第025話「異世界空戦記①」
「くっそ~、一ヶ月の遅れを取り戻すのはなかなか骨が折れるぜ……」
俺は今、十七夜月に買ってもらったパソコンで『異世界空戦記』をプレイしているのだが、一ヶ月もログインできなかったせいで色々と仕様が変わっており、四苦八苦していた。
メインシナリオはかなり進んでしまっているし、レベルの上限も解放されて新しいジョブも実装されている。
そして、しまいには俺が不在の間に『
ぐぬぬ……この俺を差し置いて第四席に居座ってるとは許せん……。
「ち、あざとい真似しやがって」
桃華は桃色に染め上げた髪をツーサイドアップにした美少女で、ゲームのコスプレや18禁ギリギリのきわどい写真などを頻繁にSNSにアップしてファンを増やしているようだ。
ボイスチャットではその独自なアニメ声と甘ったるい喋り方で多くの男を勘違いさせ、自らの親衛隊を結成していた。
そのプレイスタイルは、親衛隊に課金アイテムを湯水のように使わせまくって、最後に自分だけおいしいところを掻っ攫っていくという、まさに悪女そのもの。
女性プレイヤーの殆どいないこのゲームで、弱男の純情を弄び、女という武器を最大限に使ってのし上がろうという卑劣な戦法だ。
「こいつぁ許せんよなぁ……このナユタ様が直々に成敗してやるぜ」
「……なにやってんですか? 先輩」
桃華のSNSのアカウントをフォローして、ダイレクトメッセージを送ろうとしたところで後ろから声をかけられる。
振り向くと、そこには部屋着姿の十七夜月が立っていた。
いつの間にか仕事から帰ってきていたらしい。異世界空戦記に夢中になりすぎて気づかなかったぜ。
ちなみに、いくら俺が女になったといっても、同じ部屋で寝泊まりするのはちょっと……という十七夜月の意見により、俺は物置を改造して作られた小さな部屋で生活している。
だが、ネットが使えて風呂ありの屋根付きの時点で、一ヶ月も橋の下のダンボールハウスで生活していた俺からすれば、天国のような環境である。
それにこの微妙な狭さが、逆になんだかとても落ち着くんだよな……。
「あのですねぇ、最初の数日はゾンビになっちゃってかわいそうだから、と思って特になにも言わないでいましたけど、もう一週間以上も経つのに毎日ゲームばっかり! いつまでこんな生活を続けるつもりですか?」
あ、うん……。その、反動というかね?
ダンジョンで死ぬような……というか実際に死んでしまったり、ホームレスゾンビとして一ヶ月間必死に生き延びてきたりしたわけじゃん?
それでこう安全な住居を手に入れて、生活も保障されて……。
つまりはね? 気が緩んじゃったわけですよ。
「色々な人から血を入手して、国家に見つかっても大丈夫なくらい最強の存在になるって息巻いてたじゃないですか。なのに、そんな体たらくでどうするんです?」
うぐ……ごもっともです……。
正直ここから動きたくないが、このままダラダラとニート生活を送っていれば、そのうちこいつの堪忍袋の緒が切れてしまうかもしれない。
「だったらまずはお前の血をくれよ~」
十七夜月は何故か俺に血を恵んでくれないのだ。
理由は本人曰く、まだ好感度が足りていないから……らしい。
「ぶぶー、残念ながらまだ好感度が足りてませーん」
ほら、こんな感じで。
「なにが好感度だよ……オタクくさ」
「ええと、家に勝手にゾンビが住み着いちゃった場合はどこに連絡すればいいんだっけな……。確か政府にダンジョン関連の研究をしてる機関が――」
「くぅ~ん、くぅ~ん」
俺は床に仰向けで寝転がり、腹を見せて服従の意思を示した。
「はぁ……とにかくゲームばかりしてないで、今後のことをちゃんと考えて行動してください。さもないと本当に追い出しますからね!」
十七夜月は俺の腹をふみっと足蹴にすると、そのまま部屋を出て行ってしまった。
くぅ~ん……。
◇
とりあえず、桃華に嫌がらせをしてから今後どうするか考えることにしようと思った俺は、再びパソコンで『異世界空戦記』を起動した。
そして、全体チャットで桃華に煽りメッセージを飛ばす。
《おい桃華ァ!! 俺がいない間になに勝手に第四席に居座ってんだ!! 身のほど知らずも大概にしろよ!!》
突然の俺の登場に、プレイヤーたちが一斉にざわつき始める。
:ちょw ナユタ生きてたのかよw
:チース! 旧四席のナユタさんちっす!
:引退したかと思ってたわw
:お、久しぶりに見たな
:生きとったんかワレ!
ふふふ、どうやら俺の帰還に感動して震えている奴が多いようだな。だが、俺はお前らに構ってやる時間はない。
《桃華ァ!! 隠れてないで出てこいやァ!! 卑劣なプレイしやがって……異世界空戦記最強の美少女、ナユタさんが直々に成敗してやるぜェ!!》
:草
:ついに頭がおかしくなっちゃったか……
:美少女ってwww
:桃華たその人気に嫉妬してて草
:もう無職のおっさんに用はないんだが
:四席は桃華たそに譲って引退しとけw
《いや、本当に俺は美少女なんだが? 女だとバレるとそれだけで持ち上げる奴が現れるから、実力で勝負したい俺としては嫌で今まで隠してたけどな》
:ま?
:本当に女なの?
:証拠うp
:嘘に決まってんだろw
:闘わなきゃ現実と
:必死すぎワロタw
《本当だって。だから同じ女として桃華みたいなプレイは許せねぇんだよ。どうせSNSにアップしてる写真も加工してんだろ?》
:え、桃華たんって加工してんの?
:いや、あれはガチの美少女だろ
:でも今はAIとかで簡単に加工できるらしいぞ?
:それよりナユタが女の証拠はよ
:なんか面白くなってきたなwww
ふうむ、『
よし、もっと煽ってやるか。
《絶対桃華は加工だって。ナチュラル美少女の俺にはわかるんだよなー。ああやって加工で可愛く見せて、男にチヤホヤされようとしてるのが丸わかりなんだよ。リアルでは男に相手にされないからネットに加工した自分の写真を上げて注目を集めて自己顕示欲を満たしているんだよ。な、桃華?》
さあ、そろそろ堪忍袋の緒が切れて登場してくるはずだ。
こいこい、桃華。早く出てこい。
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