第100話「マジックナユタ②」
『ナユタちゃん……。確かに麗華はちょっとテンションの高い娘だとは伝えたけど、もう少しくらいマイルドな感じでお願いしたいんだけど……。バレるかと思ってヒヤヒヤしたよ』
「平気だって。普通の人間は顔も声も同じ奴が、実は別人の変装だなんて思いもしないから。実際に実の兄の白夜ですら、最後まで気づいてなかっただろ?」
ドリルツインの髪を揺らしてトイレへと向かって歩きながら、後ろをついてくる白鳥くんの幽霊と言葉を交わす。
そう、俺は今"
麗華は関係者の中で一番俺と体格が近いし、+3された【奇跡のメイク術】と【奇術師】を駆使すれば、今の俺であればほぼ完璧に本人に成り済ませるのだ。
声も"声真似リップ"を使えば完全に再現できるので、はっきり言ってこの俺の変装を初見で見破れる奴はまずいないだろう。
トイレの中に入ると、一番奥の個室の鍵を開け、中に入って再び鍵をかける。
「よう、ちゃんと大人しくしてたか?」
「んーー! んん、んんーー!」
個室の中には、今の俺と同じ顔をした少女が、猿轡を咬まされて両手両足を縄で縛られた状態で拘束されていた。
もちろんこいつが本物の麗華である。まあ、まだガキなので実家の悪事にはあまり関わってないかもしれないが、悪党一家の娘なんだからこれくらいのことはしても問題ないだろう。
それに"吸血王の涙"を盗み終わったら、ちゃんと無傷で解放するつもりだしな。
声真似リップを唇に塗ると、再度麗華の声を獲得すべく彼女の手の甲にキスをする。先程、こいつの兄貴である白夜の腕に噛みついて血を啜った影響で、リップの効果が切れたしまったのだ。
おっとそうだ、黒羽根白夜から獲得した長所も紹介しておかないとな。
当然、兄だけじゃなく麗華からも拘束ついでに既に血を吸ってあるので、それも説明しておこう。
さて……まずは麗華からだな。
【名称】:縦へそ
【詳細】:縦長にスラリと伸びた美しいおへそ。このおへそを持つ者がお腹を露出した服や水着を着れば、それだけでセクシーな印象を相手に与えられる。
これまたフェチっぽい部分ではあるが、美の長所であることには違いない。
引き締まってくびれた腹筋に加えて、おへそまで美しいという俺のお腹は、まさに非の打ち所がなくなったといっていいだろう。
これで脇見せファッションだけじゃなく、へそ出しルックも着こなせるな。俺の美しさがとどまることを知らないぜ。
続いて白夜だが……。
【名称】:五臓六腑健康体
【詳細】:五臓六腑、つまり内臓全てが非常に健康な肉体。多少の病原菌では体調を崩すことなく、衝撃にもかなり強い。
妹もそうだが、さすが金持ちはいい長所を持ってるな。
心なしか心肺機能も若干上がった気がするし、これで内面の美しさも更に一段階上昇したといえよう。
俺は満足げに頷くと、助けてくれと目で訴える麗華を放置して、しっかりとトイレに鍵を閉めると、再びパーティー会場へ向かって歩き出す。
『それでナユタちゃん、この後はどうするんだい?』
「あとは普通に"吸血王の涙"を奪って逃走だな。黒羽根家と天獄会の繋がりもしっかりスマホで録音したし、これを後でネットに流せば、天獄会はともかく表の事業を営んでいる黒羽根家はお終いだろう」
ポーチの中に手を突っ込んで、ちゃんとシルクハットや仮面、"ふわふわローブ"などが収められているのを再確認する。
この"ふわふわローブ"とは、蟻塚夏海の家にあった魔導具だ。あいつが気絶している間に家探ししてたら見つけたので、ありがたく頂いておいた。
ちなみに効果はこんな感じである。
【名称】:ふわふわローブ
【詳細】:羽のように軽いふわふわのマント。防御力は皆無だが、これを身に纏った者はふわりと身体が軽くなり、超高所から落下しても綿毛のようにふんわりと着地することができる。しかし、踏ん張りが効かないため、日常的な動作では非常に不便な装備である。
俺の【蝙蝠の羽】と相性の良さそうな魔導具だろう?
『"吸血王の涙"は約束通りナユタちゃんが持っていっていいから……満月もしっかり助けてくれよ?』
「わかってるって。白鳥くんの声も"声真似リップ"で真似できたし、ちゃんと彼女が納得できるような理由と言い訳も考えてある。まあ、任せとけ」
俺は【幻想を掴む者】の効果で白鳥くんに触れることができるので、試しに"声真似リップ"で幽体の手の甲にキスをしてみたら、なんと彼の声が出せるようになったのだ。
これなら妹の満月ちゃんを納得させるのも難しくはないはずである。
「後はついでに特待生ちゃんの血もなんとか頂きたいんだよなぁ……」
やたら男にモテモテのモブっぽい女の子――"
蟻塚夏海のようになにかおかしな能力を使ってるのかと思い【幻想の魔眼】で注視して見たが、なんと彼女はなにも特殊な力を使用していないようだった。
つまりは完全に天然! 天然であれだけの男をたぶらかしているのである!
もしかしたら物凄い長所を持っている可能性だってあるし、これはなんとしても味見しておきたい。
しかし吸血の能力が【吸血改三】に進化したことによって、直接噛みついて血を吸わなければ能力を獲得できなくなってしまったので、難易度が前より格段に跳ね上がってしまったのだ。
どうにかして初対面で自然に血を吸う方法は無いものか……。
「いや、待てよ? よく考えたら別に自然じゃなくてもいいんじゃないか?」
今の俺は麗華の姿をしている。なので、初対面の特待生ちゃんにいきなり噛みつくというむちゃくちゃな奇行をしても、麗華が変に思われるだけで俺には特に影響は無い。
実際、さっき白夜に唐突に噛みついたときも、不思議そうにはされていたが特に問題なく血をゲットできたし。
……よし、それでいこう。まずは"吸血王の涙"を奪って麗華の声がいらなくなったら、特待生ちゃんと接触して吸血する。それが済んだら逃走という流れでいくか。
俺がそんなことを考えていると、突然会場の方からざわざわとざわめきが聞こえ始めた。どうやらなにかイベントが始まったらしい。
『もしかしたら満月が断罪されようとしているのかもしれない! ナユタちゃん、急いで会場に向かわないと!』
白鳥くんの言葉に頷いて、俺は慌ててパーティー会場へと駆け足で戻っていった。
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