第029話「オフ会に行こう①」

 オフ会当日。


 改札を抜けて、待ち合わせ場所である駅前の広場に辿り着くと、そこにはすでに桃華の姿があった。


 SNSにアップされていた画像と同じ、ピンク色のツーサイドアップという目立つ髪型なので、遠目からでもわかりやすい。


 服装は清楚さを感じさせる白のブラウスに、チェックのフレアスカートというシンプルなコーデだが、その容姿との相性が抜群でとても可愛らしかった。


「ふむ、どうやら本当に美少女のようだな。……ま、俺も負けてないけど」


 今日の俺の格好は、胸や腰回りのラインがはっきりわかる、グレーのスリムフィットミニワンピースだ。


 オフショルダーなので肩や鎖骨、胸の谷間が大胆に露出しており、ミニなので太もももギリギリまで晒している。


 そして黒のニーハイブーツを履いて、絶対領域を演出。


 顔も【奇跡のメイク術】でちょい美少女に整えてあるし、サラサラの黒髪ロングもバッチリ決まっている。


 容姿だけなら負けてるかもしれないが、総合的には俺のほうが美少女だといっても過言ではあるまい。


「それにしても挙動不審すぎだろあいつら……」


 桃華が立っているのは待ち合わせスポットとしてよく使われる銅像前だが、その周辺には参加者と思われるモブ男たちの姿がちらほら見えた。


 だが、彼らは桃華のことに間違いなく気づいているはずなのに、声をかける勇気がないのか遠巻きに見ているだけで、一向に近づこうとしない。


 桃華は桃華でそんな男たちの視線に気づきながらも、一切声をかけようとせずそわそわした様子で辺りを見渡していた。


 ……まあ、ネット弁慶のオフ会なんてあんなもんよな。


 仕方ない、そろそろ主役の登場といこうか。


「よお! どうやら逃げずにちゃんと来たようだな!」


 手をブンブンと振りながら桃華に近づき、わざと大きな声で話しかける。


 俺に気がついた桃華は、ほっとしたように顔を綻ばせたが、すぐに素っ気ない感じに戻すと不機嫌そうに口を開いた。


「ふ、ふん……。そっちこそ、逃げずによく来たじゃない。桃華の美少女オーラに恐れをなして逃げ出すと思ってたのに」


 おー、おー、強がっちゃって。俺が近寄ったとき、一瞬嬉しそうな顔したのちゃんと見てたからな。


 桃花は俺より身長が10センチくらい高いので、自然と俺が見上げる感じになる。


「それにしても本当に女の子だったんだ。ていうかあんな偉そうな態度してたくせに、桃華より年下じゃない」


「これでも成人済みですー」


「嘘。だってどう見たって中学生じゃん」


「え~、これでも中学生だと思いますか~」


 俺は前かがみになって胸の谷間を強調させながら、桃華を下から覗き込むように見上げる。


「……くっ。でも、顔はやっぱり桃華のほうが美少女じゃん!! 勝負は桃華の勝ちで決まりね」


「美少女ってのは顔だけ決まるわけじゃないんだよ。身体や内面など様々な要素が合わさってこそ、真の美となるんだ」


 くるりと回転してサラサラ黒髪を靡かせながら、全身のラインがはっきりわかるようにしなを作ってポーズを取った。


 引き締まったウエストから、柔らかく大きなお尻へ続く曲線美を強調すると、太ももの間から下着が見えそうで見えないくらいまでミニスカートの裾をピラッと持ち上げる。

 

 そのあまりに扇情的な動きに、周囲のモブ男どもが生唾を飲み込みながら釘付けになっていた。


「じゃ、じゃあどうやって決着をつけるのよ?」


 俺のパーフェクトボディに、さすがの桃華も若干押され気味のようだ。


 ふふん、勝負はここからだ。


「ほら、お前らもビビってないでこっち来いよ」


 パンパンと手を叩いて、遠巻きに俺たちの様子を窺っていた5人の男どもを呼び寄せる。


 彼らは俺にメッセージを送ってきた大量の参加希望者の中から、プロフィールや自己PRの内容を吟味して厳選に厳選を重ねて選んだ、有用な長所を持ち合わせたメンバーたちだ。


 本当はもっと大勢を参加させたかったのだが、人数が増えるとコントロールが難しくなって目的を果たせなくなる可能性が出てくるので、泣く泣く5人に絞らせていただいた。


「俺とお前だけじゃ決着がつかねーからな。こいつらに客観的評価をしてもらおうじゃねーか」


 まあ、長所だけで選んだ奴らなので、俺に有利な評価をしてくれるとは限らないが、俺の目的は桃華に勝つことじゃないからな。


 こいつらや桃華から血を入手できれば今回のオフ会は大成功なのだ。


「まずは自己紹介からな。俺と桃華は全員知ってると思うから、お前ら順番にやっていけ」



「……では、それがしから」



 最初に前に出てきたのは、小太りでチェックのシャツを着用し、頭にバンダナを巻いた、今どきこんなやついるのかよ……と思わずツッコミを入れたくなるようなテンプレオタクファッションの男だった。

 

 こいつからオフ会に参加したい旨のDMが届いたときは、正直驚いた。


 なぜなら――


「フヒヒヒ……某は、『伝説の七人レジェンズ』の第二席――"無限のソウスケ"と申す者でござる。旧四席のナユタ氏と現四席桃華氏の対決と聞き、ぜひとも立ち会いの栄に浴したいと思いここまで馳せ参じ申した」


 ソウスケと名乗った男が自己紹介した途端、桃華を含めて周囲のモブ男どもがざわつき始めた。


 当然だろう、こいつは『異世界空戦記』の全プレイヤー中で二番目に強いと噂される男なのだから。


 "無限"の二つ名通り、ゲームに24時間ログインをしており、クエストを無限周回する廃人プレイヤーとして知られている。


 そんな男がこのような場に現れたのだ、誰もが驚きを隠せないのも無理は――


「みんなそこから動かないで! 手を頭の後ろで組んで!! 早く!!」


 桃華が突然大声を上げた。


 その剣幕に押されて俺以外の男どもは戸惑いながらも、言われたとおりに両手を頭の後ろで組む。


「突然どうしたんだよ桃華……」


「ナユタはこっちにきて」


 桃華はなにやらスマホを操作したあと、俺の手を引いてモブ男どもから少し離れたところまで移動した。


 そして、周囲の警戒をしながら小声で話し始める。


「桃華、早く来すぎたから、みんなが到着するまで異世界空戦記にログインしてレベル上げしてたんだけど……ほら見て」


「な……っ!? これは……!?」


 桃華が見せてきたスマホの画面を見て、俺は思わず息を飲んだ。


 フレンド欄の『伝説の七人レジェンズ』のメンバーが全員オンラインになっているではないか。


 ソウスケの方にチラリと視線を送るが、奴は手を頭の後ろで組むという無防備な姿のまま微動だにしていない。


 だが、桃華がソウスケのステータス画面を更新すると、そこには先程より経験値が増加しているという驚くべき事実が見て取れた。


 つまり、あいつは現在も周回プレイをしているということになる……。


「……これが、"無限"の正体よ」


「なるほど……な。24時間ログインしてるわけだぜ」


 俺はポキポキと指を鳴らしながら、ソウスケに向かって歩み寄っていく。


「ナユタ氏、どうかしたんでござるか?」


「てめぇ……"自動周回ツール"を使ってレベル上げしてやがるなァ!?」


「――ギクゥッ!?」


 俺の指摘にソウスケはあからさまに動揺した様子を見せた。


 "自動周回ツール"とはマクロ機能を使い、プレイヤーが操作しなくても自動でクエストを周回してくれるツールのことだ。


 いわゆるチート行為の一種であり、もちろん異世界空戦記でも規約で禁止されており、運営に発見されれば垢BANされてしまう。


 俺や桃華は毎日18時間ログインして手動でクエストを周回し、必死に伝説の七人レジェンズの地位を維持していたというのに、こいつは……こいつはっ……!!


 許すまじ。許せぬゥ!


「このダボがァァーーーー!!」


「ぶげぇーーーーッ!!」


 怒りに任せてソウスケの顔面に右ストレートを叩き込むと、奴は鼻血を撒き散らしながら後方へ吹っ飛び、広場の噴水に落下して派手な水飛沫を上げた。


「桃華ぁ! 運営に通報しとけっ!」


「はいよー」


 ぺろりと拳についた血を舐め取りながら桃華に指示を出すと、彼女は素早くスマホを操作し始める。


 まさか"無限のソウスケ"がこんな小物だったとはな……。


「やれやれ、いきなり参加者が一人減っちまったな。……まあいいや、次は誰が自己紹介するんだ?」


 俺は頬にソウスケの血をつけたまま、にっこりと笑って男たちに向き直る。


 彼らは引きつった表情を浮かべながら、直立不動の体勢で自己紹介をし始めた。








【名称】:パソコンの大先生


【詳細】:パソコンに詳しく、パソコンに関することはなんでも知っている……と思いきや、実はそこまで詳しくない。しかし、マクロでゲームの自動周回ツールを組んだりと、特に違法とされている知識や技術に関してはかなり精通している。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る