第115話「集会」

「そんなわけで、今度の皐月賞はマッシロシロスケの確勝であろうな。オッズは前回よりもかなり下がるであろうが、それでもまだフロックと考える者が多いであろう。ならばこそ次も、儲けのチャンスはまだまだあると見るぞ。20歳を超えている血袋どもは、是非買ってみることをお勧めするぞ」



:ナユたそ競馬に詳しすぎて草

:こらー! 子供がギャンブルに興味を持っちゃ駄目でしょ!

:↑数百年生きる第四真祖って設定だから馬券は買えるのでは?

:設定言うなやw

:でも最近はウマ息子とかのゲームも人気だからな

:俺もウマ息子で競馬覚えたわ

:さすがに皐月賞はブルートランクスじゃね?

:俺氏、馬になってナユタンに騎乗されたい

:ワイも競馬はわからんがナユたそに鞭でしばかれたい

:俺も俺も

:おい、ちゃんとナユタ様の予想を聞けよお前らw



 もうすぐ春のクラシックが幕を開ける。その初陣となる皐月賞が、いよいよ今週開催されるとあって、今日の"吸血姫ナユタちゃんねる"は俺の競馬予想コーナーだ。


 ちゃんとわかりやすく、かつ面白く、競馬を知らない人でも楽しめるようにと心掛けながら、俺は視聴者に語りかける。血袋どもは、そんな俺の言葉を聞いてワイワイ盛り上がっていた。


 ヒロポンさんが石化から復活した影響で、彼の布教活動も再開され、一時は伸び悩んでいたチャンネル登録者数も再び勢いを取り戻している。このままだと、もうすぐ30万人の大台を突破できるかもしれないな。


「ふぁ~……。そろそろお眠の時間であるな。血袋ども、ちゃんと我の予想を信じ、マッシロシロスケを応援するのであるぞ。では、また次の配信で会おう。お休みなのである」



:あくびかわええw

:ちゃんと温かくして寝るんやで

:よし、ナユたそを信じてシロスケ買うことにしたわ!

:お休みー

:ああ、また来週まで会えないのか……

:もっと配信してほしいけど、ナユたそも忙しそうだからな

:ナユタ様、ゆっくり休んでくだされ

:うとうとしてるナユたんかわええんじゃ~



 血袋どものコメントを見ながら配信ソフトを閉じ、パソコンの電源を落とす。


 そして俺は洗面所で歯磨きをしてからトイレに行き、寝る準備を済ませると、再び自室へ向かって歩き出す。


 ――ピンポ~ン♪


 だがそのとき、インターホンが鳴らされた。


 誰だよ、こんな時間に? もうすぐ日付が変わりそうな時刻だぞ?


 パタパタとスリッパを鳴らしながら、十七夜月が玄関へ駆けていく。俺はふあぁ、と欠伸をすると、あとは任せたとばかりにお布団へ潜り込んだ。


「きゃ!? なんなのこれ! ちょっと先輩、来てくださいよ!」


 しかし、すぐに玄関から聞こえてきた十七夜月の叫び声によって、俺の安眠は妨げられることになる。


 なんだようるさいな……と文句を言いながら起き上がると、のそのそと玄関へ向かう。するとそこには――



『にゃーにゃーにゃー』


『にゃんにゃんにゃん』


『ニャ! ンニャーオ!』



 ――猫、猫、猫。


 大量の猫たちが、十七夜月の足元に群がっていた。その数、実に十数匹。


 彼らはにゃんにゃんと鳴きながら、開けっぱなしになった玄関から家の中へと入ってくる。そして俺を見つけると、『ニャー!』と歓喜の声を上げて、一斉に駆け寄ってきた。


 俺は猫たちに飛びつかれて押し倒される。


「うおっ!?」


「先輩!? この猫ちゃんたち、一体なんなんですか!」


「……ん? ああ、どうやら俺の迎えに来たらしい。うっかりしてたぜ、そういや今日は集会の日だったな」


 全身を猫たちにぺろぺろされながらそう答えると、十七夜月は意味不明といった様子で首を傾げた。


「集会? なんですかそれ?」


「猫たちの集会だよ。ほら、知っての通り、俺この辺りの猫のボスじゃん?」


「猫のボスなの!? 知るわけないんですけど!」


 ……あれ? まだこいつには言ってなかったっけか?


 風莉さんから【けもサーの姫】を入手した影響で、俺はもふもふたちに異常に好かれるようになったのだ。それで【スピリットトーク】を使い、彼らの相談にのってやったりしていたら、いつの間にかボスと呼ばれるようになってしまった、というわけである。


 猫たちを十七夜月に任せると、俺は部屋に戻って猫耳パーカーと猫尻尾付きスカートに着替えて外出の準備を済ませ、再び玄関へ。


 そこには、十数匹もの猫たちが行儀よく並んで待機していた。皆、一様に目を輝かせながら俺を見ている。


「随分可愛らしい恰好してますね」


「ああ、ボスなんだからちゃんとそれにふさわしい恰好をしてなきゃ駄目だろ?」


 肉球サンダルを履いて、俺は猫たちと一緒に外に出る。そしてそのまま、にゃんにゃんと合唱しながら夜の街を歩き始めるのだった。




『……そんなわけで、隣町の猫どももボスの配下に加わりたいと申しておりましたニャ』


「ふむ、そうか。ならば今度、会談の機会を設けるとしよう」


「うわ……。思ったよりも真面目にボスやってるんですね。てっきり猫たちと一緒ににゃーにゃー鳴いてるだけかと思ってました」


 近くの空き地の土管の上に座り、【スピリットトーク】で俺の前にこの街のボスだった茶トラの"寅五郎とらごろう"と会話していると、十七夜月が茶々を入れてきた。


 こいつは……集会の様子が見たいとうるさいから連れて来てやったというのに、邪魔をするんじゃあない。

 

 土管の下に一列に並んでいる猫たちに「にゃっ!」と指示をだすと、彼らは一斉に十七夜月の身体にすり寄って甘え始めた。


 一瞬で顔をとろけさせて、骨抜きになる十七夜月。俺はそんな様子を横目で眺めながら、虎五郎と会話を続ける。


『それと新しい星四ダンジョンを発見しましたニャー。おそらくまだ人間は発見していないダンジョンですニャ』


「おお、でかしたぞ。今度潜ってみるとしよう。他になにか報告はあるか?」


『……それが、実は隣町で、最近"猫殺し"が頻発しているらしいのニャ』


 虎五郎の言葉に、俺は顔をしかめた。


 猫殺しだと? ふざけた野郎だな……。こんなかわいいもふもふを殺そうだなんて、一体どんな神経してやがるんだ。


「よし! 早速、その猫殺しを征伐しに出かける! 後に続け、虎五郎!」


『いいのかニャ? ボス、随分眠たげな様子に見えるのニャ~』


 虎五郎に指摘されて、俺は慌てて欠伸を噛み殺した。確かにもう日付が変わっており、本来ならお布団でスヤァしてる時間だ。


 が……しかし! かわいいもふもふの平和のためならば、この程度は我慢せねばなるまい。


「先輩、闇雲に出かけるのは危険じゃないですか? もっと情報を集めてからのほうが……」


「臆病者はついてこなくともよい! そこで大人しくもふられとれ! さあお前ら、行くぞ!」


『『『にゃー!!』』』


 十七夜月とオタクな掛け合いをしてから猫たちに号令をかけると、俺は猫耳パーカーをしっかり被って、尻尾をぱたぱた揺らしながら現場へと急行した。

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