第003話「スキル」
「三島さん、準備できましたよ」
三島の同僚と思われる二人の男が、荷物を抱えて空き家の中に入ってくる。
彼らは軍隊が使うような迷彩服を着ており、俺たちにもそれを配り始めた。
かなり丈夫な生地でできているようで、これなら鋭い牙や爪を持ったモンスターの攻撃を食らっても即死することはないだろう。
「えっと……ダンジョン探索会社さんの参加者は、三島さんとそちらのお二人だけなんですか?」
迷彩服に着替えながら、俺は三島に質問をした。
「ああ、お前らも知っての通り、今の世の中ダンジョン探索をしようなんてやつはそうそういないからな。いつも人手不足なんだ。だからお前らみたいなバイトを常に募集している」
「……でも、こんな少人数で……本当に攻略とかできるの?」
陰キャJK (見た目的に中学生かも?)が、悪い目つきをさらに鋭くしながら呟いた。
「星一つのダンジョンには、元々一度に10人までしか入れないというルールがあるんだ。10人入ってしまえば転移陣の光が消え、中の人間が死ぬか脱出するまで次の挑戦者は入れない。だから、10人いれば攻略できる作りになっているのさ」
食料品などをバッグに詰め込みながら、三島は説明する。
なるほど。だから参加者はこんなに少ないのか……。
そうこうしているうちに全員は着替えを終え、転移陣の前に集まった。転移陣は青白く発光しながら、俺たちの侵入を今か今かと待ち構えているように見える。
「よし……一ノ瀬、二村、こいつらに転移するところを見せてやれ」
「うす……」
「了解っす」
三島の指示で、一ノ瀬と呼ばれた巨漢の男と、二村と呼ばれたのっぽの男が転移陣に手をかざす。
すると、転移陣が激しい光を放ち始め、二人の男は光に包まれながら跡形もなく消え去った。
「おお……」
動画では見たことあったけど、実際の転移を目の当たりにして俺の口から感動の声が漏れる。他の参加者たちも同じような反応を見せていた。
「今のように、転移陣の前に数秒手をかざしているだけでダンジョンに転移できる。さあ、お前らもやってみな」
三島に促されるまま、参加者たちは次々と転移陣に触れていき、その姿を消失させた。
だが、オタクっぽい太った男の番になったところで、三島が思い出したように制止する。
「待て、転移陣は百キロ以上の重さの物体を運べない。……おい、そっちの若い男」
「朝霧です」
「ああ、朝霧。このデブの荷物を代わりに持っていってくれないか?」
そんなルールまであるのか……。
でも重量制限がなかったら、物資を持ち込み放題で攻略難易度が下がるだろうし、神だか宇宙人だか誰が作ったか知らないが、妥当なルールかもしれない。
俺は了承すると、オタク (俺の勝手な推測)から荷物を受け取り、転移陣に手を触れた。
次の瞬間、ふわりとした浮遊感を覚えたかと思うと、俺はいつの間にか薄暗い洞窟のような場所に立っていて、周囲には他の参加者たちの姿も見える。
どうやら無事に転移できたみたいだな……。
「洞窟型か……。少し薄暗いのと入り組んだ地形が厄介だが、難易度としては低いほうだ。お前ら、これはラッキーだぞ」
三島はニヤリと笑うと、俺たちに軽く説明をした。
星一つの洞窟型は、階層といったものがなく巨大な一つの洞窟の最深部にボスが生息しているだけの地形らしい。運がいいとほんの数時間で攻略できるそうだ。
「これは幸いですな! でゅふふ、それでは早速参りましょうぞ!」
「待て! お前らなにか忘れてないか?」
オタクが意気揚々と歩きだそうとしたところで、三島が彼の肩を摑んで引き留める。
「はて? 一体なんのことでござるか?」
「スキルだよスキル。ダンジョンに入った人間は全員がスキルに目覚める。お前ら、自分のスキルを知りたくはないか?」
お、おお! そうだった! やべー、すっかり忘れてた……!
「でも……どうやって確認するのよ。あたし、全然スキルが身に付いた感覚ないんだけど……」
派手な化粧をしたホスト狂い (俺の勝手な推測)の女の言葉に、三島はバッグからスマホサイズの端末を取り出した。
「これは魔導具の一つで"スキル鑑定機"だ。これを対象にかざすと、そいつのスキルの詳細が表示される」
ざわざわと参加者たちの間にざわめきが広がる。
たとえダンジョンに興味がないような人間でも、自分に特殊能力が備わっているとしたら期待感は隠せないだろう。
俺も心臓がばくばくと高鳴っていた。
ついに俺の隠された力とやらが白日の下に晒されるときがきたか……。も、もし俺だけチートスキルが覚醒してたりしたらどうしよう……。
「よし、お前らそこの壁に並べ」
俺たちは三島の指示通りに、洞窟の壁を背にして整列する。
オタク、パチンコ、ホスト狂い、横領、薬、俺、陰キャJKの順に並ぶ。ちなみに名前は俺が勝手につけた。でも大体合ってると思う。
三島は端末を俺たちの前に掲げると、順番にスキルの鑑定結果を確認していった。
「【臭い息】、【毒耐性】、【感覚遮断】、【音探知】、【筋力増強】、それと……ほう! お前ら二人は見たことないスキルだな」
俺と陰キャJKを興味深げに見つめる三島。
え? マジ? もしかして本当にチートスキルきちゃった感じ? やべー……これは緊張してきたぞ……!
「朝霧のスキルは【モンスター憑依】だな。文字通りモンスターに憑依して、まるで自分の体そのもののように操れる能力らしい」
「おおおっ!」
きたぁ! ドラゴンとかに憑依したら無双できるじゃん! うおおお! 俺は選ばれた人間だったのか!!
「だが、憑依できるのは自分よりも弱いモンスターだけらしい。人間より弱いモンスターなんてほぼ存在しない上に、そんな雑魚に憑依するよりは自分で戦ったほうが強いから、このスキルは使い勝手が悪すぎる。ゴミだな」
三島の辛辣な言葉に、俺は膝から崩れ落ちた。
……うん、知ってた。そんな都合のいいチートスキルがほいほい手に入るわけないってさ。でもちょっとくらい夢を見せてくれたっていいじゃない……。
「ガキのほうは【吸血】だ。血を吸った人間の長所を取り込むことができるらしい」
「えっ!?」
陰キャJKは先程の俺と同じような、自分は選ばれた人間かもしれないという期待のこもった声をあげた。
「しかし……だ、血を吸うたびに知性を失っていき、5人も吸うと完全に廃人になるらしい。能力は凄いがデメリットがひどすぎる。これもゴミスキルだな」
だが、三島の次の一言で陰キャJKは俺同様に絶望したような表情で膝から崩れ落ちた。
期待させて落とすのはやめろや!! 結局全員ゴミスキルじゃねえか!!
「ははは! お前らだけじゃないさ、スキルは基本的にこんなゴミばかりだ。俺もお前らもな。さあ、気を取り直してダンジョン攻略に向かおうじゃないか!」
三島は俺たちを鼓舞するように大きな声を出すと、金属バットを片手に洞窟の奥へと歩き出した。
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