ビール瓶ラベルを上に向けてから殺意を込めて頭かち割れ

「八雲くん、出来損ない消してみる?」

「嫌です。どうして僕が」

「出来損ないに向けて短歌詠んだら消えんだよ。できるだろ、即詠」

 即詠そのものはできる。けれど、

「でも嫌です!」

「八雲くんがんこかよ。ったく、しゃあねーな」

 デカい声の男はいつの間にか僕の目の前に回り込んでいた。そして、にいっと口を開き言い放つ。


「ビール瓶ラベルを上に向けてから殺意を込めて頭かち割れ」


 デカい声の男が朗々と言い切る。同時に僕の足元に絡みついていた出来損ないは消えていった。

「……何だったんですか。今の」

「人間誰しも言語化できなくてモヤモヤしてしまう気持ちってあるだろ。それだ」

「それは何となくわかりますが」

 わかるけど、引っかかる。

「そうじゃなくて、あんたの短歌。ビール瓶で頭かち割れって……」

「別に俺の本意じゃない。出来損ないが望んだ言葉を即詠してやっただけだ」

 だとしても、言語化が単純過ぎやしないか。

「俺の消し方に不満があるようだが、八雲くんならどうやる?」

「視線を変えた方がいいと思います。たとえば「サッポロのラベルの星を集めてる いつか神龍シェンロン喚び寄せるため」とか」

 適当だ。頭に浮かんだまま推敲していない。けれどデカい声の男は目を輝かせる。

「やっぱり本物は強いな。見ろよ。マジで来たぜ」

「……へ?」

 窓の外から金色の光が射し込む。慌てて窓の外を覗き込む。巨大なモンスターがふよふよ浮いている。

 けれど、アニメで見た神龍とは違う。十二支をごちゃ混ぜにしたような謎の生き物。

「麒麟……? だとしたらビール会社が違うか」

「いや、麒麟はもっとキリッとしてます。これは麒麟にしてはユルい」

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