第077話「俺がママになるんだよ!」

「今日はイラストを描くぞ。我の華麗なペンさばきをとくと見るがよい」



:ナユたそ絵なんてかけたの?

:画伯の予感w

:いや、意外と上手いかもしれない

:ナユたんなんでもできるしな

:わくわく



 俺の"吸血姫ナユタちゃんねる"は、今やチャンネル登録者数20万人を超え、V界隈ではそこそこの地位を確立していた。


 ダンジョン攻略も忙しくなってきたので配信頻度は減ってしまったが、それでも週に一度はこうしてVtuberとして活動をしている。


 今日も大勢の人が見に来てくれたようで、最初からコメント欄は大賑わいだ。


 そんなみんなの期待に応えるべく、お絵かきアプリを起動すると、俺はペンタブを手に取った。


「さて、血袋どもよ。貴様らは我にどんなイラストを所望する?」



:美少女!

:エッチなの!

:脱いだナユたそを描いてくれ!

:↑おい、だからナユたそに下ネタはマジでやめろ!

:ナユたその描いた絵が見れるだけで十分だからなんでもいい

:ネコちゃん!

:ナユタ様のライバル的な美少女とかどや?

:いいなそれ



 ふむ、最後の意見はなかなかいいかもしれん。血袋どもの要望通り、俺のライバル的美少女を描いてやろう。


 ええと……俺が吸血姫だから、ライバルは最上位的な妖怪がいいな。


 よし、こんなのはどうだ――


 大きく息を吸い込むと、俺は一心不乱にペンを走らせた。



:うおおおお!

:これはすごい!

:美少女キター!

:ナユたそ絵上手いなw

:プロ級だろこれw

:ナユたんは何でもできるな

:天才かよ

:狐っ娘かわいい!

:でもなんかちょっとエッチだなw



 完成したイラストを見て、コメント欄は大盛り上がりだ。


 吸血姫である俺のライバルということで、妖狐っぽいキャラを描いてみたのだが、思った以上に高評価みたいで嬉しい。


 吸血山荘で漫画家の椎名さんから【エロ漫画先生】を獲得したので、今の俺の画力 (美少女に限る)はトッププロ級なのだ。だが、能力の特性上どうしてもちょっとエロい感じの美少女なってしまうのが難点なのだが……。



:ナユたそママになれんじゃね?

:俺も思ったw

:↑それな。俺もナユたその子供になりたい

:ばぶばぶ

:ナユたそのお胸でバブゥ!

:コメ欄キモすぎて草w

:そっちのママじゃなくてVのママだろw



 ふむ、Vtuberのママか……。それは少し面白いかもしれんな。


 そういえば優羽さんの事務所が、今度アイドルだけじゃなくVtuber事業にも進出するようなことを言っていた気がするな……。


 よし、せっかくだから俺もVママとして参加できないか、ちょっと相談してみよう。







「そんなわけで、我は二児の母になったのである」



:草w

:お、俺たちのナユたそが経産婦に……

・↑おい、やめろ!

:ナユたそママだと……!?

:どんな子たちか楽しみ

:今日紹介してくれるのか?

:早く見たいw



 あの後、俺はさっそく優羽さんにメッセージを送ってみた。すると、すぐに返事が返ってきて、あっさりとVママの話を了承してくれたのだ。


 というわけで、今日は俺が【全能力+2】で強化された【パソコンの大先生】や【エロ漫画先生】を駆使して完成させた、会心のモデルをお披露目する日だ。


「では、まずは一人目のご尊顔を拝ませてやろう。さあ、刮目せよ! 月から舞い降りしウサギの王子、その名も――"月影つきかげうに"きゅんである!」


『ど、どうも、月影うにです……。よろしくお願いします』



:お、男の娘?

:半ズボンにうさ耳……属性盛り過ぎだろw

:男の娘でウサギか

:俺はアリだな

:うにきゅんかわいい

:うにくん、お耳触らしてください!



 画面に表示されたのは、金色のうさ耳にぴょこんと飛び出た丸い尻尾が特徴的な美少年だった。半ズボンから覗く生足が眩しい。


 中の人は優羽さんの事務所の新人である、"西影にしかげ兎月うづき"くんというアイドルの卵だ。事務所の男性アイドルがまだ少なくてグループ活動が難しいので、こうしてVtuberのほうでデビューすることにしたらしい。


 ちなみに、兎月くんはまだ中学生二年生で、アイドルの卵なだけあってかなりの美少年である。


「続いて、二人目を紹介するぞ。安土桃山時代から続く我の永遠の宿敵――千年妖狐"桃山ももやま桜華おうか"である!」


『みんな初めましてなのじゃ~。妾の名は桃山桜華、気軽に桜華ちゃんと呼ぶのじゃ~』



:おおおお!

:これはかわいい!

:この前のイラストの娘だ!

:声くっそかわいいんやがw

:ピンクのツーサイドアップの狐っ娘か

:耳と尻尾がもふもふそう

:狐っ娘にケモナーの俺氏大興奮www



 画面にピンク髪ツーサイドアップのもふもふ狐娘が登場すると、コメント欄が大盛り上がりを見せた。


 モデルも俺の自信作だし、声も特徴的過ぎるアニメ声なので、多くの視聴者のみなさんに気に入ってもらえたようだ。


 ちなみに中の人は、実際に『異世界空戦記』で俺のライバルだった桃華だ。


 あいつはアニメ声でネット弁慶だし、ネット上だと饒舌で男を釣るのも上手い。なので前々からVtuberに向いてると思ってスカウトしたのだ。


 俺の期待した通り、いきなりの名演を見せてくれている。


「今日は親睦も兼ねて、この三人で桃次郎電鉄をプレイしていくぞ」


『が、がんばるぞ~』


『ナユタお主……。親睦を深めるのにそのゲームはないじゃろ……』


「問題ないわ。コンピューターをいじめながらみんなで仲良くプレイするつもりであるからな」



:親睦会でいきなり友情崩壊させる気で草w

:絶対裏切るに100万ベリカw

:俺は華凶院の魂を賭けよう!

:うにきゅんがんばれ~

:僕は桜華ちゃんを応援します

:誰かナユたそを止めろ!



「それでは、始めるぞ!」


『『おおー!』』


 ……


 …………


 ………………


 それから数時間後。


 俺は桃華と兎月くんをボコボコにしながら、圧倒的な差をつけて一位を独走していた。


 兎月くんはゲームがあまり得意ではないようで、コンピューターと最下位争いを繰り広げている。


 桃華はさすがというべきか、異世界空戦記で伝説の七人レジェンズの第四席に座っていただけあって、かなりの手練れだったが、【ゲームの達人】を獲得した今の俺の前じゃ敵ではない。


『ちょっとナユタ、いい加減にしなさいよ! あんたマラソン大会で"最後まで一緒に走ろうね~"って言っておきながら、自分だけ先にゴールするタイプでしょ!』


『お、桜華さん。口調が……』


『あ……。な、ナユタ! お主いい加減にするのじゃ!』


「ボンビ神なすりつけからの~屯田歩兵カード!」


『や、やめるのじゃ! それは友人に使ってはならぬカードなのじゃ!』


「まだ我のターンは終わっておらんぞ? さらに安眠カードからの、キングにナレナレカードである!」


『ぎゃーーーーーッ!』



:ナユたそ鬼畜すぎて腹筋崩壊www

:呼吸をするように裏切るw

:なんか桜華ちゃんナユたそのリア友みたいじゃね?

:桜華ちゃんもまさかJC!?

:うにきゅんコンピューターに負けそうw

:これはかわいそうw

:今回くっそ面白いわw



 こうして、吸血姫ナユタと二人の新米Vtuberのコラボ配信は、大盛り上がりのまま幕を閉じた。


 新しく作った二人のSNSのフォロワーも、動画の配信をしてから爆上がりしているし、この調子なら月影うにと桃山桜華は人気Vtuberになれるかもしれない。


 だけどこの後、コラボ配信の成功を祝うためにウキウキ気分で桃華に電話したら、何故かガチギレされてしまったのだった……。解せぬ……。

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