第五章 吸血貴族編
第096話「吸血貴族」
迸るほどのエネルギーが、俺の体の中で暴れまわっていた。それはまるで荒れ狂う海のように激しく、そして……全てを焼き尽くさんとする業火のように熱い。
一房だけ白かった俺の前髪に加えて、横髪の一部も白く染まっていく。耳は前よりも少し尖って、五感の全てがより鋭敏になったように感じる。
吸血鬼らしく薄っすらとだけ青白かった肌も、完全に生きた人間のように……いや、それ以上に血色がよく美しいものへと変わっていた。
俺は全身を駆け巡るエネルギーをゆっくりと制御し、体の隅々まで行き渡らせると、大きく息を吐く。
【肉体情報】
名前:ナユタ
性別:女
種族:吸血貴族
状態:覚醒
能力:吸血改三、超快速ランナー、神乳、いかさま師、フローラルな香り、ミニマムチャンピオン、走り屋、ピッキング王、スリの極意、大声、唾飛ばし、ストーキング、プロギタリスト、ファンタジスタ、イケボ、歌い手、サラサラヘア、優れた体幹、超名器、天使の指先、超美脚、引き締まった肉体、桃尻、奇跡のメイク術、柔道紅帯、地獄耳、忘れ鼻、スロプロ、パソコンの大先生、料理の先生、マルチリンガル、ホームランバッター、驚異のスタミナ、強そうなオーラ、揉み手、白く輝く歯、美肌、アニメ声、直感、ステータス閲覧、超再生、状態異常耐性・極、ビューティフルダンサー、リバウンド王、カリスマ大道芸人、ペン回し、凄腕ガンマン、ぷにぷにほっぺ、高速サイリウム、小顔、カポエイラマスター、Mの極意、ぱっちりおめめ、奇術師、視力5.0、軟体、勇気の心、眷属化改、幻想の魔眼、スノボーキング、剛力、ゲームの達人、エロ漫画先生、旗折り、美腋、縮地、剣豪、ブルーブラッド、舌技、弓取り、パーフェクトEライン、お掃除職人、ネット工作員、鋭い嗅覚、綺麗な首筋、一級建築士、異世界の鍵、女王様、すべすべの二の腕、水中の王、エースパイロット、デイウォーカー、不老、蝙蝠の羽、スピリットトーク、幻想を掴む者、全能力+3
【名称】:吸血貴族
【詳細】:半分人間でありながら、吸血鬼の真祖へ限りなく近づいた奇跡の存在。吸血鬼の弱点を殆ど克服し、強力な再生能力、ほぼ全ての状態異常の無効、不老などの肉体的特徴に加えて、特殊な魔眼など様々な固有能力を会得している。
【名称】:吸血改三
【詳細】:血を吸った人間の長所を取り込むことができる。獲得できる長所は一人につき一つのみ。長所とは先天性のものだけでなく、努力や経験によって後天的に身についた技能等も含まれる。ただし、血は肉体から直接吸い取ったものしか効果を発揮しない。血を吸わなくても吸血衝動は殆ど起こらないが、たまには飲まないと体調が悪くなる。
【名称】:超再生
【詳細】:肉体が損傷すると、人間よりもはるかに早く傷が再生する。欠損部位でさえ、しばらく時間が経てば元通りに治る。ただし、欠損の再生には大量のエネルギーを必要とするため、大きな怪我をするほどたくさんの血が必要になる。
【名称】:眷属化改
【詳細】:噛みついた人間に牙から出る特殊な分泌液を流し込むことによって、吸血鬼の最下級種――
【名称】:デイウォーカー
【詳細】:太陽の光を克服した吸血鬼。日中でも問題なく活動可能で、日の光に当たりながらでも再生能力を失うことはない。
【名称】:不老
【詳細】:老化することがなくなり、寿命で死ぬことはない。ただし不死ではないので、大きなダメージを負えば死んでしまうこともある。
【名称】:蝙蝠の羽
【詳細】:背中に蝙蝠の羽を生やし、飛行することが可能になる。羽は自在に出し入れすることができ、浮力を発生させて飛行を補助する能力もある。ただし、羽ばたくのにスタミナを消耗するし、自転車と同じで訓練不足だと上手く飛べない。
【名称】:スピリットトーク
【詳細】:知能の高い動物や、存在感の強い霊体などと会話することが可能になる。ただし、知能の低い生き物や、自我がない幽霊のような存在とは会話することはできない。
【名称】:幻想を掴む者
【詳細】:魔力、オーラ、霊体、呪い、精霊など、本来は視認できないし触れることもできないものを掴み取ることができ、破壊することも可能。
『進化した……? あなたの欲した魔導具は、進化するために必要なものだったというわけですか?』
オノスケリスが顔をしかめながら、俺を見つめる。
だが俺は、そんな彼女のことなど意に介さずに【縮地】で一瞬にしてオノスケリスの懐に入り込むと、その勢いのまま拳を振るった。
『――くっ!』
自分の影から冥府の鎌を出現させ、俺の攻撃を防ぐオノスケリス。
しかし俺の拳はいともたやすく鎌の刃を砕き、そのまま彼女の腹部へとめり込んだ。
『ガハッ! ば、馬鹿な……!?』
後方の祭壇まで吹き飛んだオノスケリスは、血を吐きながらも驚愕の表情で俺を見つめる。
口から流れる血を腕で拭いながら、影の中から赤ポーションと緑ポーションを取り出し、それらを一気に飲み干すオノスケリス。そして更には拳銃まで取り出して、俺に向かって発砲してきた。
……どうやらあいつの固有能力は、飛び道具の反射と、影からこのダンジョンに存在するあらゆるアイテムを取り出すことらしいな。
俺は飛んでくる銃弾を、全て最小限の動きで躱しながらオノスケリスに近づいていく。
『な、何故弾が当たらない……!?』
銃ってのは銃口を相手に向けて、そして引き金を引くって動作をしないと撃つことはできない。
相手が複数や視界の外にいるならまだしも、こうやって向かい合った一対一の状況なら、今の俺であれば銃口の向きや引き金を引くタイミングから、弾の軌道を完璧に見切ることは容易い。
やれやれ、俺も随分な化け物になっちまったもんだな……。
無茶苦茶に銃を乱射するオノスケリスの目の前まで近づくと、俺は拳を構えて彼女に向かってそれを突き出す。
オノスケリスは銃を投げ捨てて俺と同じようにボクシングの構えを取るが、俺の拳は彼女のガードをすり抜け、その全身へと余すことなく打ち込まれた。
『ぐがっ……!? こ、こんなことが……!』
やはり俺の予想通りだった。俺が進化しても、オノスケリスの能力は変わっていない。
もし俺の影がないままだったら、今もずっと俺とオノスケリスを形作った影はリンクしたままの状態の可能性があり、俺がパワーアップしたら、それに比例してオノスケリスもまた強化されてしまう危険があった。
だが、いつの間にか俺の影は復活していた。
つまりは、切り離された影はその時点で俺とは繋がりのない独立した存在になっており、オノスケリスの能力は俺たちの最初の影から作られたときに確定し、それ以上は強化されないということだろう。
要するに、プレイヤーがもしダンジョン内で大きく成長するようなことがあれば、彼女を倒しうるというわけだ。
『この、クソガキがぁぁぁ!!』
オノスケリスは影から黒ポーションを取り出してそれをすぐさま飲み干すと、美しい顔を般若のように歪ませ、拳を振りかぶる。が、俺はそれを軽くいなして彼女の懐に入ると、その勢いのまま回し蹴りを繰り出した。
俺の小さな足がオノスケリスの脇腹にめり込み、そのまま彼女は祭壇の背後にある壁画の描かれた壁へと叩きつけられる。
こいつは今まで俺が戦ったモンスターの中で、おそらく一番強い。だが、進化して身体能力も上がり、【全能力+3】の効果も上乗せされており、しかも進化直後の覚醒状態にある今の俺なら、まったく負ける気がしない。
ゆっくりと壁画へと近づくと、白目を剥き、鼻や口から血を垂れ流しながら床に倒れるオノスケリスの髪を掴む。
そして、じたばたと抵抗する彼女を力ずくで立ち上がらせると、こんなときのためにと探索の最中に拾っておいた、悪魔系に特攻効果を持つ"悪魔殺しの短剣"を懐から取り出し、その心臓へと突き立てた。
『ギャアァァァァーーッ!!』
耳をつんざくような悲鳴をあげるオノスケリスに構うことなく、俺は心臓に突き立てた短剣をそのまま下に向かって力いっぱい引き裂いた。
神殿のような真っ白で美しい空間が、女悪魔の青い血で染められる。
心臓を破壊されたオノスケリスは、ゆっくりと崩れ落ちて動かなくなると、やがて光の粒子となって消滅した。
――パサリ……。
オノスケリスの消滅と同時に、俺の目の前に銀色のレターのようなものが落ちてくる。
ドロップアイテムかな? でも今はアイテム鑑定機を持ってないから、家に帰らないと効果を確認することができないな。
「……お? ダンジョンが消えそうだな」
ボスであるオノスケリスを倒したので、周りが光に包まれていく。これでおそらく地下にいる6人も全員が元の場所に帰還できるだろう。
ふ~……ようやく終わったか。24時間もご飯を食べてないので、早く帰って風呂に入って、たらふく飯を食ってぐっすり寝たいぜ!
俺は銀色のレターでパタパタと顔を扇ぎながら、ダンジョンが消滅するのを待つのだった。
……
…………
………………
気がつくと、俺は自宅の風呂場に立っていた。
名楼から借りた体操服も着ているし、手に銀色のレターも持っているので、どうやら夢ではなかったようだ。
「よおぉぉぉし! ナユタ様のご帰還だぜっ! ひゃっほ~い!」
「……先輩、なにやってんですか?」
「…………え?」
歓喜の声をあげながら体操服を脱ごうとしたそのとき、浴槽の中にいた十七夜月が、ジトッとした目で俺のことを見つめているのに気づく。
もちろんお湯につかっているので、一糸まとわぬ裸である。
「……ど、どうも」
「丸一日も行方不明になってたかと思えば、帰って来ていきなり覗きですか? 随分いいご身分ですね」
「い、いや……これにはわけがあって」
「先輩の都合なんて知りませんよ! とりあえず出てってください! それと今日のご飯は抜きですからね!」
「う、うわ~ん!」
せっかくこんなに頑張ったのに、なんで怒られなきゃいけないんだよぉ~……。
俺はシクシクと泣きながら風呂場を後にし、リビングにあるソファーに寝っ転がると、クッションを抱きかかえてふて寝をするのであった。
……ちなみにひと眠りした後、お風呂から上がった十七夜月に事情を説明したら、ちゃんと夜食を作ってくれました。
なんだかんだで優しいんだよな、こいつ。
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