第026話「異世界空戦記②」

《はぁ? さっきからなに言ってんのこいつ? 加工なんてしてるわけないじゃん》


 全体チャットに赤字で桃華の怒りに満ちたコメントが流れる。


 よし、釣れた!


 けけけけ、小娘が。俺の地位を奪ったこと、後悔させてやるぜ。


《よお、後輩。お前、俺の後釜に四席に居座ってんだってな?》


《こんにちは先輩。無職をやめて就職したとの噂でしたが、一ヶ月で会社を首になったんですか?》


《うるせー!  黙れ小娘!! 加工した写真をSNSにアップして男を釣ってるくせに》


《加工なんてしてないですぅ~。桃華リアル美少女なんで~》



:煽り合い始まったw

:ナユタさん相変わらず口悪いっすねwww

:桃華たそもなかなかの煽りスキルだな

:おっさんvs美少女か……胸熱

:これはどっちが勝つのか

:おい! ナユタさんも自称美少女だろw



 桃華の登場でギャラリーたちも大盛り上がりだ。


 だが、小娘の分際でこの俺の地位を奪っただけに飽き足らず、煽りまでしてくるとは……。これは大勢のギャラリーの前で無様に敗北を味わわせて、わからせるしかあるまい。


《本当かぁ~? 今の世の中、写真なんて簡単に加工できるからなー》


《だからしてないって言ってるでしょ。桃華、中学校の文化祭のミスコンで準優勝したこともあるんだから。わざわざ加工する必要なんてないもん》


《中学とかそんな子供時代のこと言われてもな~。高校は?》


《え?》


《だから~、高校のミスコンはどうだったんですかね~》


 …………


 俺のレスに数秒で反応していた桃華が、急に沈黙した。


 はーっはっはっは! SNSの写真を見る限りこいつは高校生くらいの年齢のはず。


 だがしかし! このゲームで『伝説の七人レジェンズ』の一人として君臨するには、毎日18時間くらいログインしている必要がある。


 導き出される結論は……こいつは、高校に行ってない引きこもりの可能性が高いということだ!


 勝ったな、グハハ!


 小娘が、大人を舐めるからこうなるのだ。


《あれれ~? 桃華さんどうしたんですか~? 黙ってないで喋ってくださいよ~》



:ひどすぎワロタw

:大人げなさすぎ

:桃華ちゃん可哀想だろ!

:やめたげてよぉ!

:おっさん、人の心はないのか!!



《あんたこそ無職のおっさんの癖に美少女とか嘘ついてないで、現実見たほうがいいんじゃないの?》


《は? 美少女なのが現実ですが?》


《だったら証拠見せてよ》


《しゃあねぇなあ。じゃあお前がいつも使ってるボイチャソフトで通話してやんよ。あれなら画像も送れるし証拠としては十分だろ?》



:え? ここまで自信満々ってことはマジで女なん?

:見に行こうぜw

:新旧四席の戦いが見られるのか

:やべ、超楽しみw

:祭りの予感

:早くしろ



 桃華がIDを公開すると、通話リクエストの通知が俺に届く。


 俺はすぐに承認してボイスチャンネルに参加すると、マイクをオンにして大きく息を吸い込んだ。


「よお、桃華。俺が異世界空戦記最強の美少女、ナユタ様だァーーーー!!」


『え……本当に女だったんだ……』



:【朗報】ナユタ本当に女だった

:マジかよwww

:草生えるww

:ちょっと低音だけど確実に女の声だわ……

:絶対おっさんだと思ってたw

:俺もw

:めっちゃイケボで草

:ナユタたそ~

:結婚して

:女なら許す!!

:声かわいい!



 手のひらくるっくるやないか!

 

 まあ、ネトゲやSNSの男どもなんて相手が女だとわかればこんなもんよな。


「声だけじゃまだ疑うやつもいるだろうからな、ついでに証拠として今撮ったばかりの自撮りも送ってやるぜ。もちろん加工なしのな」


 念の為顔は完全に化粧を施してちょい美少女に擬態をしているが、やはりよりインパクトを出すために口元と身体のみの自撮りを送る。


 特に神乳や超美脚を重点的にアピールした完璧な一枚をな!


 俺はその画像を桃華のボイスチャンネルに投稿した。



:ちょwww

:やべえw

:これはぐうシコ……

:完全に女ですわ

:エチすぎる……!

:すこすこのスコティッシュフォールド

:ふぅ……

:僕は最初からナユタ派でした

:俺なんて前世からナユタ派だぞ



『……顔も見せなさいよ、どうせ大したことないから身体だけの自撮り送ったんでしょ』


 可愛いアニメ声を精一杯の低音ボイスにして、俺を煽ってくる桃華。


 だが、その程度では俺は動じない。


「だから顔なんて加工でどうとでもなるんだから意味ないって言ってるじゃん。声と身体だけで俺が美少女だってことは十分証明できただろ?」


『桃華は加工なんてしてないし、絶対ナユタより桃華のほうが美少女だから!!』


 怒りでヒートアップした桃華は、ボイスチャンネルに今撮ったばかりと思われる自撮りを投稿した。


 部屋着と思われるかなりラフな格好で、化粧っ気のなさが逆に加工をしていないという説得力に繋がっている。



:これすっぴん?

:普通にかわいいわ

:やっぱり僕は桃華派です

:間違いなく美少女やな

:これは加工してるとは思えないな

:く、どっちも捨てがたい……

:俺はやっぱナユたそ派



 桃華の自撮りを見て、チャット欄はさらに盛り上がる。


 うん、たぶんこいつは加工とかしてないナチュラル美少女だな。なら、当初の目的とは違うが、せっかくだしちょっと利用させてもらうか。


「やっぱ画像じゃ信用できないよなー」


『これ以上どうしろってのよ』


「お前SNSのプロフに都内在住って書いてたよな? リアルで決着つけようぜ」


『は? なんで桃華があんたみたいなのとオフで会わなきゃいけないわけ?』


「あれ? やっぱ画像加工してたりとかする? リアル顔晒すのが怖いんだ? 俺はリアルも完全無欠の美少女だから全然怖くないけどなー」


『……桃華があんたみたいな身体だけ女に負けるとかありえないし。いいよ、そこまで言うなら会ってあげる。でも桃華のほうが可愛かったら、二度とこのゲームにログインしないでね』


「いいぜー。じゃあ詳細はまたあとでダイレクトメッセージ送るわ」


 ちょろすぎワロタ。


 これでこいつから血を奪う算段はついた。



:え?

:マジで?

:まさかのオフ会w

:新旧四席リアルで直接対決か!?

:これって俺たちも行っていいの?

:さすがに行く勇気はないな

:でもめっちゃ気になるw



「来たいやつは簡単なプロフと特技等の自己PRを俺のSNSのDMに送っとけ。美少女二人のオフだから変なやつは弾かせてもらうぜ。人数が多い場合は抽選な」


 せっかくなのでモブ男どもも何人か参加させてやろう。もしかしたら有用な血の持ち主も来るかもしれないしな。


 チャットルームを退出すると同時に、大量のDMが届き始める。


 俺はその一つ一つに目を通しながら、参加者の選別作業に取り掛かるのだった。

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