第036話「ダンジョン探索」
「ほいさっさ!」
目の前にいるゾンビをフルスイングで吹き飛ばすと、後方にいたゾンビたちを巻き添えにして壁に激突した。
腐った肉片と血飛沫が周囲に飛び散って、辺り一面に悪臭が立ち込める。
「おげぇ……くっせぇなぁ……」
ゾンビから吸血鬼に進化して一番大きく変わったのが五感だ。
以前は嗅覚なんて殆ど感じなかったのに、今はむしろ人間だったときよりも五感が鋭くなっているようで、ゾンビの血や臓物の臭いが容赦なく鼻をつく。
「すーはー……すーはー……」
Tシャツの襟元をつまみ上げると、服の中に顔を突っ込んで思いっきり深呼吸をする。
え? なにをやってるのかって?
そりゃ自分のにおいを嗅いでるんだよ。【全能力+1】の影響で【フローラルな香り】の効果も上昇しているので、はっきりいって俺の体臭はめちゃくちゃ良いにおいなのだ。
……しかし、この体勢だと服の中に頭を突っ込んで自分の胸の谷間を見ながらすーはーしてる高レベルの変態みたいになってんな。
でもゾンビ臭がキツすぎて、こうやって呼吸しないとやってらんないんだ。決して俺が変態なわけじゃないからな。
「すーはー……ふぅぅ~~、たまらねぇぜ……」
自分のにおいをクンカクンカして恍惚としていると、ダンジョンの奥から再び悪臭を放つゾンビどもがワラワラと湧いてきた。
ちっ、いい気分だったのに邪魔しやがって。
「ゾンビ風情が我をなんと心得る! 我こそはアンデッドの頂点に君臨する吸血鬼――ナユタ様であるぞ! 頭が高いわ下郎が!!」
喝っ、とばかりに大声を張り上げると、ゾンビたちは恐れおののいたように後ずさる。
……あれ? ノリでやってみただけなのに、なんでこいつらこんな反応してんだ?
「ああそうか! 【強そうなオーラ】の効果が発動してるんだ!」
よくわからんが、なんか強そうに見えるらしいあれだ。しかも【全能力+1】の効果でさらに強化されてるっぽい。
ゾンビたちがビビってるのはそのせいだな。
「ふははははっ! 下郎ども、道をあけよ!」
バットでカンカンと地面を叩きながら、ゾンビたちに命令を下す。
すると彼らはまるでモーセが海を割るかのように、道を開けてくれるではないか。
おお……これは思った以上に使える能力かもしれない。星一ダンジョンくらいなら雑魚敵とは戦う必要もなく、この威圧だけで切り抜けられるんじゃないか?
「これなら楽勝だな。……よし、それならせっかくだしダンジョン内を隅々まで探索してみるか」
ボス部屋の場所はわかっているけど、ダンジョンはボスを倒すと消えてしまい二度と入れなくなるらしいので、この機会に色々と調べておいたほうがよさそうだ。
ダンジョンがこの世界に出現してから既に二十数年経つが、ダンジョンを真面目に攻略しているのなんて、大国の政府とダンジョン関連会社くらいだから、みんな秘匿しちゃってネット上にも殆ど情報はないんだよね。
だから隠し部屋とか宝箱なんかも見つかるかもしれないしな。
というわけで、俺はゾンビたちが開けた道を悠々と歩いてダンジョンを進んでいく。
「……ん?」
しばらく歩いていると、ふと違和感のようなものを覚えて後ろを振り向く。
すると、ゾンビたちの集団の中に一体だけおかしな挙動をしている個体がいた。
他のゾンビはみんな俺を恐れて道を開けてくれるのに、そいつだけはずっと俺の後ろをついてきているのだ。
「なんだあいつ? ……あいつだけ【強そうなオーラ】が効いていないのか?」
見た目は他のゾンビと区別がつかないが……。
……なんか気になるし、念のため倒しておくか。
「お? おおおお? ちょ、なにこいつ!?」
俺がその個体を倒そうと決意した瞬間、そいつはいきなり地面を蹴って猛スピードで走り出し、こっちに向かってきた。
動きのトロい他のゾンビとは比べ物にならない、まるで生きた人間のような速さだ。
「けどまあ、今の俺の敵じゃないな」
人間だった頃の俺だったら小便をちびるほどビビったかもしれないが、吸血鬼と化した今の俺にとっては大した脅威じゃない。
そのままバットで頭部をホームランしてやると、頭を失った身体だけがしばらく走り続けて、やがてバタリと地面に倒れた。
「キモッ! けど、どうやら他よりちょっと強いだけのただの雑魚ゾンビだ――」
と、そのときだった。
――カランカラン……
倒れたゾンビの身体が光の粒子となって消えていったかと思うと、地面に蓋のついた試験管のような容器が転がったのだ。
容器の中には緑色をした謎の液体が入っている。
「え? これ、もしかしてドロップアイテム!? ボス以外にもドロップアイテムって存在したの!?」
ネットの情報や三島の話では、ドロップアイテムはボスを倒してダンジョンを攻略したときにだけ手に入れられる物だと聞いていたが……。
通常、ダンジョンのモンスターは倒しても光になって消えたりはしない。
まあ、死体は放置しておくといつの間にかダンジョンに吸収されてしまうみたいなので、厳密には消えてるんだけど……。
とにかく、通常のモンスターは体が消えたりしないし、ドロップアイテムも残さないのだ。
さっきのやつは、もしやレアモンスターだったのか……?
「これは……凄い発見をしてしまったのでは!」
これからも【強そうなオーラ】が効かない個体を探せば、ボス以外からもレアアイテムをゲットできるかもしれない。
くくく……なんだかちょっと楽しくなってきたぞ!
俺は地面に落ちている試験管を拾い上げると、わくわくした気持ちを抑えきれずにダンジョン探索を再開した。
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