第15話 実感がない
盗賊団との戦闘後、ミーシャは気絶し、倒れていた。ミーシャの魔力痕跡を追ってナバスがミーシャとリアラを見つけ、今、無事に冒険者ギルドで治療を受けていた。
「あっ! まだ動かないでくださいね、このまま検査もしちゃいますから。体に異常がないか確認します」
「ありがとうございます」
この場には回復魔法が使える魔法使いさんの他に、顔を触って何か考え事をしている様子のナバスと、不安そうにミーシャを見つめるリアラがいた。
「ミーシャ、お前はどれぐらい魔法を得意とするのかな?」
「急だね」
「洞窟内の物は全て燃えていたし、魔力量も相当なものだろう」
「学校で測った時はそこまで多くないはずだよ、魔法も学校で習うものばかりだよ」
二人が話すその横で、驚きを隠せない表情をしている常駐魔法使い。ミーシャの検査を続けるその女性魔法使いは恐る恐る話し出した。
「あの⋯⋯アングレーさんの体内に違法薬物と思われるものが⋯⋯」
「え? やってないですけど⋯⋯」
リアラとナバスの顔に冷や汗が垂れた。もしこれが本当ならミーシャは冒険者ギルドの留置所に三日間監禁され、その後国の牢獄に移送されることになる。魔法使いは強い力を持っている反面、罪を犯した時の罰が重い。そして魔法を悪用し、罪を犯したものは即座に死刑となる。その結果は魔女でもない限り絶対に覆らない。
これはリース王国で誰もが知っている常識だ。
「何かの間違いじゃないんですか?」
「体内ってことはかなり最近だな」
「粉状ですけどこれはアサという薬物で、依存性が高く、摂取したものは一時的に興奮状態に陥り好戦的になります。その他にも有害な物質がいくつも入っているのでこの国では禁止されているはずです」
「私が盗賊団と戦っていた洞窟には様々な薬物があった! 風魔法を使った時に口の中に入ったとしか言いようがない!」
せっかく旅に出られたのに監禁される不安、もしかしたら死ぬかもしれない恐怖、様々な感情が入り交じり、ミーシャの声はどんどん大きくなっていく。
「それではその洞窟に行きましょう、私としても顔見知りの魔法使いを自らの手で死刑にするのはちょっと⋯⋯」
「よし、それでは早速行こうか。ミーシャは私の後ろに乗ってくれるかい?」
「分かった、ありがとう」
返事をしたあとミーシャたちは冒険者ギルドを後にし、さっきまで盗賊団を相手していた洞窟へ向かう。飛行している最中、回復魔法をかけてくれた魔法使いが早く行くよう急かしたのは何のためだったのか、このような事態になったことがない三人には分からなかった。
「ここだ、この茂みを進むと池がある。そこに洞窟があるんだ。あってるな? ミーシャ」
「うん、そこであってる」
茂みの奥に進むと直ぐに池と洞窟が目に入った。池が月の光を反射しはっきりと見えた⋯⋯洞窟から煙が出ていることに。
「煙か、ちょっとまずいかもしれない⋯⋯ミーシャを優先しすぎたか?」
「何を言ってるんですか! ミーシャちゃんを助けるのが最優先事項です!」
「あのなぁ⋯⋯とりあえず私が先に行く、いいと言うまで入口から動くなよ」
「⋯⋯分かったよ」
「私はミーシャちゃんの乱れた髪を整えとくね〜」
「それはありがとうだけど、私の生死がかかってる場面でそれ言う!?」
「最悪私が助けます!」
「最悪にならないのが一番なんだけどな⋯⋯」
ナバスは剣を構えながら、煙が立ちこめる洞窟へと入っていった。入った瞬間、洞窟の奥が燃えていることを認識したナバスは、ミーシャが戦った広い空間まですぐさま走り出し、その光景を再び目にすることで、大事なことを思い出した⋯⋯。
「やはりこの魔法の痕跡は⋯⋯ウィクシナーと同じ⋯⋯本人では無いとはいえ、一応消しておいた方がいいな」
異空間収納から杖を取りだし、痕跡がある床や壁、天井や盗賊の死体などに杖の先端を当てる。
「普通の魔法の痕跡はそのままにしておかないとな」
一応全ての痕跡を見ようと周囲を見回すと、
だが、肝心のアサの葉が無い。
「燃えたか⋯⋯予想通りになってしまった」
状況を理解したナバス、ミーシャは監禁されリース王国へ移送される。そして確実に死刑だ。
あのリアラという女の子も言っていたが⋯⋯最悪強行突破だ、不幸中の幸い全員旅人⋯⋯そのまま罪人として別の国に逃げるしかない。
「もう来てもいいぞー!」
入口まで届いたその声は女性陣を洞窟の奥まで動かし、その状況を目にした。洞窟内で燃えていた火は、ナバスがしっかりと消火し、状況が確認しやすくなっていた。
「少し臭いがきついですね」
「⋯⋯ない⋯⋯緑がない⋯⋯」
「大丈夫ですミーシャちゃん! 牢獄に入れられたとしても私がピンチに駆けつけるヒーローのように助けてあげます!」
「ミーシャ・アングレー⋯⋯冒険者ギルドの留置所にて三日間監禁後、魔法使いなので王都リースと連絡が取れ次第、牢獄へ移送させていただきます⋯⋯」
「⋯⋯終わった」
ミーシャの監禁生活が始まりはや二日。面会終わりのリアラが冒険者ギルドを出ようとしたところ、そこには明らかに目立っている豪華な馬車が止まっていた。
「やっと見つけた」
「なんで⋯⋯ここにお父さんが⋯⋯」
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