第17話 魔女ウィクシナーの名
二日間、移動中魔物に襲われたり、木が倒れていたりと様々なトラブルが発生したが、バルザンは見越していたように的確な指示を護衛の兵士や魔法使いたちにし、全員無傷でリーグレント男爵領に到着した。
「どうだ、久しぶりの我が家は」
「お姉様はいらっしゃいますか?」
「今頃はエーリ伯爵領に着いているだろう、花嫁修業だ。ライザが私に無断で旅に出たあと、縁あって伯爵家のご子息と結婚することになった」
「そうなんですか」
リアラが姉のことを聞いていると、目隠しと手錠がされたミーシャと、護衛の騎士たちが二台目の馬車から降りてきた。
「そいつを地下の牢屋へ連れて行け」
「「「はっ!!」」」
「⋯⋯ミーシャちゃん」
(お父様相手だと⋯⋯予想外のことが起こりすぎてもうわけわかんない)
「他の騎士や魔法使いは休んだのち、持ち場に戻ってくれ。ご苦労だった」
そう声をかけると騎士や魔法使いは、リーグレント家の立派な豪邸へと入っていく。
「あの⋯⋯お父様」
「なんだ?」
深呼吸をして落ち着き、リアラは思い切って声を出した。
「ミーシャちゃんは⋯⋯死刑なのでしょうか?」
「ああ、国王からの命令だ。魔女でもない限りこの結果は覆らない」
「私の武闘大会の結果でどうにか──」
「それはお前が無断で旅に出て、冒険者などという職業についたからだ。あの罪人とは関係がないだろう」
「そう⋯⋯ですよね⋯⋯」
(最初から期待はしてなかったけど、これじゃあミーシャちゃんが⋯⋯。何か策を考えないと)
髪に編み込んであったリボンをほどき、リアラはポニーテールに髪を結び直した。そしてそのまま真剣な顔をして豪邸の中へと入っていく。
それと同時にバルザンは玄関のドアが閉じ切るのを確認し、後ろを振り向いた。
「⋯⋯あなたがここまで追ってくるとは」
「いやね? ミーシャのことでちょっと話があるんだよ」
「立ち話もなんだ、遮音の魔道具を使って私の部屋で話しましょう。ナバスさん」
貴族の大半は豪邸に住み、それは男爵といえど例外ではない。内装はかなり豪華で、そこかしこに高級な品が飾られている。競りに出せば一品五百万リースはくだらないだろう。このような品は男爵としての財力を見せ、一目で功績を残しているか分かるようにするためらしい。稀に趣味で集めている貴族がいるが、ほとんどが功績か成金かのどちらかだ。
「それで、ミーシャのことで話とは?」
「なに、誤解を解こうと思ってね。そもそも事の発端はそっちなのにミーシャが死刑? ありえないよ」
「どういうことですか?」
眉を細めたバルザンは、お尻を浮かして座っていたソファを座り直し、耳を澄ませる。
「少し前に敵国、グランツベルクに近い男爵領の一部領土をグランツベルクに譲渡したことがあっただろう? その住民が今回ミーシャが戦った盗賊団だよ」
「そうか⋯⋯後で礼ぐらいは言っておこう」
「そして戦った場所はアサの洞窟だ。戦ったあとミーシャの体内に残っていたということは、戦いの
バルザンは頭を抱えて何も言葉を発さなかった。国王の命令か、お世話になった人の一人、ナバスか。
「仕方ない⋯⋯ミーシャは魔女ウィクシナーの一人娘だ」
「──っ! トール!」
迷わずドアの向こう側にいる護衛に大声を張り上げた。一瞬にして覚悟を決めた目をし、遮音の魔道具を止めたバルザンは、入ってきたトールという男に話しかける。
「地下牢に捕らえているミーシャ・アングレーについて至急調査してもらいたい。ルイン辺境伯領にあるフェアリーステイルに行ってもらい、そこのファードの森にある大麻の洞窟を調べて欲しい」
「分かりました。ですがこれからとなると報告は武闘大会後になるかと」
「ああ、それでいい。調査にはアリスとロットも同行させる、
「はっ!」
勢い良く返事をした後トールは部屋を出ていき、調査の準備に取り掛かった。
「まだミーシャ・アングレーがウィクシナーさんの娘だと信じてはいないが、一応調べさせてもらいます」
「信用出来る部下を信用すればいいよ。バルザンからすれば、ミーシャを助けようとウィクシナーの名前を出しているおじさんだからね」
「ナバスさんの言っていることが本当なら、ウィクシナーさんは誰と結婚して⋯⋯いや、今聞くことでは無いな」
「事が終わればそれも話そう。全てはバルザンの部下、アリスという子の特技
そう言うナバスは自信に満ち溢れていた。彼にとっては偶然起こった事故程度にしか思っていないのかもしれない。
「あっそうだ、リアラの部屋はどこか教えてくれるかい?」
ソファから立ち上がったナバスは笑顔を見せ、バルザンに遠慮なく聞いた。
「それは偽名ですよ、本当の名前はライザ・リーグレントです」
「でもあの子にとってはリアラの方が生きやすいのかもしれないよ。跡継ぎが生まれた今、偉大なる魔女の娘の友人として生きた方が、リーグレント家にとっても得策かもだよ」
「それは五日後に始まる武闘大会で、ライザが私を納得させたらの話です。それと、ライザの弟が生まれたことを知っているのなら、ライザの部屋も特定済みなんだろ?」
「偶に出るバルザンのタメ口、嫌いじゃないよ。それじゃあまた後で」
ニヤケつつもバルザンの部屋を出たナバスは、防衛のため豪邸内に侵食させた魔力を感じながら長い廊下を歩き、やっと見つけたリアラの部屋を軽くノックした。
「⋯⋯返事がないなら勝手に入るよー?」
声をかけても返事がない。宣言した通り、ナバスはドアノブを握りドアを開けた。
「どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう」
そこには過呼吸を起こし、小さく呟きながら机に突っ伏しているリアラの姿があった。
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