第11話 謎の空間と不思議な魔法使い
私はフェアリーステイルから南に向かい、暇つぶしも兼ねて危険と言われるファードの森に来ていた。
言っていた通り森の中は魔物が大量発生していて、とても道とは言えないぐらい荒れていた。
だけど杖で空を飛べば地上にいる魔物なんか無力も同然! 後は飛行生物にだけ注意すればいい──
「うわっ!! 言ったそばから──」
驚きのあまりバランスを崩し、踏んでいた杖から足を滑らせミーシャは空中に放り出されてしまう。
「落ちるのは聞いてないってー!!」
とりあえず体全体に『
これで死にはしな──え待って高っか、下見たら意外と高い⋯⋯。
その時ミーシャは悟った。
これ、死ぬやつだなと。
「お父さん、お母さん⋯⋯ごめん」
ダンッ! という音と共にミーシャの『魔力晶壁』は割れ、頭に強い衝撃を受けた。
そのままミーシャは気を失った。
森の中から突如として現れた巨大な鳥は、ミーシャを意図せず驚かし、何かから逃げるように去っていった。
「あの嬢ちゃん死んでないだろうね」
領都ルインからルルの頼みで尾行してきた白髭白髪の男は、ミーシャが落下する一部始終を観察していた。
「少し近寄って見てみるか」
もちろん気配は完璧に消して、杖から漏れる魔力さえも極限まで抑える。
そこには散乱したミーシャの魔力と気絶したミーシャ。そして──
「あら、この方の保護者ですか?」
「えっ⋯⋯あなたは⋯⋯?」
この人⋯⋯なぜ私の場所を一発で見抜いた?
「さあ、行きますよ」
私が困惑していると、目の前に居るクリーム色のロングヘアをした女性は謎の魔法を唱えだした。
「何をしている!?」
「草木に混ざりし楽園の 希望とすれば──」
女性を中心に緑の魔法陣が浮かび上がり、やがて魔法を唱え終わるとその魔法陣は目も開けられないほど白く光り、気づいた時にはもう遅い。
「どこだ⋯⋯さっきまでファードの森に居たはず⋯⋯」
円形のステージのような場所に立たされ、中心には奇妙な台座、辺りを見渡すと大木や木々の数々、そしてここに住んでいるであろうエルフや妖精が警戒するようにこちらを見ていた。
「とりあえずこの方をお部屋にご案内します、あなたもついてきていただけますか?」
「もちろんです」
そうして私はこの不思議な人に連れられ、見たことがない景色を観察しながら木造の家へと入り、一室に案内された。
「気絶されてるだけですね、外傷も見たところありません。すぐに目を覚ますでしょう」
「そうですか⋯⋯」
ミーシャはベッドに寝かされ、謎の女性に触診や回復魔法をされた後だった。
「お飲み物をご用意しますので、
「わざわざありがとうございます」
私は椅子に座ったまま礼をし、名前も知らない彼女が退室したのを確認する。あの人相手だと何故か
「ん⋯⋯私、死んだんじゃ──ってだれ!?」
「あ、目を覚ましたかい?」
「平然とそんなこと言われても⋯⋯って私連れ込まれてる!? こうなれば武力行使で── 」
焦ったミーシャはそう言って拳を前に突き出し構える。
「落ち着きなさい、ここは私の家じゃないよ」
「じゃあ誰の家?」
「あなたを助けてくれた人だよ」
それじゃあこの人は誰なのよ、ただの不審者にしか見えないんだけど。
「あなたが助けてくれたんじゃないんだ」
「私はルイン冒険者ギルドに常駐しているルルに頼まれて、ミーシャ・アングレー、君を追っていた」
ルル⋯⋯ルルって試験の時戦った、毒の魔法使いルル・ローリエントさんか。
「頼まれたってことは⋯⋯鍛錬?」
「その通り、ルルに頼まれるなんてびっくりしたよ」
え、普通に嫌なんだけど。鍛錬とか自分の身は自分で守れたらそれで良くない?
「遠慮させていただき──」
「失礼します」
私が断ろうとしたら部屋のドアが開き、クリーム色のロングヘアをした身なりの整っている女性が現れた。
「お目覚めなされたのですね、良かったです」
「あなたが私を介抱してくれた人ですか?」
「そうですよ。
そう言って飲み物の乗ったおぼんをベッドの隣にある机に置き、私の方を凝視しだした。
「あなた⋯⋯
「それは⋯⋯?」
「お気になさらず、ただの独り言です」
そう言うならあまり気にしないでおこう、クリーム色の髪なんて見たことないし、お母さんやお父さんの友達にも、こんなにも上品で綺麗な人なんて居なかったはず⋯⋯会ったことあるなら絶対覚えてる。
「それはさておき、どうぞ」
木で作られたコップを手渡してくれたヴァードさんは、これを飲むよう勧めてきた。
「これは⋯⋯なに? 緑色の飲み物なんて見たことないけど⋯⋯」
「それは上位ビーの蜜を使ったお茶という飲み物です、体調が直ぐに良くなりますよ」
お茶か⋯⋯確かどこかの島国にそんな名前の飲み物があったな⋯⋯。私の旅ではその国までは行かなかったけど、知識だけは入れておいて損は無いな、危険な飲み物じゃないって役に立ったからね。
「味は⋯⋯」
「非常に美味ですよ」
笑顔でそう言われ、私は思わずコップに口をつけた。
「おいし⋯⋯!」
「美味しいです」
「お二人のお口に合うようで安心いたしました、気分が優れないうちはどうぞゆっくりしていってください」
そう言ってヴァードは礼をし、ドアノブに手をかけると、それを止めるように男が声をかけた。
「いやいや、長居するのは申し訳ない」
「私も気絶してただけなのでもう大丈夫です」
便乗するように私もヴァードさんに声をかけた。そうするとヴァードさんは優しい笑顔で振り返ってくれた。
「左様ですか、
この空間⋯⋯? ファードの森にある小屋じゃないの?
「ではご案内いたします」
そう言われ、私たちはヴァードさんについて行くとそこには私の見た事がない景色が広がっていた。
「この緑のオーラを
「オーラが見えるのですね」
「私は見えないね」
あのおじさんは見えないんだ⋯⋯ていうか名前まだ教えてもらってない。
「オーラが見えるということは目が少し特殊なのかもしれませんね。詳しくはそこのお方に聞いてください、ご存知だと思われます」
ヴァードさんは私を見たあと、私の横にいる名前も知らないおじさんに目を合わせて微笑んだ。
「後で要観察だな」
「はーい」
ヴァードさんに連れられ少し歩いた所に奇妙な円形の石のステージがあった。
「ここで少しお待ちください」
そう言うと私たちを円形内にとどまらせ、ヴァードさんは台座に向かって唱えだした。
「またあれですね」
「あれって?」
「眩しくなるので目は閉じた方がいいですよ」
本当に何が起こるか分からなかった私は、このおじさんの言うことを聞いて、目を瞑った。
「草木に混ざりし楽園の 希望とすれば遥かなる
目を開ければそこはファードの森、私が落下したと思われる場所だった。
「最近盗賊たちが騒がしいのでお気をつけてお帰りください、それでは失礼いたします」
ヴァードさんは私たちの返事を待たずにそう言い残して霧のように消えてしまった。
「ヴァードさん、何者なんだ⋯⋯?」
「私も分からない」
「あなたはヴァードさん以上に分からない」
「ああ、名前教えてなかったね」
木々が揺れ、私でも感じられるほどの魔力が目の前のおじさんから溢れている。
「私はナバス・カントナ、これからよろしく」
「⋯⋯鍛錬は遠慮するよ」
軽い会話を交わした後、私たちはとりあえずフェアリーステイルの冒険者ギルドに向かうことにした。
「なんか疲れた」
「それはヴァードさんに言ってほしいね」
「不思議な体験でした」
そういえばヴァードさんも魔法使いだったのかな? 相当凄い魔法使いっぽかったけど、噂の凄腕魔法使いって本当はリアラじゃなくてヴァードさんだったりして──あっそうだ、リアラ今どこにいるんだろ、受付のお姉さんだったら顔も知ってるし、見てないか聞きに行こっと。
「すみません」
「はい、なんでしょうか」
随分と忙しそう、何かあったのかな? 冒険者リストをピックアップしてるみたいだけど⋯⋯。
「リアラ・リーグレントっていう魔法使い見てないですか?」
「あなたは⋯⋯! ミーシャさんですね!?」
「はい、そうですけど⋯⋯」
リアラが絡んできた時のお姉さんだけど、前とは雰囲気が全然違う。
「いいですか、落ち着いて聞いてください。端的に言いますとリアラさんは盗賊らに拉致された可能性が高いです」
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