか光ってにゃいか!?』
「……お、あれは!」
ピタリと羽の動きを止め、周囲を見渡していると、遠くの空にキラリと光るなにかを発見した。俺はそれに向かって一直線に飛行する。
パタパタと背中についた羽をはためかせ、空を飛ぶ金色の箱。トレジャーボックスだ!
「せやぁぁーー!!」
『にゅ、にゅーーーー!?』
俺の接近に気づいて逃げようとするトレジャーボックスだが、俺は猛スピードで飛行しながらポーチから"付喪神殺し"を取り出すと、その勢いのまま切り付けた。
金色の箱が真っ二つに分かれて海に墜落していく。そしてその残骸は光の粒子となって消え去ると、同時に不思議な輝きを放つ王冠の魔導具が出現した。
俺はそれを素早く空中でキャッチすると、早速アイテム鑑定機にかけてみる。
【名称】:神王の冠
【詳細】:これを頭に嵌めた者は、神王の資質を得る。神王は自らを信仰する民に、自分の能力の一部を分け与えることができる。与えられる能力の強弱は、信仰度の高さに比例する。また、臣民が一名増えるごとに、雀の涙にも満たない程度の微弱な力ではあるが、僅かずつ王の力も上昇する。さらに、王は信仰度が高い民の能力の一部を、一定時間だけ自分の能力として使用可能になる。
「……これは、とんでもない魔導具だぞ」
蟻塚夏海の手に入れた"女王蟻の心臓"と似たタイプの、非常に強力なアイテムだ。
しかし、こっちは馬鹿な人間がやりたい放題できるタイプの魔導具ではない。これを使う者には王に相応しいカリスマ性と、そしてその者を慕う大勢の民が必要になってくるだろう。
『でも、ナユタでも使えそうなアイテムなんじゃないかにゃ? Vtuberのリスナーの血袋たちは、ナユタの民といってもいいにゃ』
「……まあ、確かにそうかもしれないけど。俺には使いこなせそうもないな」
ミケノンに"神王の冠"の能力の詳細を説明してやると、そんな感想が返ってきたので、俺は首を振りながら嘆息した。
俺は自分の『分』を弁えている。たとえどれだけ進化して強くなろうとも、人の上に立って大勢の人々を導けるような器じゃない。
「さ、それじゃ今度こそボスをぶっ倒しに行くぞ!」
『……』
「どうしたミケノン? まだなにかあるか?」
『あ、いや……なんでもないにゃ。そうにゃね、ちゃっちゃとボスを倒して帰って来るにゃ』
……どうしたんだろうか? なんだかちょっと歯切れの悪い感じだが。
まあ、いいか。きっとおしっこでも我慢してるんだろう。
俺は王冠をポーチに収納すると、再び羽をはばたかせてボスがいるであろう場所まで飛んでいくのだった。
……
…………
………………
《シャアァァーーー!!》
海から飛び出して来た真っ赤な背びれを持った巨大なサメが、その大きな口を開くと、中から先端が刃のように鋭い水の塊を弾丸のように発射してきた。
まるでウォーターカッターだ。サメは続けて、二発目、三発目を発射すると、上空を旋回して躱す俺の背後へと回り込むように飛翔する。
『後ろから来るにゃ!』
「おう!」
ミケノンの声に反応して、俺は履いていた"空蹴靴"で空気の塊を蹴りつけて空中で急ブレーキをかけると、そのまま身体を反転させ、迫りくるサメの頭部にカウンターで"水龍の槍"を食らわせた。
槍の穂先がサメの頭部に突き刺さる。しかし奴は怯まずに、槍が刺さったままの状態で至近距離から大口を開けて水刃を発射する。
「おらぁ!!」
俺は【幻想を掴む者】でそれをぶん殴って軌道を逸らすと、槍の柄を両手で掴み、【剛力】を使って力いっぱいに引き抜きながら頭部を真っ二つに切り裂いた。
サメは断末魔の叫びを上げながら、その巨体を光の粒子へと変えていく。
そして海の上には、銀色に輝くポーションがポツンと残された。
【名称】:ラッキーポーション
【詳細】:これを飲むと10分間だけとてつもなく幸運になる。ただし、その反動で身近な人物に不幸が訪れるかもしれない。
鑑定機で効果を確認した俺は、しょぼんとしながらポーションをポーチに収納する。
……う~ん。これは、正直俺には使いどころがないな。周りの人間に迷惑がかかる可能性があるのなら、安易に使うわけにはいかない。
まあ、でもレアアイテムっぽいし一応は持って帰っておくか……。
『お疲れ様にゃ、ナユタ。ちょうどそろそろ雛姫が帰ってくる頃にゃ。ちゃんとスーパーに寄ってから帰るにゃよ』
「あ~、そうじゃん。今日俺が食事当番の日じゃ~ん……」
疲れたから今日は出前でも取ろうと思ってたのに……。仕方がない、さっさとダンジョンを脱出して夕食を作るか。
俺は大きく溜め息を吐くと、きらきらと光に包まれていく海を見下ろしながら、今日の献立を考えるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます