第021話「ゾンビザロック④」

「「「お疲れさまー!」」」


 ライブ終了後、楽屋に集まったバンドメンバーたちがハイタッチを交わす。


 俺もそれに加わって、奏音や夜耶、萌黄とパチンパチンと手を合わせた。


 いやー、楽しかったな! 観客も盛り上がってたし、大成功といっても過言じゃないだろ!


「ねえねえナユター! やっぱり臨時じゃなくて私たちとバンドやろうよー!」


 奏音がギュッと抱き着きながら、猫のようにスリスリと頬ずりしてくる。


 ふ……このシーン。今の俺であれば"尊い"という感想を頂けるんじゃなかろうか? 化粧してる今ならギリ許される気がする!


「残念だけどそれは無理なんだよなー。楽しかったけど俺にはやることがあって忙しいのだ」


「ええ~、ナユタみたいなメンバーを新たに見つけるのって無理だよ~。あーあ、なにか都合のいい展開とか起きて、小春が戻ってきてくれたらいいのになー」


「おいおい、そんなご都合主義あるわけ――」


 俺が奏音の言葉を笑って流そうとした、まさにその瞬間――楽屋のドアが開いて一人の少女が姿を現した。


「みんな! お母さんがやっぱりバンドやってもいいって!」


 ふわふわの茶髪を靡かせながら、園城えんじょう小春こはるが近くにいた夜耶に抱き着く。


「え……小春、本当に?」


「うん、お母さんもこっそりライブを見に来てくれてたの。それでね、みんなの演奏を聞いて考えが変わったんだって!」


 えぇ~……なにそれ。そんなご都合主義が実在するのかよ……。


 結局俺なんてなんの役にも立ってないじゃん。


 でもまあ、これで彼女たちもバンドを続けられるし、めでたしめでたしってことでいいのかな?


 ……なら、次はいよいよお楽しみの時間だなぁ。

 

 俺はにちゃりと口元を歪めて、獲物を視界に捕らえた肉食獣のように舌なめずりをした。


「それより奏音、約束通り報酬を貰おうか?」


 奏音の肩を叩いて、そのまま流れるように壁際まで追いつめる。


「え~、本当に血をあげなきゃいけないの~?」


「あたりまえだろ。俺はそのために手伝ったんだからな。ほら、安全ピンは用意してあるからプスッとやれよ」


 鞄から取り出した安全ピンを奏音に手渡す。


 すると奏音は仕方ないなーと唇を尖らせながら、自分の指先にプツッと安全ピンを突き刺した。


 そこからぷっくりと赤い血が浮かび上がってくるのを確認し、俺は奏音の手を取るとそのまま人差し指を口に含む。


「ちゅう……ちゅう……」


 いや、別に吸い付く必要はないんだけどね? 相手が美少女なのでせっかくなので直接吸引したいじゃん?


 ごくりと喉を鳴らして血液を飲み込むと、「ドクンッ」と心臓が強く鼓動し、身体の奥から熱いものが込み上げてくる。


 きた! 身体変化系の長所だ! 頼む、俺のお目当て通りのやつがきてくれ!



《【超美脚】を獲得しました》



 よ、よっしゃぁ! きたぁーー!


 心の中でガッツポーズを取ると同時に、俺の肉付きのない不格好なO脚がビキビキと音を立てながら形を変えていく。


 太ももは太過ぎず、それでいてむちっと肉感のある絶妙なバランスに。ふくらはぎはすらりと引き締まりながら、むにむにと柔らかい弾力のある質感に。そして足首にかけてはシュッと細くなっていく。


 ムダ毛どころか毛穴一つないスベスベの肌は、思わず頬ずりしたくなるような感触で、まさに神の造形美といえよう。


 股の付け根から足元までは真っ直ぐなラインで、その立ち姿からはまるでモデルのごとき佇まいを想像させる。


 これだよ、これ! 俺の理想はまさしくこういう脚なんだよ! これで俺も真の美少女に一歩近づいたぞぉ! うひひっ!


「奏音とナユタ、お前らなにやってんだ?」


 萌黄が訝し気な表情で俺たちに声をかけてくる。


「えっとね、ナユタって血が大好きな変態なんだって。だからライブを成功させた報酬に血をあげてるの」


 おい、なんだよその説明は! それじゃまるで俺が変な性癖を持っているみたいじゃないか!


 俺はただ美の長所を入手するために、美少女の体液を飲みたかっただけなのだが?


「あはは、なんだそれ! じゃああたしらの血も飲むか?」


「え? いいの!?」


「それくらい別にいいよ。ナユタのおかげでライブは大成功で、しかも小春まで戻ってきたんだからな。なあ、夜耶と小春もいいよな?」


「うん……別に構わない……」


「私もいいよー」


 うおおおぉぉぉぉ! マジかよこの展開!


 まさかバンドをやっただけで美少女四人から血液を入手できるとは……やはりロックは最高だぜ!


 これはもしかしたら今日だけで外見だけはパーフェクトまで進化できるのでは?


 三人は安全ピンを指に刺すと、それぞれ指から血をにじませて俺に差し出してきた。


 俺は意気揚々と、まずは萌黄の指先にしゃぶりつく。


 ――チュパ……チュウゥ……。


「ん……なんだか思ったより恥ずかしいなこれ」


 萌黄が王子様系の顔を少し赤らめながら、照れくさそうに笑う。


 ごくんと萌黄の血液を飲み込むと、またもや心臓が強く脈打った。



《【引き締まった肉体】を獲得しました》



 や、やった! またしても身体変化系の長所だ!


 俺の肋骨が浮き出た貧相な肉体が、程よく引き締まり筋肉のついた魅惑のボディに変わってゆく。


 シックスパックというほどムキムキではなく、筋肉はありつつも女性らしくしなやかなラインで、ウエストはキュッと細くくびれている。


「はい、次は私ね」


 続いて小春の指から血液を啜りあげる。


 ――チュパ……チュパリン……。


「く、くすぐったい……」


 二つの肉体変化系の長所を続けて得た俺は、夢中になって小春の血を飲み込んだ。


 すると――



《【桃尻】を獲得しました》



 ま、マジかぁぁぁ! 三連続で美の長所を獲得してしまったぞ!


 柔らかさも色気の欠片もなかった肉の薄い尻が、短パンを弾け飛ばしそうな勢いでムチっとした肉感あるものへと変貌する。


 慌ててホックを外してウエストの部分を緩めると、ファスナーも半分近くまで下がってしまった。


「あれー? ナユタなんだか雰囲気変わった?」


 マズい! あまりにも急速に体が変化してしまったので、奏音が怪しんでいる。


 俺は急いでバッグから薄手のコートを取り出すと、全身を隠すように羽織った。


 幸いなことに、ライブの疲労と高揚感からか、楽屋内にいる他のみんなも注意力散漫になっており、俺の変化に気がついていないようだ。


「じゃあ……最後は私……」


 夜耶が猫のような大きな目を俺に向けて、血のにじんだ指を差し出してくる。


 この流れ……これは遂に顔まで変化してしまうのでは!? 夜耶みたいな大きな目の美少女に変身できるのでは!?


 期待に胸を膨らませて夜耶の指を咥えると、べろんべろんとアホみたいに舐めまくった。


「ちょ……ちょっと、そんなに舐めないで……」


 舐めるな? そんなの無理に決まってるだろ! 俺が遂に美少女になれるときがきたんだからな!


 俺は勢いよく夜耶の血液を飲み干し、喉をごくりと鳴らした。


 さあ、どうだ!


 これで俺は完璧な美少女に――




《【奇跡のメイク術】を獲得しました》




 そ……そっちがきたかァ~~~~~~ッッ!


 俺は昭和のギャグマンガのようにズッコケて、床をゴロゴロと転げまわった。


 あと一歩というところだったのに、最後の最後で技能系かよぉぉ!


「……でも、まあいいか」


 夜耶のメイク技術は超一流だし、少なくともこれで美少女に擬態することは可能になった。


 今はこれで満足しておこう……。


 よし! 今日は化粧道具をたっぷりと買って帰ろう! さっき表通りでひったくりからスリ取った金でな!


 こうして、俺たちのライブは大成功で幕を閉じた。そして俺も最強無敵に美少女にまた一歩近づくことができたのだった。








【名称】:超美脚


【詳細】:太過ぎず、それでいて肉感のある絶妙なバランスの太ももに、引き締まったふくらはぎ、シュッとした足首。ムダ毛どころか毛穴一つないスベスベの肌は、まさに神の造形美といえよう。男性はこの脚に恋い焦がれ、女性は誰もがこの美に憧れる。



【名称】:引き締まった肉体


【詳細】:アスリートのように絞り込まれた肉体だが、女性らしい柔らかさも兼ね備えている魅惑のボディ。ウエストはキュッと細くくびれている。



【名称】:桃尻


【詳細】:白桃のような瑞々しさと、マシュマロのような柔らかさを兼ね備えた魅惑のお尻。肉感はあるが決して大きすぎない絶妙なバランスで、性に多感なお年頃の男子は目を離せなくなるだろう。



【名称】:奇跡のメイク術


【詳細】:どんな藻女でも中の上くらいのちょい美少女に仕上げることのできるメイク技術。化粧や髪型をちょっと工夫するだけで、今まで目立たなかった子が一躍クラスのアイドルに成り上がったりすること請け合いだ。

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