第061話「人形の街②」
「ショウタ走れ! 追いつかれるぞ!」
「お、おねえちゃん待ってよぉー!」
俺たちは必死に廃墟の街中を駆け抜けていた。
後ろを振り返ってみると、犬の胴体に人間の顔がついた人形が奇声を上げながら追いかけてきている。しかも一体だけでなく何体もだ。
くそ! なんであんな気持ち悪い人形ばっかりなんだよ!
ダメだ、俺だけならまだ良いが、ショウタを庇いながらではスピードが出ない。このままじゃ追いつかれるのも時間の問題だ。
「仕方ねぇなぁ!!」
急ブレーキをかけて立ち止まると、振り返って先頭を走っていた人面犬人形にバットでフルスイングを食らわせる。
すると奴の首はゴキッと嫌な音を立ててへし折れ、そのまま後方にいる群れに突っ込んで激突した。
『ギャワン!』
『イテーワン! クソビッチブチコロス!』
『ソノデケーオッパイヲマルカジリシテヤル!』
こいつら喋るのかよ……。ますます気持ち悪いな。
しかし今がチャンスだ。俺は隊列を乱した人面犬人形に肉薄すると、その首をサッカーボールのように蹴り飛ばす。
その隙に後ろから何体か襲いかかってきたが、俺はスカートを翻しながら華麗にステップを踏んで回避すると、そいつらに向かってバットを振り下ろした。
――バキ! ゴキ! メキョ!
次々と人面犬人形の頭を破壊していく。
最後に一際大きな人面犬人形が飛びかかってきたが、重心を低くして転がるように避けると、地面に両手をついてそのまま回転しながらそいつの顎を蹴り上げた。
「メイア・ルーア・プレザ!」
コンパスの半月を意味するカポエイラの技だ。カポエイラは、格闘技であると同時にダンスのように美しい演舞でもある。
大型人面犬人形は錐揉み回転しながら吹き飛ばされると、ぴくぴくと痙攣しながらやがて動かなくなった。
俺はそのままバク転しながらショウタのところに戻ると、スカートの裾を掴んで優雅に一礼する。そしてショウタに向かってウィンクすると、彼は目をキラキラさせて拍手をしてくれた。
「お、おねえちゃんかっこ良すぎるよ! こんなのテレビでも見たことないよ!」
ショウタは興奮気味に俺の腰に抱き着いてきた。俺はそんな彼の頭を撫でながら優しく微笑むと、その手を引いて再び走り出す。
……さあ、早いところ帰還の転移陣を探さないとな。
「なにか光るものが見えたら教えてくれよ?」
「……えっと、あれとか?」
俺の問いかけに対して、早速ショウタがなにか発見したのか、とある方向を指差した。
そこには古びた駄菓子屋のような店があり、店内の奥に置かれていた埃を被った木箱のようなものが、確かにキラリと光ったような……気がした。
「いや、あれはただのおもちゃかなんかだろ。転移陣を探すんだよ、光る魔法陣みたいやつな?」
「う~ん、でもあの箱……今少し動いたような……」
「おいおい、それって実はモンスターだって可能性もあるだろ。無視だ無視――」
……いや待てよ? 木箱? モンスターの可能性? これはもしかして……。
「ショウタ、店の入り口に立って、外に出ようとした奴にはバットで攻撃しろ」
「え? お姉ちゃん?」
ショウタの疑問の声を無視し彼にバットを手渡すと、俺は店の中に入って、奥に隠されるように置かれていた木箱をつんつんと指でつついた。
すると――
『……にゅ?』
木箱は大きなくりくりお目々をパチクリさせながら、キョトンとした顔でこちらを見上げてきた。
――間違いない、こいつは!
「おらぁぁぁぁあ! 死に晒せやぁぁぁあぁ!!」
『にゅーーーー!?』
渾身の右ストレートを繰り出すが、木箱は凄い速さで飛び退いて攻撃を躱すと、ショウタのいる入口の方へ走っていく。
埃の落ちた木箱は金色に輝いており、背中には小さな羽までついている。
やはりトレジャーボックス! しかも前回みたいな銅じゃなくて金色の超レアなやつだ! 絶対に逃がさねぇ!
「ショウタ! やれ!」
「うん! え、えぇぇい!」
トレジャーボックスが店の外に飛び出そうとした瞬間、ショウタのバットが見事奴の横っ腹を叩きつけた。
だが、ショウタの攻撃力では大したダメージにはならない。トレジャーボックスは倒れるものの、すぐに起き上がると、今度は背中の羽をパタパタさせながら飛び去ろうとする。
「逃がすかぁぁあ!!」
スカートの中の太ももベルトから二丁のエアガンを引き抜くと、パタパタとはためく羽に向かって発砲する。
『にゅっ!?』
弾丸は見事に奴の両翼に命中し、トレジャーボックスは空から落下する。
俺は地面を転がりながら勢いをつけると、落ちてくる無防備な金箱に向かって、飛び起きるように回転蹴りを放った。
『にゅっ、にゅーーー!!』
蹴りが綺麗にヒットすると、トレジャーボックスは地面に激しく叩きつけられた。
しかし、まだかろうじて生きているようで、地面に這いつくばりながらもジタバタと手足を動かしている。
「えいっ!」
そこにショウタが容赦なくバットをフルスイングし、奴の顔面に叩きつける。
するとトレジャーボックスはバラバラに砕け散り、やがて光の粒子になって消滅した。
――ぽとん。
ショウタの足元に、なにやら可愛らしいポーチのようなものが落ちてくる。
俺はそれを拾い上げると、アイテム鑑定機を使って詳細を確認した。
【名称】:次元収納ポーチ
【詳細】:見た目以上の収納量を誇る魔法のポーチ。中は謎の空間になっており、六畳一間のアパート程度の広さがある。ただし生物は収納不可で、中に入れた物の時間が止まるといった効果もない。また、この中に魔導具以外の武器類を詰め込んだ場合はダンジョンの中に入れない。
「や、やったぁぁぁーーッ!」
「むぎゅっ!?」
ショウタの頭を胸の中に抱き寄せると、俺は思わず歓喜の声を上げた。
うおぉぉぉおーー! マジキタコレ! 遂に、遂に俺が一番欲しかったアイテムをゲットすることができたのだぁぁぁーーッ!
「でかしたショウタぁぁぁぁ!」
「お、おねえちゃん……。お、お胸が……柔らかいものがぼ、僕の顔に……あ、うああぁ……」
じたばたと暴れながらショウタがなにか言っているが、俺はお構いなしにハイテンションで彼を抱きしめ続けたのだった。
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