第四章 半吸血鬼編
第064話「半吸血鬼」
全身から力が漲ってくる。前回のように意識を刈り取られるような感覚はない。ただひたすらに、底なしのパワーが湧き上がってくるのだけを感じる。
体中の傷がみるみるうちに再生し、折れ曲がっていた骨も一瞬で元通りになった。
真っ黒だった髪が、一房だけ真っ白に染まっていくのが見える。全身の筋肉は以前よりも更にしなやかに……そして強靭に、それでいて男を誘うような色気のある身体つきに変わっていく。
【肉体情報】
名前:ナユタ
性別:女
種族:半吸血鬼
状態:覚醒
能力:吸血改二、超快速ランナー、神乳、いかさま師、フローラルな香り、ミニマムチャンピオン、走り屋、ピッキング王、スリの極意、大声、唾飛ばし、ストーキング、プロギタリスト、ファンタジスタ、イケボ、歌い手、サラサラヘア、優れた体幹、超名器、天使の指先、超美脚、引き締まった肉体、桃尻、奇跡のメイク術、柔道紅白帯、地獄耳、忘れ鼻、スロプロ、パソコンの大先生、料理の先生、マルチリンガル、ホームランバッター、驚異のスタミナ、強そうなオーラ、揉み手、白く輝く歯、美肌、アニメ声、直感、やや太陽が苦手、ステータス閲覧、再生、状態異常耐性・大、ビューティフルダンサー、リバウンド王、カリスマ大道芸人、ペン回し、凄腕ガンマン、ぷにぷにほっぺ、高速サイリウム、小顔、カポエイラマスター、Mの極意、ぱっちりおめめ、奇術師、視力4.0、軟体、勇気の心、眷属化、長寿、幻想の魔眼、全能力+2。
【名称】:半吸血鬼
【詳細】:ダンピールとも呼ばれる吸血鬼と人間のハーフ。純血の吸血鬼ほどの力はないが、代わりに吸血鬼としての弱点も殆どない。また、強力な再生能力と長い寿命を持つ。個体によっては特殊な魔眼など固有の能力を持っている。
【名称】:吸血改二
【詳細】:血を吸った人間の長所を取り込むことができる。獲得できる長所は一人につき一つのみ。長所とは先天性のものだけでなく、努力や経験によって後天的に身についた技能等も含まれる。ただし、血は肉体から離れて3秒以内の新鮮なものでないと効果を発揮しない。また、あまりに血を吸わない期間が長いと、それほど強くはないが吸血衝動が発生し、精神が不安定になる。
【名称】:やや太陽が苦手
【詳細】:太陽の下を出歩くと徐々に体力を消耗する。また、直射日光や強い光を浴び続けると、気分が悪くなったり、日焼けして肌を痛めてしまう。
【名称】:眷属化
【詳細】:噛みついた人間に牙から出る特殊な分泌液を流し込むことによって、生き物の死肉を喰らう怪物――
【名称】:長寿
【詳細】:不老ではないが、非常に長い寿命を持ち、老化が非常に緩やかで若い肉体を保ち続ける。
【名称】:幻想の魔眼
【詳細】:人の目には映らない超常のモノを視覚情報として捉えることができる特殊な魔眼。これにより、魔力、オーラ、霊体、呪い、精霊など、様々な不可視の存在を視認・認識することが可能になる。
『ナンダァ……? 雰囲気ガ、変ワッタ……?』
ピエロはそう言いながら警戒するように半歩後ずさる。だが、俺は構わずに一歩踏み出した。
全身の細胞が湧きたつような高揚感と共に、俺は全力で地面を蹴る。爆発的な加速で急接近した俺に対し、ピエロは腕をクルクルと回転させるような動作をする。
だが、もうそんな攻撃は通用しない。
「
『――!?』
左右から半透明の手が伸びてくるのを、俺の【幻想の魔眼】が捉え、それをパンチと回転蹴りで叩き落す。
これが不可視の攻撃の正体だ。空中を縦横無尽に駆け巡る、ピエロの第三と第四の手。普通の人間には視認できず、どうやって攻撃されているのかすらわからない。
おそらくこの手で自分の身体を持ち上げることによって、空中に浮遊しているように見えるのだろう。
だけどもう、俺の前では通じない。
ピエロの懐に潜り込むと、俺はそのまま鳩尾にボディブローを喰らわせた。先程までとは比べ物にならないほどの威力に、ピエロの身体がくの字に折れ曲がる。
そのままラッシュをかけると、俺の拳が奴の顔面へと次々とめり込んでいく。
――ドゴッ! バキッ! ゴシャッ!!
ピエロは反撃しようと必死に腕を振り回してくるが、今の俺にとってはそんなものスローモーションのように遅く見える。
俺は奴の腕を掴んで、一本背負いの要領で投げ飛ばす。そのまま流れるように地面に倒れたピエロに向かって回転しながら飛び上がると、強烈な踵落としをその顔面に叩き込んだ。
『ギョエェーーーーッ!?』
ビキビキと奴の頭蓋に亀裂が入る音が聞こえてくる。
だが、これで終わりじゃない。
ピエロの髪の毛を掴むと、上空に向かってぶん投げる。そして、重力に従って落ちてくるピエロの顔面に向かって渾身の右ストレートを叩き込んだ。
『グギャアアアアァーーーッ!?』
断末魔の叫びを上げながら、ピエロの身体が凄まじい勢いで貯水槽に激突してめり込むと、全身に亀裂が入り……そして粉々に砕け散った。
――カランカラン……
光の粒子となって消えていくピエロの残骸から、黄金に輝く液体の入った試験管のような物が落ちて、屋上の床に転がる。
「あれは! もしかして……!?」
た、頼む! どうか回復アイテムであってくれ! もうショウタの命は風前の灯火なんだ!
俺は慌てて試験管を拾い上げると、ポーチの中からアイテム鑑定機を取り出してその液体の正体を確認する。
【名称】:エリクサー
【詳細】:瀕死の重傷ですら完全回復させることができる。それだけにとどまらず、毒、病気、呪いなど、ありとあらゆる状態異常をも取り除くことができる、非常に貴重な回復薬。
「う、うおおおぉぉぉーーーーっ! ショウタ、やったぞぉーーっ!」
「――むぐっ!? ゴクンッ」
地面に横たわる血まみれのショウタの口の中に、俺は試験管の中身を全て流し込む。
すると、一瞬ビクンと身体を跳ね上がらせたものの、すぐに全身の傷が塞がり、顔色も良くなってくる。そして数秒後……ショウタはパチリと目を開くと、ゆっくりと起き上がった。
「……あ、あれ? 僕、死んだはずじゃ……?」
「ショウタァッ!!」
「う、うわあっ!? お、おねーちゃん!?」
うわぁぁぁん! 生きててよかったよぉー! よかった、本当によかった!
「おねえちゃん! し、下着が! 服が破れて、お、おっぱいが見えちゃってるよ! は、早く隠して!」
「へあ……?」
ショウタに言われて初めて気づいた。ピエロにやられまくって俺ってば今、半裸の状態だったわ。胸も半分くらい露出しているし。でも今はそんなことどうでもいいんだ。
光に包まれるダンジョンの中で、俺はショウタをギュッと抱きしめて喜びの涙を流した。
……
…………
………………
「ショウタ! 生きてたんだな!」
「よかったぁ……。お姉ちゃんありがとう!」
ダンジョンから公園に帰還すると、ヒロとソウマがホッとした表情で出迎えてくれた。
どうやら約束通り、俺がショウタを助け出すまで待っていてくれたらしい。
「ヒロくん、ソウマくんごめん。僕が馬鹿な真似したせいで、2人にもおねえちゃんにもいっぱい迷惑かけちゃったよ……」
ショウタはそんな2人に泣きながら抱きつくと、涙ながらに謝罪の言葉を告げた。
3人はギュッと手を握りしめ合って、無事を喜び合っている。
ふ~……。一時はどうなることかとヒヤヒヤしたが、結果よければすべてよし。一件落着だな! 俺も半吸血鬼に進化できて、星四ダンジョンまでクリアできて、完璧なハッピーエンドじゃないか……!
俺は3人の仲睦まじい光景を満足げに眺めると、うんうんと頷きながら背を向けて歩き出す。
「おねえちゃんありがとう! 僕もいつかおねえちゃんに負けないようなカッコいい男になってみせるよ!」
「ねーちゃんまた一緒に遊ぼうぜ! バイバーイ!」
「俺たちいつもこの公園にいるから、いつでも遊びに来てくれよな!」
振り向かずにひらひらと手を振って、俺は公園をあとにする。美少女吸血鬼ナユタ様はクールに去るぜ。
さあ、早く家に帰って風呂入って美味い飯食って寝よう。
「ちょっと君、いいかい?」
ウキウキで帰路につく俺の前に一人の男が立ちふさがった。特徴的な紺色の制服を着たそいつは、警察手帳を掲げて俺に突きつける。
「おいおいお巡りさん、私はただの通りすがりの美少女ですよ? 一体なんの御用でしょう?」
まったく、昔と違って今は完全無欠の美少女だぜ? 公僕に声をかけられる謂れなんてないぞ。
すると、俺の返答にそいつはハァーと大きな溜め息を吐いてから、やれやれと言った具合で首を振った。
「ただの通りすがりの美少女が胸を丸出しで歩くわけがなかろう」
……あっ。
……
……
「てへぺろ♥」
胸をサッと隠すと、地面を蹴って走り出す。
「ちょ、待ちなさい!! うおおおぉぉーーー! はやぁ!? ってほんと速すぎだろ! 止まれぇーー!!」
わははははは! 逃げろや逃げろーー!! 俺は100メートル8秒50の超快速ランナーじゃぁぁぁ! 捕まえられるもんなら、捕まえてみやがれぇぇ!!
後ろから追いかけてくる公僕を置き去りにして、俺は全速力で帰路についたのだった。
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