第16話 実力主義

 ミーシャの監禁生活が始まりはや二日。面会終わりのリアラが冒険者ギルドを出ようとしたところ、そこには明らかに目立っている豪華な馬車が止まっていた。


「久しぶりだな」

「なんで⋯⋯ここにお父さんが⋯⋯」


 リアラと同じ茶髪に整った顔立ち、フェアリーステイルでは一際目立つ貴族の正装を身にまとい、そよ風が吹きリアラの髪がなびくなか、その男は馬車から降りた。


「そこの冒険者ギルドに用事だ」

「そうですか⋯⋯」


 さっきまでの勢いが目に見えて無くなり、リアラは父親を前にしてかなり萎縮している様子だった。


 リアラの父親と護衛の騎士が二名、それに続くようにリアラも冒険者ギルドへ入っていった。


「すまん、国王からの書状だ」

「あっはい! 拝見させていただきます」


 受付嬢は差し出された書状に目を通す。


「え⋯⋯罪人ミーシャ・アングレーをリーグレント男爵領に移送する!?」


「どうやら国王は、罪を犯した魔法使いで国の顔を汚したくないようだ」


「ミーシャちゃんが男爵領に移送ですか⋯⋯」

「知り合いか?」

「はい、冒険者仲間です」


 リアラの父親、バルザン・リーグレントはその場で深くため息をつき、険悪な表情をしてリアラを睨みつける。


「冒険者は職がない者が国に利用されているだけの駒だ。そして罪を犯し牢獄に入れられる者は愚か者だ」


 泥でも投げつけるかのようにリアラへ言い放ち、冒険者ギルド内が騒然とした。


「⋯⋯ミーシャちゃんは⋯⋯愚か者などではありません、立派な魔法使いです」


「お前の言う立派な魔法使いは今どうなっている⋯⋯お前の目だけは信用出来ると思っていたんだがな」


「期待に応えられず申し訳ありません」


 深々と頭を下げたリアラは周囲の注目の的になってしまい、さすがにこの状況はまずいの踏んだのか、ただ早く立ち去って欲しかったのかは分からなかったが、受付嬢の方たちが連携をとって素早く移送の手続きを済ませてくれ、冒険者ギルドの出入口付近に数名の冒険者で囲われているミーシャの姿があった。


「ライザ、お前もついてこい」

「ここでその名は⋯⋯分かりました、お父様」


 馬車にバルザンが乗り込み、後を追うようにリアラがステップに足を乗せる。冒険者で囲まれたミーシャは魔力封じの手錠をかけられ、口枷のようなもので口を塞がれていた。


「ちょっと待ってはくれないかい?」

「なんだ」


 ミーシャが後方の馬車に乗り込もうとしたその時、杖だけを手にしているナバスがバルザンに向かって声をかけた。普段なら剣を腰に添え、嘘っぽいけど何故か信用出来る笑顔を振りまいてるくせに。


「リアラは私の弟子です、同行願います」

「⋯⋯ならん」

「左様でございますか⋯⋯では失礼します」


 一歩引いたナバスは礼儀正しく頭を下げ、表面上の敬意を示す。その後馬車は東方向へ進み、フェアリーステイルを後にした。



「お父様、ミーシャちゃんを死刑にするのは正常な判断とは言えません、もう一度考え直してください!」


「ライザ、冒険者を引退しろ。大して実力もないお前が貴族という地位を投げ捨ててまでやる仕事か?」


 その言葉を前にして、リアラは言い返せなかった。なぜならバルザンは高い統率力と武力で国に貢献し、男爵の地位にまで上り詰めた男。


「⋯⋯お父様はいつも実力主義です」

「それが全てだ」


「なら⋯⋯今の私の実力を見てください、貴族が冒険者になるほどの実力を、私が示します」


「⋯⋯我儘を聞き入れるのも親の仕事か⋯⋯。一つ条件をつける、一週間後領都リーグレントで魔法使いを含む武闘大会を開催することになっている。移動で二日、あと五日しかないがそこで私が納得するほどの実力を見せてみろ」


「分かりました」


 そこで一度会話は途切れ、馬が走る音、それに伴い内部が揺れ伝わる振動。気まずい空気が感覚を過敏にさせる。



「それとな、ライザ」

「条件を追加しても私は諦めませんよ」

「いや⋯⋯そうじゃなくてだな」

「⋯⋯なに?」


「⋯⋯ライザに弟ができた」

「おっ弟!?」


 その話題は淀んだ空気を消し飛ばし、普通の親子へと引っ張る細い糸。


「マンネリ化してそうだったのに!?」

「そんな言葉どこで覚えた⋯⋯古くから良くしてもらっている人に聞いたまでだよ──」


 二日間、移動中魔物に襲われたり、木が倒れていたりと様々なトラブルが発生したが、バルザンは見越していたように的確な指示を護衛の兵士や魔法使いたちにし、全員無傷でリーグレント男爵領に到着した。

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