第12話 拉致、リアラ捜索

「いいですか、落ち着いて聞いてください。端的に言いますとリアラさんは盗賊らに拉致された可能性が高いです」


「は?」


 ファードの森で不思議な体験をした後、ローリエントさんの頼みで私を追ってきていたナバス・カントナと冒険者ギルドに帰ると、受付のお姉さんから凄腕魔法使いのリアラが拉致られたと聞かされた。


 一瞬何を言っているか分からなかった、そもそも盗賊たちがリアラを拉致る動機がわからない。お金目的ならその場で奪って逃げればいい、拘束してなんの意味がある?


「その子の居場所は見当ついているのかい?」

「いえ、まだ分かりません」


 というかこの町の治安も終わってるな、王都なら人口も多いしそういう人が居てもおかしくは無い。なのにこんな小さな町に──警備隊は本当に機能しているのか? 町や村の安全のために国が一部隊置くようにしてるだろ。


「どうした? ぼーっとして」

「いや⋯⋯なんでもない」


「現在警備隊と冒険者ギルドの常駐魔法使いたちで捜索を開始しています。情報によりますと最後に見たのは市場だと聞いています」


 私は縮小していた杖を伸ばし、ギルドの正面玄関へ踵を返す。


「君も探すのかい?」

「ミーシャでいいよ、その代わりにナバスって呼ばせてもらうから」


 それを聞いたナバスは異空間収納から杖を出して正面玄関へ歩き出した。


「自由に呼んでくれて構わないよ、それと私も行こう。ミーシャを見るからに大事な友人なんだろう?」


「友人じゃない、ただの私好きな変人だよ」


「見つけたら青いローブを羽織っている常駐の魔法使いか警備隊の方に知らせてくださいねー!」


 突如として始まったリアラ探し、最後に見たのは市場だとしたら目撃情報⋯⋯は警備隊の人たちがもう既にやっているか。


「二手に分かれて探すよ」


 私は杖に魔力を込めて速度を上げようとするとナバスに引き止められた。


「一つ先輩からのアドバイスだ」

「ん、なに?」


 私はミーシャの目を見てしっかりと話した、死んでもらっちゃ困るからね。


「生死を賭けた戦いでは遠慮するんじゃないよ、絶対にこいつだけは殺すという気持ちを持って臨みなさい」


「⋯⋯最初の試練ってわけね」


「それじゃあ私は市場側を探しつつ聞き込みしてくるから、ミーシャはファードの森に近い方を探しくれるかい?」


「分かった、日が暮れてきたら一旦冒険者ギルドに集合ね」


 こうしてリアラ捜索が始まった。

 現在の時刻、四時二十七分。

 日没まであと、二時間十一分。




「⋯⋯なんで、こいつらにバレてるの」

「お前が噂になったからだろ? 馬鹿じゃねぇの」

「それでも身分まで──」

 ‪

 ××の洞窟、盗賊団アジト。リアラは両腕を後ろに回され、魔力封じの手錠をかけられて縄で縛られていた。


「俺たちはお前らを恨んでいる、お前も俺たち領民に何をしたか分かっているはずだ!」


 私は咄嗟に目の前のやつから目を逸らし、黙り込んでしまった。現実を受け入れるしかないと言うのに。


「お前を拘束すれば親が黙っていないだろ?」

「私はあの行動について何度もお父様に反対を申し出た、だけどお父様は──」


 いや⋯⋯そんなの関係ない⋯⋯。の娘に生まれたからには私にも責任はある、だけどしょうがない犠牲というものは常に発生してしまう⋯⋯私はあの時、どうすれば良かったんでしょうか──




「ファードの森⋯⋯」


 着いたけど、リアラっぽい人はいなさそう。こっからは聞き込みしかないよなあ⋯⋯。とりあえず歩いてる人に聞いてみるか。


「すみません」

「はい、どうされました?」


 私はそれから十数人声をかけたが、皆依頼をこなしファードの森から帰る途中だったこともあり、これといった手がかりは得られなかった。


「どうしよ⋯⋯もうちょっとファードの森に近づいてみるか」


 再度杖に両足をつけて乗り、ファードの森の入口付近まで空を飛んだ。かなりの数の冒険者がファードの森から出てくる様子を見下ろしながら、私はリアラを探す。


「すみません、茶髪でミディアムヘアで魔法使いの私ぐらいの女の子見てないですか?」


「そんな子いくらでもいるよ、何か特徴とかないの?」


 ミーシャは杖を立て、地面に優しくトントンしながら少し考える。その結果、ある一つの出来事を思い出した。


「うーん⋯⋯まあ女性ならいいか」

「ん?」

「めっちゃ巨乳です」

「巨乳かあ⋯⋯」


 比率的には青のリボンを頭に付けてるよりは巨乳の方が少ないでしょ。⋯⋯まあ一応言っとくか。


「あと頭に青のリボン付けてます」

「あっ! 青のリボンなら帰り道に落ちてたから拾っておいたんだけど⋯⋯これ?」


 そう言って仲間を待たせているのにも関わらず、私の話を聞いてくれたお姉さんはポケットから青いリボンを取り出した。


「それ!」


 リアラのリボンだ。


「どこら辺で見つけたんですか!?」


「ファードの森に入って十分ぐらい進んだら、右側に池が見えるの、そこの池に向かう途中の草むらに引っかかってたの」


「ありがとうございます!」


 リボンを手渡してくれたお姉さんにお礼をし、私は杖に乗り低空飛行で勢いよくファードの森へと入っていく。


「リアラー!」


 とりあえず右側にある池を探さないと⋯⋯! 野垂れ死んでるか盗賊に囚われてるか知らないけどどっちでもいい! どこに行ったんだよ!


「あ! ここ⋯⋯」


 池だ、ここだけなんか妙に整備されてる⋯⋯それに洞窟もある──



「こんなことして本当にいいのか?」

「俺たちには地位も金もねぇ、こうするしか方法がないんだよ」


「⋯⋯領主様も俺たちが住んでた領地を敵国グランツベルクに譲渡するしか方法がなかったのかもな」


 瞬時に物音を消し、木の後ろに隠れたミーシャは盗賊たちに気づかれず、聞き耳を立てた。


 ⋯⋯池から水を汲んで洞窟内に入っていく、これは当たりっぽい、後を追おう。


「いや、盗賊ならヤっちゃっても⋯⋯」


 リアラを助けるために必要な犠牲は避けられない、ヴァードさんも騒がしいって困ってるみたいだったし──


「私は⋯⋯人を殺せるのか⋯⋯?」


 ふと疑問に思ってしまった私の心は迷っていた。ただリアラがあいつらに拉致られたのはほぼ確実、私だって自分を好きって言ってくれる子のことを見捨てたりはしたくない⋯⋯。でも、いざ殺しが必要になると私は人を殺せないかもしれない⋯⋯。

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